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異世界に入ってすぐやることは、やはり街の捜索である。超常的なスキル、もしくは技能的な意味でのスキルによっては一人で生きていくことも可能ではあるだろう。だがしかし人とは群れて生きるものであるし、生活水準はどうしても大人数で生活した方が高くなるものだ。
あのあと蓮は川沿いに二日ほど歩いて街道を発見した。今は街に向かうため、そして草がない方が歩きやすいため、その道をひたすら真っ直ぐ進んでいる。
二日間については前回と同じ方法で適当な生物を倒し、川で水を汲み、どうにかした。火を起こすのもやったことがないうえ面倒だったため、魔法を念入りにかけて有害な生物が死滅するよう願い、生のまま食べた。案の定激マズだったが、二日経った今も腹を壊していないあたり有効だったと言えよう。ほぼ神頼みと言っても過言では無い博打である。
そしてもう一つ幸運だったのは、川に沿うように街道が整備されていたことだ。川沿いに文明が栄えるという知識が通用して蓮はさすがに義務教育に感謝したものだ。
川を眺めながら歩くこと半日。前方のはるか先から馬車の集団が向かってきているのが見えた。蓮は安堵に満ちた。もちろん警戒しているが、他者が敵か味方かなど関係ない。馬さえあればこの旅程を短縮できるのだ。
やがて旅団ははるか先で止まった。そして二名が旅団を離れて馬に乗ったまま駆けてくる。この時点で蓮は止まった馬車にいる存在が上位であり、蓮に近づく馬が斥候であることを確信していた。
「そこの者! 止まれ! 何者か答えよ!」
鎧を着込んだ男が蓮に誰何した。もう一人の男は鎧ではなくローブを被り、その下に皮鎧のようなものを着けている。
蓮は立ち止まり、屈託のない笑顔で両手をあげた。人に会えた笑みではなく、馬を確保できた笑みで。
「私はしがない旅人です。馬で旅をしていたのですが、運悪く獣に襲撃されてしまい、着の身着のまま彷徨っていたところです」
蓮は嘘八百を笑顔で並べ立てた。考える時間はいくらでもあったのだ。ここで必ず馬を仕留める。いや、足を確保する。なんせ二日も満足な食事ができていないのだ。蓮はこの機会を逃すつもりがなかった。
「それは本当か」
「もちろんです。ここから歩いて二日ほど森へ向かえば、私の馬の墓が見つかるかと思います」
それらしい方向を指しながら言うが、そんなものは無い。
「二日……それは大変でしたね」
ここまで尋問してきた人物とは別の男が同情してくれた。蓮はこの男に平和的解決の可能性を見出した。
「ええ、本当に大変でした……積んでいた食料も獣に奪われてしまいましたし……どうか片道だけでも私を連れて行って頂けませんでしょうか」
蓮は必死に頼み込み、哀れな武器すら持っていない人畜無害な遭難者を演出する。そして明確な地名を言わないことが重要だ。近辺の国や街を知らない旅人など不審極まりない。蓮は転移したてなのだ。
「それはできん」
「サブマス、それはあんまりじゃないですか。困ってるんだからせめて依頼主に聞いて連れてってあげましょうよ」
「………」
当たりのキツかったサブマスと呼ばれた男に同情してくれた男が直談判する様子を見て、蓮はさらに笑みを深くした。
同情男の言葉にサブマスは黙り、蓮をじっと見つめる。
「そこをどうにか。私はここまで一人で歩いてきました。もう二日も彷徨って疲労困憊なのです。お邪魔はしませんのでどうか、検討だけでもしては頂けませんでしょうか」
蓮はここで思い切って頭を下げてみた。本当は攻撃を察知できないため、視線を外したくはなかったのだが、突然抜剣する危険性が低いこと、あと一押しで平和的解決ができそうだったため、妥協した。
「……打診して来よう」
サブマスと呼ばれた男はそう言うと踵を返して馬を進めた。
「ありがとうございます!!!」
しっかりと感謝の表現を忘れない。立ち去っていくその背に向かって大声で感謝した。馬が横にいるだけで目標達成した身としては感謝する必要が無いのではあるが。
「すみませんね。サブマスは本当はいい人なんですが疑い深く厳しい人で……喉とか渇いてませんか?」
残ってくれた同情男が馬を降りて話しかけてくれる。手持ち無沙汰だったので有難い。
「いえ、とんでもありません。お水は先ほど、川で飲みましたので大丈夫です。お気遣いありがとうございます」
蓮が軽く頭を下げながらそう言うと同情男はうんうんと頷いた。
「あ、そういえばまだ名乗ってませんでしたね。僕はリーチェ。しがない冒険者です。先ほど私がサブマスと呼んでいた人は私の所属するパーティーのサブマスターで、カレアと言います」
「ご丁寧にありがとうございます。私はレンといいます。何かとご迷惑をおかけするかもしれませんが、よろしくお願いいたします」
丁寧なやりとりをする蓮にリーチェはすっかり気を許した様子だった。そしてここまでのやり取りの間に、サブマスのカレアが戻ってきた。
「依頼主の許可が出た。しかも食事付きだそうだ」
「なんと! それは太っ腹ですね。良かったですねレン」
「ありがとうございます!」
「先日、狼の群れに二人やられてしまったからな……人員補充として雇うそうだ。戦闘経験は?」
「狼が同じものを指しているか分かりませんが、先日は狼をいくらか倒しています。自衛ができる程度と言えばいいでしょうか」
「よし分かった。戦闘時は依頼主と砲撃者のそばの最終防衛ラインを担当しろ。剣もないし後衛だ。それでいいな」
「わかりました! 頑張ります!」
蓮は快活な様子で相手の懐に全力で潜り込む。
先程カレアが連絡したため旅団が警戒を解き、こちらに向かって進み始めた。自分達を迎えに来る馬車を待つ間、二人と談笑していたが、蓮の視線は片時も馬車から離れることはなかった。
どのような世界であっても、常識や平均からかけ離れた者ほど、巨大な成功を収めるものである。善か悪かはさておき……ローヴェル・オルド・フェリンテ




