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蔑まれた公爵令嬢は初対面で婚約者から愛さないと告げられるので破滅の運命を前に知識を武器に反撃を開始〜不毛の辺境領地を譲り受けて黄金の王国へと変貌させ自らの手で最高の人生を切り拓いていく〜

作者: リーシャ
掲載日:2026/02/25

 お嬢様、と執事のメマアリアーが呆れたようにため息をついた。


「もう一度お聞きしてもよろしいでしょうか?本日、婚約が成立したばかりのイヴァン様が、あなたに『君を愛することはない』とおっしゃったと?」


「ええ、おっしゃいましたとも」


 ティーカップを傾け、優雅に微笑んだ。


「しかも、私の顔を見て嘲笑いながら」


 メマアリアーは言葉を失っている。それもそうだ。公爵令嬢であるヒリス・アージェント。まさか婚約初日に婚約者からそんな屈辱的な言葉を投げかけられるとは。


 しかし、知っている。イヴァン様が婚約者として選んだのは別の女性だということを。彼は別の女性、伯爵令嬢のドルラを愛している。


 なぜなら、この世界は、私が前世でプレイした乙女ゲームの世界だから。その日の夕食後に両親へすべてを話した。


「お父様、お母様、実は……」


 イヴァン様の言葉を一言一句たがわず伝えた。聞いた父は顔を真っ赤にしてテーブルを叩きつける。


「なんだと!?あのイヴァンという男、この私のかわいい娘になんと無礼なことを!」


 母もまた震える声で言った。


「信じられない!……すぐに婚約を破棄なさい!白紙なんて許さない!」


 両親はカンカンに怒っている。それもそうだ。公爵家である私たちが侯爵家からこんな扱いを受けるなど、あってはならないことなのだから。

 このまま婚約を破棄すればゲームのシナリオ通り、イヴァン様とドルラは結ばれ、こちらが悪役令嬢として破滅する運命にあることを。だから微笑んで首を振った。


「お父様、お母様、ご安心ください。私には考えがあります」


 翌日、両親とともにイヴァン様のご両親、つまり義両親に会いに行った。


「お義父様、お義母様。この度はイヴァン様との婚約、誠にありがとうございます」


 にこやかに挨拶をしたが義両親は態度に戸惑っているようだ。


「ヒリス嬢、何かあったのかしら?もしかして、イヴァンがあなたに……」


 お義母様が心配そうな顔で言った。


「ええ、実は……」


 両親に話したのと同じようにイヴァン様の言葉を伝えた。


「イヴァン様は、私を愛することはないとおっしゃいました。そして、別の女性を愛していると」


 義両親は言葉を失って顔を見ている。


「そんな馬鹿な!イヴァンがそんなことを言うはずがない!」


 お義父様が怒鳴るように言ったが、父がすかさず口を開いた。


「いえ、現に私の娘は、彼からそう言われたのです。それに、彼が愛しているという女性も、私の娘は知っているようです」


 部屋の空気が凍りついた。義両親は顔面蒼白になり、心の中でほくそ笑んだ。これで、ゲームのシナリオは大きく変わるだろう。

 破滅する運命から、幸せになるための道を歩み始める。義両親の顔が酷い。


「ヒリス嬢……その、本当にイヴァンがそのような無礼な言葉を?」


 義母が震える声で尋ねる。息子が公爵令嬢である私を侮辱したという事実に、震え上がっているようだった。


「はい、お義母様。確かに、わたくしはそう告げられました」


 私は深々と頭を下げた。すると、義父が大きくため息をつく。


「……ヒリス嬢、本当に申し訳ない。息子がとんでもないことをしてしまった。今すぐイヴァンを呼びつけ、厳しく叱りつけよう」


「いいえ、お義父様。その必要はございません」


 穏やかな口調で言った。義両親は驚いて私を見ている。


「実は、お父様とお母様にもご相談し、わたくしには一つ、考えがあるのです」


 私はにこやかに微笑んだ。


「イヴァン様が、別の女性を愛しているというのは事実なのでしょう? でしたら、その方と結婚させて差し上げたらいいではありませんか」


 ビシッと義両親と両親の顔が凍りついた。


「ヒリス、何を言っているんだ!?」


 父が怒鳴るが冷静に続けた。


「お父様、お母様。わたくしは愛のない結婚など望んでおりません。イヴァン様もそうでしょう? ならばお互いのために婚約は解消するべきです」


「だが、それでは……」


 義父が口ごもる。脳裏には公爵家との婚約を破棄した際の侯爵家の名誉失墜と、将来の展望がちらついているのだろう。そんな義父の気持ちを汲み取り、さらに続けた。


「もちろん、ただ婚約を解消するだけではありません。イヴァン様が本当に愛しているというドルラ嬢を、侯爵家の次期夫人として迎え入れるのです」


「な……!?」


 義両親は絶句し、父と母は信じられないものを見るかのように見つめた。


「ヒリス、あなたは正気? 伯爵令嬢を侯爵家の次期夫人に?」


 母が震える声で尋ねる。


「はい、お母様。その代わりに、わたくしは侯爵家からあるものをいただくことを条件とします」


 前世の記憶をたどり、ゲームのシナリオを思い出す。侯爵家は代々続く名家だが実は財政状況が芳しくない上、侯爵領はゲームの終盤で大規模な魔物災害に見舞われ、壊滅的な被害を受けるはずだ。災害を予知しているからそこはいけると思う。


「侯爵家が所有する、東の辺境にある領地をいただきたく存じます」


 義父は目を丸くした。


「東の辺境だと? あの、ろくに作物が育たず、魔物が出るという場所を?」


「はい。そこで新しい事業を始めたいのです」


 微笑んだ。計画はこうだ。東の辺境の土地を侯爵家から譲り受け現代の技術、つまり、前世の知識を応用した農業技術を導入する。そうすれば不毛の地と言われた土地は、豊かな農地に生まれ変わるだろう。


 さらに魔物災害も未然に防ぎ、逆に魔物の素材を活用した新事業を立ち上げれば侯爵家からの解放、自立した公爵令嬢として生きていける。


「イヴァン様とドルラ嬢の幸せを心から願っております。ですから、どうかこの提案を、お受けいただけませんか?」


 再び頭を下げる。義両親は言葉に驚き戸惑っていた。目の前には愛のない結婚から解放された息子と侯爵家の繁栄、自立した娘という三つの未来が提示される。

 どちらを選ぶべきかと顔には葛藤が浮かんでいた。しかし、父が静かに口を開く。


「……わかった。ヒリスの好きなようにさせてやろう」


 義両親は驚き、心の中で勝利を得る。これで新しい人生が始まり、誰もが予想しないよう最高のエンディングを迎えるだろう。父の言葉は全員にとって衝撃的だった。


「お父様……よろしいのですか?」


 母が戸惑いながら尋ねると、父は静かに頷いた。


「ああ。ヒリスはいつも、わしらの想像をはるかに超えることを成し遂げてきた。今回も、きっとそうだ」


 娘に対する深い信頼と愛情がにじんでいた。義両親は、言葉を失っている。


「では、この話、お受けいただけますか?」


 義父に再度尋ねた。義父は、まだ少し迷っているようだったが、やがて意を決したように口を開く。


「わかった……ヒリス嬢、君の提案を受け入れよう」


 心の中で、勝利を告げるファンファーレが鳴り響いた。これでゲームのシナリオから完全に脱却し、人生はこの手で創り上げられると再びアージェント公爵家に戻った。


「お嬢様、お疲れ様でございました」


 メマアリアーが優雅な微笑みで出迎えてくれた。


「メマアリアー、聞いてちょうだい。婚約は解消されたわ」


「え?それ、は……!」


 メマアリアーは驚いた顔で見つめた。


「心配しないで。悪い話じゃない。私は東の辺境にある土地を侯爵家から譲り受けた。これからはそこで新しい事業を始める」


 目を丸くする。


「東の辺境……ですか?あの不毛の地と言われている場所に?」


「ええ、そう。でも、私はあそこを豊かな土地に変えてみせる。侯爵家よりももっともっと繁栄させる」


 確固たる自信が満ちていたのを見たメマアリアーは顔を見て、やがて嬉しそうに微笑んだ。


「お嬢様らしいですね。では、わたくしもお嬢様にお仕えするために、東の辺境にご一緒させていただけますか?」


「もちろん、メマアリアー。あなたがいなければ私の新しい事業は始まらない」


 知識をフル活用し、東の辺境の開拓に乗り出した。まず、土壌改良のために前世で学んだ農学の知識を応用する。次に魔物の素材を有効活用するために、魔物討伐隊を結成し、新しい商材を開発。


 もっとも力を入れたのは魔法の技術を応用した、新しい発電方法の開発でこれにより、夜でも光を灯すことができるようになり辺境の生活は格段に便利になった。


 事業はみるみるうちに成功を収め、不毛の地と呼ばれた東の辺境は豊かな農地と活気あふれる街へと姿を変える。そして、侯爵家よりもはるかに大きな富と権力を手に入れた。


 一方、侯爵家はゲームのシナリオ通り、魔物災害に見舞われ大きな被害を受け、イヴァン様とドルラ嬢は必死に復興に努めていたが道のりは険しい。


 優雅に過ごしていたある日、イヴァン様から手紙を受け取った。


『ヒリス、君は本当にすごい。私とドルラは君がどれほど偉大な人物だったのか、今、ようやく知った。もし、君がよければまたいつか話がしたい』


 もちろん。


「手のひら返しにも程がある」


 手紙を静かに燃やした。愛のない結婚から逃れ、自分の力で道を切り開いた己には過去の物語を振り返る必要はない。どの面を下げて手紙を送れたのだろう?


 楽しい思い出もなく、初対面で暴言を吐く相手は何年経とうと肩書きを栄光として、格下に更新できないらしい。こちらの人生はこれから始まるのだから邪魔するなとため息を吐く。


 数年後には東の辺境を、侯爵家はおろか公爵家をも凌駕するほどの豊かな領地へと発展させ、領地は通称黄金の王国と呼ばれるようになった。領地の女王として誰もが認める存在となっており、王都で開かれる舞踏会に招待される。


 会場に入ると皆、驚きと尊敬のまなざしを向けた。


「あれが、東の辺境を再興させた令嬢……」


「なんと美しい……」


 視線を気にすることなくまっすぐに歩いていく。目の前に、見慣れた顔があった。相思相愛お花畑、イヴァンとドルラ。


 二人は私を見て気まずそうな顔をしている。


「ヒリス……」


 イヴァンが口を開くが言葉を遮った。


「お久しぶりですわね、イヴァン様」


 にこやかに微笑んだ。


「お会いできて光栄ですわ」


 イヴァンは言葉を失っている。


「ヒリス……き、君は僕のことを恨んでいないのか?」


 震える声で尋ねてきたが首を横に振った。


「いいえ。イヴァン様に感謝しております」


 二人は驚いた顔をする。


「もし、イヴァン様があの時わたくしを愛することはないとおっしゃらなければ、わたくしは今、ここにいることはなかったでしょうから」


 心からそう思っていた。愛のない結婚を押し付けられ、退屈な日々を送っていたのに、イヴァンは無意識のうちに救ってくれたのだ。


「自分の力で人生を切り開くことができました。とても幸せですわ」


 二人は静かに涙を流していた。後悔の涙だったのだろうか?それとも安堵の涙だったのだろうか?

 まあどうでもいいことか。二人を静かに見つめ、再び歩き出した。最高のエンディングを迎えるために。


 舞踏会の夜、多くの人々から声をかけられた中には馬鹿にしていた貴族たちもいた。彼らは成功を目の当たりにし、媚びへつらってくる彼らの言葉に耳を傾けることなく微笑んだ。


「ヒリス・アージェント、君は本当に希望だ」


 グラスを差し出してきたのは第一王子、トハウズ。ゲームのシナリオではヒロインであるドルラを巡る、イヴァンの恋敵だが目はまっすぐに見つめている。


「トハウズ殿下。お褒めの言葉、ありがとうございます」


 優雅にお辞儀をした。


「君は東の辺境をわずか数年で黄金の王国に変えた。君の才能は国をいや、世界を変える力を持っている」


 真剣なまなざし、彼の言葉に少しだけ胸が熱くなった。


「やりたいことをしたまでです」


「そうか。しかし、そのやりたいことがこれほどまでに素晴らしい成果を生むとは」


 目を離さず褒める。


「ヒリス、もしよければ私と国のために君の力を貸してくれないか?」


 驚いた。


「殿下は何をお望みで?」


「君の隣でもっと素晴らしい国にしたい」


 手を取り優しく囁く。


「君を私の妻として迎えたい」


 一瞬息をのんだ。ゲームのシナリオではヒロインと結ばれるはずだった。


 行動が運命の歯車を狂わせたのだと、真剣なまなざしを見て微笑む。


「トハウズ殿下。愛のない結婚は望んでおりません」


「愛はこれから育めばいい」


 見つめて返される。


「私は君のことを心から尊敬している。君といると心が安らぐ。これは、愛ではないと、君は言うのか?」


 戸惑った。これまでの人生で愛を求めたことはなかったし、自分の力で世界で生きていける場所を求めていたのに、心を温かくする。


「誰かのために生きるつもりはございません。自分のために生きていきたいのです」


「君が君のために生きることを私が全力で支えよう」


 手を握りしめてくる夜、イヴァンと別れた日のことを思い出す。あの時、嘲笑う男から自分の人生を歩み始めた。新しい人生の岐路に立っているとトハウズの手を握り返す。


「殿下、では、一つだけお約束ください」


「なんだい?」


「愛を強要しないでください。心から、殿下を愛するまで隣にいてください」


 聞いて嬉しそうに微笑んだ。


「ああ、約束しよう。永遠に君の隣にいると」


 また一歩踏み出した。愛も復讐も道しるべにすぎない。自分の手で運命を切り拓くために指先に力を込めた。

⭐︎の評価をしていただければ幸いです。

最後まで読んでくださり感謝です⭐︎の評価をしていただければ幸いです。

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