第7話
自分は毎晩、今日の出来事を思い出しては眠れなくなってしまう。
今日は美鈴とあのガキが出会ってしまった。世界にたったふたりだけの、自分のことをいじくり倒してくる奴らが出会ってしまったのだ。こんなの馬鹿でもわかる。終わりだ。これから騒がしくなるのだろう。
美鈴は可愛いよな。この"可愛い"は、自分が美鈴に魅力を感じたというわけではなく、顔の造形が美麗だ、ということだ。もしも彼女アイドルだったらきっと赤担当、ガキは黄色かオレンジ、自分は後方彼氏面だ。
自分が先生か…。想像したくもない。あんな生き物、大嫌いだ。美鈴もきっとそれをわかっていてからかったのだろう。
…いや、逆に良いのかも?先生が嫌いだからこそ、先生になったら良いのかも?自分と同じように感じている生徒に寄り添えるかもしれない。なんて、少し言われただけでこんなこと思ってしまう自分はちょろい。どうせ明日には熱が冷めているんだから。わかってる。だから未だに夢も何もないんだ。
…今日、ダメだな。いっそのことオールにしてしまおう。どうせ明日も学校になんて行かないんだから。
カーテンを開けた。外は当たり前のように真っ暗だ。うちは閑静(って言うのか?)な住宅地にあって、満点の星空とまではいかないが、少なくとも自分は満足がいくくらいには星が見える。朝目覚めてカーテンを開けるのは気持ちがいいものとされているが、自分は断然夜にかっぴらくカーテンのほうが好きだ。そっちのほうがロマンを感じるだろ?
朝が来ると焦るので、ずっと太陽が登っていくさまは地獄のような風景だったけれど、今ではだんだん明るくなっていく気持ちよさが勝って、好きだ。
だから、オールをするときにはカーテンを開ける。部屋の電気はもちろん消してある。ひとつは親にバレると面倒だから、それと電気を消さないと空の変化に気が付きにくいからだ。
この時間、月は天高く登っていて、小さく見える。地平線に近いときと遠いときで、月の印象は変わる。自分はずっと地平線に近くて大きな月のほうがクレーターがくっきりと見えて好きだったのだが、一周回って空高い小さな月の良さにも気付き始めた。なんだろう、言語化はできないのだが、シュッとしててなんかいい。
せっかくオールするんだから、何か考えるか。ゲームでオールというのももちろん至高なのだが、なんだか勿体ない気もする。空を眺めて、ただぼーっとしたり、考えごとをする。それも良いものだ。というか、それが良いのだ。
…そうだ、紅茶でも淹れよう。さすがに親にバレるか?…いや、せっかくのオールだ、楽しまなくては意味がない。
そーっと一階にあるリビングに降りて静かにお湯を沸かし、ついでにフロアも沸かし、(冗談である。)ティーパックとコップを持ってそそくさと自室に戻る。
ティーパックを袋から出し、お湯の入ったカップに入れる。…5分か。5分待つ。
そういえば、美鈴って多分料理するんだよな。あの日、スーパーで会った時は何を買う予定だったのだろう。いや、新しくできたスーパーだったし、特に買い物をするつもりは無かったのだろうか。それにしても、わざわざスーパーに足を運ぶくらいだから、普段から料理をするのだろうか。
…今度、聞いてみるか。
…将来どうしよう。考えごとをするとなると、やはりこれがでてくる。大人になった自分なんて想像できない。大人になれるのだろうか。そんな気は全くしない。大人になる前に死ぬのではなかろうか。いっそそれなら楽なのに。どうやらそういうわけにはいかないのだ。
…5分、経ったな。猫舌なので少し警戒しながらカップに口をつける。ん、美味しい。やっぱり夜に温かいものを飲むとほっとする。べつに夜でなくてもほっとするが、夜は桁違いにほっとする。
紅茶を淹れる仕事でもしようかな。オシャカフェで働いてみちゃったり、なんて。
そうだ、オシャカフェといえば、小さい頃に一度だけ親に連れていってもらったことがあった。オシャレな方は様々なオシャカフェに行かれているだろうから不自然な表現に感じられるかもしれないが、人生でオシャカフェに行ったことがあるのが一度だけなのだ。あ、コメダには何度かお邪魔している。というか、オシャレな人はオシャカフェなんて言わないのか。
でも、美味しい紅茶を淹れられるようになったら人生が少し明るくなりそうだ。今度チャッピーに聞いてみよう。今はブルーライトは浴びたくないので、また明日だ。覚えていれば、だが。
バイトくらいしようかな。いや、学校にすら行けていない自分にそんなの出来るわけがない。
…あったかい。
温かい飲み物は、いつでも自分に優しくしてくれる。
また日が昇るまで、あと2時間と少し。




