第6話
疲れた。最近はよく人に会ううえに、考えなくちゃならないこともある。
どうして自分はこんなことになってしまったんだろう。少し前まで、当たり前のように学校に行って、友達とおしゃべりしていたはずなのに。高校選びを間違えたのだろうか。というか、自分は高校に不満があっただろうか。いや、ない。ちなみに、この語順は昔古典で習った反語である。
なんてふざけている場合ではない。だから自分はダメなのだ。いつも大事なことから目を背けて、ラクなほうに逃げる。不満は無かったのに学校に毎日通うことをやめたのは、きっとそういうところがあるからだ。今自分が立ち止まっている間にも、同い年のみんなは学校で授業後を受けている。午後の眠い時間だというのに、本当によくやってると思う。
結局今日もこの時間まで何も考えが進まなかった。一応薄手の上着だけ持って部屋をでる。向かうのはいつものところだ。
すっかり見馴れた橋の下でしばらくモフモフと戯れていると、うしろから声がかけられる。
「未来ちやっほー。」
「おう。」
みんな大好き相田 美鈴だ。この美少女はいつ見ても美少女だ。
「決まった?進路。」
「まだだよ。」
「だよねー。ま、私もまだだから安心しな。」
美鈴も同じ高校生2年だが、進路が確定はしていないもののある程度行きたい大学は決まっているらしいので、安心はできない。
「てか、まだ2年なんだから確定してる人なんて少ないよ。」
「ん。でも、就職か大学か専門かも決めてないヤツなんて…。」
「それは聞いたことないかな…。高校の進路室みたいなの、無いの?」
「あるっちゃあるけど、あんなの大学入試相談室みたいなもん。」
「どこもそうなのかぁ。」
「美鈴は大学なんでしょ?」
「まあ、そうね。就職する自信はないし、これといってやりたいこともないからね。大学進学しか考えられない。」
大学もやりたいことがあって行くところだと思っていたが、意外とそんなことも無いのだろうか。大学に行くとしても、学部学科を決められる気がしない。
しばらく黙って、ふたりとも川の流れを見つめていた。
ガサッ。
ん?なんか音がしたか?ああ、モフモフか。美鈴と話していたもので、すっかり忘れていた。
音は近づいてくる。
「わあっ!」
「うわぁっ!」
「なんだ!」
草むらから飛び出してきたのは、いつかのクソガキだった。
「未来ちゃん、ひさしぶり!あれ、友達と一緒だったのね。びっくり、未来ちゃんにお友達がいたなんて…。」
「相田 美鈴です、よろしくね。未来ちの知り合い?」
「そうです!」
「わあ、未来ちにお友達がいたなんて、私もびっくりだよ!」
「美鈴お姉さんとは気が合いそうですね。」
「ね~!お名前は?いくつ?小学生??」
「失礼な、中学生です!やっぱり腐っても未来ちゃんの友達なのですね…。」
「ごめんごめん、お名前教えてくれる?」
「上田 愛華といいます。」
「愛華ちゃん、よろしくね。ゆっくりしていってね!あ、魚肉ソーセージあるよ、食べな。」
「わあ、いただきます!」
ここまで自分の入る隙はなかった。まるでラップバトルでもしているかのようなスピードで会話が進んでいた。子奴らのコミュ力恐るべし…。
ガキはモフモフと同じ扱いを受けているとは露知らず魚肉ソーセージをほおばりながら美鈴お姉さんとなにやら楽しそうに話している。親どうしの会話を聞かされているときのようだ。ガキが「未来ち、とっても優しいんですよ~。」なんて話している。未来ち呼びが美鈴から移ったようだ。騒がしくなりそうだ。
ふたりは時々自分を巻き込みながら休むことなく喋りつづけ、気がつけば5時の鐘が鳴っていた。
「あ、よい子の私は帰らなくては。お先に失礼。」
「おっけー。私たちはどうする?」
「今日は帰る。」
「おけ、愛華ちゃんはどっち?」
美鈴が帰る方向をたずねると、ガキは右側を指差す。自分は知っていたことだが。
「私たちはこっちなんだ、じゃあねー!愛華ちゃん!また会おうね。」
「…そうなんだ。はーい!未来ちも、またね。」
「ん。」
ガキは反対側へと歩いていった。
「可愛い子だね、愛華ちゃん。」
「そうか?」
「かわいいよ~。それに、未来ちから話しかけたんだってぇ?いいお姉さんじゃん!」
「だってそこにいたんだもん。」
「かっこいー!」
「からかうんじゃねえ。」
「将来は小学校の先生かな~?」
「アイツ中坊だろ。…それに先生は助けてくれないんだ。美鈴は頭もよくて可愛いだから助けてもらえるだろうが、自分みたいなのは別なの。」
「きゃ、未来ちが褒めてくれたっ!」
「コイツは…。」
まったく、調子のいいやつだ。ただ、美鈴は先生には、いや、誰にも変えることのできない、または変えようとすら思われないことが存在ことをよくわかっているはずなのだ。
「きっと未来ち先生なら助けてくれるのに。」
「無理だろ。」
美鈴はコロコロと笑っている。最近気がついたのだが、美鈴は笑い方がちょっと変だ。クラムボンもびっくりなくらい。でも、それがかわいかったりもするから、このままでいて欲しいものだ。
「じゃあね、未来ち。」
「ん?ああ、また。」
「あれ、何考えてたの~?」
「べつに、何も。」
たとえ心のなかでも美鈴に対してかわいいと思っていたことがバレたら死ぬまで笑い者にされる気がする。べつに、かわいいと思ったのは美鈴本体ではなく、美鈴の笑い方なうえに、ほんの少し頭をよぎっただけだ。
「そっかぁ~。じゃ、また!」
「ん。」
こいつは本当に、いつも笑ってるよな。




