第5話
春の明け方は極寒だった。
さ、さぶいっ。運動がてらちょっと走るかぁ…。走っていると、やっぱりよしなしごとが頭に次々と浮かぶ。高校を卒業したらどうしようか、嫌でも考えてしまう。
大学、専門学校、就職…。小綺麗なニートだけは避けたい。
はあっ、土手沿いをランニングするつもりで走りだしたが、結局は土手にたどり着く前に体力が尽きてしまった。
力尽きて歩いても、考えることは変わらない。どうしよぉ。そういえば体、あったまってきたなぁ~、って、違う違う。考えないと。
そんな具合で、もう少しであそこにたどり着く。ああ、着くまでに何も考えられなかった。
あれ、いつもの所に人がいる。流石に美鈴は居ないと思っていたが。こんな早朝補導ギリギリ?の時間になぜ?
「美鈴?」
じゃない。
「あっ、すみません。…お邪魔、ですね。」
美鈴ではなかった。確かによく見たら全然違う、大人で、背も高くて、スーツを着ていて、おそらく革でできた鞄を持っている。出勤前のようだった。
自分は人の識別が苦手なのだ。やらかした。今までこの場所は誰も居ないからお気に入りだったのに、近ごろは人が多すぎる。場所、変えようかな…。いや、美鈴もモフモフもいるし、仕方がない。とか考えていると、返事をするのを忘れてしまう。
「あっ!大丈夫、大丈夫です!私こそお邪魔しました!」
「待ち合わせとかじゃなかった?」
「いえ。一人です。」
最近はよく人と話すから、うまく話せるようになった気がする。
「おひま?」
「まあ、暇です。」
「なら、少しお話していってくれない?」
嫌です!とは言えなかった…。
「あ、お願いします。」
「よかった。ちょうど話し相手が欲しかったところ。」
そこにモフモフがいるではないか。
「お名前は?」
「飯田です。」
「下のお名前は?」
「未来です。」
「未来。よろしく。」
なぜ人は揃いも揃って下の名前を知りたがるのか。
「未来ちゃんはなんでこんな時間にここに?」
「なんか目、覚めちゃったんで。」
「そっか。私も。でも未来は若くていいね。中学生?」
「いや、高校生です。」
失礼な。
「そっかそっか、ごめんね。花の女子高生じゃんか。」
「それに、若くたって良いことはない。」
「そうかな。可能性があって、自由で良いじゃない。」
「自分に可能性なんてない。」
「そんなことない。私よりもずっとある。」
今までよりも強い口調でそう言った。
「あなたも、だいぶ若く見えるけど。」
「若さって年齢じゃないの。」
自分から中学生?とか言ってきたくせに。
「だから、未来は若い。まだ捨てたもんじゃない。やりたいこと、考えなよ。」
「とは言っても…。やりたいこととか、無いし。」
「ある、絶対ある!」
急に熱血になってきた。そんなわけ…。
「まだ出会ってないだけだよ、きっと見つかる。未来なら。」
「自分は不登校で、毎日自宅でVTuberをみて、ゲームをして過ごしてます。」
「あちゃ。」
なかなかに失礼なやつだ。最近はそんな人としか会っていないから、べつに違和感はない。
「どうしよう。」
「勉強のほうは?」
「不登校ですよ、ろくにやって無い。」
「ちょっとくらい遊びに出でみたらいいんじゃない?バイトとかも。」
自分は家が好きなのだ。わざわざ騒々しいお外におでかけなんてこの場所くらいでいい。
「無理ですね。」
「じゃあ今度の土日、遊ぼうよ。…って、ダメだ。私が仕事だわ。」
土日休みではないのか。
「今日は仕事なんですか?」
「うん。…あ、もうすぐ行かなきゃだ。」
まだここに来てから30分も経っていない。自分はバイトすらしたことがないが、いくらなんでも4時代に出勤、土日も休みでないというのはだいぶブラックなのではないか?
「じゃまた。いつか遊ぼうね。」
そう言って、名前も知らない大人は去っていった。




