第3話
今日は土曜日だ。毎日がholidayでありweekdayの私には本来土日なんて関係ないのだが。
だけど、胸を張って休みだ!といえる土日祝日はやっぱり心が軽いものだ。
今日は何をしようかなぁ。そうだ、最近オープンしたスーパーでも行ってみよう。実は私、料理はできるほうなのだ。なぜって、引きこもっている間昼ごはんを自分で用意しないといけないことが多々あるからだ!
そんな日は一人でプチ贅沢に限る。
いつものスニーカーに足を入れて、玄関の扉を開く。
「土曜日の空は青いな。」
よし、スーパーへGOだ。
オレンジ色のぴかぴかのペンキで塗られたスーパーは私の百倍は輝いていた。最近オープンしたばかりのホットな場所とはいえ、同級生はスーパーになんて来ない。多分。
入り口の自動ドアををくぐると、店内には絵の具(多分)で壁に描かれた、絶妙なセンスの野菜や肉の大きなイラストが佇んでいた。自分はこの感じが嫌いではない。
野菜売り場を通り過ぎ、お肉売り場を横切って、向かったのは冷凍食品コーナー。正直、自分にはまだ野菜や肉の値段の違いはよくわからない。しかし、冷凍食品コーナーはスーパーによって違いがあって面白いのだ。もちろん、あとでアイス売り場も見に行く。
冷凍食品コーナーには、グラタン、餃子など少なくとも家では定番のものから、今までに出会ったことのないガーリックシュリンプのものまであった。ちなみに自分がいちばん好きなのは、たらこスパゲティのやつだ。学校に毎日弁当を作って持って行くわけでもないのに、冷凍食品コーナーでうきうきしていた。それが良くなかったのだ。
浮かれてすくなくとも5分は冷食コーナーを物色していた。ひとつの場所に長い時間とどまると色々な人に出会うのだ。
後ろから声をかけられた。
相田 美鈴さんが素敵な陽キャスマイルでこちらを見つめている。
「飯田さん、偶然だね。やっぱ新しいスーパーって来たくなっちゃうよね。」
「あ、うん。」
変な返事になってしまった。
「冷凍食品みてたの?良いよね、冷凍食品。なんだかんだ1番おいしいし、なんといってもラク!飯田さんもこんなにワクワクすることあるんだね〜。」
「ま、…r、まあ…。」
見なかったことにしてくれ。陰キャの一人のときのハイテンションだ。もうやめてくれ。
「そうだ飯田さん、これからあそこに行くんだけど、一緒に来ない?」
「うん。」
うっ、行きたくない。けど反射的に同意してしまうのだ。コミュ症…。
「やった!最近飯田さんに会えないから気になってたんだよー。」
私のことなんて気にしないでくれよぉ…。なんで気になるんだ、私にはそんな考えは一生理解できない。
相田 美鈴さんと出会う前までに買い物カゴに入れていた特売の卵だけを購入して、スーパーの前で相田 美鈴さんを待った。
相田 美鈴さんは片手にビニール袋、もう片方の手にパピコの半分、そして口にもう半分のパピコ(因みにコーヒーのやつ)をくわえていた。私の目の前まで歩いてくると、目を見開きながらあたかも当然のように手に持っていたほうのパピコをくれた。まだアイスの季節には早い気がするが、陽キャは梅雨にもアイスを食べるものなのか。
「いこっ!」
口にくわえていたパピコを手に移して、言葉が発せるようになった相田 美鈴さんは元気に言った。
そして、あの高架下へとふたりで歩きはじめた。
「あ、そのちっちゃいのもちゃんと食べなきゃダメだからね~?」
そんなこと心得ている。
終わりのはじまりだ。
「飯田さんって高校生?」
「飯田さん、猫派?犬派?」
「飯田ちゃん、たけのこ派?きのこ派?」
等々、どこからか飛び出してきたマシンガンのような質問に次々と答えさせられた。答えるたびに、「え〜、きのこ派ぁ〜??敵だなぁ笑」などと別に面白い話でもないのに、笑いながら冗談混じりに反応してくれるので安心はした。もちろん、疲れもしたが。こんな人がなぜ自分に話しかけてくれるのか。うちの学校にはこんな変わり者はいなかった。
もしこの人がクラスにいたら…なんて再び考えてしまうが、結局クラスの別のイケてる子たちと喋るのだろう。たまたま自分がそこに居ただけで、他に人がいたらそっちに行くものだ。自然の摂理だ。柱状節理だ。うんうん。
そんなこんなで高架下にたどり着くと、ようやくマシンガントークは止まった。
「ミーコ〜。」
相田 美鈴さんが呼ぶと、モフモフはのそのそとやって来た。相田 美鈴さんはビニール袋から魚肉ソーセージを取り出し、モフモフに差し出す。モフモフはかぶりつく。
猫と美少女というのは眼福だ。相田 美鈴さんはかわいい。とてもかわいい。この顔に生まれていたら、きっと毎日学校に通っていた。
モフモフは魚肉ソーセージを平らげると、コロコロと愛嬌を振りまいた後、昼寝の体勢に入った。
相田 美鈴さんはモフモフの隣に座った。
自分も、その隣に座った。
しばらく、体感1時間くらいだまって並んで座っていた。
「飯田ちゃんって、友達いる?」
いないが??当てつけか????
「べつに、昔はいたけど。」
「やっぱ今は居ないんだね。…いいよ、それで。」
べつに孤高をエンジョイはしているが、一般的にはよくないことだと思うのだが。
「疲れるものだよ、友達って。なんとなく周りの子たちに合わせて、適当に同意してさ。本当の自分の意見なんて言ったらすぐ輪から外される。」
そもそも輪に入らない自分にはわからない世界だ。そんなところわざわざいる必要なんて無いのではないのか?
「べつにあんなところ抜けちゃえばいいんだけどね、私は臆病だからできないんだよ。」
自分にはわからない感性だ。
「一人だって楽しい。」
「あは、そうかもね。ようやく喋ってくれたね、飯田ちゃん。」
「別にずっと喋ってた。」
「そうじゃなくってさ、」
相田 美鈴さんは口を開けて少し上を見上げながら笑った。
「私が挨拶したら挨拶して、私が質問したら答えるだけだったじゃない。今は飯田ちゃんから喋ってくれた。」
「やめておけば良かった。」
「まぁまぁ、そう言わずに。あ、何も言わないよりはいいけどね。嬉しいよ。」
「そう。」
「これを期に、もちょっとだけ飯田ちゃんのと喋ってくれないかしら?」
「いや、あんなこと言われたらこっちが話聞きたいんだけど。」
「え〜?誰の話が聞きたいってぇ??ミーコの話でもしちゃうよ?、あたし。」
「やっぱいいです。」
「もうっ!あきらめるな!」
「はいはい、相田 美鈴さんのお話が聞きたいです。」
「フルネームにさん付けなんかい、美鈴でいいよ。てか名前全部覚えててくれたんだ。」
「で、話は?」
相田 美鈴さんは少し黙った。どんな顔をしているのかは、自分が人のの顔を見ながら会話しないのでわからない。正確には、顔を見ながら会話ができないのでわからない。
「さっき話した通りね、お友達ごっこがめんどくさいの!周囲に気を使って、面白くなくてもニコニコわらって、自分の立場を気にして、お気に入りの子の誕生日を覚えてサプライズ、ハロウィンにはお菓子パーティー、バレンタインにもお菓子パーティー、ホワイトデーにもお菓子パーティー、行事のあとにはお菓子パーティー in カラオケ!!」
声の大きさをクレシェンドしながら、飯田 美鈴さんは不満を川に向かって吐いた。私は今どうしたらいいのかわからない。
「もう嫌っ!って思ってたから、今日は一人で楽しそうな飯田ちゃんを見かけて、つい誘っちゃった。って、誘っちゃうような人間だから、こんなところに入っちゃったのかなあ。」
人生楽しそうに見えていたが、全然そんなわけなさそうた。
「抜ければいいじゃん。」
「さっきも言ったけどね、そんな勇気はないんだよ。輪から抜けたら何されるかわからない。」
「ならここで息抜きすればいい。」
飯田 美鈴さんは急にこっちに顔を向けて、キョトンとこちらを見つめている。つられてこっちも飯田 美鈴さんのほうを向いてしまう。
「えっ!いいの?!」
「別に好きに来ればいいじゃん。いつでもモ…ミーコが待ってるでしょ。」
ここで前を向き直す。
「えー、飯田ちゃんが待ってくれてるんじゃないのー?…ま、そうだね。それがいちばん生きやすいかも。」
「休みの日にはみんなでタピオカでも飲んでそうなもんだけど。」
「タピオカはもう古いんだよ、飯田ちゃん?休みの日はバイトって毎回言ってるから、私は誘われないようになってきたかな。さすがに長期休みにはお呼ばれされるけどねぇ…。お呼ばれされてるだけマシなのかね。ま、その時はここで癒してよ。」
「タピオカってもう古いんだ。」
「癒してよぉ。でもやっぱ飯田ちゃんと居ると心地いいよ。」
「それはなにより。」
「思ってないでしょ、それ〜?」
「うん。」
「否定しろっ。」
飯田 美鈴さんはケラケラと笑った。チラッと横をみると、飯田 美鈴さんの笑った横顔は愛嬌があって綺麗だった。
「おなか減った。お昼たべよ。」
飯田 美鈴さんはそう言って、ビニール袋をガサゴソしだした。自分は今日は昼ご飯を持ってきていない。
「はいっ、はんぶんこしよ。」
飯田 美鈴さんは大きな菓子パンをこっちに差し出してきた。
「でもこれ飯田 美鈴さんが食べるんじゃ。ふたりで食べたら…」
「だから美鈴でいいって!大丈夫、飯田ちゃんと食べるためにでっかくて安いやつ買ったんだからね。ていうかこんなデカイの私ひとりで食べるとでも…?それにほら、ジャーン!」
美鈴さんは白いトレーとラップに押し込まれたからあげを取り出した。スーパーのからあげは美味しそうだ。
“グゥー”
「いやっ、これは、なんでとも、と、ろ…」
あぁっ!
「いやいや、イマドキお腹の音なんかでそんな恥ずかしがることないでしょ笑。むしろかわいいよ。」
「そう、なのか…?」
「そうだよー。飯田ちゃんかわいいっ。」
「それはないだろ。」
「えー、くだらないことでキャーキャー言ってるクラスメイト達の一億倍かわいいよ。」
「それはそうかも。」
美鈴さんが毒を吐くようになった。まあこっちのほうが安心する。
「じゃ、たべよ。」
美鈴さんは彼女の顔と同じくらいの大きさの菓子パンを半分にちぎって、気持ち大きめの方を自分にくれた。
「いただきます。」
小さいころから食べ続けてきた馴染みの味だ。
「唐揚げも好きに食べてね、とか言っても飯田ちゃん食べなそう。はい、あーん。」
「いい、いいから。自分で食べます。」
「えー。ま、食べるならよし。」
「あと、未来。」
「えっ?」
「飯田 未来。名前。」
「えぇ〜!」
「別に普通の名前でしょ。」
「違う違う違うっ!教えてくれたじゃん!未来ちゃんから!」
「そう。」
「なに照れてんの!もーうちょっとだけ自然に言えたら良かったかもねぇ。宇宙人かと思ったよ。」
「うるさい。」
「ごめんごめん、でも大丈夫。このままでもかわいいよ。」
その後も美鈴さんと適当に喋っていると、気がつけば日が暮れかけていた。
「ふー、いっぱい喋ったね。そろそろ帰ろっか。」
「うん。」
立ち上がって、ふたりとも左側へ歩いていく。歩きながらも美鈴さんはしゃべり続けていた。体力がすごい。
「じゃ、私こっちなんだ!またね…ってあ!全然未来ちゃんの話聞けてないじゃん!舞い上がっちゃって私ばっかり話しちゃったよぉ。…また!また今度聞かせて!たぶんまた会えるもんね!」
「ん。」
「じゃあねー。」
「じゃあ。」
ひとりの河川敷はひどく静かだった。音があるから静寂は際だつのだそうだ。




