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閑さや 土手に染み入る 割れせんべえ  作者:


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第2話

今日は疲れた。

家族との最低限の会話を除けば、久しぶりに人と喋った。そんなことで疲れる自分に嫌気が刺す。…ああ、可愛くてコミュ力があって優しくて、すごい人だったな。あんな人が隣の席にでもいたら私も学校に行けてたのかも。なんてね。

人間は恐ろしい生き物なのだ。どんなに良い人に見えたって、簡単に信用してはならない。そんなのわかってる。いくらわかっていても、素敵な人だと思ってしまう素直な自分がまだ心の中に居座っている。相田 美鈴さんを素敵な人だったと思ってしまう。だからこそ、私は人を信用していけないのだ。

「....明日は会わないようにしよう。」


次の日、その次の日も、そのまた次の日も、私はあの人が学校に行っている時間帯にあそこへ向かった。

これでもう私のお気に入りスポットは誰にも邪魔されない。


あれから一週間。ログボも一周した。今日もあそこへと向かう。今日は曇り。出掛けるにはちょうどいい天気だ。ところで曇りの日は晴れの日よりも空がまぶしい気がするのは気のせいだろうか。そうだそうだ、雲が光を反射して眩しくなるのだった。


そんなこんなで、またいつもの場所へたどり着く。いつものように橋の下へともぐる。

「げっ。」

人がいる。子供だ。ボールを抱えて縮こまっている。まだこちらの存在には気づいていなさそうだ。逃げるか?いや、さすがに声をかけるべきだよな。でも逃げたい…。迷っていると、すかさずモフモフが草むらから飛び出す。…子供がこっちを向く。

「げっ。」

「ごめんなさい、邪魔ですね。」

さっきまで縮こまっていたくらいだ、元気がないのは私にもわかった。そんな人、しかも年下から場所を奪うなんてことはしない。

「いや。私はここじゃなくていいから。…大丈夫?」

「さっきそこで足、挫いちゃって。初めて来た場所で、家からもちょっとだけ遠いから不安に…なった。」

どうしたらいいんだ。私には何もできない。聞かなきゃよかった。

「でも、大丈夫です。」

気を使わせてるな、これ。あぁ、もう!

「おんぶするから、一緒に家帰ろう。」

「え、いいの?」

「いいよ。」

もう知らない。半分投げ槍だ。

「でもお姉さんにおんぶは疲れちゃうと思うから、肩だけ貸してくれませんか?」

うっ、ごもっともだ。情けない。

「うん。」

まずは立ち上がるために手を伸ばす。

「よいしょ、っと。」

少しふらっとしたような気もしたが、なんなく立ち上がる。

「どっちの足?」

「左。」

なら私は左側へ行くべきだ。いや、右側か?怪我をしていない方の足に体重をかけるから…右側に行けばいいのか。彼女の右側へ移動して支える。そして、ゆっくりと土手を登ってゆく。ここが一番の難所かもしれない。


なんとか登り終えて、一安心。

「どっち?」

「そっち。」

彼女に左肩を貸しながら、川上に向かって歩いていく。話すのは苦手だが、黙ったままの気まずい空気はもっと苦手だ。

「今日、学校じゃなかったの?」

聞いてみる。

「今日は体育祭の振り替え休日だからお休みなの。」

「そうなんだ。」

私と同じかもしれないという微かな希望もあったが、一瞬にして消えて行った。

「お姉さんも学校じゃないの?」

痛いところを突かれた。そんなこと聞かなきゃよかった。

「私は学校行ってないの。」

「そうなの?お姉さん高校生くらいに見えるけど。」

「不登校ってやつだよ。」

ま、自分では不登校とは思ってないけど。説明するにはこれが一番手っ取り早い。

「そうなんだね。ところで、お姉さん名前は?」

「飯田。」

「飯田、じゃなくて。上の?下の?名前は?えっと、苗字じゃない方の。」

「未来。」

「未来ちゃん。未来ちゃんはいくつなの?」

そんなに気になるかなぁ。それとも話を途切れさせないために気を使ってくれているのか。

「今年で17だったかな。」

「私はこの前の誕生日に13才になったの。中学1年生だよ。」

中学生だったのか。小柄だから小3,4くらいかと思ってた。それにしては口が回りすぎだったか。ま、中学生だとしても私よりずっと喋りはうまいが。

「私のこと小学生だと思ってたでしょ。」

「うん。」

「いっつも小学生と間違えられるんだよね。妹と水族館とかでチケット買う時も”小学生おふたりですね~”って!まぁ小学生でも中学生でも料金は変わらないことが多いからそういう時は正さないんだけど。」

正直中1も小学生とそんな変わらない気はするが。こんなことを考えていることがバレたら怒られそうだ。

「あとね、未来ちゃんは知らないかもしれないけど、体育祭は中学生のもの、小学生は運動会なんだよ!」

こやつ、なかなか失礼だな。ちょっと前まで敬語なんて使ってたのに。

「自分だって中学校まではちゃんと学校行ってたし。というか学校によるでしょ。」

「えー、大体同じじゃない?未来ちゃんはどうだったの?」

思い出したくないが。

「…うちも小学校は運動会、中学校は体育祭だった。」

「やっぱりね!」

話題を変えたい。運動会だろうが体育祭だろうが、嫌な思い出しかないんだ。

「名前は?」

「ん?あ、私のは言って無かったか。あいか。愛するに、”難しいほうのはな”で愛華。上田 愛華。」

「ふーん。」

人の名前を聞いておいてふーんは失礼だったか。まあこいつも失礼なので良しとするか。ところで話題が無くなってきた。

「未来ちゃんは何で橋の下に来たの?」

「別に。理由はない。」

「理由がないのにあんなところに?」

「まあね。あんたこそ何でこんなとこ来たんだよ。」

「流されちゃった。…私も特に理由はないんだけどね!」

「そう。」

少し黙ったが、なんだかんだで会話を続けながらこいつの家にたどり着いた。

「じゃあね。未来ちゃんありがとう。」

手を振りながらちっこいのが言う。

「じゃあな。」

小さく手を振り返すが、自分は手を振るのに慣れていないので角度がおかしかった気がする。まあいい。


家、帰ろう。









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