第97話 新たな旅立ち
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出発の朝。王城の一室では、ルーチェの荷造りが進められていた。
「ルーチェ様。ドレステルは山間部の街です。だいぶ暖かくなってきたとはいえ、夜は冷えます。ましてや、万が一山の上の方まで向かわれることを考えて──この外套をお持ちください」
そう言って外套を丁寧に畳みながら差し出したのは、執事のピーターだった。深い紺の厚手の外套は、袖口や襟に上質な魔力布が使われ、体温を保持する魔法が施されている。
「はい、ありがとうございます、ピーターさん」
ルーチェが外套を受け取ると、今度はメイドのティーナが微笑んで寄ってきた。
「ルーチェ様、せっかくですから寝巻きも長袖のものを用意しておきました。朝晩は冷えますからね。それから、温かいお茶の葉と小さな魔力湯沸かし器もお入れしてあります。喉を冷やさないようにしてくださいませ」
「ありがとうございます、ティーナさん…!」
「ふふ、何かあればすぐ戻ってきてくださいね。ルーチェ様がいないと、城の中がちょっとだけ静かなんですよ」
「……気をつけていってきます」
荷物はすでにまとめられ、旅装の上から羽織る上着の準備も整っている。小さな鞄には食料や救急用品も入っており、ルーチェはそれを大切そうに背負った。
外では既にキールとテオが待っている頃だ。
「では、ピーターさん、ティーナさん。また帰ってきたら…!」
「ええ、お待ちしておりますよ」
「ご無事をお祈りしております、ルーチェ様」
二人の温かい見送りを背に、ルーチェは静かに王城を後にした。
ルーチェが王城の門から出ると、そこには二台の高級そうな馬車と、今回の依頼に関わる五人が立っていた。
「おはようございます、ルーチェ様」
ベルンが腰を折って挨拶する。
「おはようございます、ベルンさん。……あの、二台の馬車で行くんですか?」
「ええ。セシからは帆のついた荷馬車へと乗り換え、そこからドレステルへ向かいます。さすがに移動中ずっと我々と顔を突き合わせているのは、緊張しますでしょう?」
「お気遣い、ありがとうございます」
ルーチェは軽くお辞儀をした。
「でも、護衛チームと別馬車だと、魔物に襲われた時に大変じゃないですか?」
そこへリィナがやってきた。
「私たちはただの監査官ではありません。情報を吐かせるための尋問、時には拷問も──」
「ゴホン……」
ベルンがわざとらしく咳払いをして言葉を制した。
「……失礼しました。ともかく、我々も多少の戦闘の心得はありますので、どうかご心配なく。我々で手に負えないような魔物であれば、そのときは皆様にお任せします」
ベルンが優しくそう伝えると、ルーチェは頷いた。
「分かりました」
「では、そろそろ出発しましょうか。ルーチェ様は後ろの馬車にお乗りください」
「はい!」
馬車がゆっくりと進み始め、揺れ出す。
「ルーチェさん」
キールが声をかける。
「今回、セシで荷馬車に乗り換えるのには、もう一つ理由があるのですよ」
「……理由?」
「こんな派手で立派な馬車で行ったら、明らかに貴族絡みだってバレちゃうもんね」
テオの言葉に、キールはうなずいた。
「でもやっぱり、それなら最初から一緒でもよかった気もしますが……」
「別々の方が、ルーチェさんと魔物たちにもストレスが少ないと思ったのですよ」
どうやら、かなり気を使ってもらったようだ。
「ありがとうございます」
「しかし、セシを越えてドレステルまでとなると、相当時間かかるよね? 十日くらい?」
テオがキールに尋ねる。
「一日でどれだけ進めるかにもよるけど……まあ、ざっと見積もってもそれくらいかな」
キールもそう答える。
「なら長旅になるし、何か話をしようか」
「話……」
三人は、どんな話をすればいいか思案した。
「ルーチェ、一人の時間が多かったけど、俺たちがいない間、どう過ごしてたの?」
テオの問いに、ルーチェはうーんと声を出した。
「えっと、王城では書庫に通って、フェリクスさんと魔物の本を読みながらお話したり……。ティーナさんとピーターさんにお世話してもらって……。それから、エステルさんと……」
「エステルさんと? 前までは“エステル様”って言ってなかった?」
テオがルーチェをじとっとした目で見た。
「え、エステル様と友達になったんです! 敬語も“様”もいらないって!」
(え、それって……社交辞令とかじゃなくて? ピーターって使用人から聞いてはいたけど、ガチだったんだ...)
テオはそう思ったが、あえて口にはしなかった。
「彼女がそう言うならそうなのでしょうね。昔から、建前や取り繕うのが好きではない性分でしたから」
キールがそう言った。キールとエステルはいとこ同士で、幼い頃からよく知っているのだろう。
「はい、ナガレノ村から戻ってくる時、騎士団の合同訓練の野営にたまたまお邪魔させてもらって、エステルと同じ天幕で休ませてもらったんです」
楽しかったなぁ、と顔を綻ばせるルーチェに、二人は顔を見合わせた。
(いや、短期間に仲良くなりすぎじゃない?)
(……ルーチェさんだからこそかも)
キールとテオはそんなことを思いながら、視線を交わした。
「そういえば……お二人は砂漠の街に行ってたんですよね?」
ルーチェの一言に、二人は視線を彼女へと戻した。
「ええ、そうですよ」
「めちゃくちゃ暑かったよね」
テオが思い出すように遠くを見つめながら答える。
「大型魔獣を倒すっていうのは聞いてましたけど……どんな魔物だったんですか?」
「どんな……」
二人は同時に、嫌そうな顔を浮かべた。
「うにょうにょカサカサ動く……ムカデ?」
「うん、巨大なムカデだったね」
(余程嫌な相手だったのかな)
「せっかく時間があるんだし、あの魔獣──ゴルザガルムの話でもしようか」
「そうだね。長旅になるし、時間を潰すにはちょうどいいかも」
そう言って、二人は王都を離れた後の出来事を語り始めた。
さてさて、またしばらくルーチェのターンはお休みで、今度はキールとテオの回想にお付き合いいただきましょう。それではまた次回。




