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絆ノ幻想譚  作者: 花明 メル
第二章 広がる世界、潜む闇
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第96話 極秘の依頼

さて、今日から二章後半ですが、何やら不穏な空気が…。




 夕刻。王城の中。


 国王によって招集された者のみが入れるその会議室には、数人の要人たちが静かに席に着いていた。


 広くはないその部屋で、国王エルガルドが厳しい目を向ける。


「───ドレステル、か」


 その言葉に、周囲の空気がわずかに張り詰めた。


「鉱山資源の減少が囁かれて久しいが、近頃では不審な金の流れまで報告されている」


 王の隣には、若き第二王子エミル。淡い金髪の王子は、手元の書類を静かにめくった。


「数字だけを見ると、一部の取引量だけが異常に増加しています。街の収支記録にも不自然な余剰金があり、課税対象にされていない取引があるのは確実です」


「つまり、裏があると?」


 そう口を挟んだのは王国の宰相ザビアン。白髪交じりの鋭い眼差しを持つ男で、王の補佐役として長年仕えている。


「断言は避けますが、流通記録の一部には、明らかに“帳簿の上では存在しない”金が動いています。裏取引、もしくは……非合法な市の可能性も視野に入れるべきでしょう」


「……ふむ」


 エルガルドはしばし黙考し、それからもう一人の男に目を向けた。


「公爵、貴殿の見解を聞こう」


「……ドレステルは本来、鉱山都市として、ヴァレンシュタイン王国と軍事国家ロンダール、両国の収入源を担っていた街です。だが鉱山資源の枯渇が進んだ今、その“穴”に目を付ける者が現れるのは必然かと」


 そう語るのは、王国商務庁長官にしてランゼルフォード公爵、キールの父カイルである。


 老いてなお鋭い眼光を宿し、厳しい声が響く。


「監査部による記録精査の結果、非合法品の流通を示唆する証言も得ています。もし奴隷市、あるいは禁制品の取引が行われているとすれば、看過できません」


「だが、ドレステルは中立都市。我が王国の直接支配地ではない」


 宰相が渋い顔で言うと、カイルは静かにうなずく。


「それゆえに、“商人の護衛任務”という建前で精鋭を派遣するつもりです。情報商局と監査部の人間を現地に潜入させ、確証を掴む。その間、護衛として若き冒険者たちを少数同行させます」


「少数、とな?」


 宰相ザビアンが訝しげに眉をひそめた。


「はい。選抜するのは三名。私の息子キール。そしてその友人テオ、さらにテイマーの少女ルーチェです」


「ルーチェを?」


 エルガルドが首を傾げた。


「なぜルーチェを調査に? 英雄少女が赴けば、かえって注目を集めやすいのでは?」


「王よ、それゆえに彼らなのです」


 カイルは落ち着いた口調で続ける。


「彼らは既に“冒険者”という立場を持っています。特にルーチェは目立つ力を持ちながらも、世間的には“Dランクの新米冒険者”にすぎません」


「……なるほど。目立つが、怪しまれにくいというわけか」


「はい。彼女一人では難しいでしょうが、共に行くキールとテオとはよく知る間柄。互いを信頼し合い、動けるはずです」


 カイルは一呼吸置いてから、はっきりと告げた。


「他の冒険者を護衛につけて下手に情報が露呈するよりも、彼らの方が適任です。特に息子のキールは、私が商人としての知識を叩き込んでまいりました。金の動きに敏いだけでなく、今回の件の秘匿性についても、すぐに理解するはずです」


 王子エミルがそれにうなずく。


「僕から見ても、キールは冷静で観察眼に優れています。テオ殿も、騎士訓練を受けていただけあって有能です。僕は賛成です、父上」


 ザビアンが腕を組み、しばし思案の末、頷いた。


「……公にせぬまま派遣できる人材としては、最善かもしれぬな」


 ザビアンのその言葉を聞いて、エミルはエルガルドを見据えた。


「陛下。ご判断を」


 エルガルド王は数瞬黙したのち、静かに口を開いた。


「よかろう。その三名に、調査員たちの護衛を命じよ。──だがカイルよ、彼らは若い。万が一に備え、バックアップは整えておけ」


「はっ」


「では会議はこれにて終いだ」


 国王が頷き、会議はひとまずの結論を得て幕を閉じた。






──場面は王都の中心部、石畳の大通り沿いにそびえる壮麗な建物へと移る。

 

 重厚な門構えと高い塔を備えたその施設こそ、王国の経済と物流を司る要の機関──王国商務庁である。


 王国商務庁は、公的機関として商人ギルドや商業ギルド、各地の流通業者を指導・監督し、必要に応じて査察を行う。

 

 商品の売買や輸送ルート、関税の取り決め、市場の健全化まで、その権限は広範に及ぶ。

 

 違法な取引や密輸の兆しがあれば、即座に現地調査を命じ、関係者を取り調べることすら可能だ。


 そして、この庁を束ねるのが、キールの父である、ランゼルフォード公爵家当主のカイルである。

 

 王国における「商業管理」と「物流流通」の最高責任者のひとりであり、国王からも厚く信頼される重鎮である。

 老練な商人としての鋭い嗅覚と、揺るがぬ判断力を武器に、幾度も王国の経済を陰から支えてきた。


 そして今、そのカイルの執務室に、三人の若き冒険者が呼び出されようとしていた──。





 ──王都の大通りに面した、石造りの堂々たる庁舎。

 その奥まった一室、王国商務庁の執務室にルーチェたち三人は通された。


 ランゼルフォード公爵ことカイルの部屋は、壁一面に帳簿や地図、物流の帳票が整然と並び、机上には分厚い書類の束が積み上がっている。

 装飾は最小限で、豪奢さよりも機能美を優先した実務的な空間だ。


「──よく来てくれた」


 机の向こうで書類に目を通していたカイルが顔を上げる。穏やかだが、眼光は鋭い。ルーチェたちは自然と背筋を伸ばした。


 カイルの背後には、紺色のロングヘアを後ろで束ねた女性が控えている。整った立ち姿と冷静な表情──秘書のクレアだという。


「今回、お前たちには《旅商人の護衛》という名目で、ドレステルの街へ赴いてもらう。だが実際は──街に流れる金の動きを探る、極秘の調査任務だ」


「極秘…」


 ルーチェが小さく呟く。


「キール、お前にはもう言ったな。あの街の動きに、おかしな点がある。だが、公には動けない。だからこそ、お前たちのような冒険者の姿を借りる」


「もちろん、分かっています。ルーチェさんとテオにも、後ほど私から改めて説明します」


 キールが真剣な声で頷く。


「…安心した。あれこれ話す前に、今回同行してもらう調査官たちを紹介しよう」


 カイルが部屋の奥の扉へ視線を送り、「入れ」と短く告げる。


 音もなく扉が開き、白髪混じりのグレーの髪をきちんと撫でつけた男性と、落ち着いた笑顔を浮かべた女性が現れた。


「皆様、お初にお目にかかります。私は王国商務庁・監査部部長、ベルン・メルツと申します。老骨ですが、何卒よろしくお願いいたします」


「初めまして。王国商務庁・監査部所属、リィナ・エイルと申します」


「え、えっと…よろしくお願いします…」

 

 リィナの視線は柔らかな笑みの奥で研ぎ澄まされ、ルーチェは思わず引き気味に挨拶を返す。


「すみません、癖なんです。真偽を見極めることはこの仕事において最重要ですので」

 

 リィナは悪びれず、目を細めたまま言った。


 カイルが軽く咳払いをする。


「それと、こちらは情報屋の──」


「ども、モッグスっす。気配消して隠れてるのが得意なんで、よろしく頼みますわ」


 気配もなく隅の影から姿を現したフード姿の男が、軽く手を上げる。


「…今、どこにいたんだ…?」

 

 テオが呟くが、モッグスは肩をすくめただけだった。


(モッグスさん…ノクスみたいに隠れられるんだ…)


「さて、今回の役割分担だが──調査官たちは表立って動かない。お前たちが街の調査をするその裏で情報を集める。その分、移動や対応は完全にお前たちに任せることになる」


「つまり僕たちが“旅商人と護衛”の顔ってことですね」


 キールが確認すると、カイルは頷いた。


「そうだ。ルーチェ、君には今後、こういった“ただ魔物を使うだけではない”依頼も経験してもらう。人を見る目、言葉の裏を読む力──騙す者と向き合う時に必要なことだ」


「…はい」

 

 ルーチェは胸に手を当て、真っ直ぐに答えた。


「…そうだ、キール。これを渡しておこう」


 カイルは机の引き出しを開け、掌ほどの丸い装置を取り出した。

 

 金属製の外殻には細かな刻印が走り、蓋を開くと中央に埋め込まれた魔石が淡く脈打つように光る。


「……これは?」


「試作段階の小型通信装置だ。会話というより“短時間の音声記録を直接転送する”ためのものだな。魔力を流して起動する形式で、最大でも二分程度の記録しか送れない」


「なるほど……伝言を送る装置、ですか」


「そうだ。そしてこれは私の持つ“親機”とだけ繋がっている。盗聴などの心配は、今のところはない」


 装置を両手で受け取ったキールは、少し重みを確かめるように握り直した。


「ありがとうございます、父上」


 深く頭を下げる息子に、カイルはわずかに頷く。


「私からも定期連絡をする。そちらも連絡を怠らぬように、忘れぬようにするのだぞ」


「承知いたしました」


 短いやり取りの中に、互いの信頼と使命感がはっきりと漂っていた。


「ルーチェ。今回の任務でお前に求められているのは、“テイマー”としての力だけではない。人と関わり、空気を読み、考え、判断する──その全てを経験してこい」


「はい。頑張ります……!」


 金属の蓋が静かに閉じられ、淡い光は収まる。

 そうして、ドレステル調査の第一歩が静かに始まった。

 


【リヒトのワンポイント解説のコーナー】


皆様、ご機嫌いかがでしょうか。

ルーチェお嬢様の執事、精霊のリヒトでございます。

今回は「商人ギルド」と、以前作中にて登場いたしました「商業ギルド」について補足をさせていただきます。


まず「商人ギルド」ですが、こちらは各地の商人や小さな商会が集まった連合組合のような存在。

同業者同士の繋がりを作り、商人間のトラブルを調停したり、取引の基準を取り決めたりするのが役割です。


一方「商業ギルド」は、各街に根を張る大きな組織。

取引を望む依頼主と商人を仲介し、仕事の斡旋や金銭の管理・融資を担います。

簡単に申しますと、依頼仲介所と銀行を兼ね備えた存在でございますね。


つまり――

「商人ギルド」は商人の集まり、

「商業ギルド」は商人たちをまとめ、経済を動かす組織。

このように覚えていただければよろしいかと存じます。


どうぞお間違えのなきよう、ご理解いただければ幸いです。

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