表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
絆ノ幻想譚  作者: 花明 メル
第二章 広がる世界、潜む闇
95/148

第95話 三人の休日

すみません、投稿遅れました。



 王城での滞在をすっかり満喫しているルーチェは、今朝もメイドのティーナに優しく起こされた。朝食を済ませた後、いつもの装備に手を伸ばそうとすると、ティーナが白くてふわりとしたワンピースを差し出してきた。


「え、あの……ティーナさん? これは……?」


 戸惑うルーチェに、ティーナは微笑んで答える。


「ふふ。ルーチェ様、今日は冒険のことは忘れて、どうぞ一日楽しんできてくださいな」


「えっと、それってどういう……?」


 そのとき、部屋の扉がノックされる音がした。扉の外から聞こえてきたのは、専属使用人のピーターの声だった。


「ルーチェ様。お迎えの方がお見えになっております」


「お迎え……?」


 ティーナとピーターに案内され、王城の門へと向かう。そこでルーチェの目に入ったのは、ラフな装いのキールとテオの姿だった。


「おはようございます、ルーチェさん」

「おはよー。ずいぶんおめかししてるじゃん」


 テオの言葉にキールがうなずく。

 

「ええ、とてもよく似合っていますよ」


「キールさん、テオさん……どうされたんですか?」


「寂しがり屋のお姫様を、デートに誘いに来たんだよ」


 テオがいつもの軽い調子で言って、からかうように手を差し出した。キールも少し照れながらも丁寧に礼をして、反対の手を差し出す。


「行きましょう、ルーチェさん」


 ちらりと振り返ると、ティーナとピーターが小さく親指を立てて「頑張ってください」と無言で応援していた。


 ルーチェは頬を赤くしながらも、二人の手を取って一歩踏み出す。


 三人は王都の街へと歩き出した。


 

 


「今日はルーチェのやりたいことをやろう。何したい?」


「急に言われても、パッとは思いつかないです……」


(三人で一緒にいられるってだけで嬉しくて、それだけで十分な気がしちゃう……)


「では、まずは散策でもどうでしょう? 街を歩いていれば、自然と何か欲しくなるかもしれませんよ」


「欲しいもの……あっ!」


「お?何かあった?」


「ノクスのバンダナみたいに、シアにも何か買ってあげたいなって思ったんです。でも……あの子、ネコ科っぽいから、身に着けるのって嫌がるかなって」


『お嬢様、シア様が───』


『ちょっと主様? 勝手に私の気持ちを決めつけないでもらえるかしら? ……主様からの贈り物なら、当然受け取るに決まっているでしょ!』


 リヒト以外の魔物たちは《魂の休息地(ソウルルーム)》にいる間、あまりこちらに干渉してくることはない。それなのに、今日は珍しくシアが割り込んできた。


『ノクスのよりも、もっと洗練されたデザインにして頂戴ね』


『───だそうです』


 と、そうリヒトが締めくくった。


「ルーチェさん?」


 急に黙り込んだルーチェを心配して、キールがのぞき込んでくる。


「あ、えっと! シア、すごく乗り気でした! だから、シア用のアクセサリーを探しに行きたいです。できるだけ綺麗なやつ!」


「綺麗な……なるほど、では装飾品のお店を中心に回ってみましょうか」


「はいっ!」


 ルーチェは嬉しそうにうなずいて、二人の隣に並んだ。



 

 三人が足を止めたのは、小さな雑貨店だった。


 ガラスのショーケースの中には、繊細なアクセサリーや可愛らしい布雑貨がぎっしりと並べられている。光を受けてきらきらと輝く品々は、見ているだけでも楽しい。


「シアにはどれが似合うかな……やっぱり、緑系かな」


 ルーチェが呟きながら、ショーケースの中を真剣な顔で覗き込む。


「というか、あの子はバンダナよりもチョーカーっぽいやつのが似合いそうだったけど?」


 横からテオが軽い調子で言う。


「確かに、女の子ですし、そういうのの方が似合うかもしれませんね」


 ルーチェもうなずいて、少し嬉しそうに笑った。



 すると、奥から出てきた店員がにこやかに声をかけてきた。


「何かお探しですか?」


「えっと……チョーカーは、ありますか? 少し大きめのサイズが良いのですが」


 代わりにキールが丁寧に尋ねる。


「でしたらこちらはいかがでしょう? 伸縮性のある素材で作られていて、首に負担がかからないようになっているんです」


 店員が示したのは、装飾を抑えたシンプルなものから、天然石やリボンで彩られた華やかなものまで、バリエーション豊かなチョーカーの棚だった。



 その中に、ルーチェの目があるひとつのチョーカーに留まった。細い革紐の中央に、翠色の小さな石が一粒あしらわれている。


(この色……シアの目の色と、飾り毛にそっくり)


「これにする?」


 そうテオが言った。


「はい……すごく、シアっぽいなって思いました。これにします」


 ルーチェは優しくそのチョーカーを見つめながら言った。


「プレゼントのようですね。よろしければ、お包みしましょうか?」


 ルーチェたちの様子を見ていた店員が尋ねる。


「お願いします!」


 ルーチェは少し照れたように頷いた。


 チョーカーが丁寧に包まれるのを見ながら、テオが思い出したように言う。


「んで、ソンティとアミティエ……だっけ? その子たちの分は?」


「うーん……」


 ルーチェは少し困ったように眉を寄せる。


(ソンティは蛾の魔物だし……アミティエに至ってはフワムシ。装飾品っていう感じでもないし……)


「焦る必要はありませんよ。時間はたっぷりありますし、街をゆっくり見て回りましょう」


 キールが落ち着いた声で言った。


「……はい!」


 ルーチェはチョーカーの包みを大事そうに抱えながら、次の店へと歩き出した。


 ルーチェはこっそりと、心の中でリヒトに尋ねた。


(ねぇ、リヒト。ソンティとアミティエって、何か欲しいものとかないのかな?)


『少々お待ちください。……確認してまいります』


 すぐに答えが返ってこないあたり、ちゃんと《魂の休息地(ソウルルーム)》の中で本人たちに聞きに行ってくれているのだろう。ルーチェは心の中での答えをそっと待つ。


『お待たせいたしました、お嬢様。アミティエ様はどうやら“蜜”をご所望のようです』


(蜜? 蜂蜜……? それとも花の蜜かな?)


『フワムシの成長や進化には“蜜”が必要と、フェリクス様がまとめられた文献にも記されておりました。アミティエ様は現在かなり小型の個体ですから、大きくなりたいのかもしれません』


(そっか……わかった、探してみるね。ソンティの方は?)


『ソンティ様は、ふかふかしたもの……おそらく、枕やクッションのような寝具を希望されているようです』


(ふふ、寝かせるだけじゃなくて、自分でも寝るの好きなんだ……わかった、そっちも探してみる)


「ルーチェさん、次は何を見ましょうか?」


 隣からキールが声をかけてきた。


「あの、クッションとか枕って……この辺で売ってるお店、ありますか?」


 不意に寝具を探し始めたルーチェに、テオがきょとんとした顔をする。


「いきなりどうしたの? 疲れたの?」


「いえ、ちょっと……贈り物にしたいなって思って。ふかふかのやつ」


「そっか。だったら、ちょっと歩いたところに専門店があったはずだよ。あそこのやつ、王都の宿屋にも卸してるらしいし」


「わぁ、なら行きましょう!」


 

  


「このお店だね」


 テオが指さした先にあったのは、王都の通りに面した寝具専門店。ソファに置くようなクッションから、枕や掛け布団まで幅広く取り扱っているようだった。


「いらっしゃいませ。──あら、キール様ではありませんか」


 店主はキールの姿を見ると、すぐに深々と頭を下げた。


「えぇ、お久しぶりです」


 キールも会釈で返す。


「本日はどのようなご用件で?」


「クッションや枕を探していまして。……彼女が、贈り物用に購入したいと」


 キールは一歩下がって、後ろにいたルーチェを紹介する。


「そうでしたか。どうぞ、こちらへ」


 案内された店内の奥では、棚とテーブルに様々なクッションや枕が整然と並んでいた。


「こちらは、王都近郊で飼育されている《綿羊(コットンシープ)》という魔物の毛を使用した、品質の高いクッションになります。柔らかさと通気性のバランスが良く、たいへん人気の品です」


(王都近くの牧場って、街道沿いで見たあの草地のあたりかな……?)


『昔に比べて、魔物を飼育・管理する文化が広まってきた成果かもしれませんね』


 リヒトが落ち着いた声で補足する。


(たしか、魔物図鑑に“《綿羊(コットンシープ)》はとても大人しく、人を襲わない”って書いてあったよね)


『ええ。その穏やかな性質が、こうした利用を可能にしているのです』


 ふと我に返ると、キールが棚の前でルーチェに声をかけていた。


「ルーチェさん、何か良さそうなものはありますか?」


(この……薄紫の丸いクッション、ソンティっぽい。ふかふかしてて夢見心地って感じ。……このくらいの大きさなら、上に乗って丸くなれるかも)


『ええ、ソンティ様もきっとお喜びになるでしょう』


 リヒトの言葉に笑顔になる。


「それにする?」


 テオの問いかけに、ルーチェは笑顔を向けた。


「はい、これにします!」


 ルーチェはうなずくと、両手でそっとそのクッションを抱えた。


「ありがとうございます」


「贈り物とのことですので、お包みいたしましょうか?」


「お願いします」


 キールの言葉に、店主は頷いてクッションを受け取ると、カウンター奥の包装スペースへと消えていった。


  店主から包まれたクッションを受け取ったルーチェは、満足そうに笑顔を浮かべた。

 

「これでソンティも喜んでくれるはずです」


「じゃあ、次はアミティエの分だな」


 テオが腕を組んで促す。


「あ、はい。えっと……欲しがってるのは“蜜”なんです」


「蜜?」


 首を傾げるキールに、ルーチェは少し言葉を選んで答える。

 

「ただの蜂蜜じゃなくて、『星花蜜』っていう特別なやつみたいです」

 

「それなら、母が蜜や菓子を買うときによく贔屓にしている問屋へ直接向かいましょうか?」

 

 キールがふと提案する。

 

「いつもは父を介して商会から購入しているのですが、今日は私が案内します」


 案内されたのは、王都の裏路地にある落ち着いた佇まいの店だった。扉を開けると、香ばしい甘い香りがふわりと漂う。


「これはこれはキール様、お久しゅうございます」


 白髪にくるりんとした髭が印象的なおじいさんが、奥からゆっくりと姿を現した。


「お久しぶりです」


 キールが微笑み返す。


「本日は如何なさいましたか?」

 

「この店に、《星花蜜》は取り扱いはありますか?」


「もちろんありますとも……。用途は菓子用か紅茶用ですかな?」


「えっと……」


 ルーチェは少し目を逸らしてしまう。その仕草を、店主は見逃さなかった。


 キールは、これ以上隠せないと思ったのか、淡々と説明した。

 

「彼女はテイマーです。星花蜜は、その契約している魔物のために必要なのです」 


「なるほど……確かに星花蜜だけに限らず、うちで扱う蜜は虫系の魔物に好かれるものが多いですからな……。しかし、そうですか……」


 店主は腕を組み、しばしルーチェを見つめ、それから穏やかに微笑んだ。

 

「キール様が連れてきた方なら大丈夫でしょう。お売りしますよ」


「いいんですか?」

 

「もちろんでございます」


 テオが横から口を挟む。

 

「キールどころか、国王やら王女やらも認めてる子だから、安心していいよ、店主のじいさん」


「ほう……そうでしたか」


 店主は僅かに目を見開き、誇らしげに頷いた。そして、奥の棚から小さな木箱を取り出す。


「こちらが星花蜜です」


 そっと蓋を開けると、淡い金色に輝く蜜が現れ、ほのかに花の香りが漂った。瓶の中の蜜は、光を受けて星屑のようにきらめき、まるで小さな夜空を閉じ込めたようだった。




 購入を終えて、店の前の路地に出る。 


「買えてよかったね」


 テオが言うと、ルーチェはぱっと顔を上げてうなずいた。

 

「はい、良かったです!」


 ふと何かを思い出したように、ルーチェが尋ねる。

 

「あの……キールさんたちの旅支度というか、準備は本当にもう全部大丈夫なんですか?」


「ん? あー……前から使ってた装備もあるし、必要なのはルーチェが帰ってくる前に済ませちゃったから。マジで全部終わってる」


 テオが肩をすくめる。

 

「それに今日はルーチェさんのやりたいことをやるための時間ですから。気にされなくても大丈夫ですよ」


 キールも穏やかに微笑んだ。


「じゃあ……あの……!」



 ルーチェは勢いよく歩き出し、三人は以前一緒に訪れた庭園へと向かった。庭園には人影がなく、柔らかな風だけが木々を揺らしている。


 ルーチェは周囲を見回してから、そっと《召喚(サモン)》を行った。


 光が瞬き、ふわりと二匹の魔物が姿を現す。


「この子が繭夢(マユユメ)という蛾の魔物、ソンティ。眠らせる効果のある鱗粉と、羽を閉じた時に繭のような形になるのが特徴的です。ソンティ、キールさんとテオさんだよ」


 ソンティはルーチェの肩に舞い降り、金色の瞳で二人を静かに見つめた。そして、ルーチェの両手の上には小さなふわふわ白い綿毛のようなフワムシ──アミティエが、コロコロと転がっている。


「そしてこっちがフワムシのアミティエ、ぷるるの友達です。フワムシはスライムと同じく、色んな進化ができる魔物だそうです。ソンティはそのフワムシの特殊進化個体なんですよ」


「ソンティもアミティエも、よろしく」

「よろしくお願いしますね」


「それで───」


 ルーチェは楽しそうに、二匹との出会いや特徴を語り始めた。キールとテオは、その笑顔を壊さないように、ただ優しく耳を傾けていた。



 


──このひとときが、ずっと続けばいい。


 そう思えるほど、平和で温かな日だった。

 

一応この話で、二章の前半部分が終了になります。

後半もどうぞお楽しみに……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ