表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
絆ノ幻想譚  作者: 花明 メル
第二章 広がる世界、潜む闇
94/148

第94話 再会の朝



 翌朝、天幕の外から聞こえる鎧の擦れる音に、ルーチェはゆっくりと目を覚ました。カチャカチャという金属音が、静かな朝の空気に柔らかく響いている。


 視線を向けると、エステルが鎧を身に着けている最中だった。すでに装備の一部を整え終えており、いつものように凛とした佇まいで朝の支度をしていた。


「おはよう、ルーチェ。起こしてしまったようだな」


「おはよう……。今、何時……?」


「七時だ。騎士たちが早起きだから、これでも少しゆっくりした方だな」


「そっかぁ……」


 ルーチェはまだ眠気の残る様子で、毛布の中からのそりと体を起こした。


「外では朝食の準備が進んでいる。ルーチェも着替えるといい」


「うん……」


 寝ぼけ眼のまま、ルーチェは着替えを済ませるが、リボンが少し曲がってしまっていた。


「ほら、ルーチェ。リボンが曲がっているぞ」


「うーん……」


 エステルは微笑みながら、テーブルの上に置かれていた櫛を手に取った。


「せっかくだ。今日は私が結んでやろう。だから、前を向いてくれ」


「……うん」


 ルーチェが素直に前を向くと、エステルはその背後に立ち、櫛でゆっくりと髪を梳き始めた。くしゅ、くしゅ、と櫛の音が天幕の中に優しく響く。


「こうしていると、なんだか懐かしい気持ちになる」


 エステルがぽつりと呟いた。


「昔、亡き母の代わりに──エミルの髪をこうやって整えたことがあるんだ」


「エミル様の……?」


 ルーチェが振り向きそうになったのを、エステルがそっと片手で制しながら続ける。


「あの頃は、母が亡くなって間もなくてな。幼いエミルも寂しそうだった。だから、せめて私はエミルの支えとなり、強くあろうと生きてきたんだ」


「エステルはすごいね……」


「いや、私はまだまだだ。けれど──だからこそ、誰かの支えになりたいと思うようになったのかもしれないな」


 結び終えたリボンを軽く整えると、エステルはルーチェの肩に手を添えた。


「よし、できた。似合っているぞ」


「ありがとうございます、エステルさん」


 ルーチェが微笑むと、エステルも同じように穏やかな笑みを返した。


「さあ、朝食にしよう」


「はい!」


 テントの外に出ると、荷物をまとめているライクの姿が見えた。


「あ、ライクさん。おはようございます!」


「……!」


 ライクは言葉こそないものの、ルーチェの姿を見てわずかに目を細めた。


(良かった……知らない人ばっかりで、ちょっと怖かったんだ……)


 ライクは心の声が漏れそうになるほど、安心した様子だった。


「ライクさん、ちゃんと眠れました?」


 ライクは小さく頷く。


「良かったです!」


 その時、少し離れた場所から大きな声が飛んできた。


「おーい、ルーチェー!」


 レオニスが片手を振りながら声をかけてくる。


「こっち来て手伝ってくれねぇかー?」


「はーい!」


 ルーチェは返事をして駆け寄る。


「昨日の今日で、疲れ果ててるやつらばっかりなんだ。ルーチェがニコニコしながらスープ配ってくれたら、みんな元気出るだろ?」


「ふふ、そういうの得意かもです」


「……あんた、そういうとこばっか気が回るよねぇ、レオニス」


 後ろからひょいっと現れたのは、サイドで束ねた赤髪にに鋭い目つきの女性騎士だった。


「あんたがルーチェだね? あたしはシェリル。機動遊撃隊の隊長さ。よろしくね」


「シェリルさん、よろしくお願いします!」


 ルーチェが礼儀正しく頭を下げると、シェリルは満足げに頷いた。


「……で? あんたたち、なんでもう並んでんの?」


 シェリルがふと横を見ると、鍋の前にはすでに列をなす騎士たちの姿。列はどんどん伸びていく。


「……はやっ。スープの匂い嗅いだだけで並ぶとは……」


 シェリルは呆れた声を上げた。


「腹減ってんでしょ。まあ、ルーチェ効果もあるんじゃないですかね?」


 レオニスがにやりと笑う。


「うっさいよ、レオニス。口ばっかり動かすんじゃないよ」


「へいへい、姐さん。じゃあ、配膳開始といきますか」


 ルーチェはお玉を手に取り、張り切ってスープをよそう。


「はい、どうぞ! 熱いので気をつけてくださいね!」


 騎士たちは次々にスープを受け取りながら、思わず顔をほころばせていくのだった。






 ルーチェたちは、パンと暖かいスープで朝の空腹を満たしていた。


「はぁ……お腹いっぱい」


 ルーチェがほっと一息ついたとき、エステルとアレンが歩いてくるのが見えた。


「エステル…様」


 思わず丁寧な口調になると、エステルはやれやれといった顔で肩をすくめた。


「別に、今さらかしこまる必要もないと思うのだがな。……まあいい」


 そして少し声を落として、ルーチェに向き直る。


「ルーチェ。これから私たちはもう少し訓練を行う。できれば君にも参加してほしいところだが……今回は、王都に戻ることを勧める」


「どうして、ですか……?」


「勘だ。だが、私の勘はそう外れたことがない。そろそろ“頃合い”ではないかと思ってな」


「頃合いって……何のですか?」


 ルーチェが首を傾げると、エステルはふっと笑って言葉を濁した。


「戻れば分かる。安心しろ、悪いことではないはずだ」


「…………」


(何で教えてくれないのかな……)


『きっと、何か良いことがあるのでは?』


 リヒトがそう声をかけるが、ルーチェは少し不満げに唇を尖らせる。それでも最後には小さく頷いた。


「……分かりました。じゃあ、行きますね」


「あぁ。気をつけて帰るのだぞ」


 ルーチェはシアの背に、ライクはノクスの背にそれぞれまたがると、王都へ向けて走り出す。


 ルーチェは後ろを振り返りながら、見えなくなるまで手を振り続けた。エステルもまた、彼女たちの姿が小さくなるまで手を振っていた。


 やがて魔物たちの足音も遠のいた頃、エステルはアレンの方へと顔を向けた。


「さて……今日の訓練に臨むとしよう」


「はい、団長」


 二人は揃って歩き出し、空気は再び騎士団の朝へと戻っていくのだった。


  


 

 

 王都の城壁が見えてきた。


 門の前に立つ見慣れた二人の姿を見つけたルーチェは、ぱっと顔を明るくして大きく手を振った。


「キールさーん! テオさーん!」


 大きな声に気づいたのか、二人も控えめに手を振り返してくれた。


 ルーチェはシアの背から慌てて降りると、駆け足で二人のもとへ向かう。


「キールさん、テオさん! 帰ってきてたんですね!」


「おかえり、ルーチェ」

「おかえりなさい、ルーチェさん」


「ただいま戻りました!」


 キールがやわらかく微笑みながら、少し覗き込むように問いかける。


「お怪我はしてませんか?」


「大丈夫です。キールさんとテオさんこそ、お怪我は?」


「私たちは平気ですよ。ルーチェさんのおまじないのおかげですね」

「そうそう、へーきへーき」


 ルーチェは二人の頬にキスしたときのことを思い出し、恥ずかしそうに頬を染めた。


(あ……そういえば、ほっぺにちゅーしたんだっけ……)


 そんなルーチェの反応を見て、テオがからかうように笑った。


「なに? おまじないを思い出して、恥ずかしくなっちゃった?」


「えっ、あ、その……」


「でも、本当にあれが効いたんだよ。ありがと、ルーチェ」


 優しい言葉に、ルーチェは少し照れながらも、にっこりと笑った。


 ふと、テオがルーチェの後ろに立つ人物へ視線を向ける。


「で? そっちの人が、一緒に依頼に行ってたっていう先輩さん?」


(っ……!? な、なんか怖い目で見られてる……!)


 視線を向けられたライクは、びくっと肩を震わせた。


「はい! Aランク冒険者のライク・ヘイゼル先輩です! 今はちょっと緊張してますけど、本当に強くて頼りになる方なんですよ!」


 ルーチェが弾むように紹介すると、ライクは顔を赤らめてマントの裾を掴み、少しうつむいた。


(いや、俺は別にそんな大したやつじゃ……)


「ふーん……」


 テオが意味ありげに目を細めるが、それ以上は何も言わず、ちらりとキールに視線を送った。


 キールも、少しだけ困ったように微笑む。


「さて……ルーチェさん、実は私たち──」


 テオが先に言葉を継ぐ。


「正式に冒険者として認められたんだ。だから、一番にルーチェに伝えたくて、ここで待ってたんだよね」


「えっ……本当ですか!? わぁ、おめでとうございます、キールさん、テオさん!」


「ありがとうございます。一応セシに書類を提出するのが残ってますけど、これでようやく夢を追う一歩を踏み出せます」


「やっとスタートラインって感じ。あー、長かった……」


「今度はお二人と冒険者として旅ができるなんて、すごく嬉しいです!」


 ルーチェは心からの笑顔を浮かべて言った。


 その隣で、ライクも小さくうなずきながら、彼女たちのやりとりを見守っていた。


 話が程々に途切れたタイミングで、ライクは、そっとルーチェの肩を、指先でちょんちょんと突いた。


「……?」


 振り返ると、彼は無言で一枚の紙を差し出してきた。


 ルーチェが受け取って広げると、丁寧な文字でこう書かれていた。


[ギルドへの報告は俺がしておくから、あとはゆっくり過ごして。今回はとても助かった。ありがとう、ルーチェさん]


 それを読んだルーチェは、ふっと笑みを浮かべた。


「こちらこそ、ありがとうございました、ライクさん!」


 ライクは控えめに微笑み返すと、少しだけ手を振り、そのまま静かに王都の門の中へと消えていった。


 ルーチェは手紙を大切にしまい、キールとテオのもとへ振り返る。


「……疲れてるでしょ? とりあえず、王都に入ろっか」


「叔父には、三人でパーティを組むことも先んじて伝えてあります。あとは装備と荷物の準備を整えれば、書類を提出して、晴れて正式に冒険者として旅立てますね」


 キールの穏やかな説明に、ルーチェは目を丸くした。


「もう、そこまでしてくださってたんですね……!」


「……でさ、ところでルーチェ」


 テオがふと思い出したように言う。


「さっき乗ってた魔物、見たことない子だったけど……もしかして新しい子?」


「はい!あの子は“シア”っていいます。新しく契約した子で……他にも“ソンティ”と“アミティエ”って子も仲間になったんですよ! 後でちゃんと紹介しますね!」


 ルーチェは目を輝かせながら、嬉しそうに言った。


 

ようやく二人が戻ってきましたね、良かったー( ^ω^ )

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ