表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
絆ノ幻想譚  作者: 花明 メル
第二章 広がる世界、潜む闇
86/151

第86話 黒と白の邂逅

今日はいつもと違って、とある人物の視点からスタートします。



 翌日、王都の冒険者ギルドにて。


 朝の賑わいの中、一際目を引く黒一色の装いの青年が、受付カウンターに静かに立っていた。ロングコート、手袋、ブーツ、ベルト──その全てが深い漆黒に染まっている。前髪は長く、ぼさりとした黒髪が目にかかるほどだ。


 彼の名はライク・ヘイゼル。

 王国屈指の実力を誇る、Aランク冒険者。

 そのあまりにも目立つ装いと、無駄を一切排した戦い方から付いた異名は──《黒鴉(くろからす)》。


 今しがた依頼書を一枚手に取り、カウンターで処理を済ませようとしていたそのときだった。


「おや、ライクくんじゃないか!」


「……ッ!?」


 その一声に、ライクの肩がピクリと跳ねた。無意識に背を丸め、振り向くと、通路の奥から軽やかな足取りで近づいてくる人物が一人。


 ギルドマスターのクリス。年齢を感じさせない若々しい雰囲気を持ち、王都のギルドで長年トップを任される切れ者だが──それよりも、彼の人懐っこすぎる性格と距離感のなさに、ライクはいつも困らされていた。


「おはよう、今日もいい天気だねぇ!」


 明るく手を振るクリスに、ライクは手続きを終えると小さく会釈し、そのまま通り過ぎようとする──


───だが。


「───ライク、くん?」


 ガシッ。


「っ……!?」


 クリスに肩を掴まれた。それはもうがっちりと。


「そういえば、君に“大事な話”があったんだ。僕の部屋に来てくれるよね…?」


 笑顔ながら、有無を言わせないプレッシャーがその場の空気を支配する。ライクは目を逸らし、諦めたようにうなずいた。


「良かったよ。来てくれなかったら僕、悲しくて死んじゃうところだったよ。じゃあ、早速行こうか」


 こうして、ライク・ヘイゼル──《黒鴉》は、今日もまた“不可抗力”によって、ギルドマスターの部屋へと連行されるのだった。





 部屋に入ると、ライクは柔らかめの椅子に座らされ、お茶まで出された。


 目の前にいるクリスは、何かを企んでいるとしか思えない、胡散臭い笑みを浮かべている。


(あぁぁ……断れなかった……すでに帰りたい……嫌な予感しかしない……)


「そういえば、ライクくんは今からヒルウナギの討伐に行くんだってね?」


(そう……ヒルウナギは気持ち悪い見た目で、討伐を嫌がる冒険者が多い……つまり、依頼でブッキングすることはない! 完璧に俺向けの仕事だ……ヌルヌルは嫌だけど……)


 ライクは無言でコクコクと頷く。


「……依頼をこなす“ついで”で構わないんだけどね、近くに大繁殖してるヌメロカエルも、少し討伐してきてくれないかい? 今年は例年より多いらしいんだよね」


(ま、まあ……それくらいなら別に……ついでなら……うん……)


 ライクはさらに頷いた。


「ありがとう、助かるよ」


(……何が“助かる”だよ。断れない圧かけといて…!)


「……何か言いたいことでも?」


 クリスが笑顔のまま、じわりと黒い圧を滲ませる。顔は笑っているのに、目が笑っていない。


 ビクッと肩を跳ねさせて、ライクは慌てて首を横に振った。


「そうかい、ならいいけど。ああ、忘れるところだった……それと、もう一つ、君に頼みがあってね?」


(今度は何……?)


 ライクはごくりと唾を飲む。


「君も知ってるだろう? 最近、魔物が活発化したり、凶暴化したり……そういう案件が増えてきている」


 少し間を置いて、クリスは続けた。


「僕はね、冒険者全体の“質”を高めたいと思っているんだよ」


(質……?)


 ライクが怪訝そうな顔を向けると、クリスは微笑みながら核心を突く。


「そこで僕は、後任育成の一環として、AランクやBランクの有望な冒険者に、少し下のランクの子を組ませて、より実戦的な経験を積ませたいと思っているんだ」


(もうそこまで言ったら答え言ってるようなもんじゃん……。やっぱり帰りたい。どうせ死にたくなるようなこと言われるに決まってる。無理、無理)


「そこで、Aランクの君に──Dランクの有望株と組んでほしいんだよね。もちろん、今回だけだよ?」


(いやいやいやいや、無理無理無理無理───!)


 ライクは口を噤んだまま、全力で首を横に振った。


「ほら、君もさ。今後、魔物の脅威が増せば、ソロじゃ立ち行かなくなるかもしれない。その練習と思ってさ。……もちろん、引き受けてくれたら追加報酬として、育成手当も出すよ?」


(そんなこと言われても、無理なもんは無理なんだってば!!)


 そのときだった。ノックの音がして、扉が少し開いた。


「ギルドマスター、ルーチェさんがいらっしゃってますが……」


「お、ちょうどいい所に。通して」


 扉が大きく開き、白いローブを着た女の子が部屋へと入ってきた。


(え、子供……? 女の子……?)


 ライクはポカンと目を見開く。


「おはよう、ルーチェくん」


「おはようございます、クリスさん」


(声、かっわ………)


 ライクは思わず目を見開いた。


「ライクくん、紹介するね。こちらはルーチェくん。セシの街から来た英雄少女──って言えば分かるかな?」


(え、この子が……? セシに出たデッドタートルを倒しちゃった系の強強女子……!? 俺より明らかに若いのに、見た感じコミュ力も高そう! ヤバすぎる!)


「ルーチェくん、こちらがライク・ヘイゼルくん。こう見えてAランク冒険者。普段はソロだけど、今回、君のカエル討伐に付き添ってくれる超強い先輩だよ。全然喋らないけど、悪い子ではないからね」


(ちょっと待って!? まだ一緒に行くなんて認めてないから!! ホント無理!!)


 ライクは首がちぎれそうなほど、必死に横に振っていた。


「あ、あの、クリスさん……ライクさん、全力で首を横に振っていますけど、無理強いは良くないんじゃ……」


「大丈夫だよ、どうせ一緒に行くんだし。それに彼にとっても、人と関わるいい機会になるから」


「そ、そうなんでしょうか……」


(勝手に進めんなよっ……!!)


 ライクは拳を膝の上に置いて抗議の意思を示す。


「私の方は全然問題ないんですが……ライクさんは、やっぱり嫌ですよね。大丈夫です、無理は良くないですから。私は私でカエル討伐に行くので、ライクさんはライクさんのペースで大丈夫ですよ」


 素直な気持ち100%でそう言われたライクは、内心でぐさりと来た。


(ま、まって、今、俺……子供に……しかも女の子に慰められた? 俺の方が年上だよね? どうすんの、これ……)


「そうか、ルーチェくん、一人で行くんだね。いやいや、いいんだよ。確かに、無理強いはよくないよねぇ。ごめんね、ライクくん」


 クリスは悪意100%のニヤニヤ顔で、うんうんと頷いてみせる。


(~~~~~っ、あああああああぁぁぁぁぁあああああ!!)


 ライクはバン! と机に手を叩きつけた。


「ライクくん?」


「…………………」


「もしかして、行ってくれる気になったとか?」


 コクリ、と無言で頷く。


「本当かい? 良かったね、ルーチェくん」


「あの……本当に、いいんですか?」


 ライクはブンブンと縦に首を振った。


「ありがとうございます、ライクさん。よろしくお願いします」


 ルーチェは、にこっと微笑んで手を差し出した。


「……っ!?」


(えっ!? 握手!? こ、これ……握ったら変態扱いされて処刑されたりしない……? バイ菌が移る〜とかってキモがられたりしない……?)


 ライクはカタカタ震えながら、恐る恐る手を伸ばし、そっとその手を握った。


(え、手……ちっちゃ……)


 その瞬間、ライクの顔は完全に宇宙猫だった──。


 ルーチェが依頼書を確認した。 

 

「場所はナガレノ村……ですか」


「そう、地図だとここだね。川の上流にある小さな村さ。ちょうど、ナガレノ村の馬車が来ていたはずだから、頼めば乗せてくれるかもね」


「分かりました。探してみますね」


「ライクくん、くれぐれもルーチェくんのこと、よろしくね」


 ライクは無言で頷いた。



***

 


 ルーチェは、帆の端に小さく《ナガレノ村》と書かれた馬車を発見した。


「あの……すみません」


「ん? 何か用かい? お嬢ちゃん」


 木箱を積み込んでいたガタイのいい男が、馬車から顔を覗かせた。


「えっと……ナガレノ村に向かう馬車ですよね?」


「おう、そうだが?」


「もしよろしければ、乗せてはもらえないでしょうか? 私と……こちらのライクさんは、ナガレノ村近郊の川でカエル討伐をするんです」


「おお、そりゃ本当か? 助かるぜ。今年は数が多いせいで、俺らも困っててよ……。これだけ積んじまったら出発する予定だったんだ。そしたら、空いてるとこに乗ってくれていい」


「ありがとうございます!」


ルーチェはぱっと花が咲いたように笑顔を見せた。


(……俺だけだったら絶対に無理だ……筆談じゃないと……。誰とでも話せる子って、貴重だなぁ……ありがたい……)


「よし、乗っていいぞ!」


 二人は馬車の荷の間に腰を下ろした。


 こうして、馬車はガタゴトと音を立てながら、ナガレノ村へと出発した。


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ