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絆ノ幻想譚  作者: 花明 メル
第二章 広がる世界、潜む闇
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第81話 解決と解体



 ルーチェはセシの街のギルドへと戻っていた。


 解体カウンターを覗くと、ラルクの姿が見えた。


「ラルクさん、こんにちは」


「お、ルーチェ! 久しぶりだなぁ……元気にしてたか?」


「はい。あの……土喰鬼(グロウルマウラー)の解体をお願いしたいんですが」


「……土喰鬼(グロウルマウラー)?」

 

 ルーチェの言葉にラルクが眉をひそめる。


「ルーチェ、確か───風豹(シルファング)を討伐しに行ったんじゃなかったか?」


「それが……色々ありまして」


 ルーチェは苦笑いを浮かべる。

 

「今回は、その……それ…一匹だけなんです」


「……そうか。ま、事情はあとで聞かせてもらうとして」


 ラルクは頷く。

 

「で、その肝心の獲物はどこに?」


「あの、《異空間収納(アイテムボックス)》の中にあるので、そこの台の上に出してもいいですか?」


 ルーチェが手のひらにぷるるを乗せて掲げると、それを見たラルクはカウンターの一角に手を伸ばした。


 蝶番で固定された板を持ち上げると、「カチリ」と留め具をかけて出入口を作る。人ひとりが通れるほどの隙間ができると、ラルクは軽く手招きをした。


「おう、ここから入れるぜ」


 ルーチェは「失礼します」と小さく頭を下げてカウンターの中へ入り、解体用の大きな作業台へと向かう。


「ぷるる、お願いね」


『はーい!』


 ぷるるがふくらみ、収納空間から大猿の死体を取り出す。

 重たそうな肉体が「どすん」と台の上に現れると、ラルクが目を丸くした。


「……でけぇな、こいつ。こりゃ少し時間かかるぞ」


「では、その間にザバランさんへ報告してきてもいいですか?」


「おう、その方が助かる。解体は任せとけ」


「ありがとうございます、ラルクさん」


 ルーチェは丁寧に頭を下げると、ギルドマスター室の方へと向かって歩き出した。


 

 


 ギルドマスターの部屋に入ると、ザバランが声をかけてきた。


「おかえり、ルーチェ。随分と早く終わったじゃねぇか」


 そのタイミングで、ニナがお茶を持ってきてくれる。


 彼女が部屋を出たのを確認すると、ルーチェは少しおずおずと口を開いた。


「えっとあの……ザバランさん」


「どうした? 何かあったのか?」


「その……ごめんなさい! 風豹(シルファング)、討伐できませんでした……!」


 ルーチェは勢いよく頭を下げた。


「お、おい、とりあえず頭を上げてくれ」


 奥の執務机にいたザバランは立ち上がり、ルーチェの向かいのソファに腰を下ろす。


「討伐できなかったっつーのは、他の奴らみてぇに追い返されてきたって意味か?」


 ルーチェは首を横に振った。


「それがその……えっと……」


 目を泳がせるルーチェの様子に、ザバランがハッとする。


「おい、ルーチェ。もしかして……もしかしちまったのか?」


 沈黙が流れる


「…………はい……」


 沈黙の果てに返事をすると、ザバランは軽く息吐いて、頭を掻いた。


「……いや、まあ別にいい。ルーチェが新しい仲間にしようって食いつくんじゃねぇかと思ったから、王都に依頼を回したんだしなぁ……。だが、そうかぁ……本当に仲間にしちまうとはなぁ……」


「えっと、その代わりになるかは分かりませんが、土喰鬼(グロウルマウラー)を一匹、討伐してきました」


 ルーチェのその言葉に、ザバランは怪訝そうな顔をした。


「なに? 土喰鬼(グロウルマウラー)?  あれはあの辺よりも、もっと山側にいるはずだが……」


「ですが、事実なんです。今ラルクさんに解体してもらっているところですから」


「そうか……分かった。……一応だが、風豹(シルファング)を見せちゃくれねぇか? 確認のためにな」


「分かりました───《召喚》シア!」


 魔法陣が現れ、そこから現れた風豹(シルファング)――シアはルーチェに擦り寄り、それからザバランを睨む。


『……随分と、頭の寒そうな男ね』


(こら、《意思疎通(フレンズチャンネル)》で聞かれてないからって、そういうこと言うのはダメだよ!)


『お嬢様も前に似たようなことをやっていた記憶が……』


 心の中でツッコミを入れるルーチェに、更にリヒトが乗っかってくる。


 そんな会話など露知らず、ザバランは真剣な顔で言った。


「本物だな……。呼び出させて悪かった、もういいぞ」


「はい。シア、ありがとね」


『ちょっと! もうお役御免なの? もう少し人間の街を見させてくれてもいいんじゃないの?』


 そう言いながら、シアはルーチェの足をペシペシと尻尾で叩いた。


「そうは言ってもなぁ……」


「どうした? ルーチェ」


 《意思疎通(フレンズチャンネル)》で話しているため、ザバランにはシアの言葉が聞こえない。


 そのため彼には、ルーチェが一人で話しているように見えている。


「えっと……シアがセシの街を見て回りたいようなんです」


「そうだなぁ……このギルドには、ソイツに負けたヤツらも出入りしているからなぁ……」


 ザバランは少し悩んだように頭をかいた。


 そのとき、ルーチェがふと思い出したように問いかけた。


「そういえばシア、どうしてあの場所で冒険者を追い返すようなことをしてたの?」


 ルーチェの問いに、シアは彼女の方へ向き直る。


『どうしてって、あの先はダンジョンって呼ばれてる変な仕掛けやらがある場所でしょ? それに少し前からあの辺の魔物達が変だったから、私程度に負ける軟弱者なら、私が無視してもすぐに死んでたわよ。むしろ、助けてくれたことに感謝して欲しいくらいだわ』


「あー……そういう……」


 ルーチェが苦笑いしている。


「それで、何だって?」


 ザバランが尋ねる。


「えっと、シア曰く、あの辺の魔物も凶暴化してて、シアは下手に死人が出ないように追い返してくれてたらしいです……」


「そうだったのか……」


 ザバランは納得したように腕を組む。


「私が提案するのもなんですが、ダンジョンに行ける冒険者のランクに制限をかけるべきではないでしょうか? 一定ランク以下の冒険者はダンジョンには行けない、みたいな」


「そうだな……ちょっと検討してみる。俺の一存でできることじゃねぇからなぁ。討伐はされなかったが、脅威が無くなったことに変わりはない。報酬は受け取ってくれ」


「えっ……いいんですか?」


「どの道やり遂げたことに変わりはねぇんだからな!」


「……ありがとうございます、なら受け取ります」


 ルーチェはぺこりと頭を下げた。その瞬間、ニナがタイミングよく報酬の入った袋を持って現れる。


「はい、ルーチェさん。お疲れさまでした」


「ありがとうございます、ニナさん」


 小さな袋だが、ずっしりとした重みが手に伝わる。 きっと、ただの討伐報酬以上のものが含まれている。


「でも、よかったな」


 ザバランが腕を組んでうなずく。


土喰鬼グロウルマウラーってのは討伐報酬も高いし、何より…」


───と、ルーチェと目を合わせる。


「お前さんが危険な目に遭わず、元気に帰ってきてくれたのが一番だ」


「ザバランさん…」


 その言葉が胸にじんと染みた。セシの街に帰ってきた、という実感がやっと湧いてきた気がする。


「さて、私はこれからラルクさんのところで、解体の様子を少し見てきます」


「ん、あんまり邪魔しねぇようにな」


「はい!」


 立ち上がったルーチェの後ろで、シアがふわりと毛を揺らす。


『ねぇ、主様。あたしもついて行っていいかしら? 解体って見たことないの』


「う、うん…。でもあんまりはしゃいじゃダメだよ?」


『ふふん、わかってるわよ』


 ザバランとニナにもう一度会釈をして、ルーチェとシアは解体場へ向かう。 その背中を見送りながら、ザバランがぽつりと呟いた。


「はぁ…やっぱり、ルーチェってのは…大物になるかもな」


 

 

 

 ルーチェとシアは仲良く並び、解体カウンター越しに、じっと解体の様子を見守っていた。


 ラルクは迷いなく解体用の剣を魔物の体に突き立て、皮と肉を手際よく切り分けていく。その表情は真剣そのものだ。


『あの手際、悪くないわね』

「そりゃあ、解体のプロだもん」


 ラルクは肉の中から、オレンジ色に光る魔石を取り出した。

(あれがあのお猿さんの魔石……結構大きいんだなぁ。それにしても、やっぱり解体って……ちょっとグロいなぁ)


「私には、解体は当分無理かもなぁ……」


「無理にやる必要もねぇだろ」


 ルーチェの独り言を聞いていたラルクは手袋を外し、カウンター越しにルーチェの頭をくしゃりと撫でる。


「さっきみたいにスライムの中に入れて、鮮度を保ったまま持って来れるんなら、基本的に高値で売れると思うぞ」


 そう言って、ラルクはお金の入った袋をカウンターに置いた。


「これ、買取額から解体費用を引いた残りの金額な」


「ありがとうございます」


「素材は全部こっちで引き取っていいのか?」


「はい、大丈夫です」


「そうか。なら、あとは俺に任せとけ。素材はしっかり活用させてもらう」


「お願いします」


 ルーチェは丁寧に一礼すると、袋を手に取り、ギルドを後にした。


 

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