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絆ノ幻想譚  作者: 花明 メル
第二章 広がる世界、潜む闇
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第70話 待つと決めた日



 王城の門前。


「ルーチェ様程の強さがあれば、私など不要かとは思いますが……護衛として、せめて傍に控えさせていただけませんか?」


 僅かに後ろを歩くピーターが、申し訳なさそうに言う。


「不要だなんて、そんな……」


 ルーチェは微笑んで首を振った。


「ここ数日、私が穏やかに過ごせていたのは、ピーターさんとティーナさんのおかげですよ」


「……ありがとうございます。そのお言葉だけで、報われる思いです」


 深々と頭を下げるピーターの顔に、どこか安堵の色が浮かんでいた。



 

 ギルドへと着くと、ピーターは扉の横に立った。

 

「では、私はこちらで待機しております。お帰りの際は、お声がけください」


「あっ、あの、疲れたらどこかで休んでくださいね!? ずっと立ってなくてもいいんですからねっ!?」


 ルーチェは慌てたように言い添えた。


 それもそのはず───ここ数日、書庫へ通っていた彼女は、毎回入ってから数時間後に出てきたにもかかわらず、その場に直立したままのピーターに驚かされていたのだ。


 ピーターは目を細めて微笑むと、静かに一礼した。


「今の私は、貴女様にお仕えする身ですから」


 その言葉は、儀礼的でありながら、どこか静かな温かさを宿していた。ルーチェは小さく頷くと、心なしか背筋を正してギルドの扉をくぐった。

 

 ルーチェは、そのままギルドマスターの部屋へと案内された。そこには既にキールとテオの姿があった。


「やあ、ルーチェ君。こんにちは」


 クリスが片手を軽く上げて挨拶する。


「こんにちは、クリスさん」


「やっほー、ルーチェ。王城で迷惑かけてない?」


「かけてません! 毎日書庫に通って本を読んで…って、大人しくしてますよ、テオさん!」


 ルーチェは、ぷりぷりしながらテオに抗議した。


「こんにちは、ルーチェさん。お元気そうで何よりです」


「キールさんも…!」


 一通りの挨拶が終わると、クリスが椅子から立ち上がった。


「じゃあ、僕は席を外してるから。ごゆっくり」


 そう言って、クリスは部屋を後にする。

 ルーチェは少し不思議そうに首を傾げた。


「あの、呼び出したのってクリスさんじゃなくて、お二人なんですか?」


 ふたりは目を合わせ、しばらくの沈黙の後、キールがゆっくりとルーチェに向き直る。


「……実は、ルーチェさんに伝えなければならないことがあります」


 キールは言いづらそうに口を開いた。


「…なんですか?」


「私とテオは、しばらく王都を離れることになりました」


「王都を離れて、ちょっと砂漠の街に行かないといけなくなってね」


 ルーチェは目を丸くした。


「ど、どうしてですか……?」


 キールは静かに言葉を選びながら答える。


「実は、私の夢を叶えるためなんです」


「夢……?」


「私は、いつか冒険者になりたいと願っていました。商家であり、王家にも近しい公爵家に生まれ、幼い頃から貴族として、また商人としての教養や知識を叩き込まれてきました。初めのうちは、それが当然だと思っていたのです。でも、叔父上に出会い、その冒険譚を聞いたとき、初めて自分の人生に疑問を持ちました」


 キールは淡々と、しかしどこか誇らしげに続ける。


「そしていつしか、商人ではなく冒険者になりたいと強く願うようになった。15歳の成人の際に父と母に相談したところ、父は猛反対しましたが、母は応援してくれました。弟も『自分が家を継ぐ』と言ってくれて……」


「でも、それならどうして騎士になったんですか?」


 ルーチェの問いに、キールは頷いた。


「それも父からの条件の一つでした。父の友であるノヴァール伯爵のもとで、セシの街の騎士団に所属し、一定の期間勤め上げるか、それに匹敵する功績を挙げること……それが冒険者になるための条件だったのです」


 そこまで聞いて、テオが口を開く。


「それでさ、ルーチェと一緒にゴブリンキングやらデッドタートルやらと戦ったじゃん? やっと認めてもらえるかもってちょっと期待してたんだけど……」


「けれど、トドメを刺したのがルーチェさんだったことで、“決定的な証明”にはならないのではないか……と父は判断しました。だからこそ、最後の条件として、私たちは砂漠の街近くに現れる大型魔獣の討伐を任されたのです」


「……そう、だったんですね……」


 ルーチェの表情に、不安が色濃く浮かぶ。


「もしかして、俺たちがやられそうで心配?」


 テオが意地悪そうに微笑みながら言うと、ルーチェは小さく首を横に振った。


「お二人の実力は、私もよくわかっています。でも……無事に帰ってこられる保証はどこにもないから……」


「分かってるなら、信じててよ、ルーチェ」


 テオがルーチェの手を優しく握る。


(信じる……、私が二人を……)


 以前ゴブリンキングと戦った時の光景が思い浮かぶ。


(あの時、二人が私を信じてくれたように……)


「ルーチェさん、私たちは必ずやり遂げて、無事に帰ってきます。だから、その時まで……ここで待っていてくださいませんか?」


「待つ……?」


 キールは力強く頷いた。


「私たちは……これからもあなたと旅がしたい。ルーチェさんと、テオと、私の三人で。唐突な話かもしれませんが……もちろん、ルーチェさんの意思を尊重します」


「……わっ、私は三人がいいです。むしろ、三人じゃなきゃ嫌です!」


 ルーチェの強い言葉に、ふたりは優しく微笑んだ。


「最初はさ、キールと二人旅でもいいかなって思ってたんだ。男だけでわちゃわちゃするのも気楽そうだし? でも、ルーチェに出会ってからはさ……なんか、ほっとけない妹ができた気分っていうか」


「貴女が望んでくれるなら、三人で旅を続けたい。そう、テオとよく話していたんです。だから、承諾してもらえて……本当に嬉しいです」


「ならサクッと倒してくるからさ、ちゃんといい子で待っててね」


「……はい!」


 ルーチェは笑顔で頷いた。三人の旅は、またきっと続いていく。そんな確信が、胸に宿っていた。


 

PV2222のゾロ目が見れたら活動報告に、にゃーん(笑)とか意味の無いことを書こうとしていた作者です、どうも。

夜とか寒くなってきたので、暖かくして読んでくださいね。

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