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絆ノ幻想譚  作者: 花明 メル
第一章 光と絆のはじまり
35/70

第35話 大切な友達


 

「分かりました。少し待ってください…」


 ルーチェはそう言うと立ち上がり、何もない床に手をかざした。キールとテオは、その後ろからそっと覗き見る。


「《召喚(サモン)》───おいで、ぷるる」


 光る魔法陣が床に浮かび上がる。次の瞬間、そこから水色のスライムが飛び出し、ぴょんと跳ねてルーチェの頭の上に着地した。ぷるるは、まるで笑うように表情を浮かべる。


「顔のあるスライムなんて初めて見た…」

 

 テオが目を丸くする。


「契約したら、顔がついたんですよね。どうしてなのかはよく分からないんですけど…、多分…契約の恩恵とかそういう感じので……」


 ルーチェがそういうと、テオがぷるるを突っついた。


「はえ〜、不思議なもんだね…」


 そしてルーチェは、ふと足元の影に目を落とした。


「──ノクスもおいで」


 ルーチェの影に耳が生える。そのまま影が躍るように跳ね上がると、狼の姿を形作った。


影狼(シャドウウルフ)!?」

 

 テオの声がわずかに震える。


「まさか、影狼(シャドウウルフ)とも契約していたなんて…」

 

 驚きを隠せない様子でキールが言う。テオは屈んでノクスと目を合わせた。


「へぇ、俺の《気配察知》には引っかからなかったんだけど…凄いね、お前」

 

 テオがノクスにそう言うと、ノクスは誇らしげな様子で「ワフ!」と鳴いた。


「そうなんです、かなり気配を抑えることができるみたいで…」


(そういえば……リヒトのことは、まだ内緒にしてても大丈夫だよね?)


 ルーチェは心の中でリヒトに問いかける。


『ええ、お嬢様。私は仮にも精霊ですから──精霊との契約が知れ渡れば、今以上に危険な目に遭う可能性もございます。いずれ、お嬢様の力が高まれば、私も姿を見せられるようになりますので、その時でよろしいかと』


(……うん、じゃあ今はこれだけにしておこう)


 ルーチェは二人に向き直る。


「───この子たちが、私の友達です!」


 ぷるるは、ぷるぷると弾んで嬉しそうに。

 ノクスは、その足元に座って尻尾を振っている。


 テオもキールも、しばらく言葉を失っていた。


 そしてルーチェは、契約の効果や今できることなどを二人に軽く説明した。

 

「つまり、今のルーチェはこの二匹の使役だけじゃなくて、ぷるるとノクスの力を借りて、自分の魔法として使えるってこと?」

 

 テオが確認するように尋ねる。


「そうみたいです…」

 

 ルーチェがうなずいた。


「なるほど、それで俺らに打ち明けたって訳ね」

 

 テオが腕を組んで納得したように言う。


「確かに、現時点で三属性となると、かなり目立つことになりますね」

 

 キールは冷静に分析しながら続ける。


「……なので、今後の身の振り方というか…どういう方針で行くかを、お二人と相談したくて…」

 

 ルーチェの声音には、不安と決意が混じっていた。


「なるほど、分かりました」

 

 キールが真剣な顔で頷いた。


「ま、しょうがないから付き合ってあげるよ」

 

 テオがいつもの調子で軽く言って、笑みを浮かべる。


「…ありがとうございます…!」

 

 ルーチェの表情が少しだけ和らいだ。


「とりあえず人前で二匹を出さないのは大前提として、三属性を全部大っぴらにするのもやめた方がいいと思う」

 

 テオが真剣な表情で言う。


「確かに。基本的に一人につき一属性。二属性を操る者ですら少なく、それ以上の属性を操れる人間は極小数ですから。私達といる時は多少使っても問題ないと思いますが、誰かに見られているかもしれないという警戒は必要ですね」

 

 キールも同意しながら続けた。


「なるほど…」

 

 ルーチェは小さくうなずく。心のどこかで覚悟はしていたものの、現実にその重みを感じているようだった。


「それとルーチェさん。すぐにとは言いませんが、近いうちに、国王やギルドマスター等にはこのことを伝えるべきかと思います」

 

 キールの声は穏やかだが、芯のある提言だった。


「えっ、そんな…偉い人たちに……」

 

 ルーチェの肩がピクリと震える。


「下手に隠して別の形で知られたら、ややこしいことになるからね。信頼できる相手にだけでも、情報を開示しておいた方がいいと思うよ」

 

 テオも補足する。


「は、はい…努力してみます…」

 

 ルーチェは小さく答え、ぷるるとノクスを見上げる。彼らは静かに寄り添っていた。

 

「まあでも急がなくていいと思うよ。あくまで、その内ね?」

 

 テオが穏やかな声で言ったその時、不意に彼の視線が扉の方へ向けられる。同時に、ノクスは静かに影へと溶け、ぷるるはぴょんと跳ねてルーチェの腕の中に降りてきた。


「ルーチェさん、ぷるるを戻せますか?」

 

 キールが小声で促す。


「あ、はい……ぷるる、戻って」

 

 ルーチェが囁くと、ぷるるはふわりと光になって、彼女の胸元へ吸い込まれるように消えた。


──その瞬間、コンコンと控えめなノックが響く。


「はい、どうぞ」

 

 キールが答えると、扉が開き、そこには見知った顔。

 副団長のバークスが現れた。


「すみません、キールくん、テオくんも。ルーチェさんもこんにちは」

 

「バークスさん、こんにちは」


 ルーチェは軽く会釈をした。

 

「バークス副団長、どうされました?」


 キールが尋ねた。


「ルーチェさん宛です、ギルドマスターからの呼び出しですね。君たち二人も来ていいと書いてありますから、今から三人で行くといいでしょう。それでは、私はこれで」


 彼は簡潔に用件を告げると、丁寧に一礼し、扉を閉めて去っていった。


 しばし静けさが落ちる部屋の中、テオが言う。


「…話せるかどうかは置いといて、とりあえずあっちの話を聞きに行こうか、ルーチェ」

 

「…はい」

 

「ルーチェさん。仮に追及されたとしても、私達は味方です。お忘れなく」

 

 キールが優しく言い添える。


「…はい!」

 

 ルーチェの声は、今度ははっきりとした強さを帯びていた。


 

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