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絆ノ幻想譚  作者: 花明 メル
第一章 光と絆のはじまり
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第31話 束の間の街歩き


 

「実はその、先日の合同討伐で……ゴブリンキングに掴まれた時に、皮鎧のここの留め具が歪んでしまってて……新しい防具を買おうかと思ってるんですよね」

 

 ルーチェは革鎧を抱えて、申し訳なさそうに言った。


「なるほど……それは必要ですね」

 

 キールがうなずく。


「そういえば、騎士さんって防具はやっぱり支給された鎧なんですか?」


「そうだよ。まあ、鎧はね」

 

 テオが腕を組んで頷いた後、ふっと笑みを浮かべた。


「……武器は違うんですか?」


「街の警備してるおっさんたちは支給品の剣とか槍を使ってるけど、俺とキール、それに団長と副団長は違うな。個人持ちだよ」


「そういえば副団長さんって、私、会ったことないかもです……」


「そりゃあ当然だよ。あの人は常に詰所の奥で、書類整理とか国への報告書とか書く仕事してるから。外に出るような任務にはほとんど出てこないし」


「エドガー団長って、複雑な書類仕事苦手だもんね……」


 テオの言葉にキールが苦笑する。


「団長は読み書きより剣の方が得意だから。事務仕事はぜーんぶバークス副団長に丸投げしてるの」

 

「そうだったんですね……」


***


 ルーチェたちが防具店に到着すると、店先で店主と話し込んでいる男性の姿があった。

 それに反応したのは、キールだった。


「ん、あれ……バークス副団長?」


 その名に振り返ったのは、眼鏡をかけた温和そうな中年の男性だった。


「おや、キールくん、テオくんも一緒でしたか。ということは、そちらが団長が言っていた護衛対象のルーチェさんですね? 二人よりも若い方だとは聞いていましたが……これはまた、ずいぶん小さなお嬢さんだ」


 そう言ってバークスは、ルーチェと目線を合わせるように中腰になった。


「初めまして。私はバークス。セシ騎士団の副団長を務めています。とはいえ、あまりお会いする機会もないかもしれませんが……覚えておいていただけたら嬉しいです」


「初めまして、ルーチェと申します」

 

 ルーチェは少し緊張した面持ちで手を差し出し、バークスと握手を交わす。


「ところで副団長、こんなとこで何してるの?」

 

 テオの何気ない一言に、バークスの笑顔がピキリと凍りついた。


「……君たちが、合同討伐でベッコベコのボッコボコにして使い物にならなくなった防具の、再発注に来ていたところですよ」

 

 声は穏やかだったが、その目はまったく笑っていなかった。

 

「まあ、気にしなくていいですよ。形あるものは壊れるものですからね、ははははは──」


「壊れちゃった……」

 

 ぽつりと呟いたルーチェの口を、慌てたテオが塞ぐ。


「こら! そういうこと言っちゃいけません!」


「お手数おかけしました、副団長」

 

 キールが頭を下げると、バークスの怒気がすっと引いていった。


「……ただね?」


「戻った」

「こら」


 思わず呟いたルーチェに、テオが注意する。


「今の重さのままで、もう少し耐久性を上げられないかって、店主と相談していたんですよ」


「それって……魔物が凶暴化してるからですか?」

 

 ルーチェが問いかけると、バークスは静かに頷いた。


「ええ。この先、どれだけ強い魔物が街の近くに現れるか分かりませんからね。警戒するに越したことはないと思うのですよ」


 そう言って、眼鏡をスチャッと指で持ち上げたタイミングで、隣の店主が口を挟んだ。


「副団長の頼みとあっちゃあ、断れねぇってことでな。とりあえず、耐久性を上げた試作品を作ってみるって話になったとこよ」


「そうだったんですね……」


 すると店主がふとルーチェに目を向けた。


「そういや嬢ちゃん、つい数日前に防具買ったばっかりだったよな。今日はどうした?」


「その……討伐隊の任務の時に、魔物の攻撃を受けて、ここが壊れてしまって」

 

 ルーチェが留め具の部分を指差すと、店主は顔をしかめて覗き込む。


「おー、歪んじまってるな。こりゃ買い直したほうがいいな。せっかくだ、これより丈夫で軽いのが何着かある。着けてみな、長さが合わなきゃ調整してやる」


「ありがとうございます!」

 

 いくつか試着してみたが、どれも似たように感じてしまい、なかなか決められなかった。鑑定のスキルで性能を確認しても、耐久性はどれも似たり寄ったり。まさにどんぐりの背比べだった。


「うーん……どれがいいんだろう……」


 悩むルーチェの横から、テオが顔を覗き込んできた。


「やっぱ軽さも大事だけど、耐久性はもっと考えたほうがいいよね」


 反対側からはキールも覗き込んでくる。二人に挟まれて、ルーチェは少し照れたように肩をすくめた。


「ルーチェさんは冒険者ですし、私たち以上に色々な魔物と戦う機会がありますからね」


「……じゃあ、これにします」


 ルーチェが選んだのは、一番バランスの取れた鎧だった。耐久性と軽さの兼ね合いが良く、何より着てみた中で一番動きやすかったように感じたからだ。


「銀貨4枚だな。ちょうどだ。毎度あり」


 店主の声に見送られながら、ルーチェたちはバークスと別れ、街中を歩き始めた。


「他にどこか寄るところはありますか?」


「えっと……魔道具屋に行こうかと。ローブや杖は討伐隊に参加する前に新調したんですけど、他の……例えば、魔力強化や魔法防御のアイテムは持っていなくて……」


「なくても戦えてた感じはしたけど?」


「はい。でも、あって困るものではないですし。それにギルドから討伐隊の報酬ももらいましたし……」


「よし、それならちゃっちゃと済ませてお昼にしよう。今日はどこかお店に入っちゃう?」


「それ、いいかも。ルーチェさん、この街に来たばかりでしたよね? だとしたら外食のお店は、あまり行ってないのでは?」


「はい……まだ行ったことなくて。行ってみたいです」


「よーし、それじゃあ早いとこ用事を終わらせて昼にしよう! ってことで───魔道具店へ、れっつごー!」


 

***

 

  

 魔道具店の看板が見え始める頃には、道すがらの露店から、香ばしい焼き菓子の匂いや、湯気を立てるシチューの香りが漂ってきた。

 その匂いに誘われるように、ルーチェのお腹が小さく鳴る。


「お昼、楽しみにしてていいから」

 

 テオが笑って言うと、ルーチェは恥ずかしそうにうなずいた。


 魔道具店の扉を開けると、カウンターにいた店主らしき老婆が顔を上げ、ルーチェたちに目を留めた。


「いらっしゃい。……おや? この間のお嬢ちゃんじゃないか。今日は何か探し物かい?」


「はい。魔法防御や魔力強化に関する魔道具を探してるんですけど……」


「ほうほう。なら、こっちにおいで。最近人気なのはこの辺だよ」


 老婆に案内されて並んでいたのは、指輪型やブローチ型、ベルトに装着できるタイプなど、実に様々な魔道具だった。

 ルーチェは一つひとつに鑑定を使いながら、慎重に見定めていく。


「どう? 使えそうなのあった?」

 

 テオがルーチェの手元を覗き込む。


(こっちは微弱な魔法防御力が付与されてて……こっちは魔法攻撃力の補正か……うーん)


「防御と攻撃、どっちを強化したほうがいいのかな……って」

 

 ルーチェの呟きに、テオが返す。


「前衛が守るから、攻撃寄りでもいい気はするけど。キールはどう思う?」


「ルーチェさんはサポートや回復もされますし、バランスの取れたものがいいと思います」


「んー……じゃあ、これにします」

 

 ルーチェが選んだのは、淡い青とピンクの宝石が埋め込まれた、シンプルな銀のブレスレットだった。

 微弱ながらも魔力強化と魔法防御の両方が付与されている。


「銀貨6枚になるよ。ありがとね」

 

 老婆は穏やかな笑みを浮かべながら、丁寧に布袋へ入れて渡してくれた。


 買い物を終えた三人は、店を後にして街路へ戻る。


「じゃあ、目的も果たしたし、お昼食べに行こっか」

 

 テオの言葉に、ルーチェが顔を上げて問いかける。


「どこのお店に行くんですか?」


 それに答えたのはキールだった。


「以前からテオと話していて……最近セシで人気の《グラシアーナ》というお店に行こうかと。近くのリーベル村から仕入れたトマトを使った料理が美味しいって評判なんですよ」


「へぇ……!」


(確かに、前に村で食べたトマト煮もすごく美味しかったもんなぁ……!)


 ルーチェは心の中でわくわくと期待を膨らませる。


「じゃあ、行きましょう。ルーチェさん」

 

「はい!」


 

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