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絆ノ幻想譚  作者: 花明 メル
第一章 光と絆のはじまり
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第20話 合同討伐隊



 当日の朝。

 セシの街の東門前には、冒険者や騎士たちが続々と集まり始めていた。討伐隊の依頼を受けて集まった面々は、どこか浮き足立ちながらも、引き締まった表情を見せている。


 そんな中、ルーチェが集合場所に現れると、真っ先に手を振ってくる人物がいた。


「おはよう、ルーチェ。準備はバッチリか?」


 セシ騎士団の団長、エドガーだ。朝から元気そうな笑顔を見せている。


「おはようございます、エドガーさん。はい……一応、大丈夫だと思いますけど……」


 ルーチェは荷物を抱えながら、少し不安げに視線を逸らす。


「野営って、したことがなくて……ちゃんとできるか心配で」


「心配ないさ。うちの若手には、旅慣れてる奴もいるからな。困ったら遠慮なくこき使ってやれ」


「ちょっと団長、その言い方やめてってば」


 軽く呆れたような声が割り込んできた。エドガーの後ろから現れたのは、どこかで見たことのある青年───


「……あれ? 雑貨屋のお兄さん?」


 ルーチェが思わず口にすると、青年は少し気まずそうに頭をかく。


「……あー、うん。なんとなくそんな気はしてた。やっぱり君が、例の“冒険者の女の子”だったんだね」


「なんだテオ、知り合いだったのか?」


 エドガーが首を傾げる。


「知り合いっていうか……まあ、顔見知り?」


 肩をすくめるテオ。その後ろから、もう一人の青年が歩いてきた。


「お待たせしました」


 爽やかな声とともに現れたのは、柔らかな金髪に、澄んだ緑の瞳を持つ騎士。きちんと整えられた装備に礼儀正しい仕草───まるで絵本の中から抜け出してきた王子様のようで。


(……王子様みたい……かっこいい……)


 思わず頬が熱くなるのを、ルーチェはなんとかごまかした。


「キール、テオ。この嬢ちゃんが今回、お前らと組むルーチェだ。お前らより年下なんだから、ちゃんと支えてやれよ」


「初めまして、ルーチェさん。私はセシ騎士団のキールと申します。槍と風の魔法を扱います。よろしくお願いします」


 キールはまっすぐにルーチェを見て、落ち着いた口調で挨拶をする。

 その隣で、テオがひょいと手を挙げた。


「ま、顔はもう知ってるし軽くでいいでしょ。俺はテオ、キールの同期で水流剣を使うの。よろしく、ルーチェ」


(水流剣……?)


「あっ……えっと、ルーチェと申します。光の魔法を使えます。よろしくお願いします!」


「へぇ、光魔法? それって結構レアじゃん。期待してるよ」


 テオはにやりと笑う。その調子の良さに、ルーチェはちょっとだけ気圧されながらも、返事を返そうとした───その時。


「お前たち、全員揃ってるな!」


 ひときわ大きな声が響き渡る。

 

 その場の空気が一変し、集まっていた冒険者たちと騎士たちが一斉に振り返る。声の主は、ルーチェ達へ討伐の依頼をしたギルドマスターのザバランだった。


 ザバランの隣に立っていた男が、重みのある声で口を開いた。


「私はセルジオ・ノヴァール。このノヴァール伯爵領の領主だ。今回は私の呼びかけに応じ、この合同討伐隊に参加してくれて感謝する」


 静まり返る空気の中、彼の言葉が一人一人に届く。


「今回の任務では、大量のゴブリンとの戦闘が予想されている。だが、我々のことは気にしなくていい。あくまで自分たちのパーティのことを最優先して行動してほしい」


 少し間を置き、セルジオは続ける。


「それと、既に伝えられていると思うが、今回の優先目標はあくまで“ゴブリンの掃討”だ。ただし、何か妙だと感じたことがあれば、遠慮なく報告してほしい。それが魔物の異常な増殖の原因を突き止める手がかりになるかもしれないからだ」


 視線を巡らせ、彼はゆっくりと最後の言葉を口にする。


「……諸君の健闘を祈る」



***



 ザバランを筆頭に、冒険者たちの一団が静かに歩を進めていく。その後を伯爵軍が続き、ルーチェたちのパーティはちょうどその中間に位置していた。


(ちょっと緊張する……)


 周囲の緊張感に飲まれそうになりながら、ルーチェが小さく息を呑む。すると、すぐ隣で歩いていたテオがルーチェに声をかけてきた。


「緊張してんの?」


「少しだけ……。こうやって、大人数で依頼をこなすのって初めてで……」


「ま、そんなに気負わなくていいよ。俺とキールが前に出てゴブリンぶっ倒すからさ。ルーチェは打ち漏らしの対処とか、サポートをメインでお願い。慣れてきて大丈夫そうなら、前に出てもらうこともあるかもだけど、とりあえずは後衛で、サポートすること意識してくれればオーケーって感じ」


 そう言って、テオは気楽な調子で肩をすくめる。


「大丈夫ですよ、私たちが守りますから。落ち着いて臨みましょう」


 キールもまた優しい笑みでルーチェを励ました。


「はい……その、頑張ります……!」


 ルーチェは胸の前で小さく拳を握り、二人に応えるように答えた。



***



 森に入る直前、冒険者たちは拠点となる場所を確保し、ゴブリンと戦う前の最終確認の時間を設けていた。


「あの、テオさん…」


「ん?」


 傍に来たルーチェを、テオは見下ろした。


「さっき言ってた“水流剣”っていうのを、具体的にどういうものなのか…聞いても大丈夫ですか? 気になってしまって……」


 テオはキョトンとしてから、口を開いた。

 

「んー、まあいいけど…。簡単に言えば、水に変換した魔力を剣に纏わせる技なんだけど…。あー……んー……キール任せた、複雑な説明はお前の専売特許じゃん?」


 テオが、少し離れた場所でテントを立てていたキールに声をかけた。


「え、僕が…? それただテオが答えるの面倒くさいだけじゃないの?」


 キールの疑惑の視線に、テオは平然と返す。 


「そーとも言うかも」


「……まあいいけどさ」 


 キールはテオの様子にため息をつきながらも、ルーチェの方へ歩み寄った

 

「ルーチェさん、代わりに説明させていただきます。テオの《水流剣》は分類上は魔法剣、さらに遡れば“付与魔法”の一種です。普通の魔法剣士は魔力を全身や剣に均等に流して、攻防や移動の全部を底上げします。

でもテオは違う。魔力のほとんどを剣にだけ集中させて、その刃に属性を付与するんです。これで斬撃そのものに威力と特殊効果を持たせられる」


「俺の師匠曰く、『人間のくせに獣人っぽい戦い方』なんだとさ」


「……獣人、っぽい?」


「獣人の戦い方は、手足の一部にだけ魔力を纏わせる“局所強化”が多いんです。魔力量が少ない種族にとって、一点集中は効率的ですから。テオも同じで、魔力の無駄を極力省いた結果、こういう戦い方になったんでしょうね」


「つまり俺は省エネ型ってこと。キールや他の連中と違って、俺は生まれつき魔力が少ないんだよね。ま、持って生まれたモンだからそこは仕方ないって割り切って、どうやったら効率よく戦えるか模索した結果……って感じ?」

 

「なるほど、そうだったんですね。ちゃんと理解できました。ありがとうございます、キールさん、テオさん!」


「よし、じゃあ実戦でお披露目ってことで。期待してて」


 キールが二人を見て、口を開いた。


「二人とも。……とりあえず、テオが言っていたようにルーチェさんはサポートを優先してお願いします。ただし無理はなさらずに。何かあればすぐに言ってくださいね。あ、テオはいつも通りね」


「へーい」

「...は、はい!」


 キールの言葉に、テオは適当に、ルーチェは力強く答えた。

 するとテオがニヤリと笑いながら話しかけてきた。


「ルーチェ、いいこと教えようか。群れ相手の戦いでは、弱そうなやつから倒すとか、パーティのいる場所に先に来るやつを優先的に片付けるのが効果的なの。後は実際にやりながら慣れてけばいいよ」


「て、適当すぎませんか!?」


 ルーチェが驚くと、キールが苦笑しながらフォローした。


「そんな雑な説明じゃなくて、もう少し丁寧に教えてあげようよ……すみません、ルーチェさん。テオは面倒くさがりなんです」


「いくらここで理屈を詰め込んでも、やってみなきゃわかんないじゃん?  さあ、そろそろ森の中に入るみたいだよ」


 そう言うと、テオが軽く背を向ける。


(リヒト……私、大丈夫かな……)


『大丈夫でございますよ。お嬢様はブラッディホーンベアとも渡り合ったのですから。ゴブリン如きに遅れは取らないでしょう』


 リヒトの言葉に、ルーチェは少し深呼吸をした。


(そうかな……、でもその……頑張るね)


 そうして、ルーチェたちは深い木立の中へと足を踏み入れた。

  

 

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