第19話 雑貨屋での出会い
ハルクの店を後にしたルーチェは、雑貨屋に来ていた。
そこは大通りに面した、そこそこ大きなお店で、生活必需品から旅に役立つアイテム、さらには野営グッズまで、ずらりと棚に並んでいる。
(なんでもあるんだ……すごい品揃え……)
「テントって、どれがいいのかな……」
『どうやらかなり種類があるようですね……』
棚を眺めながらつぶやいたそのとき、不意に声がかかった。
「何? アンタ、テント探してるの?」
「ぴゃっ!?」
驚いて振り向くと、そこには濃紺色の髪をした青年が立っていた。エプロンをつけているし、どうやら店員のようだ。
(かっこいい人に話しかけられて、ちょっとビックリしちゃった……)
「えっと、初めて野営するので……どれがいいか、よく分からなくて」
「ふーん...。見たところパーティ……って感じでもなさそうだし、一人用ならこの辺が手頃で、作りもしっかりしてるよ」
青年は慣れた手つきで棚の中からいくつかのテントを指し示すと、そのまま寝袋の棚へと移動する。
「寝袋は……春先とはいえ、夜は冷えるからね。中が温かいやつ、これとかがおすすめかな」
「わあ、ありがとうございます」
「あと、夜は暗いからランタン。それと携帯食とか保存食、水袋も必要だよね?」
「は、はい、必要です!」
「水袋はこれで……飯は、そうだな。この店じゃなくて、肉屋で干し肉を、パン屋で携帯向きのパンを買ったほうがいいんじゃない? 携帯食───若い冒険者向けの安いやつって、正直クソまずいからやめといた方がいいよ」
「そ、そうなんですね……」
(すごく正直な人なんだなぁ……)
「じゃ、合計で銀貨10枚かな」
「じゃあ、これで」
ルーチェは財布から銀貨を取り出して差し出す。青年はそれを受け取ると、手慣れた様子でレジの奥にしまった。
「毎度あり。……でもその荷物、全部持ってける?」
「ええっと、多分……?」
「別に、サービスで運んであげてもいいよ。俺店主から店番頼まれてるだけだから従業員って訳でもないし、それにそろそろ店主も戻ってくるはずだし」
「え、でも……」
「せっかく買った物を、転んで壊されでもしたら、たまったもんじゃないからね」
その言葉に、ルーチェはこくりと頷いた。
こうしてルーチェは、その青年に荷物運びを手伝ってもらうことになったのだった。
***
青年に案内されて、ルーチェは肉屋に連れてきてもらった。
「おっちゃん、干し肉を──そういや、何泊するんだっけ?」
「えっと、多分一泊ですけど……」
「だってさ」
「おいテオ、またお前……適当な注文しやがって……ったく。銅貨10枚な」
「はい、これでお願いします」
「毎度あり。ほら、少しサービスしといたからな。ちゃんと食えよ!」
やりとりを終えて肉屋を後にし、次はパン屋へ向かう。
「おばちゃーん、この子、一泊野営するから日持ちするパンちょうだい」
「あいよ。……あらまあ、可愛らしい子じゃないか。じゃあ何個かおまけしとくよ」
「い、いいんですか……!」
「気にしないで持ってっとくれ。銅貨10枚だよ」
「じゃあ、これでお願いします」
「ちょうどだね。また来ておくれよ!」
店を出たあと、ルーチェは袋の中を見つめながら、ぽつりとつぶやいた。
「いっぱいもらっちゃって……よかったんでしょうか」
「別に、サービスならありがたく受け取っとけばいいんじゃない?」
「そういうものなんでしょうか……?」
「そういうもんだよ」
テオと呼ばれた青年の言葉に、ルーチェは少しだけ肩の力を抜いて笑った。
***
ルーチェの荷物を宿に届け終えたテオは、肩をぐるりと回しながらぼやいた。
(……せっかくの休みだってのに、妙なことで時間潰れたな。ま、退屈するよりはいいか)
ちょうどそのとき、騎士団の宿舎から出てきた金髪の青年が目の前を通りかかる。
「テオ、休みは満喫できた?」
「んー、まあね。バイトやらされたり、ひよこの世話したりでさ」
「ひよこ……? あ、いや、それは置いといて。さっきエドガー団長から話があったんだけど、例の合同討伐隊の件。僕ら、冒険者の女の子と組むことになったらしいよ」
「へぇー...。その子が足引っ張んないといいけど」
「またそういうこと言って……」
「で、どんな子?」
「ええと……確か、冒険者ランクEで、14歳の魔法使いの女の子、だって」
「……いや、それまだ子どもじゃん! よく連れてくこと承諾したな、あのハゲオヤジ……」
テオの言うハゲオヤジとは、ギルドマスターザバランのことである。
「それだけ実力があるってことじゃない?」
「……だといいけどさ」
テオは内心、ふと嫌な予感を抱いていた。
(まさか、あの子じゃないよな……。いや、まさかな)
テオは嫌な予感を振り払うように、頭を振った。
「テオ、どうしたの?」
「や、何でもない……」
───数日は何事もなく、いよいよ合同討伐隊の作戦決行日を迎えることとなった。