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絆ノ幻想譚  作者: 花明 メル
第一章 光と絆のはじまり
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第17話 新たな依頼



 ギルドの扉をくぐると、カウンター奥のから手を振るザバランが目に入った。


「おう、嬢ちゃん」


「ザバランさん、こんにちは」


 ルーチェが軽く会釈すると、ギルドマスターのザバランはルーチェの方へ近寄ってきた。


「今ちょっと時間あるか? 折り入って相談があるんだけどよ」


「相談……ですか?」


「実はな、俺からの依頼を一つ、受けてほしくてだな」


「私に、ですか……?」


「正確には、お嬢ちゃんも含めて何人かに声をかけてる。ちょっと大きめの依頼でな。お嬢ちゃん、確かEランクに上がったばかりだったよな?」


「はい、一応……でも私なんかで大丈夫でしょうか……?」


「大丈夫だ。お嬢ちゃんは真面目にこなしてくれるし、評判も悪くない。だから声をかけたってわけだ」


「……ありがとうございます」


「今日の午後二時に、俺の部屋で説明会をする予定だ。忘れずに来てくれ」


「分かりました。お昼を食べてから行きますね」


「おう、よろしく頼むぜ」



***



 昼食を済ませたルーチェは、ギルド奥にあるギルドマスター室の扉を軽くノックし、中へと入った。


 午後二時にはまだ少し早いが、既に部屋には二つの冒険者チームが揃っていた。誰もがそれぞれに武器や装備を整え、空気はやや張りつめている。


 中央には長机と、周囲には数脚の椅子。その数から見て、もう一組ほど入れそうだったが、まだ来ていないようだ。


 ルーチェは窓辺の丸椅子にそっと腰掛けた。静かに外の景色に目をやりつつ、胸の高鳴りを抑えるように深呼吸する。


(大きな依頼……どんな内容なんだろう)


『複数の冒険者でこなす依頼……。気になりますね……』


 リヒトの声に緊張したように、ごくりと唾を飲むルーチェ。

 

 数分後、ドアが再び開いた。最後のチームが到着し、そのすぐ後ろからザバランと、見慣れた受付嬢ニナも姿を現す。


「おう、全員そろったな?」


 ザバランが部屋の中央に立つ。ニナはにこりと笑ってルーチェに手を振り、ルーチェも控えめに手を振り返した。


「さて、諸君。突然の招集で困惑したと思う。だがまずは、こうして来てくれたことに感謝を」


 そう言ってザバランは、分厚い腕を胸に置き、頭を下げた。


「……さて、長々とした前置きをする気はない。本題に入らせてもらう」


 その声に、冒険者たちの視線が一斉にザバランへ向く。


「まず、お前たちも知っての通り、最近、魔物の数が増えてきてる。それだけじゃねえ。凶暴化の報告も相次いでる。しかも、これはヴァレンシュタイン王国だけの話じゃない。他国でも似たような異変が確認されてる」


 その言葉に、冒険者たちの表情が一斉に引き締まる。


「……セシの街から西に広がる“迷いの森”は、ここにいる連中なら名前ぐらいは知ってるだろう。あの森で───ゴブリンの群れが、大量に発生した。すでに複数の報告と、現地の確認も取れている」


 椅子に座っていた男の冒険者が、眉をひそめながら手を挙げた。


「待ってくれ、ギルドマスター。迷いの森ってのは、確かスライムや毒持ちの獣が出るくらいで、ゴブリンなんかいなかったはずじゃ……?」


「ああ、俺もそう記憶してる。だが、突然現れやがった。だからこそ厄介なんだ」


 ザバランの声が少し低くなった。


「そこで、お前たちに頼みたいのは───ゴブリンの討伐だ。そして、可能なら掃討までしてもらう。それからもうひとつ。ゴブリン出現の原因の調査だ。どうして奴らが湧いたのか、何が起きてるのか、調べてほしい。もしもの話だが、森の奥の遺跡まで調べる可能性もある。だから、念のため野営の準備もしておけ」


 ルーチェは内心(野営……キャンプみたいな感じかな)と思いながら、真剣に頷いた。


 その時、手を挙げたのは黒と紫のローブを着た魔法使いの女性、カミラ。以前、ぷるるを捕まえた帰りに話したパーティの魔法使いだ。


「一つ、いいかしら?」


 ザバランが頷くと、彼女はルーチェを指しながら言った。


「その子……パーティを組んでないようだけど、どこのチームに入れるつもりなの? ギルドマスター」


「……よくぞ聞いてくれた。今回の討伐はセシ騎士団、さらにはノヴァール伯爵の主導で行われる合同作戦だ。団長のエドガーから、“鍛えたい若手がいる”と連絡が来てな。討伐にはその二人も参加する。ルーチェには、そいつらと組んでもらう。……いいな、ルーチェ?」


 突然名指しされ、ルーチェは少し驚いたが、すぐに背筋を伸ばして返事をした。


「は、はいっ!」


 部屋の空気が少し和らぎ、他の冒険者たちもそれぞれに反応を見せる中、ザバランは腕を組んで、再び全員を見渡す。


「他に質問は?」

 

「ギルドマスター、配置や指揮はどうなる?」


 先ほど最初に口を開いたベテラン風の冒険者が、再び挙手して問う。


 ルーチェはその様子を見ながら(なるほど、こういう場ではちゃんと指揮系統の確認をするんだ……勉強になるなぁ)と心の中でメモを取っていた。


「指揮は基本、後方で俺が取る。お前たちは二手に分かれて、左右のルートから森に入る形だ。各ルートに二チームずつ配置。ゴブリンの群れを挟み撃ちにする形だな」


 ザバランは壁の地図を軽く指し示す。


「チーム分けは、お前らで相談して決めていい。伯爵とその護衛騎士たちは、後方支援として随行する予定だ。他に質問は?」


 しばらく沈黙が流れ、誰も声を上げなかった。


「よし。作戦決行は五日後だ。……それじゃ俺はこれから伯爵のところに顔を出す必要があるから先に失礼する。ニナ、悪いがチーム分けやその他の調整を頼むぞ」


「分かりました」


 ザバランは椅子から立ち上がり、ギルドマスター室を後にした。


 少しざわつく室内。誰かが呟くように言った。


「さて、チーム分けをどうするかだな……」


 その空気を見計らうように、受付嬢のニナが朗らかな声で場を和ませる。


「まずは、合同討伐隊の仲間として、自己紹介でもしたらどうですか? 新人の子もいますし、お互い、顔と名前ぐらいは知っておいた方がいいと思いますよ?」


 ルーチェは内心、ちょっとだけドキドキしながらも(あ、自己紹介か……がんばろう)と小さく頷いた。



 最初に口を開いたのは、見知った三人パーティの一人。日焼けした肌に鍛え抜かれた体を持つ男、ドレイグだった。鍔広の軽鎧に身を包み、背に長い槍を背負っている。無骨な雰囲気だが、その声にはどこか落ち着きがあった。


「ルーチェ、久しぶりだな。俺らの自己紹介はいらないと思うが、一応な。改めて、俺はドレイグ。前衛と共に戦うことも出来るが、基本は回復役を務める」


 続いて、明るい茶髪を後ろで束ねた青年が元気よく手を挙げた。軽装に細身の剣を下げ、親しみやすい笑顔が印象的だ。


「セルトだ、改めてよろしくなー、ルーチェ!」


 ぐいぐいと距離を詰めてくるその様子に、ルーチェは思わず苦笑いを浮かべて一歩後ずさった。


 最後に一歩遅れて進み出たのは、すらりとした女性だった。雷のように跳ねた紫のツインテールと、氷のように透き通った瞳が印象的。帽子にローブ姿のThe魔女のような格好をしている。


「……カミラよ。足を引っ張らないように気をつけることね!」


 ぷいっと視線を逸らしつつも、杖を軽く地面に突いて立つ姿はどこか気高くもあった。


 ルーチェはぺこりと頭を下げた。


「じゃあ次は俺たちだな」


 次に話しかけてきたのは、腰に双剣を下げた鋭い目の男だった。装備は無駄がなく、全体から研ぎ澄まされた空気が漂う。


「俺はヴェルナー。コイツらのリーダーで双剣使いだ」


 隣から、ふんわりとした雰囲気の女性が微笑んだ。ゆるく結ばれた茶髪と、淡い緑のローブがやわらかな印象を与える。


「私はサラよ。ドレイグさんと近いけど、回復術師なの。攻撃はできないけど、回復は任せてね。よろしく、ルーチェちゃん」


 その後ろから、少し小柄な少年がそっと姿を現す。肩まで伸びた黒髪に、視線は伏せがち。弓を背負い、腰には短剣を提げている。


「ぼ、僕は……その、えっと……レント、です。弓が……使えます……よろしく」


 小声ながらも、誠実さが滲んでいた。


 そして最後に現れたのは、胸を張った陽気な声の持ち主だった。短めの金髪を軽くまとめ、鮮やかな服装にレイピアを下げた姿が目を引く。


「私はエミリー。魔法剣士よ。よろしく!」


「最後は俺たちだな」


 ザバランに質問をしていた屈強な男が立ち上がった。髭を蓄えた顔に、ずしりと重みを感じさせる鎧姿。巨大な盾と剣を携え、どっしりと構えている。


「俺はロッシュだ。見ての通りの盾役だが、攻撃もできる前衛役だな。よろしく、お嬢ちゃん」


 その隣には、長身の女性が無表情で立っていた。赤みがかった髪を後ろに流し、炎を模した装飾のある杖を手にしている。


「イリーナ、魔法使い。以上」


 淡々とした口調が、距離感を感じさせる。


 続いて、マントの下に身を隠していた女性が軽く手を挙げた。身軽な装いに腰の短剣、落ち着いた笑みを浮かべているが、その指の動きは常に何かを探るように柔らかく動いていた。


「あたしはマルゴット。罠や気配探知とかが得意な斥候役だよ、よろしく」


 最後にぴょんと前に出たのは、薄いピンク色の髪が特徴的な年若い少女だった。ゴツい篭手を両腕につけ、目を輝かせながら元気いっぱいに声を張る。


「ザイオ!! グーで殴って魔物を倒すの! ルーチェよろしく!」


 どこか天然そうな笑顔と、隠しきれない大食漢のオーラがにじみ出ていた。


 ルーチェは呼吸を整えると、皆を見渡してから言った。


「私はルーチェと申します。光の魔法を使う、魔法使いです。まだ駆け出しですが、皆さんの足を引っ張らないように頑張りますので、よろしくお願いします」


 彼女は立ち上がって、深々と頭を下げた。


 ルーチェが自己紹介を終えると、優しげな笑みを浮かべたサラがすかさず声をかけてきた。


「ルーチェちゃん、光魔法が使えるってことだけど、回復はできるのかしら?」


「は、はい! 最近覚えたばかりですが、《治癒(ヒール)》と《状態異常治癒(キュア)》が使えます……!」


「まあ、助かるわ!」

 

 サラは目を細めて嬉しそうに頷く。

 

「今はこうやって回復役が複数人いるから安心だけど、回復魔法を使える術師って意外と少ないのよ。期待してるわね、うふふ」


 その温かな言葉に、ルーチェはこくこくと頷いた。


「さて、実務の話に移ろうか」

 

 双剣の柄に手を添えながら、ヴェルナーが話題を変える。

 

「二班に分けるって話だったが、どうする?」


 ロッシュが少し気まずそうに視線を逸らしながら答える。


「そうだな……。ヴェルナー、悪いが若手たちを任せていいか? うちのメンバーはちょっと癖が強くてな……喧嘩になっても困る……」


「ふむ……了解した」

 

 ヴェルナーが頷き、ルーチェの方に視線を向ける。

 

「……ルーチェ」


「は、はいっ!」


「討伐の日は、俺たちとルーチェたちのチームで組むことになった。分かったか?」


「はい! よろしくお願いします、ヴェルナーさん!」


「ドレイグは俺たちの班だ。よろしく頼む」

 

 ロッシュが言うと、ドレイグも落ち着いた口調で返した。


「分かった。こちらこそ、よろしく頼む」


 緊張が少しほぐれたところで、元気な声が飛んだ。


「討伐の日に、どっちが多くゴブリンを倒せるか勝負する?」

 

 腕を組んだエミリーが、セルトに向かってにやりと笑って言う。

 

「ま、私の方が多いだろうけどね!」


「はぁ? 俺の方が多く倒せるに決まってんだろ!」

 

 すかさずセルトが食ってかかる。


「負けないから!」


「俺だって!」


「こほん……」

 

 咳払いで割って入ったのは、ヴェルナーだ。

 

「張り合うのは結構だが、突っ走って他のパーティに迷惑をかけるなよ。特に初参加の奴もいるんだからな」


「「はーい……」」

 

 二人はしぶしぶと返事をしたが、目線は火花を散らしていた。


 ロッシュが全体を見渡しながら締めくくる。


「とりあえず、各自野営の準備は怠らずにな。荷物も多めに見積もっておけ。油断して減らすと、後で泣く羽目になるぞ」


「多くて困るより、少なくて困る方がよほど大変だからな」

 ヴェルナーも同意し、頷く。


 ロッシュは頷き返すと、場を解いた。


「今日はこれで解散だ。当日の朝にまた集合しよう」

 


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