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絆ノ幻想譚  作者: 花明 メル
第三章 閉ざされた航路の果てへ
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第148話 ジャングルでの出会い




「あ、ちょ、ちょっと!レオ!止まって!」


 地図と周囲を見比べていたルーチェが、何かに気づいてレオのたてがみを引っ張った。


「お、おい主よ! 引っ張るな、聞こえている!」


 レオは慌てて爪を踏ん張り、急ブレーキをかけて止まる。


「ちょっと行ってくる!」


「主!!」


 ルーチェはそのまま背中から飛び降りて、茂みの奥へと走り出す。レオも少し遅れて方向転換し、後を追った。


 茂みの向こうから、ピーピーと弱々しい鳥の鳴き声が聞こえる。葉の隙間からは、かすかにオレンジ色の羽がのぞいていた。


 ルーチェが慎重に近づいていくと、そこには小さなスズメほどの鳥が、罠に足を取られてうずくまっていた。


「鳥さんだ……。痛かったね……ちょっと待ってて」


 そっとしゃがみ込んだルーチェは、細い縄をほどいて鳥の足を解放する。


 小鳥の足からは、わずかに血がにじんでいた。


「少し血が出てるね……《柔癒(フェアヒール)》」


「その程度、放っておいてもすぐに治るぞ」


 レオが後ろからぶつぶつと小言を漏らす。


「もー、別に減るものじゃないし」


 ルーチェは頬を膨らませる。


「ねぇ、リヒト」

 

『はい、お嬢様』

 

「この小鳥って、魔物なんだよね?」

 

『ええ。ピオレッタという鳥系の魔物です。小さくても長距離飛行に優れた力を持っているようです』


 癒しの光が消える頃、小鳥の傷はすっかり癒えていた。


 ピオレッタは嬉しそうに地面をぴょんぴょんと跳ね、ルーチェの周りを駆け回る。


「ふふ、よかったね」


「次からは人の作った罠などに引っかかるでないぞ、小鳥よ」


 レオの言葉に、ピオレッタはくるりと動きながら羽を広げて応えると、ふわりと舞い上がり、ルーチェの肩に止まった。


「わぁ……!」


 ルーチェは肩の上の小さな命を愛おしげに見つめ、優しく微笑んだ。


「よし、じゃあ行こうか、レオ。小鳥さん、今度は気をつけてね」


 ルーチェがそう声をかけると、ピオレッタはガーン!と効果音が聞こえそうなほどあからさまに肩を落とした。


「え、え?」


 困惑するルーチェの隣に擦り寄るようにレオが歩いてくる。そして、ピオレッタを暫し見つめると、またルーチェの方を向いた。


「……主よ。その矮小なる鳥は、主と共に行動したいと申しておるようだ」


「……そうなの? 私と一緒に来たいの?」


 ルーチェが尋ねると、ピオレッタはパァッと顔を上げて、目を輝かせた。


「ピピピ! ピピ!!」


 それはまるで『一緒に行きたい! 連れて行って!』と訴えているかのようで、ルーチェにもその気持ちははっきりと伝わった。


「分かった。じゃあ一緒に行こうか」


「ピピー!」


 ルーチェはそっと手をかざすと、深く息を吸い、静かに唱えた。


「今、汝と誓いを結ぶ。光を我が手に、絆を我が胸に。古き世界の理を以て、新たな盟約は結ばれる。

───《絆の誓約(エンリシア・コード)》」


 淡い光のリボンがふたりを結び、空中をくるくると舞いながら輪を描いて絡み合う。やがてその光は静かに消えた。


「ピピピピ!」


 ピオレッタは、再びルーチェの肩に止まると、ルーチェの頬にすりすりと小さな体を擦り寄せる。


「ふふ、これからよろしくね」


「主よ。名はどうする?」


 レオの言葉に、ルーチェは少し思案するように顎に手を当てる。


「うーん、ピオレッタ……ピオ……ピオちゃん……ピーちゃん?」


 ルーチェがいくつかの候補を口にすると、ピオレッタは「ピーちゃん」にピタッと反応を示した。


「へぇ、ピーちゃんがいいの?」


「ピピ!」


『……どうやら気に入られたご様子です』


 リヒトの声がルーチェの耳に響く。


「よし、じゃあ──汝に名を与えよう。汝の名は───ピーちゃん!」 


 名を与えられた小さな翼の魔物──ピーちゃんは、ルーチェの手の上に軽やかに止まり直すと、羽を広げて「ピー!」と元気に鳴いた。


「じゃあ早速、空から偵察をお願いしてもいいかな? 私とレオは地上を走るから、後ろから追いかけて飛んでてくれる?」


「ピー!」


「よし、行こうか、レオ。ピーちゃんも!」


 ルーチェは再びレオの背に乗り、大地を蹴って走り出す。その上空を、小さな翼がしっかりとついてくるのだった。


 


***



 しばらくジャングルの中を走っていると、ルーチェは目を凝らした。 

 

「あれかな……?」


 ジャングルの木々の隙間から、集落を囲う柵が見えた。


「主よ、このまま向かうのか?」


 ルーチェを背に乗せたレオが問いかける。


 大きなライオンに乗って村に向かえば、確かに騒ぎになるかもしれない。


 ルーチェは少し考えてから、レオの背から降りた。


「レオ……一度戻って──」


「いや、この辺りで待機している。あの小鳥が近くで見ているだろうから、何かあれば呼べ」


 レオはそう言うと、茂みの間に身を伏せて隠れた。


「……分かった。行ってくる」


 ルーチェは一人で村の方へと歩き出した。

 ピーちゃんは少し離れた空を旋回している。

  

 村の前には門番らしき豹頭の男が立っている。


「ん? なんだお前……人間族か?」


「こんにちは。私は冒険者のルーチェと申します」


 “冒険者”と聞いた瞬間、門番の男は怪訝そうな顔をする。


「冒険者ぁ? こんな子供がかぁ?」


 門番はヤンキー座りをして、じろじろとルーチェを見ながらメンチを切ってくる。


「こら、何してるの……」


 後ろから、同じく豹頭の女性が現れる。


「あ、姉貴……」


 村の中からやってきたその女性は、どうやらこの門番の姉のようだ。


「こんにちは」


 ルーチェが丁寧に挨拶をすると、豹頭の女性がこちらへ歩み寄ってくる。


「あらあら、弟と違って礼儀正しい子ね。こんなに小さいのに……。こんにちは」


 女性はくすくすと笑った。


「それで? こんな辺鄙な村に、何のご用?」


 豹頭の女性が、ルーチェの顔をのぞき込む。


「えっと……バラグさんという方を探していて……」


 その名を聞いた瞬間、二人の表情がわずかに険しくなる。


「バラグ、だぁ?」


 門番の男は苦虫を噛み潰したよう顔をし、その姉は少し悲しげに目を伏せる。


「……彼は、今はここにはいないわ」


「……そうでしたか……」


 ルーチェは肩を落とし、残念そうに小さく呟いた。


「どこにいらっしゃるか、ご存知ないですか……?」


「……そうねぇ。族長なら、知っているかもしれないわ」


 姉の言葉に、門番の弟が反応を示す。


「お、おい、姉貴! よそ者を族長に会わせるなんてマズいだろ!」


「うるさい。門番のあなたと違って、私はちゃんと発言権があるのよ」


 女性はそう言うと、ルーチェに手招きをした。


「私はゼーラ。……ついてきて。族長に会わせてあげるわ」


「ありがとうございます、ゼーラさん!」


 ルーチェは深く頭を下げ、村の中へと足を踏み入れた。


 

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