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絆ノ幻想譚  作者: 花明 メル
第三章 閉ざされた航路の果てへ
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第147話 バラグ捜しの旅

遅くなり申し訳ございません。

ハプニングというかアクシデントというか、危うく切腹するところでした。

出せて何よりです。

話の都合上、少し短めなのはご了承ください。



 バラグ捜しの聞き込みをした翌日の朝。

 朝早くから出かけていたテオが、険しい顔で戻ってきた。


「困ったな……」


「どうしたんですか? テオさん」


 部屋にいたルーチェが声をかけると、テオは手に持っていたメモらしき紙を畳みながら、ため息をつく。


「ん。あぁ、……バラグさん捜しの件、移動手段なんだけどさ、馬車が取れないみたいなんだよね。今は祭り前で予約がいっぱいでさ……」


「え……そうなんですか?」


「俺たちは“王国の贈呈品の護衛”っていう名目があったから、優先的に馬車を回して貰えてただけみたいで。一般扱いになった途端、これだよ……」


 テオは頭を押さえつつ、部屋のベッドにどさりと腰を下ろした。


 反対のベッドに横になっていたキールが身体を起こし、オルトもテオの隣に並ぶように座り、ルーチェは、キールのベッドの端っこに控えめに腰掛ける。


「依頼の話?」


 キールがテオに話しかける。


「あぁ。いくら祭りまで時間があるとはいえ、徒歩移動じゃちょっと間に合わないかもなぁと思ってさ。……で、言い出しっぺさんも案を考えてくれる?」


「そうですね……」


 ニヤリと笑うテオを見て、ルーチェは少し考え込む。


「あ、じゃあ私だけで行くのはどうですか?」


 その言葉を聞いたテオは、ルーチェの額にデコピンする。


「こら。牙鱗団(がりんだん)の件、もう忘れちゃった?」


 口調は優しいものの、顔はちょっと不服そうだ。


「アイツらは一網打尽にされたけど、他にもそういう連中がいないとも限らないんだから」


「そうですよ、私も反対です」


 テオの意見に同意するように、キールが言う。キールの目は、真っ直ぐと見据えている。


「でも、ノクスやシアに乗せてもらえば、馬車よりずっと早く着けますし……、それに───」


 ルーチェは一瞬目を伏せてから、顔を上げた。


「私、コウジロウさんの願い……叶えたいです」


 その言葉に、テオはしばらくルーチェの瞳を見つめ、そして小さく息をついた。


「……はぁ、分かった。じゃあ、ルーチェに任せるから」


「っ、テオ……!」


 驚いたように、キールがテオを見た。

 

「ルーチェさん。私は反対です……一人で行動して、また危険な目に遭うかもしれないんですよ!」


 キールはそう言って、そっと手を伸ばすと、ルーチェの手を取った。


「私は……貴女に、嫌な思いも、怖い思いもさせたくないんです」


「キールさん……」


 ルーチェがそう呟いた時。


『お嬢様。レオ様が───』


 リヒトの言葉を遮るように、別の声が割って入ってくる。


『ふん。ならば今回は我が乗せてやろう。我であれば、余程の馬鹿でもなければ、ちょっかいをかけてくることなどあるまい』


「……ルーチェ?」


 テオが覗き込むように声をかける。


「あ、えっと、なんか今回はレオが乗せて、ずっと守ってくれるって……」


「レオが? ……まあ、それなら俺はいいと思うけど」


 テオが納得したようにうなずく。

 少し険しい顔をしていたキールは、しばらく悩んでいたようだが、やがて小さく息を吐いた。


「……分かりました。私も、構いません」


「キールさん……!」


 ルーチェが顔を上げると、キールは小さく微笑んだ。


「ただし───」


 その笑顔から、何故か少し圧を感じる。


「───もし、怪我なんてして戻ってきたら……」


「戻ってきたら……?」


 ルーチェは息を飲む。


「ふふ、別に何もしませんよ。……ですから、無事に帰ってきてくださいね、ルーチェさん」


「は、はい……!」



 

***




 そして翌朝。宿の部屋で準備していると、キールとテオが部屋に入ってくる。


「はい、ルーチェ。」


 テオは、旅の食料を詰め込んだ袋を手渡した。


「ありがとうございます、テオさん」


 テオは少し屈んで、ルーチェの目線に合わせる。


「いい? 火を使う時は気をつけなよ? 森とか焼き払ったらダメだからね?」


「はい……って、テオさんは私のことなんだと思ってるんですか!」


 ルーチェが頬を膨らませて怒ると、テオは顎に手を当てて悩むような仕草をする。


「んー……トラブルメーカー? というか、トラブルほいほい?」


「う……。ちょっと納得しちゃうのが悔しいですけど……」


 ルーチェはちょっと項垂れる。


「とにかく、くれぐれも気をつけなね?」


「はぁい……」


 ルーチェとテオが話していると、キールが地図を持って間に入ってくる。


「ルーチェさん。これを」


 キールは地図を広げて、印をつけたところを指さした。


「ここが虎人族の住む村。……で、ここが王都ラオバルから近いこちらが、火山の街ファルガンです。反対方向ですが……」


 心配そうにするキールに、ルーチェは微笑んで見せた。


「大丈夫です! レオに乗ってたら、多分すぐにばびゅーんって着きますよ!」


 オルトが、ルーチェの服の裾を引っ張る。


「お、お姉ちゃん」


 ルーチェは、オルトの前に屈んだ。


「オルト、どうしたの?」


「あの、……僕、がんばるね……、強く、なるから……」


「オルト、……ずっと一緒って言ったのに、ごめんね」


 ルーチェは素直に謝った。


「ううん。……お姉ちゃんの気持ち……分かる、から……」


「オルト……ありがとう」


 ルーチェは、オルトを優しく抱きしめる。


「キールさんとテオさんの言うこと、ちゃんと聞くんだよ?」


「……うん、わかった……」


 ルーチェは荷物の最終チェックをすると、リュックを背負い直し、装備を整える。


「それじゃあ、出発します」


 ドアの方に行くと、三人が並ぶ。


「ルーチェさん、気をつけてくださいね」

「危ないとこには近づいちゃダメだよ?」

「いってらっしゃい……お姉ちゃん……」


「はい、いってきます!」


 三人に見送られながら、ルーチェは宿屋を後にした。




***

 



 大通りを抜け、街の門を出てから少し歩く。


 街から離れた位置で、ルーチェは周囲を確認する。


「ここまで来れば大丈夫だよね……」


『えぇ。周囲に人の気配はありません』


 ルーチェはもう一度だけ見渡すと、小さく呟いた。


「……レオ。出てきて」


 光の粒子がキラキラと収束し、形を成していく。


 光が収まると同時に、威厳ある佇まいの白い獅子、レオが姿を現す。高さ2メートルを優に超える堂々たる体躯、凛々しい顔がルーチェを見下ろしていた。


「主よ。最初の目的地は虎人族の住む村であったな?」


 ルーチェはレオの背中に飛び乗ると、うなずく。


「うん、このまま、真っ直ぐ道なりにお願い!」


「承知した。しっかり掴まっておくのだぞ、主よ!」


 レオが大地を蹴ると、風のような速さで密林の中の道を駆け出した。


 ルーチェは真っ直ぐと前を見据え、東の方角へと走っていくレオの背に揺られていく。


(バラグさんに会えますように)


 静かな祈りは、暖かな風と共に吹き抜けていった。


 

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