第147話 バラグ捜しの旅
遅くなり申し訳ございません。
ハプニングというかアクシデントというか、危うく切腹するところでした。
出せて何よりです。
話の都合上、少し短めなのはご了承ください。
バラグ捜しの聞き込みをした翌日の朝。
朝早くから出かけていたテオが、険しい顔で戻ってきた。
「困ったな……」
「どうしたんですか? テオさん」
部屋にいたルーチェが声をかけると、テオは手に持っていたメモらしき紙を畳みながら、ため息をつく。
「ん。あぁ、……バラグさん捜しの件、移動手段なんだけどさ、馬車が取れないみたいなんだよね。今は祭り前で予約がいっぱいでさ……」
「え……そうなんですか?」
「俺たちは“王国の贈呈品の護衛”っていう名目があったから、優先的に馬車を回して貰えてただけみたいで。一般扱いになった途端、これだよ……」
テオは頭を押さえつつ、部屋のベッドにどさりと腰を下ろした。
反対のベッドに横になっていたキールが身体を起こし、オルトもテオの隣に並ぶように座り、ルーチェは、キールのベッドの端っこに控えめに腰掛ける。
「依頼の話?」
キールがテオに話しかける。
「あぁ。いくら祭りまで時間があるとはいえ、徒歩移動じゃちょっと間に合わないかもなぁと思ってさ。……で、言い出しっぺさんも案を考えてくれる?」
「そうですね……」
ニヤリと笑うテオを見て、ルーチェは少し考え込む。
「あ、じゃあ私だけで行くのはどうですか?」
その言葉を聞いたテオは、ルーチェの額にデコピンする。
「こら。牙鱗団の件、もう忘れちゃった?」
口調は優しいものの、顔はちょっと不服そうだ。
「アイツらは一網打尽にされたけど、他にもそういう連中がいないとも限らないんだから」
「そうですよ、私も反対です」
テオの意見に同意するように、キールが言う。キールの目は、真っ直ぐと見据えている。
「でも、ノクスやシアに乗せてもらえば、馬車よりずっと早く着けますし……、それに───」
ルーチェは一瞬目を伏せてから、顔を上げた。
「私、コウジロウさんの願い……叶えたいです」
その言葉に、テオはしばらくルーチェの瞳を見つめ、そして小さく息をついた。
「……はぁ、分かった。じゃあ、ルーチェに任せるから」
「っ、テオ……!」
驚いたように、キールがテオを見た。
「ルーチェさん。私は反対です……一人で行動して、また危険な目に遭うかもしれないんですよ!」
キールはそう言って、そっと手を伸ばすと、ルーチェの手を取った。
「私は……貴女に、嫌な思いも、怖い思いもさせたくないんです」
「キールさん……」
ルーチェがそう呟いた時。
『お嬢様。レオ様が───』
リヒトの言葉を遮るように、別の声が割って入ってくる。
『ふん。ならば今回は我が乗せてやろう。我であれば、余程の馬鹿でもなければ、ちょっかいをかけてくることなどあるまい』
「……ルーチェ?」
テオが覗き込むように声をかける。
「あ、えっと、なんか今回はレオが乗せて、ずっと守ってくれるって……」
「レオが? ……まあ、それなら俺はいいと思うけど」
テオが納得したようにうなずく。
少し険しい顔をしていたキールは、しばらく悩んでいたようだが、やがて小さく息を吐いた。
「……分かりました。私も、構いません」
「キールさん……!」
ルーチェが顔を上げると、キールは小さく微笑んだ。
「ただし───」
その笑顔から、何故か少し圧を感じる。
「───もし、怪我なんてして戻ってきたら……」
「戻ってきたら……?」
ルーチェは息を飲む。
「ふふ、別に何もしませんよ。……ですから、無事に帰ってきてくださいね、ルーチェさん」
「は、はい……!」
***
そして翌朝。宿の部屋で準備していると、キールとテオが部屋に入ってくる。
「はい、ルーチェ。」
テオは、旅の食料を詰め込んだ袋を手渡した。
「ありがとうございます、テオさん」
テオは少し屈んで、ルーチェの目線に合わせる。
「いい? 火を使う時は気をつけなよ? 森とか焼き払ったらダメだからね?」
「はい……って、テオさんは私のことなんだと思ってるんですか!」
ルーチェが頬を膨らませて怒ると、テオは顎に手を当てて悩むような仕草をする。
「んー……トラブルメーカー? というか、トラブルほいほい?」
「う……。ちょっと納得しちゃうのが悔しいですけど……」
ルーチェはちょっと項垂れる。
「とにかく、くれぐれも気をつけなね?」
「はぁい……」
ルーチェとテオが話していると、キールが地図を持って間に入ってくる。
「ルーチェさん。これを」
キールは地図を広げて、印をつけたところを指さした。
「ここが虎人族の住む村。……で、ここが王都ラオバルから近いこちらが、火山の街ファルガンです。反対方向ですが……」
心配そうにするキールに、ルーチェは微笑んで見せた。
「大丈夫です! レオに乗ってたら、多分すぐにばびゅーんって着きますよ!」
オルトが、ルーチェの服の裾を引っ張る。
「お、お姉ちゃん」
ルーチェは、オルトの前に屈んだ。
「オルト、どうしたの?」
「あの、……僕、がんばるね……、強く、なるから……」
「オルト、……ずっと一緒って言ったのに、ごめんね」
ルーチェは素直に謝った。
「ううん。……お姉ちゃんの気持ち……分かる、から……」
「オルト……ありがとう」
ルーチェは、オルトを優しく抱きしめる。
「キールさんとテオさんの言うこと、ちゃんと聞くんだよ?」
「……うん、わかった……」
ルーチェは荷物の最終チェックをすると、リュックを背負い直し、装備を整える。
「それじゃあ、出発します」
ドアの方に行くと、三人が並ぶ。
「ルーチェさん、気をつけてくださいね」
「危ないとこには近づいちゃダメだよ?」
「いってらっしゃい……お姉ちゃん……」
「はい、いってきます!」
三人に見送られながら、ルーチェは宿屋を後にした。
***
大通りを抜け、街の門を出てから少し歩く。
街から離れた位置で、ルーチェは周囲を確認する。
「ここまで来れば大丈夫だよね……」
『えぇ。周囲に人の気配はありません』
ルーチェはもう一度だけ見渡すと、小さく呟いた。
「……レオ。出てきて」
光の粒子がキラキラと収束し、形を成していく。
光が収まると同時に、威厳ある佇まいの白い獅子、レオが姿を現す。高さ2メートルを優に超える堂々たる体躯、凛々しい顔がルーチェを見下ろしていた。
「主よ。最初の目的地は虎人族の住む村であったな?」
ルーチェはレオの背中に飛び乗ると、うなずく。
「うん、このまま、真っ直ぐ道なりにお願い!」
「承知した。しっかり掴まっておくのだぞ、主よ!」
レオが大地を蹴ると、風のような速さで密林の中の道を駆け出した。
ルーチェは真っ直ぐと前を見据え、東の方角へと走っていくレオの背に揺られていく。
(バラグさんに会えますように)
静かな祈りは、暖かな風と共に吹き抜けていった。




