第145話 コウジロウの依頼
活動報告にも今さっき書きましたが……。
【祝】総PV数10000突破!!みんなありがとう!
喫茶店に入り、テーブル席へと着く。
窓側からルーチェ、オルト、テオと並び、向かいの席にコウジロウが座った。
注文した飲み物が届いてから、コウジロウは口を開いた。
「……単刀直入に言うと、とある御仁を探し出して欲しいのでござる」
「……人捜し、ですか?」
「如何にも。彼の名はバラグ。───“焔牙”という二つ名を持つ御仁でござる」
テオはグラスに口をつけ、冷たい茶を飲んでから問う。
「捜す理由は?」
「……バラグ殿と、再戦したいのでござる」
「「再戦?」」
ルーチェとテオが同時に声をあげる。
「───五年前。某は武者修行のため、この獣王国を初めて訪れた。己の技量を試す場として、この国の《烈牙祭》を選んだのでござる」
コウジロウは懐かしそうに窓の外を眺める。
「獣人の戦士たちは、それはもう強かった。だが運にも恵まれ、某は決勝戦まで勝ち上がることができたのでござる」
「そこで戦ったのが、バラグさん……ですか?」
「左様。───バラグ殿との一戦は、拙者の生きてきた中でも最も熱く滾る戦いであった。そして接戦の末、勝者は某となった」
「それは…すごいですね!」
ルーチェは嬉しそうにそう言うと、コウジロウは少し切なそうな顔で目を伏せた。
「だが……どうやらその勝利が、バラグ殿の心を折ってしまったようなのでござる」
「心を……? どうして、なんでしょうか?」
「後に聞いた話だが、バラグ殿は六年間、《烈牙祭》で無敗を誇っていたという」
テオが眉をひそめる。
「六年も……」
「この祭では、七連覇を成し遂げた者に“殿堂入り”の証として、闘技場に像が建てられるという。───バラグ殿は、その偉業にあと一歩で手が届くところだったのでござるよ」
「なるほどね。図らずも、それを阻止しちゃったわけか」
「うむ。それ以来、バラグ殿は《烈牙祭》にも姿を見せなくなり、消息を絶ってしまった。某はそれを知らず、翌年以降も何度か出場したでござるが、あのような試合は一度もなかった」
「つまり、今年が最後のつもりで来たってこと?」
「その通りにござる。今年、会えなければ、某は烈牙祭への参加をキッパリと辞めようと思っている」
「でもさ、会えたとしても、戦ってくれるとは限らないんじゃない?」
「構わぬでござる。───某は、ただ一言“あの試合はとても楽しかった”と伝えたいのでござるよ」
切なそうな顔で微笑むコウジロウを見て、ルーチェはうなずいた。
「分かりました」
即答したルーチェに、テオが口を挟んだ。
「ちょっと、ルーチェ」
「どうせ、お祭りまでやることないじゃないですか。キールさんだって本調子じゃないんですし」
「そうだけど……」
「それに、私も見てみたかったです。──その試合。だから、バラグさんに会って伝えて……試合、見せてもらえたら、私も嬉しいので」
ルーチェは柔らかく笑った。
その言葉にテオは小さくため息をつく。
「はぁ……まあ、やること決まってないし、オルトの修行もあるし。ちょうどいいか」
「良いのでござるか? ……正直、断られるのではと思っていたでござるよ」
「はい、いいですよ」
ニコニコと微笑むルーチェ。
テオが苦笑まじりに肩をすくめた。
「しょうがないね。引き受けようか」
「僕も……がんばる」
「かたじけない、感謝するでござるよ!」
満面の笑みを浮かべて、コウジロウは頭を下げた。
「で、肝心のバラグさんってどんな人なの?」
「虎人族の戦士でござる。───獣に近い姿をしており、背が高く、鍛え抜かれた肉体をしているでござる。毛色は……濃い橙色」
「濃いオレンジかぁ……」
ルーチェは目を細めながら、もふもふのオレンジ虎を思い描いた。
「ルーチェ、多分違うこと考えてるでしょ」
「えっ、そんなことないですよ!」
「……まあ、ともかく分かった。捜し出す期限は?」
「祭りは三十日と三十一日の二日間でござる。───せめて、その前日までには捜索の結果を教えてほしいでござる」
「了解」
「それと、これを──」
コウジロウは小さな紙を差し出した。
「某の宿泊している宿の名前と部屋番号でござる。昼間は不在のことが多いゆえ、夜に来てくれると助かる」
「分かりました」
「ちなみにだけどさ、報酬は?」
「無論、ちゃんと用意しておくでござるよ」
「なら、交渉成立ね」
テオが笑うと、ルーチェとコウジロウは互いに手を差し出し、握手を交わした。
「武と礼を尽くしたい──と、バラグ殿に伝えてほしいでござる。ルーチェ殿」
「はい。お任せください」
***
ルーチェたちは、手分けして街で聞き込みを始めた。
「バラグ? 焔牙の?……俺が聞いた話じゃ、山奥に引っ込んだとか」
「いや、どっかで魔物を追いかけてたって話だぜ」
「火山の麓の街で見た、って噂もあったな」
集まる情報は、どれも曖昧で食い違っている。
「意見バラバラすぎだし……大体が“誰かから聞いた”ばっかだし……」
広場のベンチに座り込んだテオが、がっくりと肩を落とした。隣に腰掛けるオルトも、元気なく尻尾を垂らしている。
「疲れちゃった? 宿に戻る?」
ルーチェの問いかけに、オルトは小さく首を横に振った。
「どうすっかなぁ……この街じゃ、これ以上の情報は出なさそうだし……」
「あ!」
突然声を上げたルーチェに、二人が顔を向ける。
「どうしたの?」
「お二人は先に宿に戻っていてください。私、ちょっと寄り道して帰ります!」
「あ、ちょっと! ルーチェ!」
制止の声を背に、ルーチェは広場を駆け出し、王樹の方へと向かった。
“贈呈品を護衛した冒険者”という立場もあり、ルーチェは比較的あっさりと王樹ラオバルの内部へ通された。
城の中を歩きながら、彼女はきょろきょろと周囲を見回す。
「昨日入った時も思ったけど……本当に中まで木なんだね……」
『ええ。異世界ならではと言いますか、大樹の神秘を感じますね、お嬢様』
巨大な樹をくり抜いたような吹き抜けの空間。見上げれば、枝分かれする通路や回廊が、幹に沿って幾重にも伸びている。
その時──。
「あ? なんだチビ、迷子か?」
後ろからかけられた低い声に、ルーチェは振り返った。
そこに立っていたのは、鋭い鷲の頭部を持つ獣人の男だった。
「いえ、私は冒険者で……」
「冒険者? そんななりでか?」
「……そ、そうですけど……」
ちょっと拗ね気味に返事をする。
「ふーん。で、何してんだ?」
(城の関係者なら、何か知ってるかと思ったけど……この人には、あんまり言いたくないなぁ……)
ルーチェはジトっとした目で、鷲頭の男性を見た。
「いえ……別に」
「釣れないこと言うなって。……あ、もしかして、チビって言ったの、怒ってんのか?」
男は距離を詰めると、軽い調子で肩を組み、ルーチェの頬をツン、とつついた。
「別に怒ってないです」
ルーチェは頬を膨らませた。
「怒ってるじゃねぇか……」
そのやり取りを遮るように、今度は背後からはっきりとした女性の声が飛んできた。
「ちょっと、アンタ。なにやってんのよ」
二人が同時に振り返る。
そこに立っていたのは、黒豹の獣人の女性だった。
艶やかな黒い毛並みに、長いまつ毛。しなやかな肢体からは、どこか大人の色香が漂っている。
「おー、マウナじゃねぇか! 任務終わりか?」
「えぇ。……で? なんでそんな小さな子に絡んでるわけ?」
「別に絡んでねぇよなぁ?」
マウナと呼ばれた女性は男を一瞥すると、ルーチェの前に立ち、優しく頭に手を置いた。
「ごめんなさいね。この人、デリカシーってものがなくて。失礼なこと、言われなかった?」
「いえ。チビとしか言われてないです」
「やっぱり根に持ってんじゃねぇか」
鷲頭が呆れたように言う。
「こんな可愛らしい子にチビだなんて…本当に大人気ないのよねぇ。彼はザラム。私と同じ六獣将の一人よ」
「ろ、六獣将!?」
ルーチェは驚いた。
「あ、あの…偉い方とは知らなくて…」
ルーチェはさっきと打って変わって、しおらしくなってしまう。
「彼に敬意を払う必要なんてないわ。改めて、私はマウナよ」
マウナは怪しげに笑った。
「る、ルーチェです…」
「えぇ、知ってるわ。昨日王国からの贈呈品を持ってきてくれたんでしょう? ご苦労さまね」
マウナは両手で頬をムニムニとした。
通路の奥から、兵士が走ってくる。
「ザラム様、マウナ様。会議のお時間です」
兵士の言葉に、マウナは尻尾を揺らしてみせる。
「あら、もうそんな時間なのね」
「じゃあ行くか」
ザラムが通路の奥へ歩き出す。
マウナは少し考えてから、ルーチェの方へ振り返った。
「良かったら…貴女も来る?」
「へ?」
唐突な誘いにキョトンとしてしまう。
「おいおい、六獣将の会議なんだぞ?」
「だって、今日の議題にはこの子と仲間たちが捕らえた牙鱗団の話も出るでしょう? 証人は多い方がいいんじゃないかしら?」
「そう、なのか…?」
ザラムが困惑しながら、首を傾げている。
「それに…一度、ちゃんと話をしてみたかったのよね。───王国の“英雄少女”と」
(!?)
ルーチェは驚いてマウナを見上げる。
「え、英雄少女? コイツがか?」
「えぇ。ただの冒険者ではないということよ。…行きましょうか」
マウナが手を握る。
(に、肉球……ふかふか……!!)
「は、はい…!」
ルーチェはマウナに手を引かれて、ザラムを通り過ぎていく、
「あ、おい! 置いてくなよ!」
そうして三人は会議室へと向かった。




