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絆ノ幻想譚  作者: 花明 メル
第三章 閉ざされた航路の果てへ
145/162

第145話 コウジロウの依頼

活動報告にも今さっき書きましたが……。

【祝】総PV数10000突破!!みんなありがとう!



 喫茶店に入り、テーブル席へと着く。

 窓側からルーチェ、オルト、テオと並び、向かいの席にコウジロウが座った。


 注文した飲み物が届いてから、コウジロウは口を開いた。


「……単刀直入に言うと、とある御仁を探し出して欲しいのでござる」

 

「……人捜し、ですか?」

 

「如何にも。彼の名はバラグ。───“焔牙(えんが)”という二つ名を持つ御仁でござる」


 テオはグラスに口をつけ、冷たい茶を飲んでから問う。

 

「捜す理由は?」

 

「……バラグ殿と、再戦したいのでござる」

 

「「再戦?」」


 ルーチェとテオが同時に声をあげる。

 

「───五年前。某は武者修行のため、この獣王国を初めて訪れた。己の技量を試す場として、この国の《烈牙祭(れつがさい)》を選んだのでござる」


 コウジロウは懐かしそうに窓の外を眺める。

 

「獣人の戦士たちは、それはもう強かった。だが運にも恵まれ、某は決勝戦まで勝ち上がることができたのでござる」

 

「そこで戦ったのが、バラグさん……ですか?」

 

「左様。───バラグ殿との一戦は、拙者の生きてきた中でも最も熱く滾る戦いであった。そして接戦の末、勝者は某となった」

 

「それは…すごいですね!」


 ルーチェは嬉しそうにそう言うと、コウジロウは少し切なそうな顔で目を伏せた。

 

「だが……どうやらその勝利が、バラグ殿の心を折ってしまったようなのでござる」

 

「心を……? どうして、なんでしょうか?」

 

「後に聞いた話だが、バラグ殿は六年間、《烈牙祭(れつがさい)》で無敗を誇っていたという」


 テオが眉をひそめる。

 

「六年も……」

 

「この祭では、七連覇を成し遂げた者に“殿堂入り”の証として、闘技場に像が建てられるという。───バラグ殿は、その偉業にあと一歩で手が届くところだったのでござるよ」

 

「なるほどね。図らずも、それを阻止しちゃったわけか」

 

「うむ。それ以来、バラグ殿は《烈牙祭(れつがさい)》にも姿を見せなくなり、消息を絶ってしまった。某はそれを知らず、翌年以降も何度か出場したでござるが、あのような試合は一度もなかった」

 

「つまり、今年が最後のつもりで来たってこと?」

 

「その通りにござる。今年、会えなければ、某は烈牙祭への参加をキッパリと辞めようと思っている」

 

「でもさ、会えたとしても、戦ってくれるとは限らないんじゃない?」

 

「構わぬでござる。───某は、ただ一言“あの試合はとても楽しかった”と伝えたいのでござるよ」


 切なそうな顔で微笑むコウジロウを見て、ルーチェはうなずいた。

 

「分かりました」


 即答したルーチェに、テオが口を挟んだ。

 

「ちょっと、ルーチェ」

 

「どうせ、お祭りまでやることないじゃないですか。キールさんだって本調子じゃないんですし」

 

「そうだけど……」

 

「それに、私も見てみたかったです。──その試合。だから、バラグさんに会って伝えて……試合、見せてもらえたら、私も嬉しいので」


 ルーチェは柔らかく笑った。

 その言葉にテオは小さくため息をつく。

 

「はぁ……まあ、やること決まってないし、オルトの修行もあるし。ちょうどいいか」

 

「良いのでござるか? ……正直、断られるのではと思っていたでござるよ」

 

「はい、いいですよ」


 ニコニコと微笑むルーチェ。

 テオが苦笑まじりに肩をすくめた。

 

「しょうがないね。引き受けようか」

 

「僕も……がんばる」

 

「かたじけない、感謝するでござるよ!」


 満面の笑みを浮かべて、コウジロウは頭を下げた。

 

「で、肝心のバラグさんってどんな人なの?」

 

「虎人族の戦士でござる。───獣に近い姿をしており、背が高く、鍛え抜かれた肉体をしているでござる。毛色は……濃い橙色」

 

「濃いオレンジかぁ……」


 ルーチェは目を細めながら、もふもふのオレンジ虎を思い描いた。

 

「ルーチェ、多分違うこと考えてるでしょ」

 

「えっ、そんなことないですよ!」

 

「……まあ、ともかく分かった。捜し出す期限は?」

 

「祭りは三十日と三十一日の二日間でござる。───せめて、その前日までには捜索の結果を教えてほしいでござる」

 

「了解」

 

「それと、これを──」


 コウジロウは小さな紙を差し出した。

 

「某の宿泊している宿の名前と部屋番号でござる。昼間は不在のことが多いゆえ、夜に来てくれると助かる」

 

「分かりました」

 

「ちなみにだけどさ、報酬は?」

 

「無論、ちゃんと用意しておくでござるよ」

 

「なら、交渉成立ね」


 テオが笑うと、ルーチェとコウジロウは互いに手を差し出し、握手を交わした。

 

「武と礼を尽くしたい──と、バラグ殿に伝えてほしいでござる。ルーチェ殿」

 

「はい。お任せください」



 

 

 ***



 


 ルーチェたちは、手分けして街で聞き込みを始めた。

 

「バラグ? 焔牙の?……俺が聞いた話じゃ、山奥に引っ込んだとか」

 

「いや、どっかで魔物を追いかけてたって話だぜ」


「火山の麓の街で見た、って噂もあったな」


 集まる情報は、どれも曖昧で食い違っている。

 

「意見バラバラすぎだし……大体が“誰かから聞いた”ばっかだし……」


 広場のベンチに座り込んだテオが、がっくりと肩を落とした。隣に腰掛けるオルトも、元気なく尻尾を垂らしている。


「疲れちゃった? 宿に戻る?」


 ルーチェの問いかけに、オルトは小さく首を横に振った。

 

「どうすっかなぁ……この街じゃ、これ以上の情報は出なさそうだし……」

 

「あ!」


 突然声を上げたルーチェに、二人が顔を向ける。

 

「どうしたの?」

 

「お二人は先に宿に戻っていてください。私、ちょっと寄り道して帰ります!」

 

「あ、ちょっと! ルーチェ!」


 制止の声を背に、ルーチェは広場を駆け出し、王樹の方へと向かった。





 “贈呈品を護衛した冒険者”という立場もあり、ルーチェは比較的あっさりと王樹ラオバルの内部へ通された。


 城の中を歩きながら、彼女はきょろきょろと周囲を見回す。

 

「昨日入った時も思ったけど……本当に中まで木なんだね……」


『ええ。異世界ならではと言いますか、大樹の神秘を感じますね、お嬢様』

 

 巨大な樹をくり抜いたような吹き抜けの空間。見上げれば、枝分かれする通路や回廊が、幹に沿って幾重にも伸びている。


 その時──。

 

「あ? なんだチビ、迷子か?」


 後ろからかけられた低い声に、ルーチェは振り返った。


 そこに立っていたのは、鋭い鷲の頭部を持つ獣人の男だった。

 

「いえ、私は冒険者で……」

 

「冒険者? そんななりでか?」

 

「……そ、そうですけど……」


 ちょっと拗ね気味に返事をする。

 

「ふーん。で、何してんだ?」

 

(城の関係者なら、何か知ってるかと思ったけど……この人には、あんまり言いたくないなぁ……)


 ルーチェはジトっとした目で、鷲頭の男性を見た。

 

「いえ……別に」

 

「釣れないこと言うなって。……あ、もしかして、チビって言ったの、怒ってんのか?」


 男は距離を詰めると、軽い調子で肩を組み、ルーチェの頬をツン、とつついた。

 

「別に怒ってないです」


 ルーチェは頬を膨らませた。

 

「怒ってるじゃねぇか……」


 そのやり取りを遮るように、今度は背後からはっきりとした女性の声が飛んできた。

 

「ちょっと、アンタ。なにやってんのよ」


 二人が同時に振り返る。


 そこに立っていたのは、黒豹の獣人の女性だった。

 艶やかな黒い毛並みに、長いまつ毛。しなやかな肢体からは、どこか大人の色香が漂っている。

 

「おー、マウナじゃねぇか! 任務終わりか?」

 

「えぇ。……で? なんでそんな小さな子に絡んでるわけ?」

 

「別に絡んでねぇよなぁ?」


 マウナと呼ばれた女性は男を一瞥すると、ルーチェの前に立ち、優しく頭に手を置いた。

 

「ごめんなさいね。この人、デリカシーってものがなくて。失礼なこと、言われなかった?」

 

「いえ。チビとしか言われてないです」

 

「やっぱり根に持ってんじゃねぇか」


 鷲頭が呆れたように言う。

 

「こんな可愛らしい子にチビだなんて…本当に大人気ないのよねぇ。彼はザラム。私と同じ六獣将(ろくじゅうしょう)の一人よ」


「ろ、六獣将(ろくじゅうしょう)!?」


 ルーチェは驚いた。

 

「あ、あの…偉い方とは知らなくて…」


 ルーチェはさっきと打って変わって、しおらしくなってしまう。

 

「彼に敬意を払う必要なんてないわ。改めて、私はマウナよ」


 マウナは怪しげに笑った。

 

「る、ルーチェです…」

 

「えぇ、知ってるわ。昨日王国からの贈呈品を持ってきてくれたんでしょう? ご苦労さまね」


 マウナは両手で頬をムニムニとした。


 通路の奥から、兵士が走ってくる。

 

「ザラム様、マウナ様。会議のお時間です」


 兵士の言葉に、マウナは尻尾を揺らしてみせる。

 

「あら、もうそんな時間なのね」

 

「じゃあ行くか」


 ザラムが通路の奥へ歩き出す。

 マウナは少し考えてから、ルーチェの方へ振り返った。 

 

「良かったら…貴女も来る?」

 

「へ?」


 唐突な誘いにキョトンとしてしまう。

  

「おいおい、六獣将(ろくじゅうしょう)の会議なんだぞ?」

 

「だって、今日の議題にはこの子と仲間たちが捕らえた牙鱗団(がりんだん)の話も出るでしょう? 証人は多い方がいいんじゃないかしら?」

 

「そう、なのか…?」


 ザラムが困惑しながら、首を傾げている。

 

「それに…一度、ちゃんと話をしてみたかったのよね。───王国の“英雄少女”と」

 

(!?)


 ルーチェは驚いてマウナを見上げる。

 

「え、英雄少女? コイツがか?」

 

「えぇ。ただの冒険者ではないということよ。…行きましょうか」


 マウナが手を握る。

 

(に、肉球……ふかふか……!!)

 

「は、はい…!」


 ルーチェはマウナに手を引かれて、ザラムを通り過ぎていく、

 

「あ、おい! 置いてくなよ!」


 そうして三人は会議室へと向かった。

 

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