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絆ノ幻想譚  作者: 花明 メル
第三章 閉ざされた航路の果てへ
140/161

第140話 VS三幹部戦

遅れました、申し訳ないです。



「どうする? 殴り込む?」


 キールが問いかけると、テオは軽く首を振った。

 

「いや。ルーチェたちとがっつり離れるのは避けたい。後ろを気にしながら戦うのは性に合わないし……、せめて視界に入る位置で戦いたい。」

 

 テオはちらと馬車の方を振り返る。

 

「ま、馬車まで守ろうって訳じゃないよ。ルーチェとレオが張ってるならあっちは大丈夫だろうしね。それに───」


 テオの目が、滝の奥へと向いた。

 

「どうやら、本命のお出ましみたいだしね」


 その瞬間──

 

「…よぉ。うちの連中が、ずいぶんと世話になったみてぇだな」


 ごぉぉ……と滝の裏から風圧と共に現れたのは、明らかに只者ではない雰囲気を放つ男だった。


 褐色の肌に、金の目。

 その姿は人に近いが、首や腕には黒い鱗が浮かび、後頭部に反り返るように伸びた双角が、確かな異種の証を物語っていた。


 胸元を大きく開けた上着からは鍛え上げられた肉体が覗き、首には重厚な金の首飾り。黒地に赤裏の外套が風に揺れ、その存在を誇示するように広がる。


 その眼差しは、戦場の空気を一気に張り詰めたものへと変える。 

 

「あーあ、やっぱりこうなったかぁ…」


 男は軽く手を横に振った───そのわずかな動作とともに、ひとつの影が崩れ落ちる。

 

「何でもするから入れてくれ、って頭下げてきたから入れてやったのによぉ。牙鱗団の名を汚すようなダセェ真似してんじゃねぇよ…」


 次の瞬間、宙を舞ったのは───“先程逃げた男”の首だった。


 地に転がる生首を、男は冷ややかな目で見下ろす。

 

「お前、要らねぇわ」

 

───その空気に、キールとテオの目が細く鋭くなる。

 

「報告じゃよぉ、中々の上玉がいるって聞いてたんだが…姿は見せてくれねぇのか? 俺、イイ女には目がなくてさ」


 男はふざけたように指をクイクイと動かす。 するとその後ろから、足枷と鎖で繋がれた二人の女──金髪のエルフと、黒髪の人間の女性が引きずられるように現れた。


 ルーチェは馬車の帆の隙間からそれを見て───息を呑んだ。

 

(……っ、奴隷!?)


 脳裏に過ったのは、あの日──ドレステルで見た、あの時の記憶。


 そして、馬車の傍らに控えていたレオもまた、わずかに牙を見せた。

 

『……竜人(ドラゴニュート)風情が』


 その心の声には、怒気のようなものが滲んでいた。


「そういや、自己紹介してなかったな?」


 男は髪をかき上げながら───


「ギル=ファルドラグ。牙鱗団(がりんだん)のリーダーだ」


 ギルはニヤリと笑いながら、そう言った。


「……で? いい加減出てきてくんねぇのー? 俺はあんまり焦らされるのが好きじゃねぇんだよ。それとも、かっこいいお仲間が殺されるまで様子見してるかー?」


 ルーチェはビクリと肩を震わせた。


『安い挑発です。聞き流してください、お嬢様』


 リヒトの声に、ルーチェは息を吐いた。


「……あの子に話しかけたいなら、まず俺らを通してくれない? ───“海喰い”のギルさん?」


 テオがそう言った。


「あ? ……なんだ、知ってんのかよ、俺の事」


「ガルヴェで聞いたんだよね、アンタの噂は色々と」


「そうかよ…。別にどんな噂だろうと知ったこっちゃねぇが、部下の目的はともかく、俺の目的はその馬車の中にいる女だけだ。後は…バラして適当に売り捌くか」


 その言葉に、後ろに控えていた幹部らしき数名と下っ端達がニヤニヤとしながら動き出す。


(多勢に無勢すぎるんじゃ……)


『いけませんお嬢様、狙いは貴女なのですから、ここにいてください』


 リヒトは強くそう言った。 


 ギルの背後にいた部下たち──粗雑な鎧を纏った大柄な男たちが、ざっざっと地面を踏みしめ、馬車を囲むように散開し始めた。

 

「さて、どうすっかな……」


 ギルは退屈そうに首を鳴らした。

 

「お前らが逃げ出すのか、ここで全滅すんのか──ま、それはどっちでもいいが。俺ぁあの女さえ手に入ればそれでいい」


 視線が、馬車の帆越しにルーチェを貫いた。


 ルーチェは思わず息を呑んだ。体の芯が凍るような、獣に狙われる獲物のような視線──。

 

「……っ、」

 

『いけません、お嬢様。動揺してはいけない。貴女の“力”を、この者たちに見せてはならない』

 

 リヒトの言葉に、ルーチェは拳をぎゅっと握った。


 今、自分が動けば──オルトも、積荷も、村の信頼も守れない。

 

「…お姉ちゃん…怖い…?」


 かすかな声が、隣から聞こえた。

 

「大丈夫だよ、オルト。大丈夫だから…」


 震える指先を、ルーチェはオルトの手に重ねる。


 その一方、前線に立つテオとキール。

 テオは肩を軽く回すと、キールに視線を送った。

 

「ねえ、キール。こっち、十人以上いそうだけど、流石にこれだけの数相手にするのはめんどくさいんだけど…」


「んー…じゃあこうする? ───《疾風波(ゲイルウェイブ)》!!」


 キールが手を前に押し出すと、突如、激しい風が巻き起こり、地を這うように吹き抜けた。突風は牙鱗団の下っ端たちを一掃するように襲い、彼らは悲鳴を上げながら滝壺へ、あるいは崖の下へと吹き飛ばされていった。


 残されたのは、リーダーのギルと、その傍らに控える幹部たち。まるでそこだけ風の影響を受けなかったかのように、彼らは微動だにせず立っている。

 

「これで、二対四でしょ」


「あぁ」


 ぷるるがテオの頭の上にぴょんと飛び乗り、もにょもにょと体を動かした。まるで何かを訴えているようだった。


「あーごめんごめん、三対四ね」

 

「ぷるるも今は大事な戦力だからね」

 

「まあでも親玉はまだ動く気ないっぽいから、実質三対三?」

 

「警戒は緩めずに行こう…。誰が誰の相手する?」


 目の前にいるのは、鎧を着た豚顔の獣人、暗殺や諜報をしていそうな黒い装束を着た猫の獣人、大きな翼が特徴的な鳥の獣人だ。

 

「キールにはあの羽男を相手して欲しいかな。風魔法だったら、飛ぶ相手ともやり合えるでしょ?」

 

「うん、僕はそれでいいよ。二人は?」

 

「ぷるる、どっちがいい? 俺はぶっちゃけ、どっちでもいいんだけど」


 ぷるるはぴょーんと高く跳ね、猫耳の女の前に凛とした顔で着地した。

 

「じゃあ俺はあのオーク顔ね」

 

「オーク…オークって言ったのかぁ!?」


 豚のような顔の獣人が怒りを露わにする。


「オラは《剛獣族(ごうじゅうぞく)》のバトン! オークじゃねくて豚人族だっ!!」


 鎧に身を包み、巨大なメイスを握ったバトンは、地面をドシンドシンと踏み鳴らしながら怒鳴った。


 テオは一歩前に出て、肩をすくめながら口角を上げた。

「へぇ〜? 俺にはその違い、ぜんっぜん分かんないけど?」

 

「ヒョロヒョロ人間は頭悪いだなぁ〜!」


 少し訛った口調でテオを嘲るバトン。

 

「そっか。じゃあ切り刻んで、焼き豚にしてやるよ」

 

「ぐちゃぐちゃに潰してやるんだなぁ!!」


 二人はほぼ同時に地を蹴った。


「フンッ───!!」


 バトンがオレンジ色の魔力を纏わせたメイスを、地面に叩きつける。瞬間、地面を走るように衝撃波が広がり、砕けた地面の破片がテオに向かって迫ってきた。


 テオは軽やかな身のこなしで跳ねるように回避すると、手の剣に青い魔力を流し込む。

 

「《水流剣》…」


 魔力が水へと変化し、剣全体を包み込む。


 そのままバトンの懐へと踏み込み、鎧と篭手の隙間から覗く腕の肌を斬りつけた。

 

「ぐっ…!」


 バトンが苦悶の声を漏らし、怒りに任せてメイスを横凪ぎに振る。


 テオはすぐに数歩後ろへと退く。


 すると、テオの着地した足元が盛り上がった───《危機感知》が警告を発する。

 

(やば…っ!)


 飛び退いた直後、そこから鋭い土の棘が突き上がる。


 もし反応が一瞬でも遅れていれば、身体ごと縦に貫かれていた。


 テオは息を吐きながら再び走り出し、位置を変えながら剣を低く構える。


 バトンはドシドシと踏み込みながら、棘を次々と生成。


 気づけば一帯は、まるで鉄条網のように土の棘で囲まれていた。

 

「しゃーなしか……」

 

「口ばっか達者で、ちょこまか走り回るだけかぁ? 大したことねぇんだなぁ?」


 バトンは鼻で笑う。

 

(好きに思ってろ……)

 

「《水流裂斬》───!」


 見た目には大きな変化はない。だが、剣を包む水の魔力が澄み、密度を増し、僅かに振動していた。

「なんだぁ? 何もしねぇのかぁ? じゃあもう潰れちまえぇ───!」


 バトンがメイスを高く掲げ、オレンジの魔力が光を帯びる。


 テオは構えを低くしたまま、真正面から突っ込んだ。

 

(全部───斬り捨てる!)


 メイスが振り下ろされ、剣が振り上げられる。


 鋭い衝突音が山に響き渡った。


 ギリギリと軋む音の中、ついに「ガキン!」と金属の砕ける音が響き、メイスの柄がへし折れた。


 次の瞬間───切り返した剣が勢いのまま地面まで振り下ろされる。


 バトンの重厚な鎧に、深く鋭い線が走った。


 皮膚ごと切り裂かれ、縦に走る傷から赤い血が噴き出す。


 バトンはそのまま地面に崩れ落ちた。

 

「な、なんでだ…?」


 倒れ伏したまま顔を上げ、震える声で問うバトン。

 テオは肩に剣を担ぎ、涼しい顔で応えた。

 

「……知らないの? 水って、金属も切れるんだよ。ま、詳しくは教えてあげないけど」


 そして、べーっと舌を出してみせた。


 バトンの巨体が倒れ伏す音が響いた。



 


 だが、その余韻を味わう間もなく───


 ぷるるの頭上を、細いワイヤーがビュンと横切った。

もう一本のワイヤーが、今度は地面スレスレに走る。


 ぷるるは《水圧推進(アクアジェット)》のスキルを使い、水をブシャアと噴き出して空へと跳んだ。

 

「貰ったよッ───!」


 ぷるるが相手をする猫人族のヴァネッサが短剣を手に、空中のぷるるを狙う。だが、ぷるるは放出する水で軌道を変え、空中で器用に回避する。

 

「こんのッ───ちょこまかと!!」


 攻撃をかわされ続けたヴァネッサの顔に、次第に苛立ちが滲んでいく。


 上空に跳んだぷるるが──

 

「ブシャアアアッ!!」


 と、ヴァネッサに向かって勢いよく水をぶちまけた。

 思わぬ水撃に、ヴァネッサは思わず頭を振って目元を押さえる。

 

「こんのっ!!」


 怒声と共に、ヴァネッサはワイヤーを放った。


 しかし、ぷるるは即座に《縮小化》を発動。


 ギュンッと体積を縮めて、ワイヤーの間を華麗にすり抜ける。

 

 ヴァネッサは袖で目を拭いながら、周囲の気配を探る。

そして、上を見上げた──そこには、ふよふよと宙に浮かぶ、ぷるるの姿。

 

「……フン」


 したり顔でヴァネッサは再びワイヤーを放った。


 ヒュンッという鋭い音が空を裂き──ワイヤーが、ぷるるの身体を真っ二つに切り裂いた。

 

「ぷるる──!?」


 テオの動揺した声が響く。だが次の瞬間、真っ二つにされたはずのぷるるの身体が震え、そこから水の刃が生えた。

 

「───ッ!?」

 

 分裂した二体のぷるるが、高速回転を始める。


 回転しながらヴァネッサへと突進し──その鋭利な水刃で、彼女の両腕の腱を切った。


 ナイフを落とし、糸の切れた人形のように崩れるヴァネッサ。

 

「くっ…このアタシが…スライム如きに……!」


 悔しさを滲ませる彼女を見下ろしながら、ぷるるは小さく、しかし確かに──勝ち誇った表情を浮かべていた。



 

 

 その頃───キールは空を飛ぶ鷹獣人の幹部、シャフを追っていた。


 とはいえ、キール自身に翼はない。風の魔力を足場にすることで空中を駆けているに過ぎない。

 

 シャフが翼を広げると、羽ばたきに合わせて緑の魔力が散り、羽の形を保ったまま無数の刃となってキールに降り注いだ。

 

「《防壁凪(シールドカーム)》!」


 キールは咄嗟に風の壁を展開。あ渦巻く風が魔力の刃を逸らしていく。

 

 すぐさまカウンターとして風の刃を放つが──

 

「無駄だ。お前の攻撃は、俺には遅すぎる」


 シャフは旋回しながら、容易くそれを回避してみせた。

 その動きには、まさに空を支配する者の余裕がある。

 

(確かにそうかも……でも、貴方の飛び方の“クセ”、そろそろ見えてきた……)

キールは口元を引き結び、さらに魔法を連発する。

 

「《風刃(ウインドカッター)》!──《風刃(ウインドカッター)》!」


 刃は明らかにシャフに当てるためではなく、“ある一点”へと導くために放たれている。


 シャフは気づかず、その位置へと近づいていった。

「───《異点槍(ポイントランス)》!」


 キールが虚空に槍を突き出すと、槍先が渦を巻きながら一瞬で消失した。


 そして次の瞬間──シャフの通過点に、槍先が突如出現。その脇腹をかすめるように切り裂いた。

 

「ぐっ…この程度で───!」


 シャフがキールの方を睨む。

 だが、そこには誰もいない。

 

「消えた──?」


 シャフが周囲を見渡す。

 そして、上を見上げたその時───

 

「《空圧の槌(エアハンマー)》!!」


 頭上に現れたキールが、手を振り下ろす。


 圧縮された空気が巨大な質量を持って叩きつけられ、シャフの身体は地へと一直線に落下していく。


 圧縮した空気の塊の直撃に抗う術もなく、シャフはそのまま地面へ激突。


 ズゥン──と重い音を立てて地面が半円状に陥没し、その中心には、大の字に倒れて動かないシャフの姿があった。


 キールは静かに降下し、風に揺れる髪を抑えながら、シャフを見下ろす。

 

「ふぅ……なんとか、勝てたかな」


 《牙鱗団(がりんだん)》三幹部戦は、見事にキールたちの勝利で収めたのである。

 


直前で調整やら修正なんてするものじゃないね…。

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