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絆ノ幻想譚  作者: 花明 メル
第三章 閉ざされた航路の果てへ
121/156

第121話 公爵家へと

どうも、作者の花明メルです!

お待たせしました!三章ついに始まりましたね!

なるべく最新話を早め早めにお届けできるように努めますので、気長にお待ちいただける嬉しいです。



 ドレステルを出発してから約十日。

 ルーチェたちは王都へと戻ってきていた。



 

 しかしルーチェは王城ではなく、キールの実家──ランゼルフォード公爵家へと到着していた。


 鉄製の洒落た意匠の門を抜け、石畳の道を進むと、屋敷の前に広がる噴水が目に飛び込んでくる。


 その前で待っていた屋敷の使用人、老執事が恭しく頭を下げた。


「お帰りなさいませ、キール坊っちゃま。そして、ルーチェ様、テオ様、オルト様」


「ただいま帰りました、セバスさん」


 キールが挨拶を返す。

 ルーチェ、テオ、オルトの三人もセバスへと軽く会釈した。


「奥様が皆様のお帰りを、今か今かとお待ちでございます。まずはお顔を見せて差し上げるのがよろしいかと」


 セバスはそう告げながら、玄関の両開きの扉を静かに開く。


「ルーチェちゃん!! 来たわね!!」


 その隙間から、勢いよく飛び出してきた女性が、勢いそのままにルーチェを抱きしめた。


「ふぎゅ!!」


「ああ〜! やっぱり小さくて可愛らしいわ〜!!」


「は、母上! ルーチェさんが苦しがっております、離してあげてください!」


 キールが慌てて声を張り上げ、ようやく女性は腕を緩める。


「ぷはっ……!」


 息を吸い込んだルーチェが顔を上げると、そこに立っていたのは以前一度だけ会ったことのある──公爵夫人、エリーゼ・ランゼルフォードだった。


「あらあら、ごめんなさいね。久しぶりに会えたと思ったら嬉しくて……」


 エリーゼは少し頬を赤らめながら微笑む。


「お、お久しぶりです、エリーゼ様……!」


「ふふ、覚えていてくれて嬉しいわ。怪我はしていないかしら?」


「はい、無事に戻りました」


 エリーゼの視線が、ルーチェの後ろでちょこんと立っている獣人の少年に向けられる。


「あらあらあら! 噂の獣人族の子って……もしかしなくても、この子かしら?」


 彼女はドレスが汚れるのも気にせず膝をつき、オルトと同じ目線まで身を落とした。


「初めまして、オルトくん。私はキールの母、エリーゼよ。よろしくね」


 母親らしい温かな笑みが、オルトへと向けられる。


 ルーチェの後ろから様子をうかがっていたオルトは、控えめに尻尾を揺らしながらエリーゼを見つめていた。


「オルトくん、大丈夫。怖くないよ」


 ルーチェも隣にしゃがみ込み、優しく声をかける。


「は……初めまして……。ぼ、僕……オルト……です……」


 途切れがちな小さな声。

 それでも懸命に紡がれた言葉に、エリーゼは思わず口元へ手を当て、目を輝かせた。


「まあまあ……! ちゃんと挨拶できたのね〜。嬉しいわぁ!」


 その喜びように、オルトは安心したように尻尾をほんのり振る。


「奥様。玄関先でお客様を立ち止まらせてしまっておりますよ」


 控えめに声をかけたセバスの言葉に、エリーゼはハッとして姿勢を正した。


「そうだったわね! だめね私、つい嬉しくて……」


 エリーゼは立ち上がり、ルーチェたちへ微笑む。


「まずはゆっくり休んでちょうだい。テオくんは前に使っていた部屋を。ルーチェちゃんとオルトくんには、その隣の部屋を用意してあるわ。セバス、案内をお願いね」


「かしこまりました、奥様」


 深く一礼したセバスがルーチェたちを案内し始める。その背を見送りながら、残ったキールは母エリーゼへ向き直った。


「母上、突然のお願いだったのに……その、ありがとうございます」


「いいのよ。王城よりもこちらの方が、オルトくんに負担が少ないという理由もよく分かっているわ」


──今回ルーチェたちが王城へ戻らず、公爵家を訪れたのはオルトのため。


 まだ人混みに慣れない彼を、大勢がひしめく王城へ連れていくのは酷だと判断し、ルーチェの帰還前にエリーゼへと相談していたのだ。


「それにね、突然だとしても……こうしてルーチェちゃんと過ごす時間をもらえたのだもの。私はとても嬉しいのよ」


「母上……」


「キール、あなたが素直に頼ってくれたことも、母としては嬉しかったわ」


 その柔らかな言葉に、キールはわずかに目を見開き、すぐに表情を引き締める。


「……感謝いたします、母上」


 深々と頭を下げるキールの姿に、エリーゼはふんわりと微笑んだ。



 

***


  


「では、ルーチェ様とオルト様はこちらのお部屋をお使いください」


 セバスに案内され、二人は用意された客間へと入る。


「わぁ……広いお部屋だね、オルトくん」


 ルーチェは荷物をそっと床に置きながら感想を漏らした。


「……お姉ちゃん……ここ、使っていいの?」


 控えめに尋ねるオルトの声は、まだどこか不安げだ。


 ルーチェは自分の外套を脱いで椅子に置くと、その流れでオルトの外套も優しく脱がせてあげる。


「大丈夫だよ。私たちが泊まるために、公爵様がちゃんと用意してくれたお部屋だからね」


「……そっか……」


 オルトはようやく安心したように返事をすると、そろりとベッドへ近づき、ポフポフと表面を叩いて感触を確かめた。


「オルトくん、少し休もっか?」


 ルーチェは覗き込むように尋ねる。


「……うん。お姉ちゃんは……?」


 心細さがまだ声に滲む。

 ルーチェはふっと微笑み、少し考えるふりをしながら言った。


「……じゃあ、一緒に寝よっか」


「……うん」


 二人は並んでベッドに横になった。

 ふかふかの布団が身体を包み、張り詰めていた空気がゆっくりほどけていく。


 ルーチェとオルトは、しばしの安らぎを得るように、静かに目を閉じた。




***




 キールが廊下を進み、客間の方へ向かうと──


 ルーチェたちの部屋の前で腕を組み、じっと扉を見つめているテオの姿が目に入った。どうやら中の様子を探っているらしい。


「テオ? 何してるの?」


 声をかけると、テオがこちらを振り返る。


「お、キールじゃん。……何って、中の様子をちょっと確認してただけ。どうも二人ともお昼寝中っぽいんだよな。キールは何しに来たわけ?」


「母上がお茶でもどうって言っていて……でも、今は休ませた方がいいだろうし、後にすると伝えておくよ」


「おー。じゃ、俺も自分の部屋で少し休むわ」


 そう言ってテオは軽く手を振り、自室の方へ戻っていった。


 テオが見えなくなったのを確認してから、キールはそっと扉へ手をかける。最小限の音で開かれた扉の隙間から、部屋の中へ視線を滑らせた。


 そこには──ふかふかのベッドで並んで眠る、ルーチェとオルトの姿。


 オルトはルーチェの服を抱きしめるようにして眠り、ルーチェは穏やかな寝息を立てていた。


 その光景に、キールは思わず目尻を緩め、静かに微笑んだ。


「……ゆっくり休んでくださいね」


 誰にも聞こえないほど小さくそう呟くと、扉を再び静かに閉じた。

  

 

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