第119話 リヒトとレオ
遅くなりました&修正しました!
ほんとすみません!
馬車に揺られて数日。
「ルーチェさんや、聞いていいかい?」
冗談っぽく話しかけたのは、馬車の中でだるそうに横になっていたテオだ。
「どうしたんですか? 変な話し方して……」
ルーチェは、ぷるるとアミティエの転がり遊びを観察するのをやめて、テオの方を見た。
「いやさ、ずっと思ってたんだけど……ルーチェって《絆の光》の光属性と、ノクスの影属性の魔法を使うところは見るけどさ、他の属性はほとんど使わないよね? 何で?」
テオの問いに対して、ルーチェは少し考えた。
「そうですね、理由があるとするなら……慣れてないから、でしょうか?」
「「慣れてないから?」」
ルーチェの回答に、キールとテオの声が重なる。
ルーチェの隣に座るオルトの耳もピクリと動く。
「……その、なんというか、使おうと思えばもちろん使えるんです。ぷるるの水魔法とか、シアの風魔法とか、使ってるところ見たことありますし、キールさんやテオさんというお手本もいますから、使えないことは無いんですけど……」
『でもあるじ、たまにおみずもつかうー。おみずびゅーって』
ぷるるがぷにょぷにょと体を揺らしながら言う。
「まあ確かに、野営の準備の時とか、そういう日常の時は水魔法使うけどね」
ルーチェはぷるるの言葉に同意するように、ぷるるを見ながら言った。
「けど、戦闘となると、結局使い慣れた光魔法に落ち着いちゃうんですよね」
ルーチェがキールとテオを見てそう言うと、オルトが控えめに手を伸ばし、ルーチェの袖を引っ張った。
「お姉ちゃん……その、この子は?」
オルトはアミティエを指さした。
「アミティエ?」
「うん。アミティエは……どんな魔法使うの?」
ルーチェはちょっと気まずそうに唸った。
「うーん……実はね、アミティエはまだ魔法が使えないんだ。幼虫の個体だからね。実はどんなこと考えてるかも私には分からなくて」
「え、そうなの? じゃあいっつもどうやってコミュニケーション取ってるわけ?」
ルーチェはぷるるとアミティエに視線を向ける。
「いつもは、ぷるるにアミティエの気持ちを訳してもらったり……」
(あとはリヒトに訳してもらったりとか、だね)
ルーチェが心の中でそう呟くと、リヒトの声が響く。
『お嬢様。実は私にも、アミティエ様の意思は分かり兼ねるのです』
(え、そうなの!?)
ルーチェは心の中で驚きの声を発した。
『実は私も、ぷるる様を通じて、アミティエ様の意思をお嬢様にお伝えしておりました』
(そうだったんだ……意外……)
『理由としましては、アミティエ様の存在と言いますか、心の声が“小さすぎる”というのが要因かと思われます』
「小さすぎる……?」
リヒトの言葉に、ルーチェは思わず呟いた。
「何が小さすぎるって?」
「えっと、アミティエの心の声……というか意思がとても弱くて、私では感じ取れないみたいで」
「なるほど、弱い魔物、そして幼体であるが故……ということなのでしょうか? 意思がとても微弱なのかもしれませんね」
キールが腕組みして考えるように言った。
「へぇ、ならそんなアミティエとコミュニケーション取れてるぷるるは凄いってことだね」
テオがぷるるのスライムボディを優しく撫でる。
『えへへー、あるじー、ほめられたー!』
ぷるるは跳ねるように震えることで喜びを表した。
「ふふ、嬉しいね、ぷるる」
ルーチェも嬉しそうに微笑んだ。
「そういえばルーチェさん。私も一つ聞きたいことがあるのですが……」
キールがルーチェを見つめながら言った。
「はい、何でしょうか?」
「ルーチェさんは、一度に2、3体くらいしか契約魔物たちを出しませんよね。それには何か理由が?」
「あ、それですか……。出さない……じゃなくて、今のところ3体までしか出せないんですよね」
「それは能力や魔力的な制限ということですか?」
「はい、何回か試したんですけど、3体が今の私の限界で……」
ルーチェがそこまで言うと、テオが思い出したかのように起き上がる。
「あ、そういえばさ、あの精霊獣と仮とはいえ契約して、何か変化とかあったりするの?」
「んー……今のところは特に。魔力量の容量が増えた感じと、光魔法の力というか、うーん、なんというか、出力する量が……増えた? 大きくなった? そんな感じがします」
「いや、十分変化あるじゃんか……」
呆れたようにテオが言った。
「あはは、でも負担とかはないですよ! とっても元気です!」
ルーチェはニコニコと微笑んだ。
「そ? ならいいけど、無理はしたらダメだよ?」
テオが優しくそう言った。
「ルーチェさん、くれぐれもご無理なさらずに。何かあれば我々に相談してくださいね」
キールも心配そうに言った。
「はい!」
***
《魂の休息地》内部。
部屋のような空間。そこに唯一置かれた椅子に座っていたリヒトは、立ち上がるとシアの元へ向かった。
「シア様。申し訳ございませんが、しばしの間、私の代わりに、あちらの席に居ていただいても?」
リヒトがそう言うと、シアは立ち上がる。
「世話が焼けるわね。いいわよ」
シアはルンルンとしっぽを揺らしながら、椅子の方へと向かった。
リヒトはその様子を一瞥した後、部屋の端にどっしりと座っている精霊獣レオの元へと向かった。
「レオ様。体調の方はいかがでございますか?」
レオは片目を開けてリヒトを見る。
「……問題ない。我は精霊獣だ。囚われていた時の傷など、とっくに癒えている」
「それは何よりでございます」
リヒトは丁寧に礼をした。
「それよりも……だ。リヒトと言ったな?」
「はい。ルーチェお嬢様の忠実なる下僕であり、執事のリヒトにございます」
「……貴様も我と同様の……いや、我とはまた違った異質さを持っているな。神によって直接創られた……精霊リヒトよ」
「異質……ですか。確かに、この世界においては異端であると、自覚しております」
「……大切な主に、言ってやらなくて良いのか?」
「……何を、でしょうか?」
リヒトは穏やかな顔のまま問いかける。
「フン……この世界において、本来であれば……人一人につき、精霊一体と契約するのが常識。それは契約者本人の裁量に関わらず、肉体的・精神的な負担が大きい故、そのように定められている」
リヒトは僅かに息を吐いた。
「あの娘は現在、我とは仮契約とはいえ、事実上2体の精霊と契約していることになる」
「なるほど、だから仮契約を?」
「フン……なんの事だ?」
レオは顔を背けた。
「レオ様はその事実を見抜いていたからこそ、お嬢様の身を案じて、仮契約という形にしたのでは?」
「知らんな。我はただ友になりたい、帰してやりたいなどと夢見がちなことを言う娘を見極める為に、敢えて仮契約としたのだ。……おかしなことを言うな」
レオはリヒトを睨んだ。
「……そうでしたか。それは失礼いたしました。失言をお詫びいたします」
「フン……食えぬ男だ」
レオは呆れたように鼻を鳴らすと、伏せて眠りにつく。
「……おやすみなさいませ、レオ様」
リヒトはそう言うと、椅子の方へと戻っていった。




