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絆ノ幻想譚  作者: 花明 メル
第一章 光と絆のはじまり
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第1話 少女の願い

初めまして、花明(はなあかり) メルと申します。

幼い少女の成長物語、ゆるーくお付き合いいただけると嬉しいです。





 その少女は、病院のベッドの上で人生を終えた。




 少女の名前は天宮(あまみや)ひかり。年齢は14歳。

 生まれつき体が弱く、特に呼吸器系に持病を抱えていた彼女は、幼い頃から入退院を繰り返す日々を送っていた。


 家の外で走り回ることもできず、動物と触れ合うこともできず、ただ淡々と与えられた時間を生きていた。


───そしてある日、医師が口にした病名は、今の医学では治せないものだった。


「……もうすぐ、死んじゃうのかな」


 自分でも、なんとなく気づいていた。けれど、それを真正面から突きつけられたとき、ひかりはただ静かに笑った。


 それから一年も経たないうちに、彼女は一人、病室で息を引き取った。

 誰に惜しまれるでもなく、祝福されることもなく、ただ静かに幕を閉じた14年の生涯。


───だが。


 


 目を開けると、そこには眩い光と、不思議な存在が立っていた。


「やあ、天宮(あまみや)ひかりさん。おはよう。気分はどう?」


 光に包まれていて上手く全体像が掴めない、若い気がするけど大人のようなしっかりした声音というか、ともかくよく分からないのだ。

 そんな謎の人物が、今ひかりに話しかけている。


「───君に、少しばかり謝らなければならない」


 それは“神”と名乗る存在だった。神曰く、本来ならもう少し長く生きられる運命だったはずなのに、偶然と不運が重なったことで、ひかりの人生は短く終わってしまったのだという。


「その償いになるとは思わない。だが埋め合わせの提案だけさせてくれ。天宮(あまみや)ひかりさん、もう一度別の世界でやり直してみないか?」


 生まれ変わる世界、それは「レーヴス」という名の異世界だった。魔法と剣、そして魔物が存在するファンタジー世界。だが一方で、決して平穏とは言いがたい過酷な現実もあった。


「……どうだろうか?」

 


***


  

 未練がない訳じゃない。


 父と母には普通の子以上に苦労をかけたと思う。


 同年代の他の子と公園で走り回ることも、休みの日に家族団欒(だんらん)で過ごすことも。テーマパークや動物園に出かけることも無かった。運動会も休んでたし、遠足や林間学校も行けなかった。


 それに、私が寝た後に、お金の事で喧嘩してたのも知ってる。

 

 母に一度だけ「どうして私はこんなに体が弱いの?」って聞いてしまったことを、ずっと後悔している。

 

 きっと私から解放されて楽だろう。もう喧嘩は終わったかな、小さい頃みたいに仲良しに戻ったかな。


───私は望まれた子だったのかな。


 いつもそんなことを考えていた。けど、それを聞ける訳もなく、何も知らないふりをして、なるべくワガママを言わないように、本を読んで大人しく過ごしていた。


 そんな私の心を支えてくれたのは、異世界の冒険のお話を綴った本だった。何回も何回も読んだ、栞を挟んだ跡が付くくらいに。

 主人公が仲間たちと共に冒険をし、世界を救う───そんなありきたりなお話。


 もし本当に、あの本みたいな世界に行けるなら……。

 


***

 

  

「神様。私は異世界に行きたいです」


 ひかりの言葉に、神はうなずいた。


「分かった。……もし望みがあるなら、聞こう。君が異世界でやってみたいことはあるかい?」


 神の問いに、ひかりは少しだけ考えたあと、ゆっくりと口を開いた。


「……私、昔、犬が飼いたかったんです」


 懐かしそうに、夢を見るように語るその表情に、神は一瞬だけ言葉を失った。


「でも……私、犬の毛で咳き込んじゃうからダメって言われて、飼えなかった。だから……」


 少女は神を見据えてから口を開いた。


「動物と仲良くしたいというか、……えっと、テイマーって言うんですかね……なってみたいです。魔物を仲間にして、一緒に旅をしてみたい。あの頃できなかった夢を、叶えてみたいんです」


 その純粋な願いに、神は少し困ったような顔をした。


「……テイマーか。あの世界では、厄介な立場にあるんだよ」


 異世界レーヴスにおいて、かつて魔物を使役したテイマーによって起きた大きな事件。それにより人々の恐怖と憎しみが募り、今や“魔物を操る者”は差別され、疎まれる存在となっていた。力を誤ればまた同じ悲劇が繰り返される───その危険性があると、神は正直に話した。


 けれど、ひかりは首を横に振った。


「それでも、やってみたいんです。……それが私の、憧れだったから。お願いします、神様。私をテイマーにしてください!」


 その言葉に、神は目を細めた。そして少しだけ迷ったあと、うなずいた。


「……ならば、君に一つの力を授けよう。かつて、たった一人だけに渡した、特別な力───《絆の光(コネクション)》だ」


 《絆の光(コネクション)》───それは心を繋ぐ魔法。言葉も種族も越えて、他者と通じ合う力。たとえ世界がそれを否定しても、歩み寄るための光。


「それと、もう一つ。私の代わりに、君を導く存在をつけておこう。彼は《絆の光(コネクション)》そのものから生まれた精霊。姿形は人間の男性の姿に似せたが、その本質は君の力の化身だ」


 神の掌から、柔らかな光が舞い上がる。そこには、黒い執事服に身を包み、優雅に一礼する一人の青年の姿が現れた。ピンク色の髪をなびかせ、穏やかな微笑みを浮かべている。


「初めまして、お嬢様。どうか、お好きなお名前をお与えください」

 

「お嬢様!? ……えっと……じゃあ、リヒト……光、って意味の名前……は、どうです…か?」


 ひかりの言葉に、精霊は深くお辞儀をした。


「リヒト、ですか。このような素敵な名前を授けて下さり感謝いたします。これより私は、リヒトとして貴女をお守りしましょう」


 神曰く、彼は普段はひかりの中に宿り、成長に応じて力を貸す存在となるという。その力は強大だが、今のひかりでは召喚することさえできない。きっと新たな絆を結んだとき、彼は再び姿を現すのだろう。


 レーヴスにも和の国があるものの、今の名前で異世界に行っては少し浮いてしまうかもしれないからと、光を意味する“ルーチェ”と、神が名付けてくれた。



 こうして、天宮(あまみや)ひかりは“ルーチェ”という新たな名と健康な身体を得て、異世界レーヴスへと降り立つ。


 人間族の住む大陸のヴァレンシュタイン王国、その西側に位置する花畑に囲まれた街、セシの街の郊外。そこが、彼女の第二の人生の始まりだった。



***


 

 誰も居なくなった空間で、神はため息を吐いた。


「まさか……あの子と同じことを言い出すなんてね。せめて同じ末路を歩まぬように、少しばかりの祝福を」


 そう呟いた神は踵を返し、光の中に消えていった。



***

 


───これは、ひとりの少女が再び歩き出す物語。

 

 過去の夢と、未来の絆を胸に抱いて。


 

読んでくださり、ありがとうございます。

これが初めて書いた作品なので、駄作かもしれません。

なので、生暖かい目で見ていただけると…。



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