第6話 医務室にて
気が付いたら医務室にいた。
ある意味で暴走していたアザレーからどう降りたのかすら覚えていない。
ぐでんぐでんに乗り物酔いした僕にアザレーが【お願い!私の中で出さないで!外で外で出して!!汚れちゃう!】とか、人が苦しんでるのに「下ネタか!?」とツッコミ入れたくなるような事を言われた事だけは記憶の片隅にはある。
それに従って、必死になってコックピットから出た僕も僕なのかもしれないけど……
身体中が痛くて、所々に痣があるのは、もしかしてコックピットから落ちたのだろうか?
もしかして頭から落ちた?何も覚えてないのは、そのせいって可能性もあるな。
それにしても、暴走した機体から助けられて、気が付いたら医務室、か……
「……知らない天井だ」
滅多に無いシチュエーションなので、とりあえずお約束的な事はつぶやいておく。
「知ってたら『お前、いつ忍び込んだんだ?』って疑問が出るが?」
きゃ~!?この部屋に僕一人しかいないと思ってつぶやいた一言聞かれた!?すっごい恥ずかしいんだけど!?
「気分はどうだ?点滴はしたが、ほぼ丸一日寝てたぞ……今は、お前が倒れた翌日の昼だ。わかるか?」
喋りかけてくる人物へと視線を向けると、そこにはアーネスト教官が立っていた。
「教官?あれ?今日の訓練は……?」
「お前抜きで午前の訓練、及び講義は進んでいる。今は昼休憩中だから、お前も大丈夫そうだったら午後の訓練からでも参加しろ」
なるほど、とりあえず状況だけは何となく理解できた。
本当に丸一日寝てたんだな僕……たぶんアザレー酔いだけが原因じゃなくて、普段やってなかった筋トレとかガッツリやった疲れとかもあったんだろうな。
とりあえず、酔いを悪化させる原因を作った、マイクとジェロムには後でゲンコツだな!
……いや、まぁ実際は、ヤンキー怖いからできないんだけどね。
「それにしてもお前……あんな操縦技術どこで習ったんだ?」
アーネスト教官は何を言っているんだろう?どこでも何も……
「え?アザレーから言われた通りに動かしてみただけですけど?」
「……は?」
あれ?アーネスト教官の顔が『何言ってんだ?』みたいな感じになってない?
それとも今の「は?」は『あんな滅茶苦茶な動きしたのをアザレーのせいにして、責任逃れしてんのか?』って意味だろうか?
「えっと……アレですよね?機動戦闘機ってAI的な人口知能みたいの付いてるんですよね?それに唆されただけなんですよ僕!可愛い女の子の声だったんで騙されたんです!本当です!悪いのは全部アザレーなんです!」
一度他人のせいにしたのなら、訂正せずにそのまま他人のせいにしてやれ!
ってわけで、とことんまでに『僕は悪くない』アピールをしておく。
最低だ、って?知るか!!僕は怒られたくないんだ!
「可愛い女の子って……お前、頭大丈夫か?」
あれ~……?何か思ってた反応と違うぞ。
アーネスト教官の目がガチで、可哀想な奴を見る目になってない?
「そりゃあ操縦補助のために学習機能プログラム的なAIはあるが……普通に考えろ?物が自由意思で喋りだすと思うか?…………あ、いや!スマン!お前の趣味が、人形とかに話しかけるメルヘン趣味だと知らなかっただけで、趣味嗜好を否定するつもりはなかったんだ!軽率な発言だった。許してほしい」
話してる最中に、突然何かに気付いたかのように謝り出すアーネスト教官。
僕の趣味を勝手に創作するのやめてもらっていいですか?
「えっと……いえ、アザレーが可愛い女の子の声で話しかけてきた、ってのは冗談のつもりで言ったんで、本気にしないでください」
とりあえず、創作されそうな僕の趣味は否定しておく。
にしても、この世界の技術が進んでいるって言っても、さすがに機動戦闘機は喋ったりはしないのか……
じゃあ、あの声は一体何者だったんだ?
もしかして夢でも見てた?
いやいや。機動戦闘機の揺れやら振動やらで感じた、あの吐き気、というか気持ち悪さはハッキリ覚えてる。絶対に現実だろう。
「こんな時に冗談はやめろ……で?どうやってあんな操縦技術を身に着けた?」
再度アーネスト教官に詰められる。
どうしよう?どう答えればいいんだろうか?
「えっと……操縦ミスって転びそうになったから、焦って操縦レバーとか適当にガチャガチャやりまくってたらあんな感じに……」
格闘ゲームとかで、初心者が適当にレバーガチャガチャしてたら勝てちゃった、的なノリで誤魔化せないか試してみる。
まぁ無理だよね……だってゲームのコントローラーと違って、操縦するためのレバーやボタン滅茶苦茶いっぱいあるしね。
案の定、アーネスト教官の顔が、何ともいえないような、よくわからない表情になってるし……
「……謎の操縦技術……基地司令からの推薦……経歴……」
ん?アーネスト教官、何かブツブツ言ってる?
「なぁユウキ……もしや極秘事項なのか?」
「え……?あ、はい」
状況がよくわからないけど、とりあえず肯定しておく。
「お前、そういう事なら最初からそう言え……ったく、軽口が叩ける余裕があるなら午後からの訓練には参加できるな?遅れずに来いよ」
何やら納得したような表情でそれだけ言うと、アーネスト教官は医務室から出て行った。
え?『極秘事項』って何?そんな一言で何とかなっちゃうの?
…………軍隊ってチョロくない?




