表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/15

番外編1

 訓練校とはいえ、そこは軍の一部。

 死角のないように、いたる個所にカメラが設置われており、常に録画されている。


 その日の午後、格納庫付近で撮られた映像を306分隊の訓練生5人が無言で、食い入るように見ている。

 教官から「ユウキの初日の動きだ。チームメイトとして、ユウキの実力を把握しておけ」と言われて送られてきた物だ。

 内容を知らされていない5人は、全員が『ただ歩いているだけの退屈な映像』を想像していた。

 別にユウキ当人を馬鹿にしているわけではない。

 自分達の初日がそうだったので「同じだろう」と思う事は自然な事だ。

 マイクとジェロムは、映像を見てユウキを馬鹿にするようなちゃちを入れるつもりではいたが、内心では馬鹿にするつもりはこれっぽっちも無かった。


 しかし、そんなちゃちは、一切2人の口から飛び出す事はなかった。

 全員が、ユウキの操るアザレーの動きに釘付けになっていた。


「ユウキは……今、何している?」


「医務室だ。機動戦闘機から降りて緊張がゆるんだんだろう、凄まじい嘔吐を繰り返し、軽い脱水症状になり運ばれたらしい」


 映像を見終わった後、話題の当人の不在が気になったレイの質問にピーターが返答する。


「スゲェのかアホなのか、よくわかんねぇヤツだな」


 ユウキを馬鹿にするような発言ではあるが、いつも程の笑みの無いマイク。

 悪態はついても、映像を見た全員が、ユウキの操縦技術の凄さを理解しているのだ。


 訓練校に入学して約3か月。

 毎日のように機動戦闘機の訓練に勤しみ、操縦に慣れてきて段々自信がついてきた5人ではあったが、完膚なきまでに自信を打ち砕かれたような気分になっていた。


 格納庫から出て来た、最初の内は特に問題は無かった。

 5人が想像していた通り、ただ歩いているだけだった。

 当たり障りのない動きに、5人全員は「まぁやっぱり最初はこんなもんだよな」というような感想しか出てこなかった。


 しかし、その後だった。歩きながら突然メインブースターを起動し、バランスを崩し倒れこむ。

 誰もが「操作をミスしたな……」と、一瞬思ったが違っていた。


 ユウキはスラスターを上手く使いこなし、地面スレスレを超低空飛行し始めた。そのまま自然な動きで長刀を抜き、軽く上昇すると、その場で長刀を自由に操り、まるで舞っているような動きをする。


 機動戦闘機での剣舞。

 それは、機動戦闘機の操縦系統を知る人間からすれば、異常とも思える動きだった。


 人型の戦闘ロボットを、人間と同じ様に動かすには、複雑な操縦を必要とする。

 全ての動きをマニュアル操作すると、操縦できる人間はほぼ皆無となってしまうほど、複雑で緻密な操縦が必要になってしまう。


 なので、機動戦闘機は、ある程度、戦闘に特化する動作はオートで行えるようにプログラムされている。

 つまりは、剣舞を行う……踊る、という動作はオートで行えるプログラムには組み込まれていないので、ユウキはほぼ全ての動きをマニュアルで行っている。という事になるのだ。



「踊るのは……まぁ論外すぎるとして、この超低空飛行はどうやってんだ?」


 まず気になった部分をジェロムが口にする。


 機動戦闘機には、姿勢制御を自動で行うプログラムがある。

 ちょっとした動きで転んだりしないように、機体自体が勝手に制御してくれるので、操縦者は普段、操縦していて「転ぶかも……」という思考は一切抱かない。

 むしろ、攻撃を受けたわけでもないのに、自らで機動戦闘機の姿勢制御プログラムを突破して機体を転ばせるなど、不可能だと思われていた。


 そしてスラスター。基本は上空や宇宙空間での姿勢制御で使われるため、これもほとんどがオートで使用される事が多い。

 超低空飛行を行うための姿勢制御など、機体内のプログラムには組み込まれていないので、これもマニュアル操作しているといか思えない動きだった。


「メインブースターをおかしな使い方して、機体を転ばせて……スラスターはマニュアル?いや……動きが精密すぎる……機体のプログラムを書き換えた?何のために?……そもそも不可能だ……そんな時間もない」


 ジェロムの質問にピーターが、ある程度の想像で答えようとしたものの、次々と浮かんで来る疑問に答えを出せなかった。


「スラスターをマニュアルで、あそこまで精密に操作するのは不可能だ。スラスターを起動させた後はオートで行っているような気はするが……機体が操縦者の意図を完全に理解するなど不可能だ。だが、この動きは、ユウキが機体に『こうしろ!』と命令し、機体の姿勢制御プログラムが正確にユウキの命令に従った、としか言いようのない動きだ」


 ピーターの言葉を受け、アンディが思った事をそのまま口に出す。


「おいおい……機動戦闘機とお喋りできる、とかファンタジーか?ユウキは魔法使いか何かか?」


「だから、そうとしか思えない動きだ、と言っただけだ。それくらいユウキの操縦は常軌を逸している……私のこの答えが気に入らないというのなら、マイク。キミならこの動きをどうやったか説明できるのか?」


 悪態をついたマイクではあったが、アンディの質問に答える事ができずに、ただ黙るだけだった。


 ユウキの操縦は、上手いとか下手とか、そういった次元の話ではなかった。

 常軌を逸しすぎていて、どうやって操縦すれば、この動きができるのかすら、誰もわからないような状態だった。


「……俺でも、ユウキの操縦で1つだけわかる事があるぞ」


 少しの沈黙の後、黙らされていたマイクが口を開く。


「長刀を抜く時の動きはオート操作だったのは確かだ」


 それは全員が気付いた事だった。

 しかし、それは元を正せば、それ以外の動作は全てマニュアルで動かしている、という人間離れした結論に至ってしまう。


「ユウキが戻ってきたら、直接聞こう……」


 ピーターのこの言葉に全員が頷く。

 このまま5人で議論したところで埒が明かない事だけは理解できた。



 しかし、就寝時間を過ぎてもユウキが部屋に戻ってくる事は無く、5人はただ無言で眠りにつくのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ