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第5話 初操縦

【私に乗るヤツ等はね、み~~んな下手くそなのよ!わかる?そのせいで私の能力が低いみたいに思われて、ホント心外なのよね】


『最初にしては中々上出来だ。そのまま少し歩行速度を上げてみろ』


【アッカーシャハテとかレーヴァンなんて、私より機体スペック低い量産機のくせに、私の事を小馬鹿にしてくるのよ?ありえなくない?】


『よし!では少し慣れるまで、この周辺を歩かせてみろ。多少は走らせてみてもいいぞ』


 コックピット内に響き渡る2つの声。

 1つはアーネスト教官のインカムからの指示の声。

 そしてもう1つは、この場には不釣り合いな女性の声。


 いや、ホントどうなってるの?

 この世界のロボットって喋るの?ってか何で女の子ボイスなの!?不釣り合いすぎでしょ?TPOはわきまえようよ!?

 っていうか、この声って本当に、このロボットが喋ってるの?

 色々と頭が混乱しそうなんだけど、機体の操縦に集中しなくちゃならないから、上手く思考がまとまらない。


【あ、ゴメンゴメン。私ばっかり喋っちゃったわね。うっかりアナタの名前聞き忘れてたわ……何て呼べばいい?】


 あんだけ愚痴こぼしといて、本当に今更だなぁ……


「……淳。結城淳」


 初めての操縦で気を張っており、喋っている余裕もあまりないため、適当に名前だけ答えておく。


【ジュンね。変な名前ね……ま、覚えておくわ】


 たしかに、この世界で和名ってのは変かもしれないけど、そこは口に出さずにしておくのがマナーってもんじゃないのかな?ちょっとヘコむんだけど。


【で?ジュンはさっきから何してるの?同じ所を行ったり来たりして……何がしたいわけ?】


「何が……って、機体を動かす練習だよ……操縦初めてだし」


 あまり相手にしている余裕もないが、無視するのはちょっとアレなので、視線はモニターから離さずに、短めに返答する。


【初めて!?私のパイロットになる人間が、操縦初めてなの!?】


「ごめんね。でも事実だからどうにもできないんだ。悪いけど操縦慣れるまで我慢してもらえるかな?」


 既に型落ち機なのに、なんでそんなにプライド高いの?


【初めての操縦、ね……使えなくもないか……操縦技術は後から教え込めばいいとして……まずは私に乗る人間としてふさわしいだけの名声ってものは必要よね……】


 何か急に、意味不明な事ボソボソ喋り出して怖いんですけど!?この音声オフにできないの!?


【ねぇ、ジュン……ちょっと私の言った通りに操作してくれない?】


 いきなり何を言い出すんだこの声は!?


「いや。勝手な操縦したら教官に怒られるし。今は『歩く練習しろ』ってしか言われてないから」


 何事も波風立てないのが僕の信条だ。無駄な事して怒られるなんて、これ以上無駄な事はない。


【大丈夫よ。今から私が言うのは、カッコよく走ったりジャンプしたりする操縦方法ってだけだから。ジュンだって、ただ普通に歩いたりするよりカッコよくやった方がいいでしょ?】


 まぁ確かに……今の僕の操縦を傍から見れば、ただ地味に歩いているだけだ。せっかく巨大ロボットを操縦してるんだから、多少はカッコよく動かしたいって欲はある。

 でも本当に信用していいのか?この謎の声を?


【もしかして疑ってる?安心しなさいよ、私だって痛いのは嫌だから機体に欠損がでるような事はさせないわよ】


 確かに。本当にこの声の主が、この機体……アザレーだとしたら、自分を壊すような指示はださないかもしれない。


「わかった……じゃあキミの言った通りに操作してみるよ……でも本当に大丈夫なんだよね?後で教官に何か言われるの嫌だよ」


【平気平気。何も言われないわよ!】


 信用……してみよう。

 少しくらいカッコいい動きくらい問題ないだろう。

 それに、逸脱しない程度の、普通と違う操縦をすれば、後から「お前、初めての操縦なのによくあんな動きできたな!」とかチヤホヤしてもらえる可能性だってある。

 残念ながら僕も、承認欲求強めな現代っ子なのだ。


【じゃあ、歩く動きのままでもいいから、左足のペダルを全開まで踏み込んで、すぐに半分だけ戻してみて】


 左足のペダル?まだ教官から説明を受けてないけど、これって何のペダルなんだろう?飛び跳ねる系のやつかな?まぁとりあえず言われた通りやってみよう……


「!!!?」


 途端に機体が一瞬浮くような動きをした後、そのまま前のめりに倒れこんでいく。


「ちょ!!?コレ!?倒れ……!?」


【そりゃメインブースターをいきなり全開したら、姿勢制御できずに倒れるわよ……あ、左ペダルの反クラは維持してね】


「なっ!?機体欠損系は無いって……!?」


【ええ、ジュンが私の言った通りに動かせば壊れたりしないわよ……ほら、次は右奥のレバーでスラスター動かして姿勢を安定させないと本当に倒れるわよ。痛いの嫌だから早くして、大丈夫。ある程度は私の方で補佐するから】


 うわあぁ!!何か無茶苦茶な事言い出してるよ!?

 約束が違うってゴネたいところだけど、このまま倒れたら教官にマジ説教されるだけだ。それを避けるためには、今はこの声に従うしかない。

 必死になって、僕は右手奥のレバーを操作する。


【あ~違う違う。右手でそのまま操作すると、右手側の操縦が疎かになっちゃうでしょ?だからソレは右ひじで扱うのよ。ひじで押したり挟み込んで引いたりね】


 初心者に何無茶な注文してんのこの子!!?


【まぁいいか……そしたら右手前のレバーを軽く引いて……そう、そしたらグリップの親指部分の下にあるボタンを押して~~……はい!もう離していいわよ……次は左手前のレバーを前に倒して……右足で中央ペダルを軽く踏んで、あ、左足の反クラはまだ維持ね……そしたら左奥にあるレバーを軽く引いて、グリップの人差し指のところにあるスイッチを押し込んで…………】


 ひたすら言われた通りに操縦する。

 もう、そうしないとどうにもならない体勢になっている……というか、コックピットには、機体の外の景色が360度モニターに映し出されているのだが、どこに目を向けても、自分が今どうのように機体を動かしているのか……どのような体勢になっているのかがわからないほどグチャグチャに動いている。

 メインカメラが故障した、とか言われても素直に信じる事ができそうなくらい滅茶苦茶だ。


「おか……しいでしょ……この……動き……教官に何も……言われない動きしか……しないんじゃ……なかった……の!?」


 しっかりベルトで固定されているのに振動に耐え切れずに、上手く喋る事ができない。ってか気持ち悪い。吐かないのが不思議なくらいだ。必死になりすぎていて吐く余裕すら無いのかもしれない。


【そうよ。何も言われない……っていうか『何も言わせない』程の凄い動きを披露してるんじゃない】


 騙された!!完全に騙された!!

 今すぐ「ふざけるな!」って怒鳴って操縦するのを止めたい……が、今止めたら、姿勢制御も出来ずに機体がぶっ倒れる。この勢いで倒れたら絶対にどこかが壊れる。そんな事になったらもう目も当てられない。

 僕はただ、この自称アザレーが満足するまで、言われた通りの操縦をするしか選択肢がないのだ……



『お前……操縦…………本当に初めてなのか?…………そんな動き……どうやって……』


 通信機からアーネスト教官の驚愕した声が聞こえたような気がしたが、すでに僕は、その言葉の意味を理解できるほど冷静な思考能力は無くなっていた。

 ただ、早く解放されたい一心で、ひたすらに操縦レバーを動かすだけだった。


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