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第4話 機動戦闘機

 『機動戦闘機』。

 全長が約15m程ある、有人戦闘機だ。簡単に言えば巨大ロボットってやつだ。


 コレの操縦技術を磨く事が、僕等訓練生の最重要課題のため、午後の授業は全て、この機動戦闘機の操縦訓練にあてられている。


 基本的な姿勢制御等は、機械が自動で行ってくれてはいるが、細かい動きは操縦者の技術に左右される。……的な事を、先程アーネスト教官に教えてもらった。


 僕以外のチームメイトは、各自で機動戦闘機に搭乗し、今は射撃練習をしているようだが、初心者の僕は、現在アーネスト教官にマンツーマンで講義を受けている。


「……と、操縦の基礎はだいたいこんな感じだ。まずは歩いたり跳ねたりと、基本的な動きの練習だ。操縦レバーが自分の手足に思えるくらいには慣れろ」


 何か無茶苦茶な事言われてるような気がする。


「とはいえ壊すなよ。おさがりとはいえ、貴様に与えられてるのは高価な玩具だって事を忘れるな」


 この訓練校は、実際の軍事施設の敷地内の端っこの方に隔離されて存在している。

 まぁ本職の人達の邪魔にならないように訓練してね。というような感じで、基本的に訓練生と本職軍人さんが一緒になる事は滅多にない。

 ただ、訓練をするために必要な装備等は、本棟から訓練生棟へと送られてくる……型遅れになった物だけどね。それでも訓練生にとってはありがたい。


 そしてそれは、この世界のメイン兵器である機動戦闘機も例外ではない。

 それなりに使い込まれてはいるが、きちんと整備されているので動きに問題はないし、操縦系統も最新鋭機と大差はない。

 というか、最新鋭機なんて、よっぽどのエースパイロットでもないと乗れないので、そこまで気にするような違いはない。


「では格納庫に案内する……貴様が使う機体はシリルが使っていた機体だから、おさがりのおさがりになるが、機体に問題はないから我慢しろ」


 そう言いながらアーネスト教官は、座学用の教室から出て歩き出す。僕は急ぎ立ち上がり後を追う。


「言い忘れていたが、初授業を頑張ったせいで腹が減った、とか言って欲張って昼食を食いすぎたりしていないだろうな?機動戦闘機の動きは慣れないとキツイからな……初乗りだと8割程度の人間は吐くから注意しろ」


 何でそういう肝心な事を言い忘れてるの!?

 マイクとジェロムめ!やけに優しかったのはそういう事か!ガッツリと食べちゃったじゃんか!?

 事前に、酔い止め薬とかもらいたい気分だ。

 車とかで吐いたりすると、きちんと掃除しないと臭いが残るって聞くしなぁ……たぶんロボットのコックピットも同じだよなぁ……やっぱ自分で清掃しないとダメなのかな?業者とかにお願いできないかな?

 いやいや!ちょっと待て自分!まだ吐くって決まったわけじゃない!アーネスト教官の話だと、2割は吐かずに耐えてるわけなんだし、僕もソッチ側に入れれば何も問題ないんだ。


「ほら着いたぞ。アレが今日から貴様の愛機になる。大事に使えよ」


 グダグダとくだらない事を考えている内に、いつの間にか目的地に到着してしまったようだ。

 どうしよう?まだ完全には覚悟決まってないんだけど。


 顔と共に視線を上に向け、その機体を見上げる。


 一瞬、その迫力に目を奪われる。


 スラッとした人型で、右肩から背中に垂れさがるように固定されている、バカでかい刀の様な武器が付いている。

 背中の中央部辺りに、メインブースターっぽい物があり、さらに色々な箇所にスラスターや熱の排気口があった。


「3年前まで現役で使われていた、高機動試作機『アザレー』だ。結局、量産化は見送られたせいで、コレと改良型の『アザレーⅡ』しか現存する機体は無いが、現役で動いている量産機と性能的には大差ない機体だ」


 アーネスト教官から説明が入る。

 何だろう……『試作機』とか言う響きが良いね。凄く中二心をくすぶる。性能を試すために選ばれたパイロットしか乗れない的な特別な感じの。


 まぁ実際には、既にそのあたりの事は別の人が試して、結果量産化には落選したうえ「作ったからにはもったいないから使っとけ」くらいな扱いで使われた挙句、次々と生み出される最新鋭機達のせいで型落ち品になってここに来たんだろうけど……あれ?でもちょっと待って?


「あの……現役の機体と同程度の性能なのに、何で訓練校に送られてきてるんですか?まだ現役でも使えるんじゃ……?」


「ああ、実はコイツな……動きがピーキーすぎて、誰も乗りたがらないんだ。誰も乗らない機体を置いといても邪魔だ、って事で訓練校送りになったってわけだ。『この機体を乗りこなせれば、どんな機体も乗りこなせるようになるだろうから訓練生にはピッタリだ』とか適当な理由付けられてな」


 不憫な機体だ……


「まぁともかく、とりあえず乗れ!乗ってとっとと起動させろ。貴様は他の連中よりも遅れてるんだ、時間を無駄にするな」


 この機体を押し付けられた文句を言われるとでも思ったのだろうか、アーネスト教官は話を打ち切り、すぐに機体に乗るよう促される。

 別に文句を付けたいわけではないので、僕は素直にしたがいコックピットへと入り込み、事前説明を受けた通り、椅子に付いているベルトでしっかりと体を固定し、コックピットハッチを閉めてから機体を起動させる。


 僕が今までいた世界では、絶対に体験できない『巨大ロボットの操縦』を、現実でできるワクワク感と、ちゃんと動かせるかの不安感が入り混じる……いや、入り混じってはいるけど、ワクワクドキドキの方が圧倒的に多いぞコレ。

 きっとここから僕の伝説的な活躍がはじま……


【はぁ~……ど~せ私を乗りこなせるヤツなんていないのに、また性懲りもなく来たの?無駄よ無駄】


 突然、女性の声がコックピット内に響く。


「なっ!?だ、誰!?」


 驚いて思わず叫ぶ。


【え!?何この男!?急にひとり言とかキモすぎなんだけど!?】


 キモすぎって……僕の事言ってる?何でいきなり罵倒されないといけないんだ?


「いや!そもそも、いきなりひとり言言い出したのはそっちでしょ?誰なのキミ?」


 ちょっと腹が立ったので、謎の声に反論してみる。


【うそ……私の言葉わかるの?ってか何で喋れるの?】


 言葉わかるの?って、そもそも普通に日本語喋ってるのに何言ってるんだ?


「バカにしてる?で?誰なのキミは?」


【わ……私はアザレーよ。文句ある?】


 へぇー……アザレーさんって名前ね。


 …………


 ……え?『アザレー』?

 アザレーって、この機体の名前じゃなかったっけ?


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