第3話 初日午前
訓練校の朝は早い。
日の出と共に起き、即身支度を整えて点呼。そしてそのまま早朝の基礎トレーニングへと移行する。
装備品等を持っている想定として、重りを付けた状態で筋トレやジョギングを行う。ちなみに僕は、初回という事で、重りは免除してもらったが、重りを付けた他メンバー以下の活躍をして見事に全員の足を引っ張った。
その早朝トレーニングが終わると、遅めの朝食。
トレーニングでヘロヘロになっている僕は、吐きそうになりながらも、吐いたら他の訓練に耐えられなくなりそうに思えて、死なないために必死に食料を胃の中へとねじ込んだ。
味はまったく覚えていない。
その後は座学だ。
基礎教科も少々やりつつも、基本は実技も含んだ専門科目だ。
小銃の分解と組み立てとか、何で皆して目隠ししたままできるの?指先だけ別の生物みたいに見えて若干気持ち悪く思ったけど、それよりも本気で「すげぇ~……」とも思えた。
後は、実際に戦場で起こった例を出して「今ある情報はコレだけだ、お前等が指揮官だったらどう指示を出す?」とかいう、流石は士官候補生を育てる学校だと思えるような授業もあった。
言わずもがな。全てにおいて、僕は皆の足を引っ張った。
ピーターが「最初は皆そんなもんだったよ」とか励ましてくれたけれど、皆との差は2・3か月程度なので、現在のチームメイト達のスペックに、僕がその程度の日数で追いつけるとは思えなかったので、その励ましで、逆に惨めな気分になったのは内緒だ。
そんなこんなで、午前の講義が終わり、今は昼食中。
食堂のような場所で、指定されたテーブルにチームメイト全員で座っている。
周りを見てみると、食堂内の別テーブルには、同じような6人組が数組座って食事をしているので、紹介はされていないが、アレがきっと同期の別チームの面々なのだろう。
僕が所属しているチームもそうだが、どのチームも見た目十人十色な面子で、色々と濃そうな人達ばかりだ。
アレで本当に連携とかとれるのか心配にはなるが、よくよく考えれば、ここは軍隊の学校なので、性格が合わなさそうな連中とも連携する訓練なのかとも思えてくる。
「補欠とはいえユウキ。お前、よくこの学校受かったな?」
昼食を食べながらマイクが笑いながら話しかけてくる。
この士官学校は狭き門であり、少人数しか入学はできないのだが、補欠入学という制度が設けられているらしい。
厳しい訓練に耐え切れずに、最初の数か月で逃げ出す生徒が、毎年若干名いるというのだ。
そんな逃亡者のせいで、6人1チームの訓練ができなくなってしまわないように、合格ラインにギリギリ入れなかった数名を補欠として抱えているらしく、逃亡者が出た場合そこから補充される仕組みになっているのだそうだ。
もちろん、出るかどうかもわからない逃亡者を待つ事を諦め、補欠合格通知が来ても、他の進路を進んでいる人もいるため、お声がかかっても行くか行かないかは本人の自由だそうだ。
そして当然、僕の設定は、その補欠合格者だ、という事になっている。
……他に進路があるのなら、僕もお断りしたかった。
「ホント、僕もそう思うよ……」
受験した覚えもない試験に思いをはせつつ、やっぱりこの設定でも、僕の能力値的に無理があったんじゃないかと思えてくる。
「……にしても、皆凄いね。勉強も運動も、皆には全然追いつける気がしないよ」
話し始めたついでに、素直な感想を述べる。
「ピーターも言っていたが、ここにいる皆、最初から全てできたわけではない。キツイからと言って途中で投げ出さずに、最後までやり遂げられただけでも十分さ……なぁジェロム?」
「黙れアンディ。テメェぶっ飛ばすぞ」
アンディに突然話を振られたジェロムがキレだす。
こりゃアレだね。ヤンキーなだけあって、理不尽な厳しさに逆ギレでもして訓練途中でバックレた感じなのかも……世間一般的なヤンキーへの偏見かもしれないけど。
あくまでも個人の感想です。
「そう悲観するものでもないよユウキ。朝のトレーニングを見た感じだと、キミの反射神経は素晴らしいと思うよ。少なくとも僕等5人の初日よりも良い動きに見えたよ」
褒めてるつもりなのだろうかピーター……逆に「それ以外はクズ以下だ」と言われてるようで何とも言えない気分になる。
「そうだな……反射神経だけなら及第点をやってもいい」
自信家っぽいレイまでも、ピーターに同意して褒めてくれている。
……いや、それとも馬鹿にされてるのかな?正直どっちかわからない。
ともかく、僕は反射神経だけはいいらしい。今まで運動とかそこまで熱心にやってなかったから気にした事なかったけど、18年生きてきて初めて知った驚愕の事実だ。
それにしても反射神経の訓練ってどれの事言ってるんだろうか?
もしかして、自動球出し機みたいので、四方八方から大量に放出されたテニスボールっぽい球をひたすら回避させられたアレかな?
何の訓練なのかわからなかったけど、反射神経を向上させる訓練だったのかアレ……
怖くてひたすらに逃げ回ってただけだったんだけど……ひょっとして皆、逃げ回ってただけの僕を遠回しに馬鹿にしているだけなんじゃないのかな?
ヤバイ……そう考えたら、本気で自信なくなってきたぞ。
「ともかく、本番は午後からの訓練だ。僕達訓練生はコレができるかどうかで決まってくる」
え!?午後のがキツイ訓練なの!?大丈夫?僕死んじゃわない?
「新入りを脅すなよリーダー、可哀想だろ?ともかくユウキは頑張ってたじゃねぇか。よし!ご褒美に俺の昼飯のおかず一品やるよ」
「仲間想いじゃねぇかマイク。そうだよな、コイツは俺達のチームメイトだもんな。そういや、ちゃんと歓迎してなかったな……よし!じゃあ俺もオマエに一品おかずをやるよ。遠慮せずに食えよ!歓迎の証ってやつだ」
突然マイクとジェロムが、自分達の昼食のおかずを一品づつ僕に渡してくる。
確かに昼食の量は、ちょっと少な目だなぁとか思ってたところだけど……この2人ってこんなに良いヤツだったっけ?凄いニヤニヤと下卑た笑みを浮かべてるのが気になるんだけど!?
他の3人に視線を送ると、3人とも「はぁ~……」と息を吐きながら苦笑いしている。
なにこれ!?何なのこの状況?僕はどうすればいいの?
「……程々にな」
僕と目が合ったピーターが一言つぶやく。
ホント何!?僕は何をされるの!?最後の晩餐的なヤツなのコレ!?