第2話 チームメイト
士官学校。元居た世界のソレは、僕は詳しくないのでよくわからないが、この世界でのソレは軍の将校を育成する学校であり、2年間の課程を修了する事で『少尉』の位職が約束されているらしい。
一般兵や下士官が大勢いる事を考えると、エリートが通う学校なのだ。
本来ならば、難しい試験を突破しなければ入る事ができないらしいのだけれど、僕は何故か『偉い人の推薦』という、現役生からしたら「舐めてんの?」と言わんばかりの待遇を得てしまっていた。
正直に言う。やっていける自信が、これっっっっぽっちも無い。
だって軍隊の学校に通う人とかって、頭より先に手が出るようなタイプの人達でしょ?……偏見かもしれないけど。
そんな上杉みたいな連中に混じるなんて絶対に嫌だ。
僕じゃなくて、上杉が転生してれば喜んで入学してたんだろうなぁ~……この転生を仕組んだ何者かに「適材適所って言葉知ってる?」って言ってやりたい気分だ。
上杉ぃ~車の運転席で死に損なってるなら、早く死んでコッチに転生して来い!そして今すぐ僕を助けてくれ!!
……と、いくら愚痴を言ったところで現状が何か変わるわけでもなく、牢屋に僕を迎えに来た兵士っぽい人に案内され、寮っぽい場所へやってきた。
学生寮にしては少し小さ目だろうか?寮暮らしをした事のない僕には基準がよくわからないが、そんな寮の一室へと連れてこられる。
「306分隊集合!」
突然、兵士っぽい人が叫ぶと、5名程の若者が部屋から出て来て、廊下に整列する。
まぁ『若者』っていっても、僕と同じくらいか少し年下か、ってくらいだけどね。あくまでも、この世界に来てから見た人達の中では『若者』ってだけだ。
「喜べ貴様等。ベソかきながら小便垂らして逃げ出したシリルの代わりの補充要員を、さっそく基地司令が連れて来てくれたぞ」
え!?兵士っぽい人、いきなり何言ってるの!?補充要員?それっともしかして僕の事言ってるの!?
っていうか『小便垂らして逃げ出した』って言ってなかった?それってつまり、訓練に耐え切れずに逃げ出した人がいるって事だよね?エリートとして入学したのに……
うん。間違いなく僕も同じ道を辿りそうだ。
と言っても僕の場合、逃げ出した後どこにも行き場が無いから、完全に詰みってヤツだ。
「ほら、自己紹介しろ」
怖気づいている僕の背中を、兵士っぽい人が叩くようにして、僕を一歩前に出させる。
「えっと……結城淳です」
「……だ、そうだ。コイツが逃げないように、しっかり見張ってろよ貴様等」
兵士っぽい人が冗談っぽく、5人組の若者に念を押す。
心配しなくても大丈夫です。訓練に耐えられる自信もないけど、ここを逃げ出す勇気はもっと無いです。
「何もわかってないだろうから説明しておくぞ。基本的に訓練兵は6人1組で行動する。座学も実技もだが寝食も一緒だ。何かあったら連帯責任だという事を覚えておけ」
つまり、僕が足を引っ張って迷惑をかけてしまう事になる5人がこの人達って事ですね。わかります。
「同じような訓練兵の分隊は、他に5つある。刺激し合える程度に、たまに合同訓練という名の模擬戦を行う事もある。もちろん負けたりしたら、罰として全員筋トレ100セットが待っている」
やめてください死んでしまいます。
「それと……まだ自己紹介してなかったな。俺の名前はアーネスト軍曹。この306分隊の担当教官だ。明日からみっちりとしごくから覚悟しておけよ」
この人、教官だったの!?
まぁ会ってそんなに経ってないけど、まったく知らない人よりかは、顔をわかってるぶんマシに思える。いちおうは、そういう気を使って事前に顔見せしてくれてたのかな?
「とりあえず今日は、適度に親睦を深めつつ早く寝ろ。貴様等はコイツ……ユウキに色々教えてやれ。本当に何も知らんヤツだ。もちろん明日の訓練に支障が無い程度にな」
最後にそう言ってアーネスト教官は行ってしまう。
会ったばかりの何も知らない5人組に囲まれている現状、かなり不安になる。
「廊下だと邪魔になる。部屋に入ろう」
教官が見えなくなると、5人の中では一番優しそうな顔つきをした、短い金髪の青年がつぶやき部屋へと入って行き、他の皆が後に続くので、その流れで僕も控えめに部屋へと入る。
思った通り部屋は小さかった。
出入口がある壁を除いた、残り三面に二段ベットが3つ、その中心に長机があるだけ。それだけで部屋のほぼ全てを使っており、床に座ってくつろげるようなスペースは皆無だった。
「ユウキ……と呼んでいいかな?キミのスペースは左側のベットの上段だ。いったん皆、その周辺に集まろう。いいかな?アンディ?」
「ああ、かまわないよ。見られてマズイような物は置いてないからね」
金髪青年に言われて返事をしたのは、凄く礼儀正しそうな茶髪の青年。
おそらくは、左側ベットの下段の主なのだろう……つまり僕の下はこの人って事だ。
確か『アンディ』って呼ばれてたな。すぐ近くの人だし、しっかりと覚えておこう。
「相変わらずマジメなヤツだなぁ……エロ本の2冊や3冊出てきても見てねぇフリしてやるから安心しろよアンディ」
「キミは何をしに訓練校に入ったんだマイク。私はキミみたいに不真面目ではないよ」
スキンヘッドのごつい体格をした男が、アンディを茶化し、真面目らしいアンディがソレに反論する。
まぁとりあえず、あのハゲの名前は『マイク』……と、いちおう覚えておこう。
「二人とも言い争いは程々にしてくれ。ユウキが困惑するだろ」
金髪青年に注意され、マイクもアンディも、互いに次の言葉の応酬をするのを止める。
「すまないなユウキ。とりあえず我々の自己紹介から始めよう。まず僕は、暫定ではあるけれど、この隊の分隊長をやっているピーターだ」
なるほど、そんな気はしてたけど、やっぱりこの金髪青年がリーダーなのね。そして名前は『ピーター』と……忘れないようにしておこう。
「アンディだ。よろしくユウキ」
「マイクだ。まぁ仲良くしようぜユウキ」
既に名前を聞いている二人が続く。
「レイだ。俺の邪魔さえしなければ好きにすればいい」
今まで話していなかった2人の内の1人が名乗る。
何か気難しいそうな人だな……体はしっかりと鍛えているのか細マッチョって感じだ。イメージ的にはブーメランパンツとか履いてそうだ。
「ジェロムだ。足引っ張ったりしたらぶっ飛ばすからな、それだけは忘れんなよ」
最後の1人は、もうどっから見ても印象はただのヤンキーだ。たぶん、僕が一番苦手なタイプな気がする。っていうか、こういうヤツを初見で好印象持つヤツっているの?
何だろう……前途多難だ。
何よりも、チームメイトの顔と名前を一致されられるだろうか?一晩寝たら忘れてそうで怖いなぁ……