第21話 773
格納庫の片隅で、周りの様子を静かに眺めていた。
当然な事なのかもしれないが、訓練校の物よりも広く、設備もしっかりしているように見える。
そこは、たくさんの音で満たされたような空間だ。
機動戦闘機を整備する機械音から、様々な人の声。そして……機動戦闘機達がお喋りする声も僕には聞こえていた。
「では少尉。問題無ければ、こちらの受領書にサインをお願いします」
搬入業者の声に従い、小さく「はい」と返事をしながら受領書にサインをする。
「ではこれで失礼します」
受領書を受け取ると業者の人は、軽くお辞儀をして帰っていく。
僕はしばらく業者の人が帰るのを見送り、再び格納庫の中の風景に視線を戻す。
多くのパイロットや整備兵が目に映る。
パイロットでも、士官学校出身ではなく、直接軍に入隊している人達もいて、長く軍に所属していても、今の僕より階級が低かったりもする。
というよりも、ほとんどがそんな感じだ。
訓練校で学ぶ事は多岐にわたる。軍における様々な事ができるようにするのが訓練校の目的だ。
僕は座学よりも、機動戦闘機の操縦の方が優れていたためパイロットとして任官したが、司令部や整備兵、オペレーターといった様々な進路もあった。
今期の卒業生が僕1人だけだったからこんな状態ではあるが、本来なら各々が特性にあった部署へと配属されるハズだったのだ。
まぁマイクやジェロムみたいな脳筋は、僕と同じようにパイロットだったかもしれないが、ピーターやアンディなら司令部。色々と器用にこなしていたレイは整備……もしくは技術開発部とか行ってたかもしれない。
…………皆と一緒に、ここに来たかったな。
でも、さすがにアザレーとは、卒業と同時にお別れだったかもしれないな……
いや、この基地の司令官は佐竹だ。ちょっとした僕のわがままは聞いてくれたかもしれない。
どうしてもアザレーと一緒にいたい、って言えば何とかしてくれた可能性もある。
そんな未来もあったかもしれない……
それなのに……それなのに僕は、あの時アザレーを裏切ったんだ。
死にたくない一心で。
アザレーはどうせ直してもらえる。だから僕だけ死ぬのは嫌だ、って自分勝手な被害妄想みたいな理由で。
メインカメラをやられてはいたけれど、アザレーはまだ動けたんだ。
無茶苦茶かもしれないけれど、死んだモニターは諦めて、コックピットを開けて肉眼で見て行動する事だってできたかもしれない。
どうせ敵の攻撃がコックピットを直撃すれば、コックピットハッチが開いてようと閉まってようと死ぬんだ。
さすがに全周囲モニターをカバーできる程の視界は確保できないが、まだやれる事はあったハズだ。
なのに……それなのに……僕が臆病だったせいで……
悔やんでも悔やみきれない後悔が襲う。
たらればの話を引きずる事は無意味だってのは理解しているつもりではあるけれど、どうしても考えずにはいられなかった。
あ~……ダメだダメだ!!気持ちを切り替えて行こう!
この世界で生きていくためには、先の事を考えていかなくてはダメだ。
僕はゆっくりと歩き出し、納品されたばかりの機体の前に立つ。
『ギプスクロイター』
今この国で作られている、最新の量産機であり、今後は僕の愛機となる予定の機体である。
任官したばかりの僕に、こんな機体があてがわれたのには、この国の代表の1人として、連合軍に派遣されるからって事もあるだろうが、多少の佐竹からの支援もあったのかもしれない。
僕は再びゆっくりと歩き出し、機体の外装を見てから、コックピットへと乗り込んでみる。
新品の独特の匂いが鼻に入ってくる。
座席もビニール袋でしっかりと包装されており、前の世界で言うと、新車に乗ったような感覚になる。
まぁ乗り物としては近いものがあるのかもしれない。
「ギプスクロイター……今日からキミに乗る事になったんだ。よろしくね」
誰もいないコックピット内で、静かに喋りかけてみる。
【え!?あ!はい。よろしくお願いします…………え?何で喋れるん……ですか?】
面白いくらいに混乱したような声が返ってくる。
アザレーとはタイプが違う感じの女性声。マジメな感じのする声が印象的だ。
「何故か、人間だと僕だけが喋れるみたいなんだよね……あ、僕の名前は結城淳ね。よろしく」
【あ、はい!えっと……『ギプスクロイター B-2 773』です。】
えっと……Bタイプの2型で識別番号が773かな?
そこまで正確に自己紹介されるとは思わなかった。
「『773』か……じゃあ愛称として『ナナミ』って呼んでもいいかな?」
【はい。好きに呼んでもらっていいです……ん?ナナミ?】
やっぱりマジメなタイプなのかな?
失礼にならないようにと、受け答えはしっかりしてる感じだけど、内心はまだ混乱してるみたいだ。
この子は絶対に裏切らないようにしよう。
それが、アザレーに対する贖罪になるかどうかはわからないけれど、二度と同じ過ちは繰り返さないよう、そっと心の中で誓いを立てる事にした。




