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第19話 任官式

 少し前の事を思い出していた。

 僕は高校受験で、当時仲の良かった友人達と、少しレベルの高い学校を第一志望として、一緒に受験をした。

 僕だけが、見事に滑り止めを全て落としていたので、本番ではこけないように必死になった。

 結果、僕だけが第一志望校に合格した。


 期待に胸を膨らませてはいたものの現実は厳しもので、知り合いのまったくいない場所にコミュ障が1人放置されて、何かできるわけもなかった。

 初日に口に出した言葉は、出欠確認のための「はい」という返事だけだった。


 凄まじい喪失感があった。

 今までの学校生活は、勉強や運動が大変だといっても、友人達がいてくれたおかげで楽しく過ごせていた。

 そんな友人達がいなくなって、1人だけになった瞬間。

 全てを失ったような、そんな気分になった……




「あの時と……同じような感じ……かな?」


 朝、目を覚ましてベットから起き上がりつぶやく。


 この世界でできた唯一の友人達と寝起きを共にした部屋。

 そこにはもう、僕以外誰もいない。


 朝一で「早く着替えないと遅刻するよ」と声をかけてくれるアンディ。

 起きたばかりなのに騒ぎ出すマイク。

 そのマイクとケンカしはじめるジェロム。

 騒がしい二人を見て舌打ちするレイ。

 仲裁するのに必死なピーター。


 いつも繰り返された光景。それが無くなるだけで、こんなにも寂しい気持ちになるとは思いもしなった。


「この部屋って、こんなに広くて静かだったんだなぁ……」


 着替えながらつぶやく。

 答えてくれる言葉は返ってくる事はなかった。


 正装である軍服に袖を通す。

 皆の分も、この日のために用意されてはいたが、遺品回収として持って行かれてしまい、ここに皆がいた形跡がなくなってしまったようで悲しくなった。


 今日は解隊式だ。

 訓練小隊が解隊されるイベントである。


 まぁ、つまるところ訓練校の卒業式だ。


 役目を終えた訓練小隊を解隊して、所属していた訓練生達は任官し、正式に既存部隊へ配属される。

 軍の上層部もきっと、誰をどの部隊に配属させるか等、色々と考えていたに違いない。


 しかし、ふたを開けてみれば、僕みたいな中途半端な人間が一人生き残っただけで、皆さんさぞガッカリした事だろう。


 僕はどんな部隊に配属されるのだろう?

 新人が1人しか残っていないって考えれば、一番人員を欲している部隊……つまりは一番過酷な部隊に配属になるのかもしれない。

 僕なんかで勤まるのだろうか?


 気が重い……

 高校入学式の時と同じような喪失感がこみあげてくる。


 ただあの時は、僕と同じように、出身校からの友達が誰もいない状態だった、上杉と佐竹が声をかけてくれた。

 それから3年間一緒にいてくれて、一緒にバカやって、卒業まで苦楽を共にする友人でいてくれた。

 それがどれだけ心強かったか計り知れない。


 しかし、今回の部隊配属に同期は一人もいない。

 あの時の、上杉と佐竹はいないのだ。



 そんな暗い気持ちのまま、部屋から廊下へと出る。


「随分と早いなユウキ訓練生。まぁ遅刻はよくないからな。多少早く行動する事は良い事だな」


 偶然通りかかったアーネスト教官に声をかけられた。


 よくよく考えてみれば、今この世界で唯一、僕に普通に話しかけてくれるのはアーネスト教官だけになってしまった。


 知っている人が誰もいなくなってしまった世界は、本当に辛い。

 この人がいてくれて良かったと、心の底から思えた。


「一人で部屋にいると、色々と考えてしまうんで……」


 黙っているのは失礼なので、僕は思った事をそのまま口に出す。

 アーネスト教官は、ただ一言「そうか……」と言うだけだった。

 教官も色々と気を使ってくれているのだろう。


 そのまま2人、無言のまま会議室へと向かう。


 訓練校には、小さ目な講堂があり、ちょっとした式典等はそこで行うのだが、生憎と僕1人の任官式には広すぎる。

 そのため、程々の広さがある会議室が、今回の会場となっていた。


 着いた時には、ほとんど人はいなかったが、少し待つと、偉そうな人達が続々とやって来た。


 当然ではあるが、誰も見た事ある人はいない。

 いや……もしかしたら、すれ違ったりとかで、顔くらいは見た事ある人はいるかもしれないが、知っている人は誰一人としていなかった。


「ユウキ。そろそろ式典が始まる。しっかりやれよ」


 ずっと隣にいてくれたアーネスト教官から声がかかる。

 しっかりやれ、と言われても、精々が毎日のように覚えさせられた入隊宣言をするくらいで、日常の挨拶をする程度の事だ。しっかりしていなくても出来そうな事である。


 まぁそんな事は教官だってわかって言ってるんだろう……僕はただ「はい」と短く返事をする。


「……お前だけでも生き残ってくれて良かったよ」


 最後に教官は、それだけを言って自らの席へと移動していった。


 そうだよね……教え子が、僕以外全員死んでしまったんだ。アーネスト教官だって辛いに決まってる。

 僕と違って、それを一切顔に出していないだけなんだ……これからは軍人として、僕も見習わなくてはならない事なのかもしれない。


 アーネスト教官が席につくと、間もなくして式典が開始される。


 僕一人だけの任官式だ。だいぶ簡略化されている感じで式が進む。

 ある程度進んだところで、正面に、アーネスト教官と同い年くらいだろうか?中年の男性が立つ。

 顔を見た瞬間、不思議な感覚に陥った。


 あの人の顔……見た事あるような気がする?

 いや?気のせいか?あんな顔の人は知らない……でも、何故か見た事があるような、そんな不思議な感じだ。


「これより階級章の授与を行う!ジュン・ユウキ訓練生!基地司令の前へ!」


 司会の人の声に従い前に出る。

 そうか……この人がここの基地司令なのか……初めて会った気がするけど、何となく見た事あるような気がしたのは、そのせいなのか……


「基地司令であるスミト・サタケ准将に敬礼!!」


 言われた通り、反射的に敬礼をする。


 ……でも待って?

 今……何て言った?


 スミト・サタケ准将?

 ……スミト・サタケ?

 ……サタケ・スミト?

 ……佐竹澄人(さたけすみと)!!?


 待って!?ちょっと待って!?佐竹は親友で……高校の同級生で……卒業旅行中に事故した同じ車に乗ってて……

 同姓同名?でも、言われてみれば基地司令、すっごい佐竹に似てる。っていうか、佐竹が年取ったらこんな感じになるだろう、って顔してる。

 いや……でも……どういう事?偶然同じような顔の同じ名前?


「混乱してるな結城。気持ちはわかる。私も昔そうだった……お前にとっては最近かもしれないが、久しぶりだな結城」


 ニヤニヤと笑いながら、僕にだけ聞こえるような音量で話しかけてくる基地司令。


「さ……佐竹?」


「ああ、そうだ。だいたい25年ぶりだな、結城」


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