第1話 転生、即死刑?
異世界転生や異世界転移。
漫画やアニメやライトノベルでよく使われている。
作品によって多種多様ではあるが、一般的によくあるパターンとしては、文化レベルは中世ヨーロッパ風で、現代日本に比べると格段に文化レベルの低い世界に転生・転移する事が多かったりする。
そこで文化レベルマウントを取って、知能チートするパターンもあれば、本当のチートスキルを付与されて無双する、みたいなパターンもあったりする。
何故、僕が突然こんな話をしているのか?
答えは簡単。現在進行形で、僕自身が異世界転移したっぽいからである。
先日、僕は高校を卒業した。
もちろん年齢は18歳であり、車の免許を取れる年齢である。
たぶん、誰しもが体験するであろう『学校を卒業し、誰に縛られる事もなく自由を手に入れた』そんな錯覚を覚えた僕達は、購入したばかりの中古車に乗って卒業旅行に出かけた。
おそらくだけど、あの時の僕達はテンションがおかしい事になっていたんだと思う。
卒業旅行を突発的に敢行した。
宿泊先の予約をしていないどころか、目的地すら決めずに出発した。
どれだけ走ったのだろうか?
22時くらいに家を出たのだが、気が付いたら外が明るくなってきていた。
ふと『コレ中古車だよな?大丈夫か?』という疑問がよぎったその時、凄まじいエンジン音が車内に鳴り響いた。
やっぱり車が限界!?とかいう思考がよぎった瞬間、ハンドルを握ったまま寝ている、運転手の上杉裕也の姿が視界に映る。
後部座席では、既に夢の中にいる佐竹澄人
かく言う僕。結城淳も、先程まで舟漕いでたわけで、アクセルをガッツリ踏み込んだまま眠る上杉を、咄嗟にどうにかできるような状態でなかったわけで、ガードレールを突き破って崖下へと向かう車を止める事ができなかったわけで……
ごめんよ中古車。一瞬だけど「やっぱ中古車じゃダメだったんだ」とか思っちゃったよ。どうやら限界を迎えるのは人間の方が先だったみたいだ。
と、まぁそんな事があった後で、気が付いたらこの世界にいたのだ。
解せないのは、上杉と佐竹がいない事だ。
何で僕だけ?
もしかして、あの事故で死んだの僕だけだったとか?
いやいや、そんな事は無いだろ!?どう考えても全員即死コースだったよね?後部座席にいた佐竹がシートベルトしてなかったの知ってるよ、僕。僕が死んで佐竹が生き残ったとかありえないよね?
と、いない事にいちいち文句言っても始まらないよね。
だって今、僕は転生後すぐに捕まって牢屋の中だしね。
たぶん、上杉と佐竹が一緒にいても、この結果は変わらないと思う。
まぁそこで冒頭のチート云々の話になるわけである。
あるじゃん普通!?そういう、お約束的なヤツ!?今の捕らわれ状態を何とかできるような何かが!?
チートスキル付与が無かったにしても、文化レベルマウントの知能チートくらいしてもよくない!?
なのにさぁ……この世界『現代日本の文化レベル?何それ?原始人の文明?』とか言うくらいに、文明レベルが高くて、何もできないんだけど!?
僕が持ってる知識なんて、鼻糞程度にしか役立ってないよ!?マジで!!
突然この世界に現れた不審者な僕を連行した人とか、SFとかに出てきそうな銃持ってたし、連行されてる途中で、巨大ロボットとかも見えたよ。
その巨大ロボットを操縦してたのが女の人なのか、可愛らしい声がロボットから聞こえてきたのは違和感があったけど……
まぁ軍隊にいるのが男だけ、とかいう古い考え持ってる僕がダメなんだろうけどね。この世界では女性パイロットも大勢いるのだろう。
そんな可愛い女性パイロットがロボットに乗って僕を助けてくれたりしないもんだろうか?
……うん、無理だよね。何の関係も持ってない僕を助けてくれる人とかいないよね。知ってるよそんな事。でもちょっとくらい、そんな妄想してもいいよね?
だって、本気で何もできないし!
何となく牢屋の、鉄っぽい何かでできた扉を思いっきり殴ってみる。
思った通り、殴った手が凄く痛くなっただけで、扉はビクともしない。
気付いていないだけで、実は物凄い力を与えられて転生した~みたいなチート能力は無いようだ。
じゃあ本当にどうすりゃいいの!?
このまま死刑とかにならないよね!?
見た感じ、ここって軍事施設っぽかったから、他国のスパイと勘違いされたら、普通に考えて一発死刑だよね?
……ヤバイじゃん!!?
死刑の可能性凄い高いじゃん!?
死んで転生したのに、いきなり死ぬの!?
そうだ!脱走……脱走だ!
このままここに居たら、死刑待ったなしだ!
何とかして脱走しないと!
そのためには、この殴ってもビクともしない扉をどうにかしなければならないわけで……
あれ?もしかして僕、詰んでる?
そんな事を考えていると、不意に扉の鍵が開く音が響く。
え?もしかして、僕の異世界転生特典のチート能力って、超能力的な何か?
「出ろ。ついて来い。おかしなマネはするなよ」
扉が開いて銃を持った人が牢屋の中に入ってくる。
……ですよね。念じただけで牢屋の鍵なんて開かないよね。超能力とかいうチート能力あったなら、捕まる前にどうにかなったもんね…………短い夢だった。
「あの……もしかして僕、死刑ですか?」
恐る恐る確認してみる。
「何だ?お前、この国の言葉を喋れるのか?」
「え?普通に喋れますけど?」
だって日本語だし。
『異世界行っても何故か言語は日本語』っていう、ご都合主義の基本に忠実な異世界転生万歳!
「喋れるなら話が早くて助かるな。お前には、この国の士官学校に入ってもらう」
「え?しかんがっこう?」
意味がわからない。
だって僕、この世界の人からしたら、ただの不審人物だよ?そんな人間を国の士官学校に入れる?
「お前、身寄りも無ければ住む場所も無いんだろ?」
何で知ってるんだろう?
この世界の進んだ技術で、頭の中覗かれたりでもしたとか?
「本来ならお前みたいな不審人物は拷問して死刑なのだが、准将……ここの基地司令からの推薦があってな……『死刑にされたくなければ、この国のために働け。宿舎だが住む場所は与えてやる。役に立てよ』だとよ。俺もよくわからんが、お前、准将殿のお眼鏡に叶ったみたいだぞ」
余計に意味がわからない。
僕、転生と同時に捕縛されて、牢屋で3日くらいゴロゴロしてただけだよ?そんな僕の何を見て死刑免除してくれたんだろう?
「ちなみに、断ればその場での銃殺を許可されている。士官学校に入るのと、今この場で銃殺されるの……どっちがいい?」
「士官学校に入らせていただきます!!」
即答する。
いや、だって選択の余地ないよね?
何者か知らないけど、ありがとう准将様!転生していきなり死ぬ事は免れました!
とりあえず、生きてさえいれば何とかなる……よね?