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第15話 死にたくない

 死にたくない。死にたくない。死にたくない……


 思考がほぼそれだけになる。


 今すぐ基地に逃げ帰りたい。

 命令無視の敵前逃亡は重罪だ。しかし、死罪でないのなら、それでも構わないように思えてしまう。


 ただ、ここで逃げて、基地が敵に落とされた場合は最悪だ。重罪人として死ぬ事になる。

 ……いや、最悪なのは、逃げ帰ってる途中で撃墜されて死ぬパターンかもしれない。

 どちらも御免被りたい。


 それならいっそ、ここで助けが来るまで粘る方がいいのだろうか?


【左!!30°下!!】


 思考がまとまらないまま、敵からの攻撃は続く。

 アザレーの声に無意識に反応できているから何とか生きてはいるが、アザレーがいなければ、僕は今頃ピーターやアンディと同じように撃墜されていただろう。


 ……2人は本当に死んでしまったのだろうか?

 機体爆発の直前に、緊急脱出装置を作動させて、生き延びている可能性は?……望みは薄いかもしれない。


『クソッ!クソッ!クソッ!クソッ!クソッ!クソッ!クソッ!』


『ユウキ!何とか……頼むから何とかしてくれ!』


『2人とも落ち着け!冷静にならないと死ぬぞ!』


 聞こえてくる味方からの通信も、完全に混乱している状態だ。

 それはそうだ。誰だって死にたくはない。死が間近に迫っている状況では、内心落ち着いてなんていられないだろう。


『ぐわあっ!?』


 再び断末魔のような声と共に、通信にノイズが走る。

 今の声はレイ?レイもやられた?


 敵はこちらの状況をわかっているのだろうか?倒すべき優先順位を理解しているようにしか思えない。

 僕がまだ生きていられるのは、敵から見た優先順位が低いからなのか?それとも、本来はもうちょっと早く落とすべき対象だったけど、攻撃を避け続けているから助かっているのか……後者だったらアザレーに感謝しても感謝しきれない。


『クソッ!クソッ!クソッ!クッ……がぁ!?』


 射撃が来た方向に向かって無茶苦茶に銃を乱射していたジェロムからの通信も途切れた。


 もう……残っているのは、僕とマイクだけ?


 嘘だ……何でこんな事になった?

 昨日までは何ともなかったじゃないか?いつも通りバカ話しながら笑ってられたのに……


「マ……マイク。もう……もう、無理だよ……せめて、せめて僕達だけでも逃げて……」

『がはぁ!!?』


 マイクに向かって話しかけている最中、マイクのうめき声に遮られ、そのまま通信が途切れる。


 僕……だけ?

 もう、僕しか残ってないの?


 視界をモニターに向けると、正面・右側・左側に合計3機の敵と思われる機体が、目視できる距離にいた。

 3機とも、手には長刀を持っている。


 長距離からのビーム攻撃を、僕が回避し続けたからだろうか?


 ビーム兵器は、敵の装甲ごと貫通させられるくらいの高威力である代わりに、エネルギー切れが早い。

 ライフルのバックパックを持ち歩いていたとしても、無駄撃ちは避けたい物だ。

 当たらない相手に、無駄に撃ち続けるくらいなら、接近戦で一気に仕留めよう、という事だろうか?


 怖い……

 今持てる感情は「恐怖」以外に無いくらいに恐ろしい。

 死んでしまったと思われるチームメイトの仲間達に対しての哀悼の気持ちや、その仲間達を殺した敵に対する憎しみの気持ちは、今はこれっぽっちも無い。

 ただただ、この後自分が待ち受けるであろう未来に対する恐怖しか感じない。


 死にたくない。死にたくない。死にたくない……


 操作レバーを握る手には汗がにじんでいる。

 歯がガチガチと震え、抑える事できない。


 目の前には3体の敵。

 1体に対して3体であたれ、と指示が出た敵が3体だ。

 『1体に対して3体であたれ』だよ?何で僕は『3体に対して1体であたれ』状態になってるの?

 3体に囲まれていたら、逃げる事もままならないじゃないか!?どうしろって言うんだよ!どうやったら助かるんだよ!?


「まだ……死にたくない……」


 聞いてくれる仲間がいなくなったからだろうか?自然と本音が口から漏れた。


【大丈夫よジュン!アナタは死なない!私が死なせたりしないわ!!】


 僕の不様なつぶやきに返事が返ってきた。

 そうだ……ショッキングな出来事が続いたせいで、すっかり忘れてしまっていた。

 人間の仲間達はいなくなってしまったが、僕にはまだアザレーという、頼れる仲間がいたんだ。

 機体と会話できる能力が、こんなに有難いと思ったのは過去一かもしれない。


 ……『機体と会話できる能力』?


 そうだ!僕は機体と会話できるんだ!!

 だったら、あの3機の敵とも会話できるんじゃないだろうか?

 敵は無人機だという話を聞いた気がする。操縦者の意思が存在しないのなら、説得できる可能性もあるんじゃないだろうか?


「キミ達は何者なんだ!何で僕等を攻撃してくるんだ!僕達に敵対する理由を教えてほしい!!」


 通信回線を外部に切り替え、機体の外に向かって言葉を投げかける。


【……無駄よジュン】


【敵ハ殺ス】

【逃ガサナイ】

【敵ハ、見ツケ次第、全テ殺ス】


 アザレーのつぶやきにも似た言葉の後で、敵からと思われる声が聞こえてくる。

 発音が悪く聞き取りにくいが、コレが敵の意思なのだろうか?何か……そう、機械じみているような感じだ。

 ……あ、いや。敵は機械か。じゃあ正しいのか?


【話が通じる相手だったら、最初からそうしてるわ……コイツ等、操縦者がいない代わりに、自動操縦プログラムされたAIが機体の回線内部に取りつけられてるみたいなの。ソレのせいで意思を完全に乗っ取られてるみたい……昔、偶然、その取り付けられたAI部分だけを破壊できて、正気を取り戻した敵機から聞いたから、ほぼ間違いない情報よ】


「え?じゃあその、正気を取り戻した敵機ってのから、敵の内部情報とかを……」


【冷静に考えてジュン。ジュン以外の人間は、私達の言葉を理解できないのよ。正気に戻ったかどうかの判断なんて人間にはできないんだから、その場ですぐに破壊されたわよ】


 そうだよね。攻撃する意思が無くなったなんて、人間側はわからないんだから、まだ動ける敵機を撃墜するのは当然だよね。


 ともかく現状で、敵を説得できない事は理解できた。


 そして、アザレーとの会話のおかげか、気分的に少し楽になったかもしれない。


 そう!僕にはアザレーがいる。

 ひたすら敵の攻撃を回避し続けて時間を稼げば、そのうち助けが来てくれる可能性が高い。

 とりあえず、今はソレに賭けるしか生き延びる手段は無いのかもしれない。


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― 新着の感想 ―
「ライトノベル」と「ヒロイック・ファンタジー」の違いは、味方のNamed Characterが死なないか、死ぬか、ですよね。 本作品も「ヒロイック・ファンタジー」路線を往くんですね。
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