第13話 警戒
基地内は騒がしかったが、そこまで緊張感は感じられなかった。
考えてみればそうかもしれない。
僕達訓練生は、いきなりの事で、軽くテンパって凄まじいまでの緊迫感を持ってはいるが、この基地に常駐している正規兵にとっては日常的な事なのだ。
いや、敵の襲撃はそこまで頻繁にあるわけではないらしいので、『日常的』というと語弊があるかもしれないが、常日頃からこういった事態に対処するための訓練をしている人達からしたら、慣れた事なのかもしれない。
『訓練生共!何が起こるかわからんぞ!模擬戦用の装備から実戦装備に換装しておけ!』
どうしていいかわからずに、右往左往していた僕等訓練生達へと通信が入る。
僕は急いでブレードの換装と、実弾入りのライフルを手に取る。
後は……内部武装も換装しないとならない。これはちょっと手間だな。
機体を指定の位置にロックし、いったんコックピットから外へと出る。
「焦んな焦んな天才。これも訓練の一環みたいなもんだ」
僕の隣に機体を置き、同じように外に出て来たマイクから声がかかる。
「訓練生がこの基地に滞在する期間ってのは、今までの統計的に、敵が来やすい時期なんだよ。だから、そのタイミングで、咄嗟の武装換装訓練をやるってのが通例なんだとよ……まぁ予告なしの避難訓練みたいなもんだ」
「訓練校の卒業生から代々引き継がれるという、信憑性のない噂話ではあったがな……一歩間違えたら大惨事になりかねない状況での訓練など本当にやるのか?とは思っていたが……こうして目の当たりにしてみると、何とも言えんな」
ちゃっかり話を聞いていたようで、別隣に機体を置いたレイまで話に参加してくる。
っていうか、二人の話を総合すると、その噂知らなかったの僕だけなの?
「とにかく、そんなわけだ。まぁ焦らずゆっくりやろうぜ」
最後にそれだけ言って、マイクは作業に戻って行く。
とりあえず状況は、何となくわかった気がする。
昔アザレー達から聞いた話だと、機動戦闘機は常に進化し続けて、敵の性能を遥かに上回っており、特に苦戦する事もなくなっている、との事だ。
正規兵がしっかり対処すれば、何の問題もなく、訓練生の緊急時対応の訓練ができるって事なのだろう。
マイクが「ゆっくりやろうぜ」とか言っていたが、僕は騙されたりしない。
マイクがそんな事を言うって事は、おそらく『ゆっくりやったらダメ』なんだろう。
予想だと……正規兵の人達が、敵を倒して戻ってきた時に、まだダラダラと作業しているようなヤツがいたら、罰ゲーム的なペナルティがある、とかだろうか?
……うん。それ以外に考えられないな。
マイクめ。今まで何度お前に騙されてると思ってるんだ?そんな見え見えな手に引っかかる僕じゃないぞ。
僕は、格納庫の所々に設置されている、大きなモニターに目をやる。
モニターには、基地の外の風景が色々な角度から映し出されている。まぁ防犯カメラの映像みたいな感じだ。
その一部に、チカチカと光が浮かんでは消える映像が映る。
たぶん、敵との戦闘が始まったのだろう。
こうしちゃいられない!急いで換装作業に移らないと、マイクの思い通りに……
「クソッ!!何がどうなってやがる!!オイ!!第二陣急いで出撃しろ!!」
突然、格納庫内に響き渡った怒号に、訓練生達の喧騒が止む。
何が起こったのかわからずに、皆黙ったまま視線を泳がせる。
「……っち!訓練生共!手を止めるな!!与えられた仕事をこなせ!!」
余計な事を言ってしまったと気付いたのだろう。誤魔化すように、指揮官っぽい正規兵の人が叫ぶ。
ただ、ただ事ではない雰囲気だという事に気付いてしまった訓練生達には、少なからず動揺が走る。
かくいう僕もそうだ。
「……な、何があったんだ?」
【30機出撃した第一陣が全滅したらしいわよ。敵も同数だったみたいだけど、ソッチの被害はたったの6機って話よ】
僕のひとり言のような呟きに、アザレーが反応する。
「え?何で知ってるの?誰かがしゃべってるのでも聞こえた?」
あまりに情報通なアザレーに思わず質問してしまう。
【人間の言葉なんて、ジュン以外わかるわけないじゃない。通信がデータ化された時点で、それを覗き込めばわかる事よ】
便利だなぁ……
って今はそんな事じゃない!どういう事!?第一陣が全滅?戦ったのは僕達訓練生じゃないんだよ!?プロの正規兵だよ!?そんな人達が性能の良い機体に乗って出撃したのに30機が全滅?
「よく聞け訓練生諸君!敵が攻めて来ており、今は緊急事態だ!諸君らの手も借りたい!装備換装が終わった者から外に出て、基地外周防衛に当たれ!だが心配はするな!迎撃は諸君等の先輩である、基地所属の正規兵が行う!諸君等は、彼等が討ち漏らしてしまって、包囲網を抜けて基地への接近を許してしまった敵機のみを撃墜するだけで構わない!!では、時計合わせ!!5、4、3,2,1……各機!5分以内には換装を終え行動を開始せよ!」
指揮官らしき人の声が響き渡る。
急ぎ換装作業をし、コックピットへと乗り込む。
「アザレー!今、どういう状況かわかる?」
【えっと……この基地所属の機体は100機らしいわね。で30機がやられて、さっき倍の60機が第二陣として出撃したみたい。で、残り10機は訓練生と一緒に基地防衛って感じみたいね】
「100機!?この基地って、機動戦闘機そんなもんしかいなかったの!?」
【けっこう巨大にできてるって言っても、所詮は宇宙での基地なのよね……格納庫の機体収容数は200機が限界らしいわよ……私達が約40機でお邪魔してきてるから、配備できてもあと60機が限界ってところね】
「それでも、一応この基地って最前線なんでしょ?もうちょっと警戒して配備数増やしても……」
【正確には『最前線基地の1つ』ね。静止軌道上には、同じような基地がいくつかあるのよ……それに】
そこで一旦言葉を切り、今までになく深刻そうな声で続ける。
【今までは、その配備数で十分だったのよ。下手くそだった、今までの私の操縦者でも勝てるくらいの……ね。ジュン!気を引き締めて!今回やってきた敵は、今までとは違うわよ!】
いつも自信満々なアザレーとは思えないほど、焦りのこもった声だった。
【でも大丈夫!私とジュンが組めば絶対にどんなヤツにだって負けない!!私を信じてジュン!】
まるで自分に言い聞かせるような言い方だった。
それでも、僕が言える事はたった一つだ。
「大丈夫だよアザレー……いつでも僕は君を信じてる!」
アザレーの不安そうな声に、力いっぱい応える。
【ありがとうジュン……アナタの事は死んでも守るわ……】
今、この場で、縁起でもない事を言うのはやめてほしい……




