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番外編2

 レイとジェロムは、ほぼ同時に異変に気が付く。

 模擬戦が始まっておよそ1分。味方機であるピーターのマーカーが、レーダーから消失したのだ。


 レイもジェロムも、ピーターとは訓練校に入ってからの付き合いではあるが、今日に至るまで寝食を共にしてきたチームメイトだ。彼の機動戦闘機の操縦技術の高さは良く知っているつもりである。

 そもそもで、このチーム内で一番操縦技術が高かったからこそ、元分隊長であるシリルが抜けた代わりに、彼が暫定でのリーダーというポジションに就いていたのだ。


 そんなピーターが、わずか1分で撃墜されたなど、とても信じられる事ではなかった。


 市街地戦は、障害物を利用しながら索敵し、いかに相手より先に発見し、見つからないよう攻撃できるかがカギになる。

 それを開始早々で、全員に自分の位置をアピールする行為の意味がわからなかった。

 いや、それだけ腕に自信があるから、とも言えなくもないが、あまりに危険な行動だ。

 機動戦闘機は360度モニターといっても、それを見ているのは人間の目だ。どこから、どのタイミングで来るかもわからない敵の攻撃を回避するなど、ほぼ不可能だ。


 それをユウキは平然と避けていた。

 しかも、ほぼ真後ろからきたピーターの射撃を……


「ったく……アイツは背中にも目が付いてんのかよ?」


 アッカーシャハテのコックピット内で、ジェロムは愚痴をこぼす。

 しかし、そんな事で動きを止める暇は無かった。


「どうすんだよ!?いきなり作戦が崩れたぞ!」


 すぐ隣にいるレイへと、通信で話しかける。


 元々の作戦は、レイとジェロムが2人組んで索敵しながら進み、少し離れた位置をピーターがキープする。

 敵機を見つけたら、2人での接近戦で奇襲し、浮足立ったところをピーターが遠距離からの射撃で仕留める。

 もし、仕留められなかったとしても、3対1での戦闘は続くので、助けが駆け付ける前に撃破すればいいだけの話だ。

 そこからは数の有利を逆手に取っての、各個撃破で勝利を収めるつもりであった。


「アンディか!?ピーターと同じく遠距離支援が得意なアンディを潰して、まず数での不利を無くすか!?」


「落ち着けジェロム……潰すと言っても、アンディがどこに潜んでいるかもわからない」


 もちろん、アンディだけではなく、マイクの位置もわからない。

 今の状態で、2人まとまっての索敵行動は危険を伴う。


 だったらどうするか?

 索敵を必要としない、ピーターを撃墜した事により、存在位置を明かしたヤツを、2人掛かりで落としてしまい、数での不利を一旦白紙に戻す、という手がある。

 むしろ、相手からはバレていなく、こちらからは見えているソイツを撃墜するのが正しい方法なのかもしれない。


 しかしアイツは……ユウキは危険だ。


 実力が高い事は認めるが、その実力がどれほど高いのかがわからないうえに、どんな行動を取るのか予測不能なのだ。


 レイは色々と考えるが、すぐさま結論を出す。


「まずは、位置がわかっているユウキを落とすぞ」


「いいのか?アイツはヤベェぞ!」


 ジェロムもレイと同じ考えではいた。

 ……が。


「遅かれ早かれ、コチラのチームが勝利するには、ユウキを落とす必要がある。だったら、位置のわからないアンディやマイクを今から探すより、まずはユウキを落としてしまおう」


 何より、数の不利は変わらない。

 このまま索敵行動を続けて、先に敵に発見される危険性を考えれば、まだ何とかなる内に、確実に1人は落とすべきである。


 ジェロムは、レイの言葉に「了解」と小さくつぶやくと、すぐさま走り出す。

 ユウキが再び身を潜め、どこにいるのかわからなくなってしまっては、ピーターが撃墜された事が無意味になってしまうので、急いで走る。


 しかし2人の心配をよそに、ユウキはピーターを撃墜した地点から動いてはいなかった。


(罠か?それとも戦闘経験が無くて、敵機撃破後どうする事が最善かわかってないだけか?)


 レイは一瞬考えるが、怖いから帰る、等という選択肢が存在しない以上、このままユウキに奇襲を仕掛ける以外に選択の余地はなかった。


 すぐさま2人は、ユウキを囲むように左右に分かれる。

 そしてOKのサインと同時にジェロムが長刀を構えて飛び出す。


 奇襲だったにもかかわらず、ユウキは冷静に、ジェロムの攻撃を、自らが持つ長刀で受け止める。


「これを待っていた!」


 レイは、ジェロムと鍔迫り合いを始めたユウキの背後に向け、アッカーシャハテの左腕に内臓されているガトリング銃を放つ。


 しかしその攻撃は、ユウキの強引なブーストジャンプによって回避される。


「何故避けれる!!?」


 レイの攻撃は完璧なタイミングだった。

 ユウキがジェロムを意識し、長刀での鍔迫り合いとなった瞬間を狙っている。

 つまり、視線はジェロムに行っているハズなのだ。

 それなのに、背後からのレイの攻撃を避けるなど、人間業とは思えなかった。


「何だよありゃ!?何で避けやがったんだ!?そんなのありかよ!?」


 通信機越しにジェロムの絶叫をレイは聞くが、レイもすでに冷静ではいられなくなっていた。


 どちらかが死角になるよう、常に連携して攻撃しても、ユウキには攻撃を当てられない。何度やっても結果が変わらない。

 冷静でいられるわけがなかった。

 唯一の救いが、ユウキは回避に専念していて、攻撃に転じる事ができずにいる事ではあるが、そんな事を冷静に考える事はできなかった。


 次の瞬間、右手側に衝撃を受ける。


「……時間をかけすぎたか」


 動かなくなったアッカーシャハテの右手を見て、レイはやっと冷静になれたが、それは諦めから頭が冷やされただけで、全てが挽回不可能な状況に陥っていた。


 これだけ派手に戦闘していたのだ。アンディとマイクが気付かないハズはない。


 レイはアンディの狙撃を受け、機体右半身がほぼ操作不能。そして、すぐ傍には長刀を構えたマイクが迫っている。

 視界を戻すと、突然の狙撃に注意を奪われ、一瞬だが動きを止めてしまったジェロムが、ユウキによって袈裟斬りにされているのが見えた。


「ほんの一瞬すらのスキすら見逃してもらえない、か……お手上げだ。完敗だユウキ」


 マイクに斬られ、システムダウンするアッカーシャハテのコックピットの中で、レイは静かにつぶやくのだった。


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