第9話 模擬戦開始
模擬戦は、訓練学校……というか基地の外で行われる。
つまり僕は、この世界に転移してきて初めて、基地の外へと出たわけである。
何と言うか……感想を一言で言うのなら「廃墟?」といった感じだ。
あきらかに、訓練用として用意されたようなフィールドではない。
はりぼてではない、かつてはソコで生活が営われていた形跡があった。
ボロボロのビル群の中には、オフィス机が並んでいるし、朽ち果てた住宅街の中に家具が残されている。
機動戦闘機の訓練用なら、細部にこだわる必要はない。障害物代わりの、ガワだけがあればいいのだから。
何よりも、こんな廃墟を丸々作ったのだとしたら、基地を作るよりも金がかかるハズだ。
もしかしたら、この世界の価値観は違うって可能性もあるかもしれないが、あきらかに費用対効果が悪い。
おっと、話がズレてきた……
この廃墟が何なのかは、後で誰かに聞けばいいとして、ともかく今は模擬戦であり、その模擬戦は基地外の広大な場所で行われる。
ある程度決められた場所から、半径10キロ圏内で好きなように戦闘をしていいらしい。
いちおうフィールドデータは機体に送られてきており、基本的にその範囲から出た場合は、場外判定で失格になるという事だ。
銃弾はペイント弾を使用。背中の長刀や、右膝あたりに格納されてる短刀は、訓練用の刃の無い、ただの鉄の棒のような物に換装されている。
相手から攻撃を受けた場合は、実弾・実刀だった場合のダメージ量を、機体側が勝手に算出してくれる。
例えば、右腕に攻撃を受けた場合、軽微だったら右腕の動きが鈍くなる程度、右腕破損レベルのダメージだったら右腕が動かなくなる等、実戦さながらの動きを取ってくれるらしい。
もちろん致命傷を受けた場合は、その場で機体が機能停止になる。
「……機動戦闘機って、思ったより優秀なんだなぁ」
【当たり前じゃない。機動戦闘機を人間と一緒にしないでよね】
ただのひとり言にまで反応しなくてもいいのに……
【でも、このモードは苦手なのよねぇ……攻撃当たっても、痛くもないのに、その部分が痺れて動かなくなる感じっていうの?変に気持ち悪くなるのよね】
いかん、変な愚痴が始まった。
これは放っておくと長そうだ。
「そ、それより模擬戦開始1分前だよ。とりあえずは撃墜されない事を目標にすればいいかな?」
話を誤魔化しつつ、目標を低めに設定しておく……いや、僕からしてみたら高めの目標かもしれない。
そもそもで、さっきの作戦会議、僕がどう動くかまったく決まらずに時間になってしまっている。
結局僕は、ピーターを倒せばいいの?それともレイとジェロムを相手すればいいの?どっちでも秒殺されそうだけど!
【撃墜されない?何言ってんのよ!私達で3機とも撃墜させるわよ!!】
いやいや……それは目標高く設定しすぎじゃない?偏差値底辺高で受験日3日前から東大主席合格目指すくらい無謀だと思うよ。
【戦闘始まったらすぐにブーストジャンプしなさい!あと味方機の位置もレーダーで確認しておきなさいよね】
言われてすぐにレーダーを確認する。
敵機は表示されてはいないが、味方機の位置は表示されている。2人ともいい感じにバラけているみたいだ……こりゃ僕が襲われても、すぐには助けが来ないな……
あと、えっと……ブーストジャンプ?確か左側のペダルをゆっくり踏み込めばいいんだったかな?
【さあ始まるわよ!!5,4,3,2,1……ジャンプ!!】
「は、はい!!」
思わず返事して、言われた通りにジャンプする。
『おいバカ!?そんな障害物も何も無い場所でいきなりジャンプしたら、格好の的だろうが!?』
いきなりマイクから通信が入る。
バカとか言われても、やっちゃったもんはしょうがないじゃないか。そういうのはアザレーに直接言ってほしい。
【来た!!スラスターを使って、軽く左に動いて!】
もうアザレーの言葉だけが頼り、と言わんばかりに、返事する間も惜しんで、右ひじでスラスターを操作する。
次の瞬間、右側を弾丸の様な物が、物凄い勢いで通り過ぎる。
【5時の方向!!距離528m!!そこに、たぶんレーヴァン01がいるわ!急いで向かって!!】
「は、はいぃ!!」
何かよくわからないけど、言われた通りにブースター全開で向かう。
「って5時の方向って、ほぼ真後ろじゃん!?何でわかったの!?」
【何で?って、360度モニターなんだからわかるでしょ?】
そんな不思議そうに言われても……でもまぁ成程ね。見えてる視界が違うのね。
「……人間はそんなに視界広くないから」
【そうなの?……あ!だから今まで私に乗った連中、見え見えの弾に当たってたの!?アレ見えてなかったのね……人間って不便ね】
なんかすっごい馬鹿にするような口調だなぁ……
【お、居た居た!レーヴァン01発見!逃げても無駄だってのに】
「え?居たって、どこに?」
【どこ、って8時の方向70度斜め下をコソコソと移動してるじゃない?】
うん、人間からしたら死角だね。
ピーター頑張ってるんだろうけど、アザレーには効果無かったみたいだよ。
【さあ!真上から長刀で叩き斬ってやりなさい!】
えっと……長刀を抜くのは、確か右手前のレバーを軽く引いてから、グリップの親指部分の下にあるボタンを押して……
操作確認しながら動かすと、長刀を抜いた右手がモニター越しに見えた。
で、え~~と……斬りつけるには、グリップの人差し指部分にあるボタンを押し込んで、ターゲットをロックオンしてセミオートで……
【バカ!そんな教科書通りの操作してたら防がれるでしょ!!セミオート解除!!その掴んでるレバーを右側に倒して…………今よ!一気に左側に倒しなさい!!】
もう何がなんだかわからない状態ではあるけれど、言われた通りに操作する。
モニターから外の映像を見てみると、そこには、上段からの攻撃に備えて、長刀を真上に構えて防御姿勢を取っているレーヴァン01を、剣の軌道を変え側面から斬りつけている自らの右腕が見えた。
そして、そのまま膝をつき動かなくなるレーヴァン01。
【ナイスよジュン!まずは1機撃破!!】
え?マジで?勝っちゃったの?ピーターに?
【ズルいわよアザレー!!何でマニュアルでの操作させてるのよ!】
おそらくレーヴァン01の声だろう。動く事なくアザレーに非難の声をぶつけているようだった。
【セミオートにばっか頼ってるアンタの操縦者に言えば~?ジュンは今までの操縦者達みたいに、セミオートしか使わないような貧弱とは違うのよ!】
何やら言い争いしてるようなんですけど……
セミオートってパイロットの操縦負荷を軽減するためにあるものなんで、アザレーの助言無しの場合、僕も積極的に使っていきたいと思ってるんですけど……ダメですか?
とりあえず、この会話の流れでは、とてもそんな事言えなさそうだったので、僕はその言葉を、心の中にそっと留めておくようにしたのだった。




