5.生徒会の仕事を舐めてはいけない
ヴィオレッタの役職は庶務で、ざっくり言うと他の生徒会役員がやらないこと全般を担当している。
そしてどうもこの生徒会は、ヴィオレッタ以外の役員はあまり活動熱心ではないようだ。
「予算案の承認って、どう考えても庶務の仕事じゃないよね。会長か、少なくとも会計係で一番偉い人がやるべきだと思うんだけど……」
ヴィオレッタの席には承認を可能とするハンコまで用意されていて、新二年生に負わせるには責任が重たすぎるように感じた。
「貴族の学園だから、役職や学年より親の爵位が物をいうとか?でも学園では皆平等のはずだよねぇ。ま、ある程度は建前だろうけど」
小説やゲームで得た知識だと、貴族の爵位は男爵、子爵、伯爵、侯爵、公爵の順に高く、あとは辺境伯とか騎士爵があったりする。この辺は作品ごとにオリジナル設定の作品も沢山あるので絶対にこう!とは言い切れないけど、この国では概ねこの理解でよさそうだ。
だからこそ、公爵令嬢のヴィオレッタが生徒会において大きな権力を有している可能性も考えた。
「でも、この状況だと権力があるというよりも、ぶっちゃけ仕事を押し付けられてる感が凄い」
ちょっと考えて、書類の内容を精査し役職別に振り分けていくことにした。
重要度の高いものは生徒会長と副会長に、細々としたお金のことは会計に、学内新聞の発行と配布については広報に。これでヴィオレッタの仕事も減るだろう。
(もしヴィオレッタだけが過剰に働かされてて、それがキッカケでふらついて足を滑らせて今の状態になったんだとしたら、見過ごせないよね。ヴィオレッタが不憫すぎる!)
これからヴィオレッタとして生きていく自分のためにも、今まで頑張ってきたヴィオレッタのためにも、このままにはしておけない。
「……ん、寝ちゃってたのか」
「あ、おはようございます。お久しぶりです」
「…………ん?」
やる気に満ち溢れて楽しく作業をこなしていると、生徒会長(仮)が起きてきた。まだ目覚めたばかりでぼんやりしていて、何故か私の顔を見て怪訝そうにしている。
「ミラン公爵令嬢、君、大怪我で学園を休んでいるんじゃなかったの?」
「大怪我という程じゃありません。頭を打ちましたが、しばらく休んですっかりよくなったので今日から登校しました」
「公爵家のご令嬢が頭を打って意識を失うだなんて、充分な大怪我だよ」
「そんな、大袈裟ですわ。現にこうして登校しています」
「そうだけど……たった一週間休んだだけで、もう生徒会の仕事なんかするの?ミラン公爵はしばらく領地で静養させたいって言ってたそうだけど」
ヴィオレッタの両親は彼女をとても大事にしていて、今日の登校もかなり渋られたのだ。
いつも頑張っているのだから時にはゆっくり休むことも大事だと諭されたけど、それより今はここがどの作品の世界なのか、自分が悪役令嬢かどうかを確かめることを優先したい私はやんわりと領地行きを断った。療養中にいわれなき罪をでっち上げて断罪でもされたらたまったものじゃない。
「お言葉ですが、そのたった一週間で仕事がこんなに積み上がっておりました。おちおち休んでもいられませんし、私がきちんと休むためにはこの仕事を生徒会役員の皆様に適切に振り分けなくてはなりません。特に予算のことは生徒会長におまかせしたいのです」
「え、生徒会長?」
(あれ、どう見ても生徒会長顔だからツルっと口から出ちゃったけど、会長じゃないのかな?)
「生徒会長なんてお飾りの役職だから、そんな呼ばれ方したのは初めてだよ。君もいつだって僕をクリストファー殿下と呼んでいたでしょ」
「……失礼いたしました、殿下。生徒会の仕事に没頭するあまりつい役職で呼んでしまいましたの」
(よし、名前ゲット。えーっと、殿下ということは、この人が第二王子か。ますます攻略対象みが増してきたな)
ヴィオレッタの記憶を探り、同学年に第二王子が在学中ということをぼんやりと思い出す。
この目の前の金髪碧眼キラキラ青年にぴったりの肩書だ。
「生徒会なんてあっても意味ないし、そんな仕事は誰か適当な人間に任せておけばいいのに。なんなら教師だって僕が言えば何でもやるさ。生徒会の役員が高位貴族だと、学園の拍付けになるから名前を貸しているだけ。どうして君が真面目に働いてるのか、いつも不思議でしょうがないよ」
呆れたような、嘲りも含まれたような笑い方をされたので、頭にきて思わず言い返す。
「私が真面目に働くのは、やることが山のように積み上がっているからです。何せ他の役員の皆様がどなたもお仕事をなさらないので」
「えっ」
「適当な人間とはどなたのことでしょうか?学園において生徒は皆平等。適当な人間なんて一人もいないか、私や殿下も含めて全員が適当な人間かのどちらかでしょう」
「なっ!君ねぇ……!」
「生徒会は文字通り生徒のための生徒による、学園生活をより良くしていくための会です。教師たちに任せてばかりいては、いざという時に自分の意見や要望が聞き入れられず、困ることもあるでしょう。それに、私たちは数多くいる生徒たちの代弁者として、皆の意見に耳を傾け、それを実現するために尽力するべきです。たった三年の学園生活だと侮ってはいけません。ここで築き上げた人間関係が、ゆくゆくは自分の未来を豊かなものにしてくれるのですから」
前世の私の友人ことオタク仲間たちは、ほとんどが学生時代に出会った。
社会人になると、仕事抜きに新しい友達を作るのはよほどアクティブでいないと難しい。だからこそ長く付き合ってくれる友人は貴重なのだ。人との繋がりは大事にしたい。
それに、教師に任せっぱなしで生徒会を放置していては、教師に有利なルールばかり作られてしまうおそれがある。舐めた考えで生徒会を放置しないでほしい。
「驚いた。君はそう考えて生徒会活動に励んでいたのだね」
「他にどんな理由があります?」
「いや、てっきり僕への点数稼ぎというかアピールというか、そういう感じかと……いや、なんでもないよ。今のは忘れて」
そうだったのか、いやこれは反省しないと……などとブツブツ言っているが、私に話し掛けているわけじゃなさそうなのでスルーしておこう。
話し込んでいる内に外がすっかり暗くなってしまったので、この隙に帰り支度を整えた。
「まだ書類が残っておりますが、家の者が心配しますので今日はこれで失礼します。ごきげんよう!」
「あ、ちょっと……!」
何やら呼び止められたようだけど、リラと約束した時間を10分過ぎていることに気付いたので、聞こえなかった振りをして足早に生徒会室を出た。




