21.推しとの邂逅
「クリス、よく来てくれた!ミラン公爵令嬢も久しいな」
(本物のアレクシスだ……目の前に!推しがいる!!)
アレクシスはハルモニア王国の第一王子で、王の寵愛を受けた伯爵家出身の正妃の一人息子だ。
生まれつき身体が弱く、静養地の離宮で育ったため王都での存在感は薄いと言われているけど、それは表向きの話。実は頭脳明晰で様々な政務に携わっている。
「久しい……ですか?」
「あぁ。私たちは、幼い頃に茶会で何度か顔を合わせているんだが……覚えていないか?」
「申し訳ありません、殿下。思い出せず……」
「いや、それならいいんだ。気にしないでくれ」
(ちびアレクシスのお茶会正装姿が思い出せないなんて!悔しい!儚げな美少年だよなぁ絶対……見たかったよぉぉぉ……!)
「兄上、お身体は大丈夫なのですか?」
「あぁ、問題ない。それに、今は休んでいる場合じゃないからね」
強い魔力持ちであることを示す白銀色の髪のアレクシスは、病弱さも相まって、繊細なガラス細工のような美貌の持ち主だ。
(魔力が多い人間は髪色が薄くなるんだよね、この世界。ゲーム内でもアレクシスルートの終盤に明かされるし、きっと誰も知らないんだろうな……今のところは)
この髪色のせいで、幼少期のアレクシスは不義の子ではないかと疑われていた。
離宮に逃れていたのは、悪意から身を守るためでもあったのだろう。
成長するにつれて父親そっくりの顔立ちになったことと、王太后がアレクシスを庇護下に置いたため、今では表立って彼の出自を疑う人間はいない。
「聖女様の情報は、こちらにはほとんど無いんだ。クリスの庇護下で学園に通っていることぐらいしか知らなくてね」
「はい。国王陛下より、年の近い僕が彼女を支えるよう命じられていました。それなのに、このような事態になってしまい、申し開きもございません」
「いや、クリスを責めるわけじゃないんだ!よくやっていたと聞いているよ。頭を上げておくれ」
「兄上……」
(おぉ……さりげなく弟の頭を撫でた!)
色々あって人間不信気味な彼だけど、異母弟であるクリス様のことはとても可愛がっている。
表立って仲良くすることが難しい分、弟の危機を嗅ぎ付けては暗躍し、本人が気付く前に解決すること数知れず。クリス様に伝わっているかはわからないけど、ゲーム内では溺愛していた。
(まさかクリストファー殿下がアレクの可愛い弟のクリスだったとは……弟のスチルも立ち絵も無いから全っ然思い当たらなかったよ!!!)
そう。
私の予想は大外れしていて、クリストファー殿下も護衛騎士カイルも、攻略対象ではなかったのだ!
アレクシスルートで「可愛い異母弟のクリス」と名前が出てくるだけで、カイルに至っては名前すら出てこない!
(王子=攻略対象だって早合点したよ……!王子は王子でも、兄の方だけだったなんて……!!)
「兄上、今日はヴィオの話を聞いていただきたいのです」
「え、クリス、ヴィオって呼んだ今?彼女と親しいのかい?」
(ぎゃっ!アレクシスがこちらを見る目が一気に冷ややかに……!弟への愛が重いところも推せるけど今はまずい!!)
「クリストファー殿下とは、生徒会で切磋琢磨し合う、良き関係を築かせていただいております」
「へぇ。それ以上でも、それ以下でもないと?」
「はい。学園においては生徒は家格にこだわらず皆平等という考えを大切にしておられるので、私の事も気さくに呼んでくださるのです」
「ふぅん……そう思っているのは、ミラン公爵令嬢だけかもしれないよ?」
アレクシスに促されてクリス様の方を見ると、心なしかしょんぼりしているように見える。カイル様が後ろで背中をさすっているので、マリア捜索の疲れが出たのかもしれない。早く本題に入るとしよう。
「クリス、生徒会の話は後日ゆっくり聞かせておくれ。それで、ミラン公爵令嬢は私に何を聞きたいのかな?」
「どうぞヴィオレッタとお呼びください。アレクシス殿下には、身の内に持つお力でマリアを探知していただきたいのです」
「私の力……かい?」
アレクシス殿下だけじゃなく、クリス様もカイル様も怪訝な表情でこちらを見る。
これから話すことは、全部ゲーム内の知識だ。何でそんなことを知っているのかアレクシスに怪しまれるに違いないし、マリアの誘拐に関わっていると疑われてもおかしくない。大好きな推しに疑われるのはちょっとしんどい。
だけど、クリス様が信じると請け負ってくれた。
『ヴィオの話すことは、決して他言しないと誓おう。どうか僕らを信用してほしい』
そう言って、アレクシス殿下に引き合わせてくれた。だから私も腹をくくろう。
「アレクシス殿下の心身を蝕んでいるのは、身の内にある強大な魔力です。それを使えば、聖女マリアの居場所を探知することができます」




