後日譚 15 レーヴェルランドの女王と王配に与えられた祝福
新年明けましておめでとうございます。
後日譚最終話です。
短いですが、お楽しみいただければ嬉しいです。
アリシア姉様、ヴォルフ義兄様
こちらは新緑の季節になり、私達の結婚式も近付いて参りました。
姉様達は、その後お変わりありませんか?
私はようやくこちらでの生活にも慣れて、ルーウェン始め、両陛下やライデン義兄様にもとっても良くしていただいて、毎日楽しく暮らしています。
そうそう、この間、ライデン義兄様の婚約者の姫君に、初めてお会いしました。
シャウエンを愛しているという大地家の姫君です。とても芯が強くて、懐の深い方のようで、私は大好きになりました。
姫君は、姉様に会えるのが楽しみだって言っていましたよ。
姉様はこちらではまるで女神様のように伝えられていて、やっぱり私の自慢の姉様です。
そしてライデン義兄様には、姉様の話をたくさん強請られるので、時々ルーウェンに追い返されています。
あと、私の為に作ってもらった薬草畑や、製薬所も素晴らしいです。だからきっと、聖石を無くしてもちゃんとやっていけます。
姉様達と意思疎通出来なくなるのは寂しいですけど、こうやって手紙の交換にも慣れてきたので、これからはたくさん送りますね。
だから、どうか心配しないで。
結婚式でお会いできるのを楽しみにしています。
マルシア
夜寝る前のひととき、今日届いたマルシアからの手紙を二人で読み終えて、ヴォルフとアリシアは寝台に横になった。
アリシアを後ろから包み込むように抱き込んで、ヴォルフは彼女の旋毛に口づけを落とす。
「幸せにやってそうじゃないか、よかったな」
「うん。ルーウェンも頑張ったもんね。本当に結婚式が楽しみだよ」
アリシアは数ヶ月前の、ルーウェンの求婚騒動を思い出して、小さく笑う。
マルシアは喜んでルーウェンの求婚を受けたのだが、リーリアとルーリアが暴走して、ヴォルフと一緒に収めるのが大変だったのだ。
でもきっと、ルーウェンにも、聖石を失うことが私達にとってどういうことか、わかってもらえたと思う。
「でも、長旅は大丈夫なのか? 大事な時期だろう?」
ヴォルフの手が、アリシアの下腹をそっと撫でる。
「問題ないよ。スーリーは上手に飛ぶし、結界も張っていくんだから」
「だが……」
「むしろお腹があまり目立たない時期で良かったよ。式典用ドレスのサイズを変えなくてもいいからね。それに、ヴォルフも一緒なんだから、何も心配することないでしょ?」
「はあ。絶対無理しないことと、何かあったらすぐ俺に言う事。守れないようなら、連れて行かないぞ」
珍しく拗ねるような口調でそう言ったヴォルフが、アリシアを抱き込む腕に力をこめた。
「信用ないなあ。ヴォルフの子供だよ? 大丈夫、ちゃんと大事に守るよ?」
アリシアはポンポンとヴォルフの腕を軽く叩いて腕を緩めてもらうと、ごろりと寝返りを打って彼に向かい合った。
「……ああ。でも、一番大切なのはお前だからな?」
「うん。わかってる」
ヴォルフを見上げるアリシアの菫色の瞳が、幸せそうにとろりと微笑む。
「ヴォルフに家族を作って上げられるのが、嬉しい」
ヴォルフが目を瞠って、それから一瞬、泣くのを我慢するように歪む。
ああ、本当に……この女が愛おしい。
ヴォルフは引き寄せられるようにして、アリシアの唇に自分のそれを重ねる。
何度も啄むように。
だが今日は、それ以上深くなる前にアリシアの唇を解放し、ぎゅっと彼女を抱き締めた。
妊娠初期である彼女の負担にはなりたくない。
今はただ、甘やかして、大切にして、自分を幸せにしてくれる彼女を愛おしみたいだけだ。
女王の巡礼に一区切りつき、アリシアは時々城には出かけて行くものの、普段はヴォルフと周辺の魔獣討伐に出たり、戦闘訓練中の子供達を指導したりと、割とのんびりと過ごしている。
どうやら執務自体は、側近や議会が上手く回しており、城で女王が関与するのは最終決定位らしい。
もともとレーヴェルランドの女王の役割は、大陸を旅しながら、平穏が保たれるように人々を助けてまわるというのが基本らしく、妊娠中や幼子を育てている間は、女王達が無理をすることは無いのだそうだ。
乳飲み子の時期を過ぎれば、子育てのバックアップ体制が整っているレーヴェルランドの施設に子供を任せて、短期間の旅に出ることも可能になってくる。
少し他とは変わった制度だが、子供達は仲良く成長しているし、母子の絆もちゃんと育っているらしいから、問題はないのだろう。
父親が傍にいない子供が多いが(父親がエデンにいる方が珍しい)、ここにいる男達は、他人の子供にもちゃんと愛情を注いでいるらしい。
リュシアンいわく
「自分の娘は最高に可愛いけど、どの子も真っ直ぐ育って欲しいと願うくらいには、かわいいよ」と。
きっとそのうち、ヴォルフにも理解できる日が来ると思う。
そして……
「ヴォルフ! 鉱山近くで、フェンリルの群れが出たって!」
聖石を通して、側近から連絡が来たらしい。声を弾ませて知らせに来たアリシアに、ヴォルフは首を傾げる。
「なんでそんなに嬉しそうなんだ? まあ、いい。ちょっと行ってくる……って、まさかお前も行くのか?」
戦闘用の上着を羽織って、身支度を始めたアリシアに、ヴォルフは思わず確認した。
「もちろん」
「はあ、留守番させるよりはいいか。行くぞ」
簡潔な返事に、大きなため息が溢れる。
ヴォルフはどうも、妊婦の扱いに戸惑っている。
帝国の城では、妊娠した貴婦人は、結構安静にしていた記憶があるが、ここレーヴェルランドの女性達は、本人も周囲もあまり頓着していなさそうである。
アマリアにアリシアの懐妊の知らせを出したら、大事にするようにと返事があったが、ヴォルフにはその加減がわからない。
魔獣討伐などもってのほかだと思うが、一人にして目の届かないところで無茶するのでは?と心配する位なら、一緒に行動した方がマシだと思う。
まったく、側近たちも、妊婦にフェンリル討伐なんて連絡してこないで欲しい。
「毛皮をマルシアに持って行ってあげたいから、綺麗に狩らないと」
家を出て、現場まで走りながら、アリシアは楽しそうにヴォルフに言った。
「なるほどね。まあ、任せろ。あとお前は、魔法以外使うなよ」
マルシアの土産にするつもりだったのか……
多分、フェンリルが出たら、真っ先に知らせるように通達しておいたんだな、これは。
フェンリルは特級魔獣で、しかも群れで現れたらしい。いくら女王といえど、妊婦に任せていい獲物じゃないが、ヴォルフの同行も織り込み済みなのだ。
「大丈夫だよ、ヴォルフ。ありがとう、頼りにしてる」
信頼を込めてそう言ったアリシアに、かつてヴォルフと対峙した孤高の女王の影はもうない。
今、隣で笑う女は、ヴォルフの半身で唯一だ。
そして、ヴォルフもまた、過去の柵から解き放たれて、最愛の傍で穏やかで幸せな時間を過ごしている。
この先もずっと、互いに笑って伴にいられるように……
この大陸の平穏を二人で守っていこう。
幾度となくそう誓うヴォルフに、彼の胸に刻まれた菫の花が金色に変化したのを彼らが知るのは、今晩の話。
だいぶん長い期間の連載で、愛着もある作品です。
本編、後日譚ともに完結しました。一旦完結表示としますが、偶にコソッとエピソードを更新するかも知れません。
また遊びに来てくれると嬉しいです。
ありがとうございました。




