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後日譚 1 神具が見せる光景と少年の憧れ

後日譚始めます。

ぼちぼち更新で、割と平和なお話。


「ぎしき?」


 幼子の拙い声が、隣に立つ母親に向かって尋ねた。

 艷やかな黒髪に、焦げ茶の瞳の秀麗な面差しの女性が、よく似た容貌の幼い男児の手を握り、優しげな微笑みを浮かべる。


「ええ。私達が確かにセイラン様の血を継ぐ者達だという証を皆に示すの。神官と貴族たちの前で行う形式的なものだけれど。ほら、これが儀式で使う神具よ」


 彼らの目の前には、美しい紋様が掘られ鮮やかに色付けされた箱に収まる、大人の両手に乗るほどの大きな球体の魔鉱石があった。

 透明度の高いそれは最高級の魔鉱石であり、普段はこの皇宮の宝物庫に納められているが、明日の儀式のために祭殿に準備されたものだ。

 この皇宮に神具があるのは、この国で神にもっとも近いとされている存在が、国の始祖であり彼らの先祖である天皇セイランだからだ。


「ふうん。綺麗だね。ちょっと触ってみたいなあ」


「ふふっ、いいわよ。魔力を流してご覧なさい」


 キラキラと興味深げに瞳を輝かせて、男児がじっと魔鉱石を見ている。

 いろいろなものに興味を持ち、なんでも触れたり試したりとややわんぱくな、明日5歳を迎える男児だ。

 天真爛漫という言葉が似合うこの様子に、周囲の大人に自然な笑顔が浮かぶ。

 彼はこの国の第二皇子ルーウェン。隣に立つのは皇后ローラン。

 明日のルーウェンの誕生日に、この神具に触れその血統性を対外的に示してみせるという儀式が行われるのだが、まだ5歳の子供が滞りなく儀式を行えるよう、予行演習の為にこの場所にやってきたのだ。

 またこの神具に触れることで、同時に魔力の大きさも測る事ができる。


「わあっ!」


 魔鉱石が光り、鮮やかに浮かび上がったのは、神の子らが住む地で過ごしていたと言われている、幼子のセイランとその母の姿。

 この神具は、セイランの血筋で無い者が触れても何も起こらないのだが、このように鮮明な様子で浮かび上がることも珍しい。大概は、ぼんやりと霞の向こうに写っているような淡い状景が見える程度だった。


「まあ! ルーウェンあまり魔力をこめすぎると疲れちゃうわよ?」


 鮮明に浮かび上がりハッキリと見えるその映像は、男児の持つ魔力量がかなり大きいことを示していた。これは長男である第一皇子のライデンをも超えている。

 ローランは息子が無理をしていないか心配になった。

 

「大丈夫だよ。すごいね! ここ、どこなんだろう?」


 ルーウェンは全く疲れた様子なく、浮かび上がる光景に魅入られている。

 その様子に安堵したローランが答える。


「神の子達が暮らす地、と言われているわ」



 ここタイヤーン・ラ・シャウエン皇国では、「天子」すなわち神の血を引く天皇が代々国を治めている。

 1000年以上前から伝わる伝承は、子供に読み聞かせる物語から、歴史を記録し続ける神官が残す史書まで、その始まりの大枠はそう変わらない。


 始祖である天皇は、セイラン。

 彼はもともとこの地域の小国の王であったカオツェンと、神の娘アーデルハイトとの間に生まれた、神の血を引く子供だ。

 幼い頃を神の国で過ごし、やがてこの地に遣わされたセイランは、父の後継として育ち、立派な若者と成る。

 成人したセイランは、父の後を継ぎ王となり、その強大な魔力と叡智により、大陸東部一帯の地域を平和的にまとめ上げ、かつて小国であったシャウエンを首都として他の五つの小国を統合し、タイヤーン・ラ・シャウエン(太陽の国シャウエン)皇国として建国し、天皇となった。

 そしてその後生涯に渡り、皇国を豊かに発展させた賢王として語り継がれている。


 また、彼は5人の子供に恵まれた。

 そのうち2人は天皇家に残ったが、残りの3人は五大貴族家となったかつての他国の当主家、(ユーリャン)(シンシン)(ハイヤーン)の家に嫁ぐか婿入りし、また、天皇家の次代の姫が大地(ルーディー)(ウーボア)に降嫁した。

 タイヤーン・ラ・シャウエンはその後1000年にわたり、天皇と五大貴族の統治により、豊かに緩やかに時を刻んできた。

 この国では近親婚は禁忌とされたが、時々は互いの家同士で婚姻を結ぶこともあり、天皇家と五大貴族の中では、セイランの血筋が今代まで連綿と続いている。




「きれいだなあ。いつか行ってみたい」


 憧憬のこもったルーウェンの声が、ローランにある予感を抱かせる。

 この子は将来、この国を出て、神の国に辿り着くかも知れない。


「セイラン様の父君カオツェン様は、王位をセイラン様に譲った後、そこで神の娘と暮らしたと言われているわ。ルーウェンもカオツェン様のように、強くて賢くなれば、いつかそこに行けるかも知れないわね」


「本当? 僕、頑張るよ!」


 ローランの言葉に目を輝かせて宣言した息子の頭をそっと撫でて、彼女は言った。


「ええ、でもまずは、立派に儀式をやり遂げましょうね」


「はい!お母様」


 この国は、大陸の他の国との行き来がほとんど無い。

 ずっと、この国だけで完結してきた歴史がある。


 だがこの十数年後、ルーウェンは旅に出る。

 抑えきれない好奇心と興味を胸に、自身を鍛え、知識を得、立派な若者に成長して。

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