もう1人のS級冒険者
2週間程旅行に出ます。
次回更新は、12/14(土)7:00になります。
夜、領主邸が寝静まった頃。
ヘンリーの寝室の窓から、二つの影が現れた。静かに窓の鍵が外れ、気配を殺して入ってきたのは、日中に見舞いにやってきたヴォルフとアリシアだ。
ウトウトしていたヘンリーは、小さく声を掛けられて目を覚ます。
予告されていたので驚くことはなかったが、辺りが静かな様子に、二人が無事にここまで来れたとホッとする。変装しているとは言え、皇帝陛下に何かあれば大問題だ。
事実かどうかヘンリーにはわからないが、ヴォルフの妻と昼間紹介されたアリシアという女性は、彼の記憶には無い顔だった。どうやら美しいだけではなく、かなり高位の魔法師らしい。防音結界が張られたが、詠唱している様子はなかった。
「気分はどうだ?」
「申し訳ありません、陛下。まだ身体が起こせるほどではなく……」
「気にするな。長く蝕まれていたんだ。すぐに元には戻らないだろう」
ヴォルフはヘンリーを労るが、仕事を果たせていないばかりか、こうして皇帝陛下を煩わせてしまったことが本当に情けなく、申し訳なかった。
そして、ヴォルフが語りだしたサッシーリャ領の状況は彼の予想よりもひどい有様で、全てを聞いて理解したヘンリーは、自身の不甲斐なさに唇が戦慄くのを抑えられなかった。
「魔力や気力を奪い、遅効性の毒のようにゆっくりと対象者を死に至らせる魔道具……ですか」
静かな、怒りを内包したヘンリーの言葉だった。日中にアリシアが核を破壊した魔道具のことだ。娘から贈られた品物だっただけに、思うところもある。
「旧メッシーナ暗部の奴らが、上質の魔鉱石を使って、いろいろ開発している魔道具の一つだ。その他にも暗殺や大規模攻撃に使用する魔道具を、ディングは南部諸国に密輸させようとしているらしい」
「彼はもともとメセナの商会で働いていたのですがね。どうやら私達はとんでもない男を、サッシーリャ領に引き入れてしまったらしい。私の調査不足です。申し訳ありません」
娘が恋仲になったという男だった。貴族ではないが、大きな商会の商人で、裕福であったし評判も良かったから、一通りの調査で結婚を許してしまった。
その後ヘンリーは病に倒れ、まだ若くて経験のない息子たちの為に、ディングの申し出を受けて領地経営面での補佐を頼んだことが、この騒動を引き起こしてしまったのだ。
守るべき領民や鉱夫達に苦労をかけ、そして、帝国を危機に晒しかねない失態に、ヘンリーの血の気が引く。
「その件は今はいい。問題はお前の子供達が、ディングの企みを知っているのかどうかだ」
「次男は……どのようにディングに指示されたのかはわかりませんが、おそらく彼の意に沿って動いているのでしょう。だから長男を魔獣討伐の名目で屋敷から離したと思います。
ただ、陛下、長男は、おそらく無関係だと。魔獣討伐に誇りを持って臨んでいます。そして、サッシーリャ領軍は民のために力を尽くしていることはどうかご理解いただきたい」
ここまでの失態だが、この領地から領軍の戦力が失われることは避けなければならなかった。そして、あの長男は、実直で謀には向かない真面目な男だ。次期領主の座を欲しがっていた次男から、体よく採掘場警備に出されたということは、想像できる。
もちろん、ヴォルフもそこはよくわかっていた。長男は、あのフェルナンが脳筋と評していた男だ。
「ああ。もちろん仔細は直接本人たちに確認するつもりだ。取り急ぎお前の体調回復だが……アリシア」
一通り状況を確認したヴォルフが、傍らにいたアリシアに声を掛ける。
彼女は小さく頷くと、ヘンリーの側に膝をつき、彼の手に小さな袋を握らせた。
「ヘンリー殿、これを。栄養食品と回復薬が入っています。急な回復は怪しまれるので、少しずつ体力を戻します。1日に1個ずつ摂取して下さい。3日分入っています。それでベッドで身体を起こせるくらいにはなるかと」
アリシアが渡したものは、レーヴェルランドの優秀な薬師が調合し、いざという時のために彼女が持たされていたものだ。効果は期待できるだろう。
「ありがとうございます。アリシア殿」
「この件は、数日内に片をつける。お前は、その時に証言できるよう整えておけ」
「かしこまりました、陛下。どうかお気をつけて」
アリシアは立ち上がり、ヴォルフと並ぶ。ヴォルフが自然な動きでアリシアの背に手を伸ばし、二人の視線が交わった。
物言わず言葉を交わし合う二人に、似合いの夫婦だ、とヘンリーは思う。
だが、去り際にヴォルフが爆弾を落とした。
「ああ、それと、俺はもう皇帝じゃない。先日病気療養を名目に、アマリアに譲位した。今はただの冒険者で、今回のことはアマリアと王配のレオンハルトの依頼で動いている」
「は?」
二の句が告げられずに固まったヘンリーに、ヴォルフはニヤリと笑って続けた。
「だから、そんなに気に病むな。上手く処理してやる。もっとも帝国に仇なす者は容赦しないがな」
最後の一言は獰猛な笑顔で告げられ、そのまま窓から二人の姿が消えたが、ヘンリーは混乱のあまり眠れぬ夜を過ごすことになった。
翌日の早朝、ヴォルフとアリシアはスーリーに乗って、ノルドからメセナまで戻ってきた。スーリーはこのところ人里離れた北部国境付近の山で、魔獣を狩りながら過ごしているらしい。
朝のメセナのギルドは、依頼を受ける冒険者でごった返していたが、受付嬢のイリーナが二人の姿を見かけるなり声をかけてくれた。
「お帰りなさい、ヴォルフさん、アリシアさん」
「ああ、依頼の件で報告がある。ギルド長に面会出来るか?」
ヴォルフが答えると、イリーナがにこやかにカウンターから立ち上がり、
「はい。もちろんです。ご案内しますね」
と、2階へと二人を促した。
「今ギルド長を呼んで来るので、こちらで少々お待ちください。あと、アリシアさんがこちらに戻ったら、面会したいとおっしゃっている方がいて」
応接間に案内してソファーに二人が腰掛けるのを待って、イリーナはアリシアに伝えた。
「誰?」
首を傾げたアリシアに、イリーナはゆっくりと答える。
「セフィロス・フォレスター様です」
その名を聞いたアリシアは、無表情のまま何かを思案している様子だったが、
「…………そう。やっぱり来たか。会うよ」
感情を乗せない声で言った。
「わかりました。連絡を入れておきます」
イリーナが軽く頭を下げて退室していった。
扉が閉まるのを待って、ヴォルフがアリシアに尋ねる。
「面会希望のセフィロスって、誰だ?」
「よくわからない方のS級冒険者。南部諸国が関わっているなら、そろそろ来る頃だと思ってた」
大陸に3人いるというS級冒険者の1人だった。
S級は、レーヴェルランドのアリシアともう1人女性戦士の他に、「ちょっとよく分からない人」とアリシアが言っていたのを、ヴォルフは思い出した。あの言い方だと、アリシアとの接点はほとんど無いのだろう。実際、5年くらい前に一度見たことがあると、彼女が言っていたくらいだ。
なのに、来る頃だと思っていたという言葉が、ヴォルフには引っ掛かる。
「どういうことだ?」
聞き返したヴォルフに、アリシアも首を横に振る。
「上手く言えないけど、勘みたいなものだよ。あの人は、ちょっと特殊だから」
実際は聖石がもたらす予感めいたものだ。セフィロスがこの大陸の出身者でないことは、アリシアが初めて会ったときに知ったが、どういう経緯や目的でこの大陸にやってきたかは、彼女の知るところではない。
だから、良くわからない人物なのだ。
ただ、彼はS級冒険者に相応しくとても強い。
そこに扉を叩く音がした。
そして、返事を待たずに扉は開く。ギルド長のザカリーだ。相変わらず厳つい男だ。
「待たせたな。どうだった?」
ザカリーは、二人の前のソファーに音を立てて座ると、開口一番そう言った。
挨拶も何も無しだが、ヴォルフとしては簡潔なのは好ましい。アリシアが黙って、防音結界を張る。
レオンハルトから依頼の魔鉱石の流通調査を始め、新鉱山町で襲撃を受けたこと。ギルドに出されている依頼内容の詳細調査とディングのこと。サッシーリャ領主の暗殺未遂。そして、旧鉱山採掘場で起きている旧メッシーナ暗部組織の陰謀。
これらの調査結果を、ヴォルフは順を追って報告した。2週間弱でここまで調べ上げた「紫紅」に、ザカリーは舌を巻く。
「以上の内容を、皇都のギルド経由で、レオン達に報告書を送りたい。もちろん機密文書扱いで」
アリシアが、ストレージから紙の束を取り出して言った。
「ああ。もちろんそれは構わない。送信魔道具も使ってくれ。だが、その旧鉱山の陰謀とやらは、どうするんだ?」
ザカリーは持っていた重要機密事項用の送信封筒を、アリシアに渡してやる。
アリシアが紙の束をそれに入れて魔法で封をするのを横目で見ながら、ヴォルフが答えた。
「それについては、アマリアから許可が出ている。ディングを更迭して、旧メッシーナ暗部組織を殲滅させ、違法魔道具を破壊するつもりだ。事後報告でも別途報酬を用意すると言っていた。まあ、金額はこっちの言い値を払うだろうから契約書の作成は要らないが、別途指名依頼として、ギルドに出しておいてもらおう。「紫紅」の実績になるからな」
「二人でやるのか?」
ザカリーは、いくらこのパーティーでも荷が重いんじゃ、とさすがに心配になる。
「それはこれから考える。どちらにしろギルドには迷惑はかけないよ」
無表情でそう言ったアリシアからは、ギルドを気遣っているのか遠ざけているのかは判断出来ないが、巻き込まないよう配慮してくれたのは理解出来た。
しかし、ギルド長としてザカリーは、無理な依頼受託を止める義務もある。
「すみません。セフィロス様がお見えになりました」
ザカリーがどうするか?と思案しはじめたとき、部屋がノックされイリーナの声が掛かった。
セフィロスの面会のことはザカリーも報告を受けていたが、この為だったのか?と勝手に納得する。
S級冒険者がもう一人、このタイミングで「紫紅」に会いに来た。
それなら、ザカリーの心配は杞憂に終わる。
「ありがとう、ここに通して。ザカリーは外してもらってもいい? 彼とはここで話したい」
アリシアは、前半はイリーナに、後半はザカリーに言って、彼を見た。
ザカリーは頷いて席を立つ。
「わかった。くれぐれも気をつけてくれよ。あとギルドからの調査依頼の報酬は、「紫紅」の口座に振り込んでおく」
そうして、ザカリーは部屋を出ていった。
部屋の外からは、ザカリーとセフィロスが話す声が聞こえる。どうやら大陸に3人しかいないS級冒険者にギルド長として挨拶をしているのだろう。
その声を聞きながら、アリシアはヴォルフに小声で告げた。
「ヴォルフ、油断しないでね」
「ああ」
やがて、ノックも無しに扉が開き、一人の男が部屋に入ってきた。
短めの蒼銀の髪に、左眼を黒の眼帯で覆い、右眼は金色の瞳を持つ、背の高い30前後の美丈夫だ。全身から発せられる覇気から、彼の実力が垣間見える。
男はこれまでザカリーが座っていた場所に、断りもなく腰掛けた。
そしてアリシアを見て、口角を上げる。
「よお! 久しぶりだなアリシア。すっかり大きくなって、いい女になったな」
快活に発せられたセフィロスの言葉に、アリシアはいつもの無表情で答える。
「5年ぶりくらい? セフィロスは老けたね」
「おいおい、俺まだ28だぜ? そこの彼とそう変わらんだろ?」
遠慮のないアリシアの指摘にセフィロスは苦笑して、彼女の隣に座るヴォルフに視線を向ける。このメセナでは隻眼を装うことなく、銀髪蒼瞳に色を変えただけのヴォルフの正体もお見通しのようだ。
だが、それをスルーして、アリシアは続けた。
「で?しばらく南に居たよね? わざわざどうしたの?」
「お前が巡礼に出たって聞いて、相棒に名乗りを上げようと思って来たんだが、なんだか面白いことになってるな」
どうやらこちらで何が起こっているかも、何故かおおよそ把握済みらしい。
しかしその件よりも、彼が女王の巡礼の同行に来たと言われ、ヴォルフは思わずセフィロスを睨みつけ、口を挟んだ。
「パーティーメンバーなら間に合ってる。お前の居場所は無いな」
「つれないねえ、元皇帝陛下? アンタの力じゃアリシアの隣には足りてないんじゃないかな?」
「黙れ。お前に言われる筋合いはない」
ニヤリと笑って揶揄するセフィロスに、ヴォルフが立ち上がりかける。
アリシアがそんなヴォルフの膝に片手を置いた。
「ヴォルフ待って。セフィロス、私はヴォルフがいい。お前じゃない」
アリシアの台詞に、セフィロスはつまらなそうにソファーに背をもたれさせ、腕を組んだ。
「ふうん。まあ、とりあえずいいか。今回いろいろ潰すんだろ?手伝おうか?」
「どこまで知ってるの? 信用できない。背中から刺されたくないから、遠慮するよ」
アリシアがにべもなく断ると、セフィロスは大きくため息をついて腕を解き、両肘を膝の上について前のめりになると、アリシアの瞳を見つめ、真剣な表情でゆっくりと言葉を切りながら、アリシアに伝える。
「大丈夫だよ。俺とお前は、この世界で唯一の同類で、同じ宿命を持つ者だ。俺にとって、ただ一人の理解者であるお前を、害することは、決してない」
アリシアは、セフィロスのその言葉を違えることなく理解する。バンダナで隠されてはいるが、聖石が激しく反応した。
唯一の同類……その意味を正確に今、知った。
「そう……そういうこと。じゃあ、目的は何?」
アリシアの表情は変わらない。
「お前をただの女にしてやろうと思って」
しかし、さすがにこの一言にはアリシアの表情が歪み、冷たい声が出た。
「余計なお世話。私はレーヴェルランドの女王でいることに誇りを持っている」
「う~ん。ちょっと意味が違うが……まあ、今回だけでも手伝おう。方々相手にするから、二人じゃ手が足りないだろう? で、俺が欲しくなったら、巡礼の旅に同行させろよ」
ヴォルフは、アリシアが珍しく苛ついているのを感じて、逆に冷静になる。
アリシアの肩に手を伸ばし、数回軽く叩いてやる。
「アリシア、もういい。来たければ勝手にくればいい。おかしな真似をすれば、ディング達との共犯で帝国法で裁いてやる」
ヴォルフがセフィロスに向かって、釘を刺す。
「余裕だな。だが、お前に俺は裁けないよ。強さも経験も、お前はまだまだ足りない」
「…………」
セフィロスのこの言葉に、ヴォルフは答えることが出来なかった。
目の前の男に、アリシアに対峙したときのような圧を感じる。今のヴォルフよりは、明らかに強い。
アリシアが大きくため息をついて、セフィロスに向かって口を開く。
「わかった。セフィロス、夕方ここに来て。お前の力を借りたい」
アリシアは手にしたメモ用紙に、サラサラと宿の場所と名称を書くと、セフィロスに渡した。
それを受け取って、セフィロスは席を立つ。
「仰せのままに女王陛下。じゃあ、またな」
メモを軽く振りながらセフィロスはそう言うと、応接間から出ていった。
残された二人に、沈黙が落ちる。
厳しい表情でセフィロスが出て行った扉を見つめているヴォルフに、アリシアは手を伸ばした。
「ヴォルフ……」
アリシアに視線を向けたヴォルフが、不安気に彼を見上げるアリシアに苦笑する。
他人がいるところでは乏しかった彼女の表情が、ヴォルフの前ではわかりやすく変化する。そのことに安堵しながら、ヴォルフはアリシアと視線を合わせる。
「いろいろ聞きたいことはあるが……今は、いい。やらなきゃいけないことがあるからな」
「うん。終わったら、話すよ」
そう返しながらも、アリシアの表情は変わらない。
「なんでお前がそんな不安そうな顔してるんだ? 大丈夫だ。何も心配することはない。あの男の強さもちゃんとわかっている。あいつはお前より強いな?」
確信を持って、ヴォルフは言った。
アリシアの同類だとあの男は言った。そして、アリシアやヴォルフに対し、明らかに彼よりも実力不足であることを指摘し、終始余裕があった。
アリシアもそれを素直に認める。
「うん。だから、元鉱山の暗部制圧は、セフィロスと私で行く。ヴォルフは新鉱山町にいるディングをお願い」
暗部殲滅と魔道具の破壊は、地属性の魔法が使えないヴォルフには荷が重い。アリシアに負担をかけながらの戦いは、彼が望むところではなかった。
だから、心情的に思うところはあっても、反対する理由はない。
「……わかった」
頷いたヴォルフに、アリシアはほっとしたように表情を緩めて続ける。
「ディングの方は、戦力がわからないから、妹達を連れていってほしい」
「妹達?」
アリシアの下に4人の妹がいるのは聞いていた。だが、何故今?と、ヴォルフは疑問に思う。
「レーヴェルランドにいる双子の妹。今年16になって、前回のベルハルトでの戦争にも参加している。血族だから聖石を通して私との意思疎通がスムーズだ。朝呼んだから、夕刻にはメセナに到着する」
ヴォルフと離れた場所での作戦に、彼の輔佐と連絡手段を確保してくれたらしい。
だが気になるのは、彼女たちの実力だった。
「わかった。強いのか?」
「私の妹達だよ。2人揃えば、ヴォルフでも相手にするのは厳しいかな? あの2人は完全にリンクできるから」
「じゃあ、心配ないな」
リンクできるというのが、どういうことかはヴォルフにはわからないが、双子の妹達はどうやらそれなりに強いらしい。レーヴェルランドの戦士たちだ。ヴォルフも揃えば、ディング達の戦力に遅れを取ることはないだろう。
なんとなく方針が決まったところで、アリシアは立ち上がる。
ヴォルフの手を取って、
「ねえヴォルフ。夕方まで美味しいものを食べに行こうよ」
と、明るい声でヴォルフを誘う。
「相変わらず食い意地張ってるな、お前」
「だって、腹が減っては戦は出来ぬって言うでしょう?」
「ほう。たまには正しい意味で使えるんだな」
時々、なんだか間違った慣用句の使い方をするアリシアをからかいながら、胸に残るモヤモヤしたモノに蓋をして、ヴォルフも立ち上がる。
わかっている。
アリシアは、最短で最も効率がいい方法で作戦が遂行出来るように、適材適所で戦力を割り振った。
そこに異存はない。
ただ、旧メッシーナ暗部の殲滅を、アリシアとあの男に任せてしまうのが、感情的に割り切れていないだけだ。
「強さも経験も、お前はまだまだ足りない」
あの男の言う通りで、反論の余地もない。だからと言って、アリシアの隣を簡単に譲ったりは出来ない。
あの男が今アリシアより強かったとしても、数年後には追いついてやる。
もともと戦いの中で自身の牙を磨き続けてきた。これからも今まで以上に、経験と努力と鍛錬を重ねれば良いことだ。
ヴォルフの目標は、アリシアと肩を並べ、心身共に彼女を守れるようになることなのだから。
だがヴォルフはこの後、この時の自分の選択を、激しく後悔することになる。
3章も残すところあと3〜4話ですが、しばらく留守にします。
次回は帰国後の、12/14(土)7:00に更新です。




