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レオンハルトの護衛依頼

お待たせしました。

アリシアとレオンハルトが出てきます。


そして明日更新の次話では、やっとアリシアとヴォルフガインが再会します。

 

 アリシア達レーヴェルランドの女性戦士達がベルハルト王国から帰国し2ヶ月後、帝国戦終戦から約3ヶ月が経っていた。


 女性戦士達は大陸中に散り、再び冒険者として、魔獣の討伐や危険地域の採集業務、護衛業務や、盗賊や犯罪者の討伐依頼を受けたりして過ごしていた。

 アリシア達も周辺の山脈に生息する特級魔獣の討伐で得られた希少素材を売ったり、宝石や鉱石を採集したりと、いつもと変わらない日常に戻っていた。


 今日もフェンリルを数頭狩って、城に戻ってきたアリシアは、子供たちの戦闘訓練の為に城に残っていたセイレーンに呼び止められた。


「女王サマ〜ベルハルトの第二王子殿下が、カルディス帝国に行くそうですよぉ。同行の護衛依頼来てますけど〜?」


 ベルハルト王国との通信用に伝書鳩を置いてきたが、早速飛んできたらしい。

 戦後処理は終わったと思っていたが、新たな同盟でも結ぶのだろうか?とアリシアは首を傾げる。

 どちらにしろ、レオンハルトの護衛なら1名いれば事足りそうだ。近衛騎士も同行するだろう。ならば……とアリシアは口を開く。


「セシルかミーシャは空いてるの?」


「二人共大丈夫そうですけどぉ、ミーシャ姐さんは、悪阻ひどそうですぅ」


 ベルハルト王族の実娘であるセシルか、レオンハルトの近衛騎士リュシアンの恋人だったミーシャかと思ったが、ミーシャは妊娠中だった。


「そう。じゃあ、セシルに行ってもらって」


 なにせセシルの弟の護衛任務だ。適任だろう。

 それに彼女の息子のオスカーがもうすぐ5歳を迎えるにあたり、ベルハルト王家に養子縁組を打診したと言っていた。王家からしたら直系の孫にあたるオスカーだ。彼らにとっても悪い話じゃない。


「はぁい。一応女王サマの予定も空けときますねぇ」


「え? なんで?」


 アリシアは思わずセイレーンに問い返す。護衛は一人で充分だろう?

 セイレーンは人差し指を顎に当てると、可愛らしく首を傾けた。


「なんとなくですぅ。カルディス帝国、最近レーヴェルランドのこと、ちょくちょく嗅ぎ回ってるんですよぉ」


 カルディス帝国が、レーヴェルランドを嗅ぎまわる?

 アリシアの脳裏に、先代女王候補の記憶が呼び起こされた。額に紫色の聖石が現れる。

 セイレーンの情報網に引っ掛かってくるなら、早目に手を打ったほうがいい。


「そう……じゃあ、ちょっと別動でカルディス探ってこようかな? セイレーン、しばらく代行頼める?」


「もちろんですよぉ。ソロで行きますぅ?」


 セイレーンがここを引き受けてくれるなら安心だった。移動や偵察なら、アリシア一人で全く問題ない。


「うん。ついでに冒険者登録もしてくる」


 アリシアは、成人してから城で過ごすことが多く、周辺の山脈での魔獣討伐位しかしてこなかった。そのため、外部の冒険者ギルドの登録がまだだったのだ。

 歴代の女王達がそうだったように、今後城を出て大陸中を周る予定のアリシアにとって、冒険者登録は必須だ。


「あ〜、まだ未登録でしたね〜。そうですね~、そろそろ女王サマも登録した方がいいですよね〜。じゃあ、お母様によろしく〜。こっちはお任せくださぁい。困ったことがあったら連絡しますので〜」


 セイレーンがニコニコと手を振った。


 レーヴェルランドの女性達の一部は、戦士を引退した後、交代でいくつかの外部組織に出向している。

 レーヴェルランドからほど近いダーゼルの街の冒険者ギルドも、その一つだった。そこにギルド長として出向し、任期は5年。現在は、セイレーンの母親がギルド長をしている。

 レーヴェルランドの女性戦士は、トラブル防止の為、いろいろと事情がわかっているダーゼルのギルドで、冒険者登録をするのが常だった。


 セシルとオスカーが目立たないよう、夕方を待って飛竜でベルハルト王国へ向った翌朝、アリシアも独り城を出てダーゼルに向かったのだった。




 セシルとオスカーがベルハルト王国の王宮に到着すると、レオンハルトが迎えに出てきてくれた。

 互いに笑顔で、軽く抱擁を交わす。


「姉上に来てもらえて嬉しいです」


「アリシアじゃ無くて、悪いわね」


「とんでもない。それに彼が僕の甥っ子になるのかな? はじめまして」


 セシルがレオンハルトをからかうと、真面目なレオンハルトらしく、慌てて首を横に振って否定する。それからしゃがみこんで、オスカーに視線を合わせた。


「オスカーよ。オスカー、レオンハルト殿下よ。私の弟」


「オスカーです…王子様……」


 セシルの手を握ったまま、じっとレオンハルトを見て答えるオスカーは、フワフワの焦げ茶色の髪と琥珀色の瞳を持つ可愛らしい少年だった。そんな彼に王子様と言われ、レオンハルトはなんとなくくすぐったさを感じてしまう。


「ふふっ、よろしくね、オスカー。君のお祖父様とお祖母様も待っているよ。お母様と一緒に会いに行こう。僕のことは叔父上とでも呼んでくれるかな?」


「はい。叔父上さま」


 オスカーは、レオンハルトが伸ばした手を素直に握って、初めての王宮を珍しそうに眺めながら歩き出したのだった。



 やがて二人が連れられてきたのは、国王陛下の執務室だった。

 セシルと国王が、執務机を挟み仕事の話をする間、オスカーはレオンハルトと、応接スペースでティータイムだ。オスカーはレオンハルトにすぐに打ち解けて、楽しそうにしている。


 それを横目で確認した国王は、早速本題に入った。


「あの戦争の後、帝国は気前よく賠償金を払ってはくれたんだが、その後の和平交渉の席で、何度となく君達レーヴェルランドのことを探られてね。こちらがのらりくらりと躱していたことに痺れを切らしたらしい。

 先日、レオンハルトに縁談が持ち込まれた」


「縁談、ですか?」


 帝国がレーヴェルランドの女性戦士達について探りを入れてくるのは想定内だったが、まさかレオンハルトに縁談を持ちかけてくるとは、セシルも予想していなかった。


「ああ、今のカルディス帝国皇帝ヴォルフガイン殿には、妹姫がいてね。帝国皇家の正統な血族は、今やあの二人だけだ。

 あそこは、18年前のあの事件で後継をだいぶ減らしたが、その後も皇位争いや革命などで、結局は兄妹二人が残ったというわけだ」


「……そうですね」


 18年前のカルディス帝国の事件について、ベルハルト国王はおそらく、おおよその概要は把握しているのだろう。なにせ先々代女王の夫であるし、レーヴェルランドは長らく成人女王が不在だった。

 だが、そこに深く触れることはなく、話を進めていく。


「ヴォルフガイン殿は、未だに誰とも結婚せず、数多の縁談を蹴りつづつけているらしいが、妹姫のアマリア皇女は今年20歳になる。レオンハルトに来たのは彼女との縁談で、帝国に婿入りして欲しい、と」


「それは……何か条件が?」


「意外なことに、こちらに不利なことはないんだ。帝国と同等の立場での同盟を結びたい、と。それの礎となるよう二人の婚姻をとの打診だ。アルベルトが既に妻帯しているからレオンハルトに、ということだろうが…………」


「確かに、不自然ではないですが、レオンハルト殿下を帝国に呼びつけるのは、気になりますね」


「ああ。どうも帝国の本心を読みきれなくてな。そこで念の為に護衛依頼を出したわけだ。レーヴェルランドの事も、探られるだろうからね」


「わかりました。女王からの許可はでています。私が同行しましょう」


 もし、レーヴェルランドのことについて尋ねられた場合、どこまで情報開示するかの判断も委ねられているのだろう。セシルに異存はなかった。

 国王は、ホッとしたように表情を緩める。


「ありがとう、セシル。心強いよ。

 ところで、君からの話だが、オスカーさえ良ければ、喜んでうちの養子として迎えよう。

 だが、君はやはり、ベルハルトには残らないのかい?」


 先の滞在中、セシルはオスカーの養子縁組を国王に願い出ていた。国王にとっては孫息子にあたる息子を、快く受け入れてくれそうだ。


「陛下……いえ、父上。私はレーヴェルランドの地を愛しています。私があの国を出ることはありません。

 オスカーは、ちゃんとわかっていますよ」


 レーヴェルランドで生まれた男児は、皆5歳になれば外に出る。それをオスカーもきちんと理解していた。男児は父親の元で育てられることもあるが、レーヴェルランドと外部組織が共同で運営する孤児院へ預けられることもある。オスカーの父親は、既に別の一般女性と家庭を持っているため、ベルハルト王家が受入れてくれるのは、幸いだった。


「そうか……では、オスカーは私達が大切に育てよう。ハーミリアも楽しみにしているよ」


「ありがとうございます。よろしくお願いします」


 セシルは、父の言葉に安心したように微笑んだ。



 その後、国王やレオンハルトに連れられてセシルと共に王家が暮らすプライベートスペースに案内されたオスカーは、ハーミリアやアルベルト夫妻と引き合わされた。

 王族の皆がなんとなく自分と似たような容姿であることに親しみを覚えたのか、オスカーの機嫌はいい。その様子を一抹の寂しさを覚えながら眺めていたセシルは、レオンハルトの呼ぶ声に振り返った。

 

「姉上、リュシアンが姉上と話がしたいと来ていますが」


「私に? わかったわ」


 リュシアンといえば、ミーシャの恋人だった騎士だ。言伝だろうか?と、セシルはリュシアンの待つ部屋へと移動する。


「セシルさん、すみません。家族水入らずの邪魔をして……」


 そこには金髪碧眼の美丈夫が、申し訳無さそうに立っていた。


「いえ、構わないですよ。ミーシャのことですよね?」


「はい。あいつは、その、元気ですか?」


 気遣わしげに、でも、セシルがミーシャからの伝言か手紙を預かっていないかと期待する様子で、リュシアンは尋ねた。

 二人のことについて、恋人関係だったことくらいしか聞かされていないセシルは、状況がわからず、とりあえず近況を伝えることにする。


「そうですね。今は悪阻が辛そうですけど、順調ですよ」


「え? つわり……って?」


 リュシアンはその碧の瞳を見開いて、驚いたようにセシルを見た。だが、セシルはそのまま続ける。


「そろそろ落ち着くとは、思うんですけど」


 そのままセシルの話が続きそうなのを見て、リュシアンは慌てて遮る。


「ちょっと、待ってください!それって、俺との子供……ですよね?」


「そうですね」


 何を当たり前のことを聞いているのだ?と言うように、セシルの視線がリュシアンを見た。


「そんな、あいつはそんなこと一言も」


 呆然とそう言ったリュシアンに、セシルは呆れたように確認する。


「国王陛下から、自由恋愛の許可が出ていたことは聞いていますでしょ? ミーシャからレーヴェルランドの事も聞いていますよね?」


「そうなのですが……最後に会った日、あいつはそれまでとなんにも変わらない様子で。楽しそうに笑って、俺に甘えて、じゃあね、って綺麗な笑顔で帰って行って……サヨナラなんて一言も」


 ああ……これはミーシャが悪いわね、とセシルは確信した。彼女はリュシアンとちゃんと話し合って別れたわけではないのだ。


「ミーシャは、リュシアン様に選択肢を残さなかったのですか?」


「選択肢?」


 何も聞いていません、というようなリュシアンに、セシルはため息をついた。


「まったく……ミーシャも困った娘ね。

 リュシアン様がミーシャと話し合う気があるのでしたら、この仕事が終わったらレーヴェルランドにお連れしますけど?」


「お願いします。あのまま終わりなんて、俺は認めない」


 なんだか必死な彼の様子とこの台詞に、セシルは意外だわね、と思ったことを素直に尋ねていた。


「リュシアン様は、女性には深入りせず特定の恋人は作らない方だと聞いていましたけど」


「そのはずだったんですけどね。笑ってください。俺は多分、いろいろと未熟で傲慢だったんです」


 苦々しく疲れたように笑ったリュシアンに、セシルは(ミーシャに本気になっちゃったのね)と、若干の同情を持って、彼とミーシャとの再会の手伝いを約束するのだった。



 ベルハルト王都で数日滞在し、オスカーに別れを告げたセシルは、カルディス帝国への使者一行の護衛として、レオンハルトに同行していた。馬車で約10日程の皇都までの旅路となる。

 道中セシルは、気になっていたんだけど、とレオンハルトに切り出した。


「レオン、貴方はこの縁談、どういう風に思っているの?」


「姉上、僕は悪くないと思ってはいますよ、ベルハルトの為には。この婚姻で、帝国の後ろ盾を得つつ、国の発展にも寄与出来る。ベルハルトは今後周辺国からの侵略に怯えず、国は平穏で豊かなまま、兄上もやりやすくなる」


 迷うことなくそう答えた弟を、セシルはじっと見つめる。気になっているのは、彼が無理をしていないかだ。


「それは、第二王子としての貴方の意見ね。レオンハルト自身としては?」


 セシルが姉として自分を心配してくれていると理解したレオンハルトは、ありがたいと思いつつも、心配ないと姉に答える。


「僕の望みはね、姉上。愛する国が平和で民が笑顔でいることなんです。もちろん、アマリア皇女が良い方で、彼女を愛せるのなら、幸せだと思いますが」


 これはレオンハルトの本心だった。だから、続いたセシルの言葉にも自然な笑顔が浮かぶ。


「そう。アリシアと似たようなことを言うのね」


「嬉しいですね。彼女は僕の理想の女王様ですよ」


 レオンハルトが初めて恋した女性は、国を愛し、民を愛し、そっけなく見えつつも優しい女の子だった。

 あの想い出があるから、レオンハルトは王族として誇りを持って生きていきたいと思える。


「そう。ならいいのだけれど」


 迷いのないレオンハルトの様子に、セシルは弟が決めた生き方を応援したいと思ったのだった。

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