第三話 しっとり美味しいサラダチキン
相変わらず仕事は忙しかった。新しく派遣もやってきたが、これが二十二歳の若い子。いわゆるZ世代らしいが、言われた事以外は絶対やらず、察しも悪い。
電話応対もした事が無いというので教えたが、「着信で誰が分からない固定電話っておかしくないですか? 非効率すぎません? 心臓に悪くありませんか?」などと言い出した。私は「そういうもんだから」と言ったが、相手は納得せず、ぶつぶつ文句を言っていた。
しかも休憩中、陰で私の悪口も言っているらしく「あんな氷河期世代じゃなくてよかったー」と言っているのを聞いてしまう。
会社でのお局扱いは慣れたものだが、疲れた。Z世代なんてわからない。もはや宇宙人。
「まあ、でも同じ人間といっても分かり合えない部分はあるよ。そういうもんだよ」
この件について愚痴ると、炊飯器君はそう言った。
今日の夕ご飯はサラダチキンのサラダ、玄米ご飯、具沢山の味噌汁。私が最近仕事で疲れたといったら、こんな健康的なメニューを作ってくれた。
夜遅くに食べても胃が疲れない。むしろ、このサラダチキンのサラダはいくらでも食べられそう。特にサラダチキンはしっとりと柔らかく、コンビニのサラダチキンより食感が良い。
「そうかね?」
「一見人間に見えても僕みたいなメカが紛れて生活しているかもしれないじゃんか。そう思えば意見が合わない人がいるのも普通だよ」
炊飯器君はどうやら私を励ましてくれているらしい。
「そ、そうか。会社の派遣の子も実はメカかもしれない」
「うん、そう思っていたら良いよ」
炊飯器君の笑顔を見ながら、仕事でのストレスが消えていくよう。
同時に心は少し痛む。こんな自分に優しくされるのは違和感。同世代の友達には「自己責任」などと思ってしまった事も思い出してしまい、素直に炊飯器君の笑顔を直接できない。
「このサラダチキン美味しいね」
「うん、実は炊飯器でサラダチキン作ったんだよ」
「本当?」
話題を変えると、驚きの情報を知った。
「炊飯器でサラダチキンなんて出来るんだね」
「うん、何でも出来るよ! ケーキも出来るし、汁物や煮物。何でも出来る。何でもお任せください」
胸を張りドヤ顔している炊飯器君についつい笑ってしまう。
今はまだこの状況に違和感を持っていた。それでも私も少しは幸せになっても良いのかもしれない。ふと、そんな事を思った。
しっとり美味しいサラダチキンを噛み締め、私は深く頷いていた。