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第八話 打算的思考と流れ

 国王陛下の許しを得て、助命嘆願は聞き届けられます。

 隣で震えているのは、ピンク色の髪の男爵令嬢(ヒロイン)でした。

 二人の王子は自らが愛する女性の助命を願いました。そしてわたくしも誰を助けるかと言えば、考えるまでもない。

 

 まぁ、ルーチェ様しか居ませんね。

 

 最も接した時間が長く、加えてか弱い女性。王太子殿下達とはやり取りも少なく、互いに良い印象も全くない。双子の片方だけを選んでも、後々角が立つのは目に見えている。ルーチェを失えば、彼らの恨みを買う。最悪、こちらの身も危うい。

 

 よって出来るのは女二人で王子達の残酷な処刑ショーを見守るだけ。国王陛下も薄々わかってはいたのではないかと感じます。どう転んでも誰かは苦しむ。

 

 そして残ったルーチェ様にしても、処刑からは救ったとして、その後の処遇については一言たりとも明言されていない。罪を背負ったうら若き女がどのような目に遭うかは想像に難くありません。

 

 でも、これも彼女の選択。

 あるいは彼女がどちらかを選んでいればどうだったでしょうね。正しいストーリーに沿って動けば、その相手は救われたかもしれない。

 

 言っても栓ないことではあります。


「王子のどちらかでなくても良いのか?」


 口元を歪め、楽し気に言う国王陛下。


「えぇ。元より愛情などありませんから」


 腕を拘束されたルーチェ様がびくっと震えます。これから何が起こるかを察したようです。泣き出しそうな顔で、わたくしの顔を見つめます。まるで見捨てられた子犬のような目。あまりに幼く、稚い。だけどあなたはもう大人。いつまでも甘えていても仕方がありませんよ。


「惨めな娘だ。奴らの母親に瓜二つ。まぁ、せっかくなので俺が代わりに可愛がってやろう」


「まぁ、お盛んですわね」


 ちなみに国王陛下はとても若々しく、あたかも老化が停止しているよう。

 実年齢はおいくつでしょう。案外、とっくに老年期を過ぎていたりしてね。

 化け物が。わたくしと、同じですわね。


「それでは、奴らを連れて来い。俺が直々に葬ってやろう」


 臣下に命じて、この場でことを始めるようです。


「あら、実の息子ではないのですか?」


「あっはっは。だからだよ。殺せば殺すほどにその憎悪と魂によって若さを保つ。そういう魔術を宿している。リーネア、美しき魔性よ。お前も共に終わりなき宴を楽しもうぞ」


 こちらに手を差し出すような仕草をされる陛下。とても良いお誘いなのですけれど。わたくし、若作りの老人は趣味ではありません。もちろん女子も、男子どうだっていい。

 

「最後に、殿下達に父親として伝える御言葉は?」


 意図して嫣然と微笑んで問いかけます。

 侯爵令嬢リーネアの凍てつく笑みを、あなたはどう見るのでしょう。

 彼はこちらの顔を見て短く押し黙り、やがて答えます。


「死ね。その二文字しかない。あいつらはそのために飼っていた。いと面白き遊びだった」


「そうですか、では」


 隠し持っていた「それ」をドレスから出します。腕に装着し、手を掲げる。ちなみにこれ、アーティファクト、と言うそうです。ここまでが、ルーチェ様の選択。そして、これがわたくしの「誰か一人を選ぶなら」の回答です。


「お前が死ね」


 猛烈な魔力が放たれ、陛下に遠距離からの攻撃を食らわせます。残念なことにあっさりと防壁のようなもので、防がれてしまいました。正面からの攻撃ではまぁ、こんなものか。

 

 背後から響いて来る地響きのような音の連鎖。周囲で悲鳴や怒号が響きます。来ましたわね。タイミングばっちり。ヒーローとは、間が良く駆けつけるものです。

 

 わたくし達の横を風のように通り過ぎていく、二つの影。双子の王子様です。彼らは共にわたくしの授けた伝説の武器を使い、国王へと果敢に向かっていきます。

 

 初撃もやはり魔力で弾かれますが、距離を取りながら攻撃を重ねる王子達。時間がなかった割にはうまく使いこなしている様子。国王も闇の魔法を使い、反撃を繰り出してきます。おぞましい高笑いをしつつ、激しい殺意の波動を放ってくる。わたくしは防御魔法を使い、彼らを支援していきます。さすが双子と言うべきか、冴えわたる剣技は、巧みなコンビネーションです。とても絵になる。


 見惚れている暇はありません。

 

「ルーチェ様、しっかり」

 

 しゃがみ込んで震える彼女の拘束をアーティファクトで破壊します。


「リーネア様。い、一体何が」


「見ればわかるでしょ。ラスボス戦ですよ」


 残された時間でわたくしのやったこと。謎に動ける侍従の少年に命じて、牢の彼らに秘密裏に必要なものを与えて、戦ってもらう準備をすることでした。最初からそのつもりだったと言うよりは、流れでこのようになったという感じですわね。

 

 侍従は渋っていましたが、まぁその方が面白くなるからと説き伏せました。彼は多分、人間ではない何か。

 

 今まで秘かに行っていた準備。

 当初は自分の身を守るために行っており、どう転んでもいいように戦力だけは整えていたのです。


 前提として、この世界にはレベルと呼ばれる概念が存在します。ステータスやスキルと言った能力もあり、自ら数字として確認できるようになっています。わたくしが真っ先にしたことは自分の能力の確認とレベルを上げること。

 

 ですがこれには二つの問題がありました。まずリーネアはレベル70固定。どれだけ魔物を倒してもレベルアップすることがありません。主人公側ではないことが理由でしょうか。

 

 これには大分困りました。レベル70と言えば大抵のダンジョンを苦も無く探索できる程度には強いのですが、推定ラスボスの国王様は調査の結果レベル500。なんですそれ桁が違うじゃないですか。おまけに属性は、どちらも闇。特攻などは持たない様子。

 

 わたくしはこれまで、暇な時間に世界各地のダンジョンなどを巡りボスを倒したりして貴重なアイテムなどを回収し、主人公側の手に入らないように立ち回ってきました。

 

 ただ、当のルーチェ様も殿下達も冒険などはほとんどガン無視。と言うか何も知らなかったご様子。あるいはストーリーの構成上、婚約破棄イベント後が本編というパターンなのかも。

 

 レベルの上がらない悪役令嬢と、持てあますほどの強力アイテムの数々。

 

 それだと考えますよね。

 これどうしようかな、と。

 わたくしは打算的な性格です。多少の情はなくもないものの、自分の身の安全を一番に買う人間。ただ冷静に判断するとこれから先どうなるか、なんですよね。

 

 殿下たちとルーチェ様が処刑された場合、この世界の中で顔見知りもろくに居ないまま闇深設定の国王と共に取り残されちゃうわけです。何それ怖い。主人公側が排除された場合、今後新たな主人公が現れるかも全くの不明。

 

 そうなると、いろいろ面倒くさそうですわよね。変な奴が牛耳る世界に取り残されるとか。

 

 ルーチェ達は基本お花畑と言いますか、隙だらけだし裏取りもしないし彼らは本当にお馬鹿さん。わたくしとルーチェの定期的なお茶会にも殿下たちは気づいていませんでした。あるいは彼らの成長を描くという前提のために意図的に愚かに設定されているのかもしれません。ただゲームの詳細については不明の為、全ては憶測の域を出ません。

 

 誰を残して誰を消すか、という選択になるとまぁそうなります。

 

 お馬鹿さんの方がまだ御しやすい。わたくしの損得勘定と様々な状況が噛み合い、何となく正義の味方っぽい振る舞いをすることになりました。


 殿下達は投獄されて弱っていますしレベルも低い。そこは回復アイテムや数々のドーピングアイテムにレベル上昇アイテムなどを駆使して、徹底強化。最低限のレベリングを行った。でも、勝てるかどうかは微妙。希望は属性有利でしょうか。


 王子達の属性は月と太陽。

 ルーチェは星。いかにも闇特攻とかありそう。

 

 幸いにも戦闘面に関しては大味なバランスらしく、救済用と思える各種アイテムなどもあったので何とか、と言うところか。怯えるルーチェ様にも回復支援などをさせて、援護を行う。

 

 それなり以上の長期戦を経て、これもう無理ではと冷や汗だらだら。粘ったのが王子様達です。生きるか死ぬかの瀬戸際なので、一瞬たりとも気を抜かず。守るべきヒロインが居るからでしょうか。その背中は、妙に頼もしく、えらくまぶしく映ります。

 

「ルーチェは、絶対に俺が守る!」


「僕が、君を、何があっても失いたくない」

 

 ほんの少しだけ、気持ちが揺れる。これまで全く何の思い入れもなかったのですが、だからこそ思わぬ凛々しさ。なんと言うか、大きくなったなぁみたいな不思議な感情でした。いえ、親じゃないですけどね。年を取ると若者に対しておかしな憧憬を抱くものです。


 ゲームなら多分数百ターン後にどうにか国王陛下がダウン。

 

 同時に王子達も反撃で全身を引き裂かれ、絶叫しながらも突進してそれぞれの武器で父親を貫く。その隙を逃がさず、わたくしは光り輝く聖なるナイフを手にします。これ闇属性にめちゃくちゃ効くらしく、悪役令嬢なわたくしの生命力もえらく吸っているようです。痛い痛い。手が痺れて感覚がない。一刻も早く、振り下ろしてしまいたい。化け物の始末は、化け物が付けましょう。国王は「俺のリーネア。時を巡る魔女よ」だの意味不明なことをおっしゃっていましたが「うるさい細かい設定知らないんですのよ」とサクッと心臓を貫きます。激しい叫びと共に実にやかましく絶命しました。

 

 はぁ、終わった。

 もう途中からこれ倒せない奴かと思いました。

 ぐったりと、膝をつきます。


 詳細思い出せないゲームとかまっじだるいわ。いやゲームなら詳しい世界に転生しろよ、ですわよね。これまでのダメージの蓄積もあり、わたくしもまぁまぁ、九死に一生です。口から血反吐をぺっと吐き出しました。

 

 そして。下達は瀕死の重傷を負う結果になりました。体力はとうに限界を超え、最後の国王の反撃で手足も吹き込んだ。それでも最後までことを成し得たのは、愛ゆえにでしょうか。

 

 回復アイテムなどは使いましたが、致命的損傷や出血多量などには対応していないようです。理屈は不明。あるいは覚醒したルーチェ様なら助けられた、とかそういうことなのかも。彼女にもレベルアップ上昇アイテムを使い、何とか魔法で治療を試みます。

 

「ごめんなさい、ごめんなさい。全部私のせいです」


 彼女はただ泣きじゃくります。

 原因ではあるけれど、全てがそれぞれの選択。

 不意に不思議なフレーズが浮かんできます。


 幸せの鐘は一人では鳴らせない。

 あなたと一緒じゃなくてはね。


 このゲームに関する何がしかの言葉でしょうか。

 ヒロインが愛する誰かと結ばれて、初めて開かれる未来。

 この場に居るのは、あらゆる意味でそれ未満の者達でしかありません。

 正しきフラグが折れた、と感じた瞬間でした。

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■リーネアさんの過去のお話に当たります。死亡ループ系の血なまぐさいお話なのでご注意ください。■
残酷な婚約破棄劇と終わりの鐘を鳴らすまで~死に戻りの悪役令嬢ですが、いきなり撃つのは反則でしてよ?~

世界観を共有したお話で、作中に出て来る「神様らしきもの」について触れているお話です。意味不明な人間の心理を読み解く分析ものみたいなお話です。

モラハラ幼馴染の『気遣い』がヤバ過ぎて、妖艶なお猫様に「それ要る?」と真顔で諭された件
~理不尽系ヒロインと抵抗できない男子の心理分析~


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