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第一話 双子殿下の攻略と乙女ゲーヒロインとの対峙

 あるとき唐突に「あ、ここ乙女ゲームの世界だ」と気づきました。婚約破棄の現場などではなく、自邸でお茶をしている最中です。

 

 前世の名前や来歴、自身が悪役令嬢リーネアとして断罪されるまでの物語が一気に頭に流れ込んできます。ボーっとしながら紅茶を一口。

 

「どうかされましたか? お嬢様」


 侍従の少年に声を掛けられます。この子の顔は知っている。けれど彼の名前をはじめ、記憶に抜け落ちがあります。原作なんてタイトルだっただろう。何故か詳細が思い出せません。

 

「わたくしの婚約破棄の日、ではなく婚約披露パーティはいつだったでしょうか」


 確認すると半年後の学園の卒業パーティで行われるそうです。お約束ですね。侍従の彼はうろ覚えですが、情報収集などをしてくれる感じのお助けキャラクターだった気がします。

 

「お困りでしたら、何でもお調べいたしますよ」


 可愛らしい笑顔で言われる。ならお任せしましょうか。ゲームの自動素材集めみたいなノリで頼みました。

 

 調査を頼むと、学園に潜入してあっという間に求めた情報を集めて来ます。実に有能。

 

「ご褒美に何かください」


 彼は不遜にも、侯爵令嬢にチップ代わりの何かを求めてきました。頭を撫でてあげます。ただ物欲しそうに「僕を讃えてください」と言ってきたので「あなたはとても優秀で有能で素晴らしいですわね」と褒めました。満足気な様子です。

 

 まずわたくしの婚約者の王太子殿下ですが、なんと双子です。第一王子フェルナンド様と第二王子ウィルフリッド様。お二人とも次期国王候補。後ろ盾となる侯爵家の令嬢、つまりわたくしリーネアがどちらを選ぶかで次期国王が決まるという形になります。

 

 どちらもわたくしの婚約者であり、リーネアの愛を得ると同時に王の座を得るという寸法です。どちらもプライドが高く、国王となるためだけに高慢なリーネアの機嫌を取ることに不満がある様子。

 

 そこにゲームの主人公(ヒロイン)と思われる男爵令嬢ルーチェが現れ、身分に囚われない自由な彼女に兄弟王子がこぞって熱を上げているという話でした。

 

 侍従の集めた情報、リーネアおよび前世の断片的な知識を総合するならば、わたくしとルーチェ嬢の行動がこの国の行く末を決める形になります。

 

 本来はここから行動を起こすべき。攻略対象となる王子様と関係を深めるなりして、どちらとのエンディングを迎えるかを決めるところですが、気乗りしませでした。なんか面倒くさいな、と。

 

 気持ちが冷めていると言いますか、「わたくしが何かする必要ありまして?」という怠惰なる思考です。

 

 侍従が言うには、リーネアは自分が選ぶ側であり、機嫌を取るのは彼らだと信じて疑っていなかったそうです。王子達との関係は表面的なもので冷めきっている。

 

 現在のわたくしの自意識は、前世の日本人女性のそれが主体。リーネアちゃんはどうなったのかな。ともかく、前世の「わたし」としては、要は破滅しなければいい。結婚する必要があるなら、どちらか適当に選べばいいや、と。

 

 王太子殿下たちに面会を求めますが「用事がある」「先約があるので」等と断られてしまいます。

 

 ここから様々な記録を付けるよう侍従に指示。万が一彼らにやっても居ない罪で糾弾された際には反論できるよう、証拠の準備なども整えておきます。下準備大事。わたくしは無実だし、何もしていない。安楽で静かな生活が送りたいだけ。どんな結末を迎えても、棺桶や牢獄の中でなければいい。

 

 そう言えば、どちらとも結ばれない場合ってどんなエンディングなんでしょう? 記憶にございません。前世でプレイしたのが相当前だったか、あるいはやり込んでいないものと思われます。ここがゲームの世界だと把握できる程度の記憶しかない。

 

 一抹の不安と何かの危惧。

 重要なことを忘れているような気がしました。この記憶のボケ具合にも何かありそうですね。

 

 とは言え塩対応モードの王子たちと気のないお茶会などをするのもモチベーションが上がりません。

 

 お前ら自分の立場わかってんの? わたくしのご機嫌取らないと国王になれないんですよ? と思わなくもないですが、面倒な相手の機嫌取るのってまー、しんどいですよね。お互いに。

 

 侯爵令嬢リーネアの人となりは高慢にして冷酷、氷のなんちゃらとか付きそうな性格であった模様。ゆえに王子達からもあまり好かれていない。仮にも王族の彼らに対し、最後に選ぶのはわたくしの側。


「プライドの高い王子様が冷たいお嬢様のご機嫌取るのも難しいか」

 

 窓の外の景色を眺めながら、ぼんやりと呟きます。

 この物語は既に破綻の兆しがある。そこに現れたヒロインの介入によって事態が大きく動くという筋書き。少し考え、侍従の少年に相談してみました。


「はい。それなら恐らく問題なく可能だと思います」


 数日後には彼女、男爵令嬢ルーチェ様とお茶会をすることになりました。侯爵令嬢ではなく、さる貴族の令嬢と言う形で彼女を呼び出した形です。

 

 どうも顔見せイベント前だったのか、ルーチェ様はわたくしとの面識がない模様。彼女は社交的な性格で、男女問わず人当たりは良い。ただ、同性からの誘いは王子様以外は断っている状況。

 

 そんなわけで、多少の小細工をしつつ、彼女とお話をすることにしました。魔王とバトル予定の勇者の面会ですね。あるいはその逆かしら?

 

「ご立派なお屋敷ですね。私、こんなに豪華なお部屋初めてみました」


「まぁ、それだけが取り柄ですわね」


 適当に答えつつ、彼女を観察します。

 ルーチェ様はピンク色の髪を持つ美少女でした。見た目のデザインがなんと言うか可愛い系。わたくしの好みではありませんが、いかにも男受けが良いと言うか一定の支持のあるタイプですね。

 

「私は平民出身で、行儀作法などで至らない部分があれば申し訳ありません」


「構いませんわ。最近病気がちであまり外にも出られなくて、話しやすい方を探していましたの。どうぞ緊張せずにお過ごしくださいね」


 唐突で不自然なお誘い。普通なら警戒するところです。しかしルーチェ様は特に疑うこともなく、「何かご無礼な点があればおっしゃってくださいね」と可愛らしくお答えになりました。

 

 学園での生活などをそれとなく聞いていきます。彼女にとって貴族の通う学園は刺激的である一方で息苦しい部分もあるとのこと。特に髪色を蔑まれることも多いとか。

 

「私の姉妹もこの色なので、あまり疑問には思いませんでしたが、変わった髪色だったとわかり、少し肩身が狭いです」


「生まれ持っての髪でしょ? それを馬鹿にするようなのも頂けませんわね。物語でも良くありますわよね。主人公の髪色がただ珍しいからと言って不吉だのなんだのとね」


 この世界はゲームの中なのか、あるいはそれに近いパラレルワールドなのかはわかりません。ピンクの髪にまつわる何がしかネガティブな事情もあるかもしれない。

 

 とは言え、生まれついての特徴を蔑むのはどんな世界であっても見苦しい。わたくしも個人的な好みから言えば、ピンク色の髪にはさほど惹かれるものはない。でも面と向かってその髪の色が嫌いだ、なんて言いませんし、言えません。子どもじゃあるまいし。


「ところで、ルーチェ様は転生者の方ですか?」


 率直に聞いてみました。要はお仲間であるか否かということです。彼女は首を傾げ、「てんせいしゃ、ですか? そういうお仕事か何かがあるのでしょうか」と答えます。

 

 とぼけているならなかなかの演技力です。


「点星者と言うのは星を点で描く画家のことですわ。最近ごく一部で流行っているらしくて」

 

 ありもしない言葉を捏造して、誤魔化します。


「まぁ、星を? 素敵ですね。私も絵を描くのが好きで、幼い頃から少しだけ自慢なんです。姉妹の中で一番絵が上手って」


 思いのほか食いつきが良かったです。適当に振った話題が捗っても困りますが、嫌な風には受け取らないし、話しやすい。なるほど相手にしていて不快ということはありません。


「フェルナンド様とウィルフリッド様からも褒められて、ルーチェの絵を見ていると幸せな気持ちになると」


 なんと言う口の軽さ。わたくしが彼らの婚約者と知っているとしたらなかなか挑発的な発言です。


「王太子殿下ですか? ルーチェ様はお二人とご友人なのでしょうか」


「親しくさせていただいております。お二人ともご親切で、身分の低い私にも優しくして下さって」


 細かく話を聞き出します。艶やかな黒髪のフェルナンド様はまるで夜空の貴公子、輝くような金髪のウィルフリッド様はまるで綺羅星の貴公子、彼女なりの彼らの印象などを語ります。双子で金髪と黒髪? となりますが、ゲームの世界で突っ込んだら負けか。

 

「お二人には確か婚約者の侯爵令嬢様が居られるのでしたかしら。奇遇にもわたくしと同じリーネア様と言うのですが」


 とぼけて言います。割とわざとらしい挑発。本物のリーネアならどうするんでしょうね、ここから。

 

 ルーチェ様は軽く瞬きをして答えます。


「聞き及んでおります。国王となるのは幼い頃からの夢であったけれど、努力に関係なく最後は誰かの感情で選ばれなくてはいけない。それが辛く、息苦しいと」


「いわゆる二者択一。兄弟同士で競い合う形になり、選ばれた後も複雑な感情を抱え続けるしかないですからね」


 兄か弟かで決めてしまえば良いものを、双子だからという理由で長年に渡って競わせ緊張を与え、不和や亀裂を生じさせる。物語としては興味深いですが、現実なら本人達はしんどいでしょうね。


「お互いに国王の座は譲れない。ただ、一方で選ばれなければ自由になれるのに、ともおっしゃっていました」


「それはどちらが?」


「お二人ともです。ご相談相手が欲しいらしく、縛られぬ立場の私に聞いて欲しいと言うことで、それぞれと個別にお会いしています」


 また、ややこしい話です。どちらか片方と良い仲になってくれれば、こちらも消去法で選べるのに。

 

「でも当のご兄弟とお話されていて、不興を買われるようなことはないのですか? お聞きしていると、少々心配になるのですが」


 無防備と言うか、言動も不用意。迂闊すぎるし、秘密を守れていない。


「どちらもお会いしていることはご存じです。その上で相手の話も聞き出してほしいと言われ、ご兄弟の仲立ちをしている形ですね」


 悪びれもせずに言います。

 どういう方なんでしょうね。

 玉座を巡って火花を散らす兄弟の間にわざわざ入っていかなくてもいいのに。まるで自ら火中の栗を拾うような振る舞いです。ゲームのヒロインを客観的に見るとこんな風なのでしょうか。

 

 己の立場を弁えていない。

 人は良さそうだけど、バカっぽい。

 言葉を選ばず評すれば、彼女はそのようなお人柄です。

 

 あるいは分かった上で敢えて愚かさを演じているか。明らかに不審なわたくしに対しても、何でもない風な涼しいお顔です。微妙に読めないですわね。

 

 問題はルーチェ様がどのエンディングに向かって進んでいるか。転生者か否かの真偽はさておき、本命は知っておきたいところ。

 

「ルーチェ様は、ご兄弟のどちらがお好きですか?」


 まずは率直に。彼女の気持ちをまずは伺いましょう。

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■リーネアさんの過去のお話に当たります。死亡ループ系の血なまぐさいお話なのでご注意ください。■
残酷な婚約破棄劇と終わりの鐘を鳴らすまで~死に戻りの悪役令嬢ですが、いきなり撃つのは反則でしてよ?~

世界観を共有したお話で、作中に出て来る「神様らしきもの」について触れているお話です。意味不明な人間の心理を読み解く分析ものみたいなお話です。

モラハラ幼馴染の『気遣い』がヤバ過ぎて、妖艶なお猫様に「それ要る?」と真顔で諭された件
~理不尽系ヒロインと抵抗できない男子の心理分析~


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