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国家令嬢は価値なき俺を三億で  作者: 氷雨 ユータ
valueⅡ お金持ち
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金が言わせる旦那と恋慕

 王奉院詠奈は決して弱者の味方ではない。イジメ寸前に陥っている子が彼女に纏わりついてそれを逃れるのは強者故であり、彼女が気にしないのは等しく誰も同じ価値だからだ。巻き込まれなければ何でもいいというスタンス。みんなが彼女を巻き込まないのは本能でその危険性を感じ取っているか、誰とも交流が薄いので何をしてくるか分からないから……だと思う。

「だ、誰…………?」

「私は王奉院詠奈。そこに居る男の子のお友達よ。私も貴方の事はさっぱり知らないけど、こんな場所で下着姿になるなんてはしたないのね」

「こ、これはそいつが脱がせた! 私は無理やり……!」

「そう。それなら警察を呼んで調べてもらいましょうか」

 短絡的な思考に見えるだろうか。何でもかんでも警察を呼べば解決出来ると思っている? 違う。詠奈は本当に警察を呼べてしまうしそれで解決出来てしまう。第一目撃者は被害者の……それも学校では特別信用される女子なのだから……味方でなければならない。

「私は決してそうは思わないけど、彼に無理やり脱がされたというなら皮膚片か指紋か……いずれにせよ痕跡が残っているでしょう。やったやってないの水掛け論は暫定被害者としても困るでしょう? 調べた方が早いわ」

「あ……え……こ、こいつがやらないとか意味分かんない! 彼女いないしモテてもないんだよ! やるでしょ! 同じ女なら分かってよ!」

 クラスの違う佐山には分からない、彼女の恐ろしさが、むしろどうして自分の味方をしないのかと困惑しているまである。同じ男なら庇っても反撃に転じられただろうが、詠奈は駄目だ。

「私は彼のお友達よ。お友達を信じるのは当然の事だと思うけど」

「―――そ、それはあれだから! アンタが知らないだけだから! 言っとくけどみんなコイツが脱がせた事を信じるからね! 味方になるのはアンタだけ!」

「彼の味方は私だけなの。それなら十分ね。ねえ景夜君」

「う、うん。まあそうだけど……さ」

「はあ!?」

 事実なので頷きはしたが、多分そうはならない。男子は詠奈の好感度を稼ぐ為に彼女の味方をするだろうし、女子は味方をするというより佐山の味方もしないだろう。詠奈を易々と敵に回していいならイジメを妨害している時点で彼女もイジメようとする筈。だがそうはなっていない。

 状況を考え直せばわかる。クラスメイトが俺を連行したのは佐山の相手が面倒になったからで、元々味方だった訳じゃない。お金でも払えば違ったかもしれないが今の彼女は払う側ではなく求める側。また仮にお金が払えても金の切れ目が縁の切れ目を地で行く彼女にその戦法は逆効果だという事も頭に入れておきたい。

「い、い、いいよ! 警察は私を信じるから呼べば!?」

「あら、本当にいいのね。結構な勇気だけど、本当に大丈夫かしら。嘘をついてるってバレたら逮捕されるわよ」

 実際の逮捕要件を満たしているかどうかなんて関係ない。詠奈に逮捕しろと言われたら逮捕しないといけないのが警察だ。情報が抜け落ちているだけでこれは脅しでも何でもなく、ただの事実。

「え……そ、そうなの?」

 詠奈はとっくに携帯を握り締めている。脅しだと思って強気に出たのだろうが無意味だった。そして一度強気に出たからには警察に引っ張られそうな行為は出来ない。この場で詠奈を殴ったり突き飛ばしたり、そういう事をすれば今度こそ逮捕されるだろう。

「………………クソッ! 死ね!」

 勝ち目はないと悟ったか、お金を払う為には逮捕されたくないと考えたのか。いずれにせよ佐山は服を着て逃げるように出て行ってしまった。詠奈はつまらなそうに肩を落として携帯をポケットにしまう。

「……有難う詠奈。俺にはどうしようも無さそうで困ってたよ」

「いいのよ、お友達が困ってたら助けるのは当たり前でしょ。そろそろHRも始まってしまうわ。私達も戻りましょうか」

「…………」

 言うべきか言わざるべきか。

 佐山の頭にレーザーポインターが当たっていた。きっと本人も気付いていなかっただろうけど……命拾いしたのだ。

「……もし本当に俺が襲ってたらって考えなかったのか?」

「あんな貧相な身体を襲う君でない事は知っているわ。それにあんな子を襲うくらい限界が来ているならその前に私や私のモノが襲われている筈よね。私と身体を洗いっこしてる時や八束に全身で体を洗ってもらってる時の君の取り乱し方と言ったら、今の比じゃないから。分かるのよ」

「―――そ、そこは信じてるからって言って欲しかったな」

「口では幾らでも言えるでしょ。身体とお金は正直なの」

 

 ―――なんか嫌な思い出でもあるのかな。


 詠奈の考え方は正直普通じゃない。きっかけがあってこんな考え方になったと思う反面、知り合った時からこんな感じだったし元々の教育環境が問題だった可能性もある。

「お、俺の言葉も信じられないかな?」

「君の言葉は身体と直結しているじゃない」

「その言い方はなんか、プレイボーイみたいで嫌だな……」

「私を寝起きに襲う様な人がケダモノでなくて何なのかしら」

 ぐうの音も出ないので思考を切り替える。これ以上は話し合うだけ無駄だ。俺は一々興奮する変態という事が再確認されてしまうだけ。


 

 佐山はどうしているだろう。















 第一目撃者が味方にならないならと佐山は往生際悪くも俺の悪評を流そうとしたが、案の定詠奈の好感度を稼ぎたい男子がそれを打ち消すべく動いて、一部の女子は好きな男子に嫌われたくないからとむしろ佐山の悪評を流して。最後はそれが先生達に届いてゲームセット。彼らは詠奈の言う事を信用しないといけない。

「幾ら金欲しいからってやりすぎだろ……さっきは悪いな。でも百万って何だ? お前は幾ら払ったんだよ」

 補習室で一人半泣きになって反省文を書かされる佐山と、それを見る雅鳴。彼女が半泣きになっているのは反省しているというよりも須合に会いに行く時間がズレてしまうからだろう。離れる素振りを見せる須合と繋がりたくてお金を出す彼女と、お金は出してほしいが詠奈のせいで何もかも失ってしまった須合。あれはあれでカモだから、どんなに時間がズレても須合は彼女と会うだろうけど果たしてどういう挙動を見せるのか。

「あいつ呪文みたいに百万百万ってお金のお化けにでも取り憑かれたのかな。冗談じゃなくてマジでさ。だって自分の顔で金巻き上げてた奴が急にあんな風になるの変だろ」

「……金の魔力、じゃないかな。お金は人を変えるから」

「見た事あるみたいに言うじゃん。宝くじでも当たったか?」

「そういうんじゃないけど」

 彼女の動向が気になっている辺り、俺も十分ろくでなしか。反省文は基準が曖昧でいつ終わるかは俺にも分からない。雅鳴は部活に戻ってしまったし、俺も帰ろうかという頃、珍しく携帯に着信があった。彩夏さんだ。彼女と誤解されても困るので屋上まで移動してから電話に出る。


『もしもし。まだロールプレイ中なんですけど……』

『私、普段から沙桐君って呼んでるから大丈夫です! もし誤解されちゃうようならガールフレンドって事にしておいて下さいっ』

『いやあそれも……用件は何ですか?』

『あ、すみません! 沙桐君と二人で話せるの嬉しくてついつい! 詠奈様は先にお帰りになられました! 沙桐君も動向が気になってくれてるのが嬉しくて、参加して欲しいみたいですよ! それで、私がサポート権を購入したので今日は私がお迎えに上がっちゃいますね~!」

「話が突然すぎて色々あれなんですけど、幾らで買ったんですか?」

「お風呂に入った時の半分って所ですね~。それじゃあ沙桐君は駅前で待っていてくれると分かりやすくて助かります! デートみたいで何だかドキドキ! 乙女心が爆発しちゃいそう~! それじゃ、また!」

「あ、ちょっと―――」

 電話が切れて、頭の理解が置いてけぼりを食らってしまう。でも詠奈が参加して欲しいというなら俺は従わないといけない。気になるのは事実だ。駅に行かせる理由は佐山を監視する為だろうか。それなら今すぐ向かわないといけない。反省文がいつ終わるか分からないなら一秒でも早く。

 「…………」



 その日は珍しくタクシーを使った。


 

 駅前まで大した距離ではないけど、決して近いという程でもない。タクシーを使うのは明らかに無駄遣いかもしれないけど、手段は選んでいられない。車を降りて駅前―――階段に座って彩夏さんの到着を待つ。メイド服では来ないと思うけど、近くまでくれば見分けがつく筈だ。

 そんな俺の殆ど隣で佐山を待っている男が須合だが、彼は俺を知らない。一方的に知っている関係だから俺だけが少し気まずい。



「沙桐くーん♪ お待たせしました~!」



 向こうの信号からぶんぶんと手を振る女性が居る。ノースリーブの白いシャツとモスグリーンのギャザースカートを履いた見慣れない女性。だがその明るさと呼び方は一人しかいない。普段の見慣れた服装ではないけれど、遠目からでもその人の正体が分かる。

「彩夏さん! いやそこで声掛けるのは遠すぎますって!」

 信号をダッシュで駆けて来るや否や、俺をひしと抱きしめてくるくる回る。緩く崩れた笑顔には何とも言えない安心感があった。

「えへへ~! 沙桐君と二人きり! あの子はまだですよね! 取り敢えず安全な場所に移動しましょうかッ」

 

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