常世の王に黄泉路を示せ
「それじゃあ、作戦会議を始めましょうか」
いつぞや、全員が集められた事があったけど、今度召集される時がまさか詠奈の危機であると誰が想像しただろう。執務室に集められたのは八束、聖、獅遠、彩夏。友里ヱさんは今日も今日とて巫女としての力で人助けをしながら配信活動を欠かしていないので物理的に集合出来ない。しかし無線から話は聞いているようだ。
「春はまだ目覚めないのか?」
「まだ経過していても五分と少しですので、もう少しかかると思います。姉さん、椅子の具合はどう?」
「うん、大丈夫。しかし詠奈様、私を招集しても良かったのですか? 妊婦に何か出来る事があるとも思えませんが」
「直接体を動かせないだけで出来る事はあるはずよ。体調も安定しているならほんの少しだけでも協力しなさい。ドローンの時みたいにね」
「…………議題は」
「もちろん、私達が現在対応すべき敵についてよ。詳しい話は省くけどあれはもう一人の王奉院詠奈。これまで私が積極的に俗世に手を出してこなかった影響で権力は麻痺しているも同然。表に存在が明らかとなっている機関や政治家に頼っても効果は見込めないわ。私としては貴方達を頼るしかない。そこで昨夜の状況について整理しましょう。景夜、君からお願い」
本腰を入れてあの人との戦いに乗り出した詠奈。決して恐れを克服した訳ではないだろうが、戦わなければ生き残れない。あの人は、あの人だけが、現状唯一、王奉院の喉に手が届く。
「大量に人を運んでるって話と、不自然に募集のかかった闇バイトからあの人のやりたい事が見えてくるんじゃないかって俺と梧と十郎でバイトに参加した。誰が何人参加してたは分からないけど……梧を介してバイトを回してたやつがそもそも偽物だったんだ。だからあの時点で罠だったんだろう」
「その圀松十郎は現在行方不明、梧さんは精神的な軽いショックが見られる程度……だったわね彩夏」
「そうですねー。命に別状はございませんよ。春ちゃんも同様です。ただ春ちゃんは薬物の症状なのでまた問題のベクトルが違いますが、そこまで深刻な服用量ではないので」
「俺は詠奈のサポートを受けながら梧を助ける為に動いてた。途中、梧を助ける為にどうしようもなくなった所を春の援護を借りて逃れた。そうしたら詠奈からの助けを借りられなくなって、一夜を明かす事になったよ。外で」
今まで詠奈に守ってもらっていたという事実を軽んじた事はないが、いざ庇護を失うと途端に不安になるのは良くない傾向だ。春が来なかった時は本当に不安だったし、それで雨が降り出したのだからいよいよ運に見放された物かと考えた。けどそうやって他人任せにし続けるのは良くないと思って、実家―――と言っていいかは分からないけど―――を頼ってみたのだが。
詠奈は足を組むのをやめると、改めて俺に頭を下げた。
「その件は本当にごめんなさい。言い訳の余地もなく、君を見捨ててしまったわ」
「詠奈様は真っ先に貴方を助けようとしましたが、私からの進言で取りやめてもらいました。どうか、詠奈様を恨まないでください」
「恨まないよ。狙われてるのは詠奈なんだから。それにちょっと遅れたけど結果春は来てくれたんだから大丈夫だった。それだけで十分だよ……で、春が遅れたのは武器を取りに行ってたんだと思うけど、そっちの事情を知りたいな」
「それは昨日言った通りよ。外から買っていた人間は向こうの手駒に潰されて、普段から外で働いてもらっている子も今回の一見で負傷。手術もしたからもう大丈夫だけど……当時問題だったのはドローンの破壊ね。人手を悉く潰されて空の目も潰されたら状況の把握が出来ない。私が出る訳にもいかない。山に誰か入れる訳にもいかない。封殺されていたと言っても過言ではないわね」
「それは、やっぱり手駒?」
「一般人がわざわざ狙う理由もないから、そうでしょうね」
「問題は、そこまでして景夜様と梧ちゃんを見逃した事です!」
ばん、と大きな音を立てて入ってきたのは運び込まれた春だった。症状は既に抜けているらしく、また元の陽気な少女らしさが出ている。
「メイドにしては行儀が悪いわね」
「あ、申し訳ございません……」
淡々と主人に咎められ、露骨にテンションが落ちている。八束に話をせかされて、春は改めて疑問を投げた。
「一夜を明かした後、私の工作が上手くいって死体が注目の的になっていた頃に二人はもう一人の詠奈様と遭遇しました。しかし景夜様から聞いても梧ちゃんに直接聞いても、何もされなかった。私の目にも何かされたようには見えませんでした。救援や監視を断つとはつまりここで仕留めるという意思の表れです。実際私が割り込まなければ景夜様の元の家にて確保ないしは殺害されていたと思います。それだけしておいて何もしなかったというのは、あまりに不自然です」
「ちょっと待った。工作って何の為にそんな事を?」
「当然、事態を表沙汰にする為です。以前山の中で警察官が殺されている事がありましたね。それはもう解決しましたが…………翌日、千癒ちゃんが山中を彷徨っている所で近くをうろつくマスメディアを目撃したそうな。本人に聞けば詳しい話が聞けます。それとも今は眠っていますか?」
「書庫の整理をしていると思うわ。話が聞きたければ各々自由にして。春の行動は私の指示を受けての事よ。あれは恐らく、いえどう考えても、あの中での大量殺人を表沙汰にする事でマスメディアの関心を私達が受けざるを得ない状態を作る事だった。うまく私も利用しているけれど、表向きはどうしてもこの権力は存在しない訳だから、こういう状況は一般人とそう変わらないのよ。今回も、大量の死体が出たでしょう? 雨で死体が腐りやすい事も加味すれば記事としての見栄えも十分。同じような行動に出られる事を恐れて、先手を打ったの」
人を人とも思わぬ利用の仕方。法律上、死体はモノであるみたいな解釈の話ではない。仮にも人を殺しておいてその使い方が嫌がらせなのは根本的な倫理観からして違うと改めて思わされただけだ。王奉院詠奈を背負う限りは共通してそういうものか。それが教育の成果なら、彼女達の父親にとっては大成功である。
「……じゃあ本当にそんな目的があったとして、結局俺達は何もされなかった。あの人は収穫があったとは言ってたけど、強がりなのか?」
「あいつは強がりなんてしない。狙いがあって、それは上手くいったのでしょう。昨夜は監視が殺されていくまでは殆どの子を外に行かせていたけど……戻したのは悪手だったのかしら。でも状況が分からないまま指示を出すのも愚かな事だから―――正解が分からない」
「その点、私を選んだのは大正解でしたね! 単独行動なんて昔からしてる事です、方針さえくれれば何も要りませんよ!」
「春の戯言はさておき、詠奈様。如何なさいますか。まだ狙いが不明瞭な以上、大胆な決断はしにくいものと思いますが」
「とりあえず、決定事項だけ伝えるわね。私と景夜は今日学校を休むわ。クラスメイトの代わりを用意出来なかったから大騒ぎになるでしょう。昨日の今日で、しかも誰が参加するかも前々から決まっていなかった事から考慮すると向こうも偽物は用意できない。おかしな事にはならないと思うけど、様子を見ましょうか。次に聖は千癒を連れてきて。聞きたい事があるから。最後に―――友里ヱ。返事はなくても構わないわ。貴方の信者に幾つか支部を用意させなさい。それと緊急避難通路を使えるように整備しておいて。コックに協力してもらってもいいから」
「……俺は何もする事がない?」
詠奈は席を立って、俺の手を握った。
「今回のアイツの挙動を聞いて確信した事がある。君には大事な仕事を任せたいわ。少し二人で話しましょう」




